ここ桜が丘高校には、軽音部と呼ばれる部活がある。
部員数はわずか4名
少数精鋭の活気ある部活動だ
バンド活動が部活動になるのだが
脇道に逸れるケースが多い
たとえばほら、こんな風に・・

唯「このクッキーおいしい~」バクバク

この子は平沢唯
軽音部と聞いて軽い音楽と勘違いして入部してきた天然少女だ
ほわっとした可愛いさのある憎めない子だ

紬「唯ちゃん、今レモンティ入れるわね」

この金色のロングヘアーの子は、琴吹紬
ここの机に並んでいるお菓子や紅茶や高そうな食器は
全て紬が自宅から持ってきた物だ
かなりのお嬢様らしい
気のきく優しい子だ

澪「な、なぁ・・後でちゃんと練習するんだろ?」

黒髪で背の高いこの子は秋山澪
私の幼馴染だ
真面目で恥ずかしがり屋
成績優秀で女子からの人気も高い
ファンクラブが存在する程だ

律「ちゃんと後で練習するってぇ、当たり前だろ~?」

そして私が部長の田井中律
カチューシャがトレードマークの
元気いっぱいの軽音部のムードメーカーだ
ただ一つ私にはコンプレックスがあって・・・
って自分で自己紹介するのも恥ずかしいな・・

澪「ホントだぞ!約束だからな」

律「わかってるって~♪」

紬「はい、澪ちゃんにはミルクティーね」

澪「あ、ありがと」

と、まぁこんな感じの放課後を音楽室で過ごしている

唯「ふぅ~ごちそうさまでした!」

律「そんなに食ってちゃんと夕飯食べれるのかぁ?」

唯「へ、なんで?スイーツは別腹ってよく言うじゃん」



澪「・・・さてと、そろそろ練習を・・」

律「そう言えばさぁ、前から聞きたかったんだけど~みんな彼氏とかいるの?!」

澪「」

唯「へ?」

紬「まぁ!」

澪「おい律!」

律「あ、澪しゃんは言わなくてもわかってるからいいや~」

澪「なんだそれ、律、お前だって!」

律「し、失礼な!私には澪しゃんが知らない一面があるんだよん」

澪「!」

唯「へぇ~、りっちゃん彼氏いるんだぁ?」

律「いないけど」

唯「」

澪「いないのかよ!」

律「まぁまぁ・・んで唯とムギはどうなのさ?」

澪「私を何事も無かった様に外すな!」

唯「え~まだそういうのよくわかんないからなぁ・・」モジモジ

紬「私もまだ・・焦る必要は無いと思います」

澪「(やっぱりみんないないのか・・)」ほっ

律「・・・」

唯「りっちゃん?」

紬「どうしたのかしら?」

澪「りつ?」

ガタン!
律「みんな恋愛しようよ~!」カァ

唯「わわっ!」

澪「ビクッ!」

律「だってみんな花の女子高生だよ~?恋愛の一つでもしてみなきゃダメだって!」

澪「お前が言うか・・」

紬「まぁまぁまぁ・・」

唯「りっちゃんが今までに無いくらい必死になってる!」

律「朝おはようメールしたり、昼休みにお弁当のおかず交換しあったり、
  自転車で二人乗りで下校してみたりしたくないのかよ~」ビシッ

紬「・・・」

澪「そんな事言ったってここ女子高だぞ?」

律「」

唯「そうだよりっちゃん!・・・ま、まさかりっちゃん・・
男子校に転校しちゃうの?」ウルウル

律「ないない、てか男子校ってお前・・」

紬「別に・・女の子同士でも良いのではないでしょうか・・?」///

律「うん?」

澪「え?」

唯「・・・」ポカーン




――
―――

澪「ま、まぁ確かに男のカッコよさを感じる人も中にはいるよな!」チラッ

律「私を見るな、私を」

唯「じ~~・・・」

律「んで唯、顔が近いんだけど・・」

唯「りっちゃん、御免!」ひょい

律「わっ、やめろ唯!これは・・!」

唯「いいじゃん~離してりっちゃん~~・・」グイグイ

澪「唯、律のカチューシャを・・・ん?」

律「まって、ホントやめろってっ!!」グググッ

澪「(律のやつ、本気すぎないか?ただのカチューシャだろ?)」

唯「こうなったら奥の手!こちょこちょこちょ・・・」サワサワ

律「へっ?あははははは!!あ・・?」クシャ

唯「りっちゃんのカチューシャとったど~!」ブンブン

律「うう・・」

紬「まぁ」パァァ

澪「ドキッ」///

唯「・・・!りっちゃん・・」ワナワナ

律「・・?」

唯「かわいい~~~~~」だきっ

律「・・!!」///

紬「よく似合ってるわよ、りっちゃん!」

澪「・・・」

律「唯・・離して・・」グイ

唯「りっちゃんかわいいね~~顔よく見せて?」スリスリ

律「・・!」///

律「やだ・・」プイッ

澪「・・・」ぼ~・・

唯「?・・りっちゃん・・ひょっとして・・怒ってる?」シュン・・

律「・・・」

紬「りっちゃん?」

澪「唯・・カチューシャ返してあげた方が・・」

律「う・・グスッ・・返して・・」ウルウル

唯「り・・りっちゃん・・ご、ごめん・・はいカチューシャ!」

律「・・・」パシ・・タッタッタ・・・

澪「お、おい律!」

バタンッ!!



唯「わっ私追いかけてりっちゃんに謝らないと・・りっちゃんが泣いちゃった・・」オドオド

紬「今は・・やめた方がいいんじゃ・・きっとりっちゃん恥ずかしかったんだわ」

澪「律・・」

――
―――



唯「私りっちゃんちに謝りに行く・・」

澪「そうだな・・」

紬「みんなで謝りに行きましょう。きっとりっちゃん今頃家で・・」

澪「いや、みんなには悪いけど私一人で行かせて欲しい」

唯「なんで?!私りっちゃんに謝らないと・・。
私はりっちゃんを、りっちゃんに!・・・ひどい・・事を・!」ブワッ

紬「唯ちゃんだけのせいじゃないわ・・私だって見ているだけで・・
  自分を責めちゃダメよ。唯ちゃん」ナデナデ

唯「うっ・・ひっぐ・・うぇぇぇん!」

澪「・・・」

澪「たぶん律は・・今はみんなに会いたく無いと思ってる・・気がする」

唯「うう・・ひぐ・・でもっ・・」

紬「だから・・澪ちゃん一人で・・?」

澪「ああ・・行かせて欲しい」

澪「・・・」

澪「唯」

唯「・・?」グスグス

澪「唯に悪気はない事は律だってわかってるさ
  律もちょっと不器用なとこがあってこんな事になっちゃっただけさ
  私がちゃんと律と話をしてくるから安心して
  唯がまた改めて律に謝れば、また元の楽しい軽音部だ
  ・・・だからもう泣くなよ・・」ナデナデ

唯「う・・うぇ~~ん!グスッ・・澪ちゃん~」ダキッ

澪「ははっ・・よしよし・・」テレ

紬「澪ちゃん・・」

澪「?」

紬「ごめんね・・ありがとう」

澪「いいよ、・・まかせて」

澪「さてっと・・行ってきますか
  律のやつ、かばん置いてったな
  やれやれ・・」ガシ

バタンッ



唯「本当に澪ちゃんだけで大丈夫なのかな・・やっぱり私も・・」

紬「大丈夫よ唯ちゃん、だって・・」

唯「だって?」

紬「りっちゃんと澪ちゃんは幼馴染なんですもの
お互いの気心も知り尽くしている筈だし・・
澪ちゃんを信じよう」

唯「う、うん・・わかった!」

ガチャ

澪「私のかばんとベース忘れちゃってた!」

唯「」

紬「」

澪「そ、それじゃ!行ってくるからなっ!」

バタンッ!

唯「・・澪ちゃん緊張してるね」

紬「大丈夫・・だから・・多分!」




――
―――

澪「はぁ・・」とぼとぼ

澪「(さてどうしたもんだろう・・
  律の泣くとこなんて久々に見たな・・
  あいつ本当に大丈夫なんだろうか・)」

まず律に何を話すべきか・・
私は歩くペースをいつもより遅くして作戦を練る事にしたが・・

澪「・・・。」とぼとぼ

澪「(うまく考えがまとまらない!)」

律を励ます事は昔から何度もあった
こういう状況だって初めての事じゃないんだ
なのになぜか今日に限っては妙案が頭の中に浮かんでこない
別に唯と律の仲立ちが難しい訳じゃないんだ
分かってる
きっといつもの私じゃないんだ
これから律の家に行って、謝りに行かないといけないのに別の事を考えてる
一人で律の家へ行かせて欲しいって言ったのは他でもない私なのに
唯や紬は私を信じているからこそ、ついてこなかったんだ
なのに私はなんだ

澪「(最低だ・・・)」

私は一人で律の家へ向かっている
1歩1歩律の家へ足を運ぶのに反比例して自分が心細くなっていくのが分かる
後悔の念が芽生えるまでさほど時間はかからなかった
胸の奥にもやもやとしてる何かを感じながら
さっきから何度も頭の中で繰り返されているあの時の光景が
また私の脳裏に浮かんでくる

澪「(律・・)」

はっきり言って私は律の一番の理解者だ
律と私は昔からずっと一緒だった
「親友」っていう言葉以上の言葉があるならその言葉で表したい
言葉で伝えなくとも、律もきっと私と同じ気持ちでいると思う
そんな仲だからこそ・・、ずっと昔から一緒にいるからこそ・・
きっとあの光景が衝撃的だったんだ
額が隠れた律の整った顔・・
たまらなく不安そうで・・涙をためて俯いた表情・・
まるで親とはぐれて迷子になった幼子が、ようやく振り絞って発した様な律の声・・
涙を流してしまった自分を否定する様に、
唯に抱かれながら唇を噛みしめていた律の立ち姿・・
何度もしつこく言ってしまう事だけれど、
私と律の付き合いは長い
けれど、あんな律を見るのは

初めての経験だった

澪「(もう律の家の前じゃないか・・余計な事考えすぎたな・・)」

結局何も準備もできないまま私は律の家へ到着した
呼び鈴を押すことに躊躇いを感じ、どれだけの時が過ぎたのだろう
どうして私はこんなにも度胸が無いのだろう・・
こんな自分が時々嫌になる

澪「(と、とにかく律の家に上がらないと何も始まらないな)」ブツブツ

聡「澪さん?」

澪「うわぁぁぁぁぁ!!」ビクッ!

聡「うわぁ!」ビクッ!

澪「・・・」

聡「・・・」

澪「さ、聡・・おかえり~あはは・・」

聡「びっくりした・・あれ?ねーちゃん帰ってきてないんですか?」

ガチャ

聡「なんだ普通に開いてるじゃないすか、澪さん上がって上がって」

澪「お、おじゃまします・・」

聡「ねーちゃんは部屋にいると思いますよ~ゆっくりしてってくださいね」

澪「あ、ありがと・・聡」


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