食堂。

「わいわいがやがや」

律「先生、先生……あ、いた!
  せんせー、い……」



先生「ハァ……
    秋山さんが行方不明ですって?」

さわ子「そうなんですよ……」

先生「ったく、障害者なんか連れてくるから
    こんな面倒が起こってしまうんですよ」

先生「そうですよ、まったくもう」

さわ子「申し訳ございません……」

先生「で、どうするんです? 探しに行くんですか?」

先生「私は行きませんよ、修学旅行に来て障害者探しなんて」

先生「そうです、行くなら山中先生だけでお願いしますよ。
    山中先生の生徒なんですからね」

和「警察に探してもらうっていうのはどうです?」

先生「警察ねえ……
    あまり大事にしたくはないんだけど」

先生「このさい仕方ないんじゃ?
    秋山さんが事故にでもあってたら、
    マスコミからフルボッコですよ」

和「障害者の生徒を放置して事故死、問われる教師の監督責任……」

先生「ひいいいいいい」

さわ子「とりあえず警察に……」

律「先生!」

さわ子「た、田井中さん」

先生「なんです、この子は」

和「秋山さんのお世話係です」

先生「まあ、あなたが?
    まったく、あなたがしっかりしてないから
    こんなことになってしまったんですよ!?」

律「そ、そんなことより、
  私が澪を探しに行きます!」

先生「はあ? 何をいきなり」

先生「自分の過ちは自分で尻拭いしようということですか」

律「そうじゃありませんっ……
  とにかく、私が探しに行きますから!!」だだっ

さわ子「あ、ちょっと田井中さん!?」

和「はあ、律ったら……」

先生「まあいいじゃないですか、
    あとはあの子と警察に任せて、
    我々はゆっくりと食事をしましょう」

先生「そうですね」

和「あ、お酌しますよ」



外。
夜の京都を駆けまわる律。

律(はあはあ、あの教師たちは信用できない……
  なにが警察だ……ふざけるな)

律(警察なんかに澪を任せられるか……
  澪には私がついてないとだめなんだ……)

律(澪、澪、澪……
  今すぐに迎えに行ってやるからな……!)

律は京都中を走りまわった。
鴨川を越え、知恩院に飛び込み、
蹴上発電所に侵入し、京都市動物園を通りぬけ、
平安神宮に突っ込み、東大路通を爆進し、
京都大学の塀を駆け抜け、白川疏水沿いに北上し、
高野川を泳ぎ、洛北高校に入り、
下鴨本通~河原町通を南下して
旅館の前まで戻ってきたところで
澪を発見した。

律「あ、澪……!!」

澪「……」

律「澪っ!」

律は澪の肩をつかんだ。

澪「ひっ……な、なんですか、だ、誰ですか」

『私だよ、澪。律だよ』
律は澪の手のひらに指でそう書いた。

澪「な、なんだ、律か……
  どこ行ってたんだよ」

『それはこっちのセリフだ!
 なんで私たちとはぐれちゃったんだよ!?』

澪「え、分かんないよ……
  なんか人ごみに流されちゃって、気づいたら……」

『まったくもう……
 でも見つかったんなら良かったよ』

澪「そういえば、ここどこなんだ?」

『旅館の近くだよ』

澪「あーそうなんだ、私、自力で旅館まで来られたんだな~」

『自力で来る気だったのか?』

澪「うん、点字の案内板を読んで……
  それを頼りに」

『馬鹿、そんなことしたら危ないだろ……
 車に轢かれでもしたら』

澪「大丈夫だよ。前に言っただろ、
  『まわりのことが敏感に感じられるようになった』って。
  車が来てるとか人がいるとか、
  なんとなく気配で分かるんだ」

『気配って……そんな不確かなものに頼るなよ』

澪「不確かじゃないよ。
  現に、こうやって無事に旅館の前まで来られたんだ。
  誰にも頼らずにな」

『でも』



澪「だから……
  もう律は私に付いててくれなくてもいい」

『えっ』



澪「……」

『どういう意味だよ……』

澪「私、修学旅行終わったら桜高辞めるよ……
  それで、障害者学校に行く」

『何を言ってるんだよ!』

澪「これ以上いても、みんなに迷惑がかかるだけだ。
  今日だって行方不明になって、
  先生たちに迷惑かけちゃったし……
  今までだって、私がクラスにいるだけでみんなが嫌な気分になる。
  それで唯も毎朝、私のこと蹴ってくるしな」

『気づいてたのか!?』

澪「言っただろ、周りの気配で分かるんだよ。
  律はいっつも『タライが落ちてきた』とか
  『ボールが飛んできた』とか言ってごまかしてたけど、
  あれはまぎれもなく唯のキックだよ。
  そしてその唯のキックを見てみんな笑ってるんだ」

『澪、それは違うんだ。
 唯だって悪気があってやったわけじゃないんだ』

澪「もういいんだよ」

『澪……』

澪「……こんなこと言うと、
  律は気を悪くするかも知れないけど……
  私、障害者学校に行きたいと思ってた。
  でも律はそんな私を引き止めた……
  『障害があっても関係ない、このまま桜高に残ろう』って」

律「……」

澪「私はそれをきっぱりと断るべきだったんだ。
  でも私は結局律の熱意に負けて、
  桜高にとどまることにした」

律「……」

澪「律は献身的に私の世話をしてくれたよな。
  『友達だから、友達だから』って言ってさ。
  そして、私もそれを、受け入れた。
  友達だから」

律「……」

澪「友達だから……魔法みたいな言葉だな。
  自分のやってることを相手に否定させない。
  否定したら友達ってことまで否定しちゃうことになるもんな」

律「やめろ……」

澪「だから私は律の好意を否定できなかった。
  すべて受け入れてしまった。
  桜高に居させてくれたこと。
  唯やムギと一緒に居させてくれたこと。
  みんなと同じ授業を受けさせてくれたこと。
  私を修学旅行に連れてきてくれたこと。
  私を普通に扱ってくれたこと。
  でもそれを受け入れたのは間違いだったんだ」

律「やめろっ……」

澪「私はもう普通じゃないんだから。
  障害者なんだから。
  普通の人と同じような生活なんて、
  いくら律が頑張ってくれても、私にはもう出来ないんだよ。
  律だってそれを分かってたんじゃないのか?
  分かってたのに分かってないふりをしてたんじゃないのか?」

律「やめろっ……!」

澪「そう、分かってないふり、気づかないふり……
  私がもう普通じゃないんだって、障害者なんだっていう事実を
  律は受け入れようとしなかったんだ。
  だから……そんな自分の都合で、
  私に普通の生活をさせようとした。
  『友達だから』っていう言葉で、私を抵抗させないように……
  いや、私だけじゃない、唯も、ムギも……」

律「やめろおおおおおおおっ!!」



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