律の部屋へと続く階段を見上げる
こんなに重苦しく階段を上るのは今までに経験した事がない
律の部屋の前に立った私は、ようやく覚悟を決めた
澪「りつー?」

澪「・・・」

澪「・・・入るぞー?」コンコン

澪「・・・」

律の靴が玄関にあった事から、律が部屋の中にいない事はありえない
返事がないという事はやはり落ち込んでいる様だ
ドア越しから流れてくる重たい空気を感じながら
意を決してドアノブを回し律の部屋へ・・・・・



律「ばあぁぁ!!」

澪「・・・・・・・・」

澪「うおああああああぁぁぁぁ!!!」ガタン!

聡「?・・・今日の澪さんうっさいな・・」

律はドア越しに私が入って来るのを息を潜めて待っていたんだろう
わざわざホラー物のお面まで準備して
私は大きく後ろに後ずさり、肘を壁に強打してしまった
最高の恐怖と肘の痛みを律は私にプレゼントしてくれた
私が今日律の家に寄る事、それも一人で来る事も予想していたんだろう
本当にこういう事に関しては手際が良いというかなんというか・・

澪「ば、馬鹿律!びっくりするだろ!!」

律「あはは~相変わらず大げさだな~澪は、ままっ、入ってよ♪」

ガチャ バタン

律「あ、私のかばん持ってきてくれたんだな~ありがと澪しゃん」

澪「だって無いと困るだろ?・・いってて・・」

律「どうしたんだ澪~?もしかしてさっきのでどっか打った・・?」

澪「ああ、肘痛い」

律「まったくおちょこちょいだな澪は」

澪「お前のせいだろ!」ボカッ

律「いたっ!」

こんな2連続で恐怖の声を上げた事はあまり記憶に無い
聡にまでみっともない姿見せてしまったし・・
多分思い出したら嫌になるんだろうな
いや、まてまて・・私はこんな事する為にここに来たんじゃないんだ

律「まぁまぁ・・悪かったよ澪、ジュース持ってくるから待ってろよ」

澪「あ、ああ」

出会い頭、私の頭の中を真っ白にしてくれたせいで何から話そうか忘れてしまった
いや、来る前からなんの妙案も浮かんでこなかったんだ
たいして問題ない・・
むしろ緊張がほぐれて話しやすくなった・・かな?
律だって私が何しに来たのか勿論分かってる筈だ
まさか律はここまで考えてわざと私を・・?
今思うとそんな気がする

律「おまた~澪はサイダーな、特別にさくらんぼ入れてやったぞ」

澪「おお、気前が良いんだなっ」

律「飲めば肘の痛みが消える魔法かけといたから感謝しろよ~」

澪「そりゃどうも・・」チビッ

律元気じゃないか
無理に元気に見せている訳じゃない、それくらい私なら感じ取れる
いつもと変わらない律だ
放課後の音楽室で起こったさっきの出来事を忘れてしまっているかの様だ
このまま律と話し合う必要があるのだろうか?
明日になればまた楽しいけいおん部に戻っているんじゃないだろうか?
私はサイダーを飲みながら一考したが・・
律は大丈夫そうでも、唯やムギはそうとう心配していた
ここで私が律と何も話をせず帰ってしまったら、
二人からしたらうやむやしたままこの一件は終わってしまう
やはり話さなくてはいけない

澪「な、なぁ律・・」

律「なんだ~?」

澪「・・・」

律「・・・」

がんばれ私

澪「・・・さっきの音楽室での事なんだけどさ」

律「うん」

澪「悪かったと思ってるよ、その・・律がそんなに嫌な事だとは思わなかったんだ」

律「・・・」

澪「唯もムギも律が帰ったあと泣いて後悔してたんだ
  私達なんてひどい事しちゃったんだろうって・・
  特に唯はひどく責任感じててさ・・あれからずっと泣いてたよ」

律「そっか・・悪い事したな・・・・」

澪「・・・」

律「な・・なんか、ゴメンな!・・いきなりあんな帰り方したら、みんな心配するよな~」

澪「謝るのは私達だよ、律を傷つけてさ・・本当にごめん」

律「いやいや・・私なら見ての通り大丈夫だぞ!めっちゃ元気だ~」

澪「唯もさ・・」

澪「悪気は無かったんだ・・ちょっといきすぎただけだと思うんだ
  唯も泣いて後悔している事だし・・律・・唯を許してやってくれないか?」

律「許すも何も私はそんなに怒ってないよ?ほんとだぞ?」

澪「ほんとに・・?」

律「・・・」

律「そ、そんな事で嫌いになれる訳ないだろ!
あんな事、なんも思っちゃいないって!

律「・・・」

律「唯もムギも・・勿論澪も
ずっと私の大切な友達だぞ?」

澪「律・・・」カァ・・///

律「ってか恥ずいし!この話はこれでおしまい!一件落着!」///

安心した
律は何も気にして無かった
唯が謝ってくれれば全て元通りになる
もう大丈夫だ
でも、私にはすっきりしない胸のつっかえがあるんだ
そうだ、私はそれを聞く為に一人で律の家へ来たんだ
これを聞くのは、ずっと律と一緒にいる
私じゃなきゃ・・ダメなんだ

律「さぁ澪!どっか行こうぜ~、私お腹減っちゃってさ~」

澪「り、律・・ひとつ聞いてもいいか?」

律「まだ何かあるのか~?」

澪「律・・私とお前は幼馴染だよな?」

律「どうしたんだよ~澪・・いきなり」

澪「カチューシャ・・」

律「・・」ドキッ!

澪「取った時の律って・・今までにわたしが見た事の無い律だったぞ
  昔からお前と一緒だったけど、あんな律は初めて見た」

律「・・・」

澪「確かに外見も凄く変わるけど、それ以上に・・なんであんなに哀しs」

律「そんな事ないって!・・なんかヘンだぞ~今日の澪しゃん」

澪「律、真剣に聞いてくれ、私にも話せない事なのか?」

律「・・・」

澪「今までも・・」

律「・・?」

澪「一緒に悩んで助け合ってきただろ・・?」

律「んー・・」

澪「・・聞くよ?」

律「・・・」

律「わかったよ澪」

律「言うね?」

澪「うん、ゆっくりでいいから・・」

律「ああ」

律「・・私ね」

律「二重人格なんだ・・」



あんまり驚かなかった私が不思議だった
なぜだろう?うすうす感づいていたからかもしれない
あ、今は律の話を聞かないと・・

澪「へぇ・・」

律「へぇ・・っておい、もっと驚けよ!」

澪「ごめんごめん・・カチューシャが原因なのか?」

律「知ってたのか?」

澪「いや、なんとなくだ」

律「・・そうなんだ、なんてゆうか・・
  カチューシャつけてないとなんか自信が無くなるっていうか・・」

澪「昔からそうだったのか?」

律「昔はこんなんじゃなかった、昔は普通に前髪下ろしてた日も多かっただろ?」

澪「そうだなー、今日久々に見たよ」

律「なんか自分が成長していくにつれて、カチューシャがないと不安になっていって・・」

澪「・・・なんでだろうな?」

律「だから不安なんだって」

澪「違うよ、なんで不安になるんだろうなって事だよ」

律「そりゃお前・・おかしーし・・」

澪「前髪が・・か?」

律「・・・」

律「と、とにかくそういう訳だから!」

澪「・・・」

律「どうも解決できないし・・ははっ」

澪「・・律」

律「?」

澪「カチューシャ取ってみてくれ」

律「」

解決できない?
そんな事はない
私が律の支えになる
私は昔から律に助けられっぱなしだった
今度は私が律を助ける番
私の決断に悔いはない

律「澪さん?いままでの話聞いてました?」

澪「当たり前だろ、ちょっと取ってみてくれ」

律「いやいやいや・・意味わかんないから!」

律「私はカチューシャ取った私が嫌なんだよ!」ブンブン

澪「やれやれ・・私が取らないとダメか・・」スッ(手をかざす)

律「ちょ・・澪~!」ガシッ

律「タンマタンマ・・考え直せって!」ニギニギ

澪「・・・律が本当に嫌なら・・やめるけど・・」

律「・・・」

律「(澪「今までも一緒に悩んで助け合ってきただろ・・?」)」

律「・・・」

律「澪なら・・いいよ」

澪「ありがとう(///)・・取るぞ」

律「あ・・」ファサ

律のカチューシャをはずした
律の前髪が勢いよく律の額を隠した
少しボサボサの髪の毛を私は手で整えてやった
律の目が変わった
さっきまでの元気溢れる律の姿は感じ取れなくなっていた
近くでみると余計不安そうな目をしている
私と目を合わせる事はしない
ひたすら俯いているだけだ
身を小さくして小刻みに震えているのが分かる
律ってこんなに小さかったんだな
髪の毛を整えてやっている私を恥ずかしく思っているのか
頬はぽっと赤くなっている
おそらく私も頬を赤くしているんだろうな
だって女性の私から見ても律はこんなに魅力的に思えるんだから
なんだろうこの気持ちは
母性本能っていうのかな
目の前でこんな人がいたら
きっと大半の人が守ってやりたいなって思うと思う

澪「律、大丈夫か?」

律「・・・うん」

澪「髪の毛整ったぞ」

律「・・・うん」

澪「・・・」じー・・

律「・・・あんま・・みないで・・」もぞもぞ

澪「っぷ・・あっははははは!」

律「・・?」

澪「律・・お前・・すごくかわいいぞ」///

律「!」

澪「お前鏡で見た事あるのか?・・なんで悩む必要があるんだ?」

律「うそ・・・おかしーし・・」

澪「嘘なわけないだろ、お前ってこんなに可愛かったんだな
  私には律が悩んでる意味が分からないよ」

律「・・・・」

澪「律・・」ぎゅう

律「・・!」

澪「律は前髪下ろしててもかわいいよ?ほんとさ・・
  だからもう少し自分に自信持て
  いきなりは無理かもしれないけど、徐々に克服していこう
  私も力になるからさ・・?」

律「・・うん・・ありがと・・みお」

ブーブー

律「・・メールだ・・唯からだ・・」パチ

From ☆唯☆
Title りっちゃん今日はごめん・・

いきなりあんな事しちゃってごめん
誰だってされたら嫌になる事あるよね
私が馬鹿だったよ
本当にごめん・・
明日謝らせてほしいから、学校来てね?お願いだよ?

りっちゃん本当に可愛かったんだよ!
だからつい調子に乗っちゃって・・すみません・・

澪「はは、唯のやつ・・どうだ律、少しは自信持てたか~?」

律「・・まだ・・もうちょっと時間かかるかもだけど・・がんばる・・」

私は素直に思った事だけを伝えた
律がこれで前に進んでくれるのかわからない
でも私は律の為にどんな形でも役に立ちたかった
律は私にとって大切な人だから

この日を境に私は律を見る目が変わった
それがどういう感情からそうさせているのか、
自分が理解するのはもう少し後の話になる


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