梓「何が…起こって……?」 ワナ ワナ

さわ子「ふう、敵は撃墜したわ!

     虫けら風情がこのさわ子の魔の手から逃げようだなんて100万年早いのよ!!」

律「さ、さわちゃんのアホおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

唯「さわちゃん……なんて事を……」

さわ子「え、えぇ?」

紬「あ、あの…さわ子先生…実は」

G「…」 ピクピク

梓「ゴキにゃん…?どうして……?

  なんで……?? ペシャンコになってるの…??」

G「…」 …

梓「!? ゴ、ゴキにゃん!?」

G「…」 チーン

梓「嘘でしょ!!? 動いてよ!!ねえ!! ゴキにゃん!!」 ポロ ポロ






梓「ゴキにゃああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!!!!!」






数日後

唯「…」

律「…」

紬「…」

澪「…」

唯「…」

律「…もう3日か…」

紬「…」

澪「…」

唯「…あずにゃん……来ないね…」

律「…」

紬「…」

澪「まあ……あんな事があった後じゃあな…」

紬「梓ちゃん…あんなに大切にしてたんだもの…

  きっと凄くショックだったんだと思う…」

さわ子「本当シャレにならない事しちゃったと思ってるわ…」

律「そうだよ!さわちゃん!!」

唯「なんであんな事しちゃったの!!!」

さわ子「だ、だって ゴキブリ飼ってるなんて普通思わないじゃない…!」 アセアセ

律「そりゃそうだけどさ……」

澪「梓……大丈夫なのかな……」

紬「大丈夫…って?」

律「ま、まさか後追い自殺とか!?」

唯「ええっ!!あ、あずにゃんが死んじゃうのは嫌だあぁ!」 ウルウル

澪「…」

澪「…皆!」

澪「梓の家に行こう!」



梓の家!

一体どれくらいの間 こうしていただろう

あの日 目の前の現実を受け入れられず 

先輩たちの制止を振り切り 部室を飛び出した私は

誰もいない 自室へと逃げ帰った

あの時の私は それは もう どうかしていた

何も見なかった事にして 何も聞かなかった事にして 外界との接触を拒めば

無残な現実に抗うことができるなどと幸せな事を考えていたのだろう

しかし 現実は残酷にも 私に逃げ場を与えてはくれなかった

実際には 自室は3日もの間 あの子との絆を育んだ場所であり

そこでともに分かち合った 幸せな思い出を 振り返ることで

結果として 私は あの子はもういないのだ と言う

覆らない現実に 気付かされたのだった

私は 今もこうして 何をするわけでもなく

真っ暗な部屋の中に篭り続けている

何の解決にもならない事はとっくにわかってはいたが

だからと言って そうする以外他に 何をどうすればいいのか 全くわからなかった

明かりも無い 時計の音だけがコクコクと響く 空っぽの部屋で

時々思い出したようにもう戻って来ないあの子の名前を呼んでみる

梓「……ゴキにゃん」


空しいだけだった


ただひたすら 空しいだけだった



梓「…ゴキにゃん」

梓「どうして……」

梓「どうしてよ……」 ポロ

梓「私を一人にしないで…」

梓「帰ってきてよ… ゴキにゃん…!」 ポロ ポロ



ピンポーン

梓「…」

梓「お客さん…?」

ピンポーン

梓「……」

梓「うるさいなあ……放っておいてよ…」


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン

梓「…」



ガチャ

梓「…!」

梓「先輩たち…」

唯「あずにゃん!」

梓「……」

紬「梓ちゃん…大丈夫?」

梓「……」

澪「部活も学校も来てないからさ、心配で見に来たんだ…」

梓「……」

律「皆待ってるんだぜ… さわちゃんも謝りたいって言ってるし

  だから…」

梓「……」

梓「もういいんです…」



唯「え…? あずにゃん?」

律「もういいって…」

梓「いいんです…謝罪なんて」

梓「別にさわ子先生の事怒ってるわけじゃないんです…」

梓「ただ……謝ってもらっても…あの子が帰ってくるじゃないですから」

澪「…」

律「…」

紬「…」



梓「軽音部にはもう戻りません…」

唯「えっ」

律「梓、お前何言って!」

梓「……」



律「それって軽音部を辞めるって事かよ!!」

梓「…すみません」

紬「考え直す気は無いの!?」

梓「…」

梓「…さようなら」

澪「おい、梓!」



唯「自分を責めてるの?」



梓「……」 ピタッ

唯「あずにゃん、自分の事責めてるんだよね?」

梓「…」

紬「梓ちゃん…」

澪「そうなのか…?」

梓「…」

律「なあ梓…」

梓「…」

律「私達はそんなに頼りないか?」

梓「えっ…」

律「私にはさ 梓の気持ちはわからないよ

  大切な者を失ったことの無い私には… 大切な者を失った奴の気持ちはわからない」

梓「…」

律「でもさ、だったら教えてくれよ!その気持ちを!梓の気持ちを!」

澪「梓は一人で抱え込みすぎだ… もっと私達を頼ってくれたっていいんだよ!」

唯「そうだよ!あずにゃん!! 言ったでしょ!困った時は何時でも言ってねって!」

紬「私も!力になるって言ったわ!」

梓「先輩…」 グスッ



梓「…だって」

梓「だって申し訳ないじゃないですか…!」

梓「ゴキにゃんが死んだのはっ…!!…私のせいなんですよ!!?」 ポロ ポロ

梓「さわ子先生は悪くないですよ…だって叩き潰すのなんて当たり前じゃないですか…」

梓「ゴキブリなんですから… ゴキブリが誰かに飼われてるなんて普通思いませんよ」

梓「『責任を持たなきゃならない』だとか 『不快になる人もいる』だとか

  口だけは綺麗事言ったりしても!! 実際は調子に乗ってタッパーの外に出して!!!

  誰かが来るかもなんて少しも考えてなかった!! 

  そのせいでゴキにゃんが死ぬかもなんて 少しも考えてなかった!!!!」

梓「だから私のせい!!私のせいなんです!!!」

梓「私があの子を死なせた……も同然です…」

梓「はは 飼い主失格ですよね……」

梓「いや 飼い主どころか人間失格ですよ」

梓「大切にするべき命を守れなかったんですから…」

梓「そんな私が軽音部に戻る???」

梓「抜け抜けと??」

梓「また幸せな生活に戻る??」

梓「自分の罪を忘れて?」

梓「ゴキにゃんを殺した事を忘れて ??」

梓「あはは そんなの許されるわけ無いじゃないですか」

梓「そんなの許されるわけ無いじゃないですかっ!」 ポロ ポロ



唯「あずにゃん…」

紬「…」

律「…」

澪「…梓」

梓「…」

澪「梓が自分を責めて ゴキにゃんはそれで喜ぶのか?」

梓「…それは」

澪「…」

澪「…」 ゴソゴソ

澪「梓、コレ」

梓「…!」

梓「ゴキにゃんのタッパー…」

澪「あの日は梓… 慌てて帰ったからコレ部室に置きっぱなしだったろ?

  だから今日持ってきたんだよ…」 サッ

梓「…」 スッ

梓「…ゴキにゃん」

唯「…あずにゃんとゴキにゃんのセッションカッコよかったよね!」

梓「…!」

律「ああ、あそこまで出来るようになるまで随分練習したんじゃないか?」

紬「それだけじゃないと思うわ… あれだけ素晴らしかったんですもの

  練習量だけじゃ説明できない… きっと二人の間にはそれだけ大きな絆があったと思うの」

紬「…たった数日だったけどゴキにゃんは

  梓ちゃんに飼われて幸せだったんじゃないかしら」

梓「…!」

紬「梓ちゃん、きっとゴキにゃんは梓ちゃんの幸せを望んでると思うわ…」

梓「……」

梓「…ゴキにゃん」

梓「…ゴキにゃん…」 ギュッ

梓「ご…ごめんなざいっ…!」 ウルウル

梓「ごめんなざいっ!! ごべんなざいっ!!!!!!!

  わ、私…あなたの事っ…グズッ …飼い主になって…

  たっだ…たっだの数時間で  死なぜちゃった……」

律「…」

紬「…」

梓「ごべんなざいっ!!!!!!ごべんなざいっ!!!!!!

  ごべんなざいっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

唯「…」

澪「…」

梓「うわあああああああああああああん!!!!!!!!!」



………

梓「……」

唯「落ち着いた?」

梓「……はい」

紬「お台所借りたわ……お茶入れたから、これでも飲んで?」

梓「……ありがとうございます」

梓「……」 ズズーッ

梓「先輩たち 本当に有難うございました」 ペコリ

律「…いいっていいって、私達仲間だろ」 

澪「…明日はどうするんだ?」

梓「明日からまた学校に通います」

唯「軽音部は!?」

梓「…こんな私ですけどこれからもよろしくお願いします」

唯「!」

唯「あ…あぁ…」

梓「先輩…?」

唯「あっずにゃーん!」 ガバッ

梓「にゃっ!」

唯「よかったよー!!あずにゃんが辞めなくて!!」 スリ スリ

梓「…やめてくださいー」 ググッ



澪「やれやれ、一時はどうなるかと思ったけど…」

律「梓が辞めなくて良かったな!」

紬「う~ん…」

律「? どうしたんだ、ムギ?」

紬「これ何かしら…?」

澪「? ゴキにゃんのタッパー?」

紬「うん、この中なんだけど…」

律「どれどれ…」

律「茶色いな」

澪「丸いな」

紬「なんでしょう…」

梓「!!」

梓「見せてください!!」



梓「うそ…!」

梓「これ!卵鞘です!!」

律澪紬「えっ!」

唯「らん…しょう?」



数ヵ月後

律「しっかし、ゴキにゃんは雌だったとはなぁ!」  カサカサ

澪「……」  カサカサ

紬「本当あの時は驚いちゃった!」   カサカサ

律「まさか卵が残ってるとはな」  カサカサ

澪「……」 カサカサ

紬「うふふ、ゴキにゃんが梓ちゃんのために残していったのかもね!」  カサカサ

澪「…」  カサカサ

澪「なあ…」   カサカサ

律「…? どうしたんだ、澪?」  カサカサ


G14「…」カサカサ G3「…」カサカサ G26「…」カサカサ

G22「…」カサカサ G17「…」カサカサ G8「…」カサカサ

G16「…」カサカサ G4「…」カサカサ G25「…」カサカサ


澪「なんで部室がこんなことになってるんだ…?」 ゾワゾワッ

澪「おかしいだろお!!一匹ならともかく!こう何十匹もいたら!!!」 ゾワゾワッ

律「仕方ないだろ? ゴキブリは1つの卵鞘から何十匹も産まれるんだし

  梓一人じゃ全部育てられないだろ?」  カサカサカサ

澪「だからって軽音部室で飼わなくても!!」   カサカサカサ

紬「まあまあまあまあ」  カサカサカサカサ


G5「…」バサバサバサッ G11「…」バサバサバサッ G28「…」バサバサバサッ

G21「…」バサバサバサッ G9「…」バサバサバサッ G12「…」バサバサバサッ

G19「…」バサバサバサッ G23「…」バサバサバサッ G7「…」バサバサバサッ


澪「ひいいいいいいいいい!!!」     バサバサバサバサッ

澪「そ、そう言えば梓は…?」 ビクビク

紬「唯ちゃんと一緒に出かけたみたいだけど…?」  バサバサバサバサッ

律「ああ、あいつ等なら」    バサバサバサバサバッ

律「墓参りだよ、ゴキにゃんの」



うらにわ!

唯「あずにゃんその子は?」

梓「ゴキにゃんの子供です!」

G2「…」 カサカサ

梓「一番大きくなった子なので、

  ゴキにゃんに見せてあげようと思いまして」

唯「そっかー」 ニヘラ

梓「はい!」 ニコニコ



天国のゴキにゃん! あなたの子供達は元気だよ!!

子供達と優しい先輩達に囲まれて私は幸せだよ!

きっと あなたの子供達も幸せにするから、天国で見守っててね!



梓「ありがとう、ゴキにゃん!」



梓「…」

唯「…挨拶終わった?」

梓「はい!帰りましょうか」

唯「うん」 ニコッ

梓「…さ、みんなの所戻ろっか」

梓「ゴキにゃん2号!」

G2「♪」 バサバサバサッ



        カ               カサ              カサ     カサ
        サ     カサ        カサ             カサ      カサ
    カサカサカサカサ    カサ   カサカサカサカ  カササカサ     カサ      カサ
        サ               カサ カサカ    カサ    カサ      カサ
        カカカサカカサカ         カサカ       カサ    カサ カサ   カサ
      カサカ      カサ      カサカ         カサ   カサカ    カサ
     カサ  サ       カサ    カサ カサ        カサ          カサ
    カサ   カ       カサ      カサ       カサ          カサ
    カサカサ     サカサ        カサ      カサ          カサ      G「♪」 バサバサバサッ


                                                                       .