澪には律の声は聞こえなかったが、
律が何かを叫んだというのを感じとった。

澪「律……?」

『私はお前と一緒に居たかったんだ!
 だから障害者学校になんか行かせなかった!
 お前と同じ学校で普通の学校生活を送りたかった、
 ただそれだけだ!』

澪「でもそれだと周りに迷惑がかかるんだよ、
  私が障害者学校に行けば、
  それで全て解決することなんだ!
  障害者学校に行っても会えなくなるわけじゃないだろ」

『会えなくなる!
 澪と同じ学校に行けないのは会えないのと同じだ!』

澪「律、バカなことをいうな!
  なんでそんなワガママばかり言うんだ!」

『ワガママじゃない! 澪のためでもある!
 澪だって唯やムギたちと一緒に居たいだろ!?
 同じクラスで勉強して部活だってやりたいだろ!?』

澪「授業なんてろくに受けられないじゃないか、
  数学の問題も解けないし、
  国語の教科書は読めないし、
  化学も物理も世界史も、
  律が私の手に書くだけで理解できるわけないだろ?
  体育だってずっと見学っていうか
  なにも見えないからもはや『見学』でもないしな!
  それに部活も、みんなの演奏も聞こえないし
  目が見えないから楽器だって弾けない!
  私が目と耳を潰してからまともに練習したことがあったか?
  学園祭も出てないし新勧ライブもやってないだろ?
  唯や梓だってちゃんと練習やライブしたいと思ってるんだろ?
  だから私の代わりにベーシストを探せって言ったのに、
  お前は『澪の代わりなんていない! HTTのベーシストは澪だけだ!
  澪のためにも軽音部はこのままでいく!』
  なんて寒いセリフを吐いて、5人だけの軽音部を守ろうとしたな!
  そんなものを守っても意味ないんだよ、
  演奏できないんじゃそれはもう軽音部じゃないの!
  唯やムギや梓もそれで困ってたんじゃないのか?
  お茶だけ飲んで帰る部活はもう軽音部じゃない!
  私がこうなってしまった時点で放課後ティータイムは終わってるんだ!
  大体その『澪のため』ってのが迷惑なんだよ!!!」

律「……」

澪は今まで思っていたことを全部一方的にぶちまけた。

澪「律の好意を無下にしないようにしてきたけど、
  律のゴキゲンを損ねないようにしてきたけど……
  私にも限界がある。
  悪いけど、もうこれ以上は無理だ……」

律「……」

澪「……」

律「……」

澪「なんとか言えよ……」

律「……」

澪「何も言うことがないんなら……
  私は旅館に戻って、みんなに謝る。
  そして障害者学校に転校することを伝える」

律「……」

澪「……じゃあな、律」

律「……」ガシッ

澪「な、なんだ……?」



『分かったよ、澪。
 お前は障害者学校に行け』

澪「律……分かってくれたか」

『でも私はずっとお前と一緒だから』

澪「ああ、学校が違っても、ずっと友達だよ」

『ずっと一緒だ。ずっと一緒。ずっと』

澪「律?」

『一緒だ、学校も』

澪「え……?」

『今まで澪に迷惑をかけてきて悪かったな。
 これは私の罪滅しだと思ってくれ』

澪「えっ、律!?」

『一緒の学校に行こうな』

澪の手のひらにそう書き残すと、
律は車道に飛び出した。



――

――――

――――――

音楽室。

ガチャ
梓「こんにちはー」

唯「おー、あずにゃん久しぶり~」

紬「今お茶淹れるわね」

梓「ムギ先輩のお茶も4日ぶりですね」

唯「京都土産もあるよ! ほらほら」

梓「しば漬け、千枚漬け、すぐき……
  なんで漬物ばっかりなんですか!!」

唯「まあまあ、美味しいよ」ぽりぽり

梓「ホントですか……?」ぽりぽり

紬「生八つ橋もあるわよ」

梓「最初からそれを出してくださいよ……
  あ、そういえば律先輩が交通事故で入院したって本当ですか」

唯「あー、ほんとほんと。
  命に別状はないらしいけど、
  両腕を切らなきゃいけないんだって」

梓「えー、そりゃ災難ですね」

紬「それと、実は事故じゃないらしいの。
  りっちゃんが自分から車の前に飛び出したって」

梓「え、自殺ですか」

唯「さあ、知らない。
  澪ちゃんと一緒にいたらしいけど、
  メクラツンボが周りのこと分かるわけないしね」

梓「ところで澪先輩は?」

唯「障害者学校に転校するらしいよ。
  りっちゃんも同じとこに行くんだって」

梓「……へえー」

唯「ふふん、あずにゃんが今考えていたことを当ててみせよう」

梓「ど、どうぞ」

唯「『律先輩は澪先輩と同じ学校にいくために
   わざと轢かれたんじゃないか』……でしょ?」

梓「すごいですね、大体当たりです。
  なんで分かったんですか?」

唯「そりゃー分かるよ、
  クラスのみんなだってそういう噂してるもんね。
  ムギちゃんも私も真っ先にそう思ったし」

梓「で、真相はどうなんですか」

唯「そんなの分かるわけないじゃん」

梓「ですよねー」

唯「でもそれが真実だとしたらさ、
  りっちゃんもう腕がないから、
  澪ちゃんと一緒にいても意思疎通できないんだよね~、
  あははははは、あははははは」

紬「足で手のひらに字を書いたりとか」

唯「それ澪ちゃんが嫌がるでしょ~」

紬「それもそうね」

唯「あははは、澪ちゃんと一緒にいるのに、
  もう会話もできないんだから笑えるね、あははは、
  ヘソで茶が沸くわ、あはははは」

梓「ヘソで茶が沸くなんて言う女子高生は初めてみました」

唯「いやーでもいい気味だよ。
  私たちに障害者の世話を押し付けてた本人が
  今度は世話される側になるんだよ?
  大爆笑じゃん、あはははは」

梓「……」ぽりぽり

唯「いっそのこと目も耳も潰れてくれたら良かったのに!
  ていうかもう死んでくれればよかったね!
  澪ちゃんも一緒に!
  障害者なんてウザいだけだし!」

梓「……」

唯「ねえ、あずにゃんもそう思わない?
  障害者なんて死んだほうがいいよね」

梓「はあ……ていうか、
  唯先輩は律先輩が嫌いなだけだと思ってたんですが、
  障害者そのものも嫌いなんですか?」

唯「うん、障害者嫌い!
  障害者なんて社会のゴミじゃん!
  生きる価値なし!
  私がデスノート拾ったら障害者の名前書きまくるね」

紬「あら、でも唯ちゃん、
  澪ちゃんをいじめてたのはりっちゃんに
  自分のエゴを気づかせるため……
  って言ってなかった?」

唯「そんなの建前に決まってんじゃん。
  澪ちゃんがいたときは
  堂々と障害者をボコれて楽しかったよ~、あはははは。
  いやー、もっと蹴り飛ばしたかったな~」

梓「……」

唯「とにかく障害者なんてゴミだよゴミ。
  みんな死んで欲しいね、社会のために」

梓「はあ」

唯「まあいいや、この話これで終わり!
  障害者の話なんてしてても不愉快だしね。
  ほらあずにゃん、もっとお漬物食べて」

梓「はい」ぽりぽり

紬「そうだ、これからの軽音部はどうするの?」

唯「ちょうど3人だし、スリーピースバンドでいこう」

梓「ギター2人キーボード1人のスリーピースバンドなんて
  聞いたことないですよ」ぽりぽりぽり

唯「それはほら、今までになかった感じで」

梓「今までになかった理由を考えましょう」ぽりぽりぽりぽり

唯「うーん、じゃあやっぱり新しい人を入れた方がいいかな」

梓「ま、それが現実的でしょうね」ぽりぽりぽりぽりぽり

唯「よーし、じゃあ明日から、
  また新入部員の勧誘活動を始めようか」

紬「そうね、私チラシ作ってくるわ」

唯「うん、お願い」

梓「新入部員か~」ぽりぽりぽりぽりぽりぽり



唯「じゃあ今日はもう帰ろうか」

紬「そうね」

梓「ごちそうさまでした」

唯「帰りにカラオケ行こうよ」

紬「いいわね、行こう行こう」

梓「ムギ先輩、もう演歌メドレーはやめてくださいね」

紬「梓ちゃんだって80年代アイドルメドレーはダメよ」

唯「まーまー、好きなの歌えばいいじゃん。
  ほら早く行くよ」

紬「あ、私お手洗い行ってくるから。
  先に行っといて」たたっ

唯「はーい」

梓「じゃ行きましょうか、先輩」

唯「そだね」ぽとっ

梓「あれ、唯先輩、なんか落としましたよ……」

唯「!!」さっ

梓「……」

唯「見た……?」

梓「手帳ですか」

唯「うん、手帳……最近使ってるんだ、メモ用に。
  憂に言われてさ、『お姉ちゃん忘れっぽいから』って」

梓「あ、そ、そう……ですか」

唯「じゃあ行こう、あずにゃん」

梓「…………」



唯はごまかしていたが、
梓にははっきりと見えていた。
落ちた手帳の表紙に、
「障害者手帳」と記されていたのを。

今までの唯の言動が突然に思い出され、
梓はそこから一歩も動けずにその場に立ち尽くした。



         お      わ      り




これでおしまい

池沼ネタは飽きられたみたいなので身障ネタで
先の展開を読まれまくってしまったのが反省点である