私は『川口』の右腕に、純は左手に絡みつくようにして、暗い林道を歩きました

「ね、ねえ…どこに行くつもり?二人とも…?」

『川口』はすっかりのぼせ上がって、ニヤニヤしっぱなしでした

「この近くに、公園があるんです…ベンチが大きくて、人もほとんど来ないような公園が」

純、ずいぶん過激だ…。それに過剰に反応する『川口』…。うわっ、気持ち悪いもの見ちゃった…

そうこうするうちに、予定の場所まで来ました

人目は…ない。よし、ここでいい

「『川口』さん、童貞捨てたのいつですか?」

急に純がそんなことを聞いた。何それ!?予定に無いよ!?

「え!?な、何でまたそんなこと…」

「いいじゃないですか~、どうせ今から特別な関係になるんだし
 聞いておきたいんですよ、ね?いいでしょ?」

純…大丈夫なの…?

「そ、そう…まあ、いいけど…
 え~とね、7月の最初の頃だったよ。ずいぶん最近だけどね」

「へえ、相手は?」

「あ、あの~ナ、ナンパした…女の子」

「名前は?」

「名前は聞かなかった…い、いや、わ…忘れた」

「その子…『川口』さんとセックスして、何て言ってました?」

「…何でそんなことばっかり聞くんだ?」

まずい!『川口』が不信感を…

ぐじゅっ

その瞬間、純のつま先が『川口』の股間にめり込んでいました

『川口』が崩れ落ちる、その瞬間に、純ちゃんはタオルを『川口』の口に押し込みました

「悲鳴は困るんだ」

純が冷たく言い放ちました

『川口』は、股間を押さえて悶えています

「効くでしょう?鉄板入りの安全靴は。さっきの音からして…キンタマ潰れちゃったね
 でもいいよね。もう使わないんだから」

純は淡々と言葉を紡ぎます。怖い…純、怖いよ…純…!

「あんたが童貞捨てるために犯した女の子…どうなったと思う?死んだよ
 お前らが、お前らクズのせいで、私の親友は死んだ。手首切って死んだ
 その子のお姉さんも死んだ。…あんたらが殺したんだ
 だからさ…あたしたちは、あんたらに復讐することにしたわけ
 …多分今ごろ、あんたの仲間も殺されてるよ。さあて、あんたが先か向こうが先かどっちでしょう?」

「純…!い、いい加減にしなよ!急がないと人が来るよ」

「わかってるって、梓。さあ、やろう。二人でこいつに、止めを刺そう」

と、その時。『川口』が口にタオルを突っ込んだまま、こう言いました

「お…おえんあさい…おえふぁひが…わるふぁっは…ううひへ…」

ごめんなさい、俺たちが悪かった、許して…

私はそれを聞いて、何故だかわからないけど、座り込んでしまいました

「純…ごめん…私…できないや」

「梓……」

「わかってる…でも、でもダメなの…やっぱり、私にはできないよ…ごめん…」

「…わかった。梓、あんたはそこにいて。私一人で…やれるから」

私はそのまま、うつむいて泣き続けていました

やがて、『川口』のくぐもった、とても小さな悲鳴が聞こえても

私は、声を出さずに泣き続けていました



「なあ、みおちゃん、どこ行くワケ?何かもうスゲー暗いんすけど」

『三谷』が素っ頓狂な声を上げる

私が小声で

「もう夜だから、少し静かに喋ろう?私、ちょっと恥ずかしいよ…」

と言うと、『三谷』は

「おう!了解!みおちゃんの頼みならマジよろこんで聞くぜ!」

と大声で答えた。本当に馬鹿なんだ、こいつ…

私たちは少し歩き、河原のあたりにやってきた

川の水はすでにほとんどなく、大きな石がごろごろしている

「ちょっとここで休もうか」

私たちは芝生の上に腰を降ろした。『三谷』は私の横にぴったりくっついて座る

汗の感覚が気持ち悪くて仕方がない

「みおちゃんさあ、何で俺のこと選んでくれたワケ?」

『三谷』がニヤニヤしながら問い掛ける

「あなたが…私を選んでくれたから」

私はそう答えた。まあ間違ってはいない

『三谷』はそれを聞いて、身悶えしながら

「ヤベエ!みおちゃんヤベエ!マジでヤベエ!」

と連呼していた

さて、そろそろか…

私は周囲に人がいないことを確認すると、『三谷』ほうに顔を向けた


「ねえ…あのさ…いいよね…?」

その言葉を聞いて、『三谷』はいきなり私に覆い被さってきた

私は必死に止める

「待って!待ってってば!」

「えー?何でよ?みおちゃんが誘ったんだべ?」

「明るいと・・・恥ずかしい。それに、ここじゃ人に見られちゃうかも」

そう言って私は、橋の下に移動することを提案した。『三谷』はそれを了承した

橋の下に移動して、私は腰を降ろした

それから…Tシャツを脱いだ。上半身はブラジャー一枚だ

「きて」

『三谷』はもう何も言わず、私の胸に飛び込んできた

『三谷』が夢中で私の胸を弄んでいる間に、私は準備を整えた

バッグから軍手を取り出し、両腕にはめる。そして…

私は『三谷』の名前を呼んだ

「『三谷』くん…」

『三谷』が顔を上げた瞬間

『三谷』の首には、ギー太の弦が巻きついていた

ぐいぐいと、ギー太が『三谷』の首に食い込む

『三谷』は必死に、弦を引きむしろうとするが、無駄だった。指の先から血が吹き出ている

ギー太の弦をより合わせたものだ。ベースの弦並みに太い

私はさらに力を入れて締め上げる

『三谷』の口からはあぶくが溢れ、目玉は飛び出んばかりだ

「お前が何で死ぬのか…教えてやろうか?お前は私の親友とその妹を殺した。その報いだ
 でも安心しろ、あの世で二人に謝れとは言わない。だって、お前は二人がいるところには行けないからな…!」

『三谷』身体がぴくんと痙攣した。そして、それ切り動かなくなった

私は肩で息をしながら、身体の上の『三谷』をはねのけた。そして急ぎブラジャーを直し、シャツを着ると

私はそのまま、後も見ずに走り出した



それからのことを、あと少しだけ話そうと思う

私は前もって示し合わせていたとおり、むぎの家に集合した

私が行った時にはむぎと律がすでにいて、笑いかけてくれた。私もぜえぜえと息をしながら、笑いかけた

数分後、涙を流す梓を、純ちゃんが助けながら戻ってきた

一瞬不安に思ったが、純ちゃんは笑った。無事、役目を果たしてくれたようだ

全員の無事と成功が確認された

むぎがそこで、

「それじゃあ、みんな、すぐに帰って。今夜はゆっくり休むといいわ
 後のことは心配しないで大丈夫だから、くれぐれも、迂闊なことはしないようにね」

と言った

私たちは不安な気持ちを持ちながらも、むぎの言葉に従った



私は家に帰ると、すぐにシャワーを浴びて身体を洗った

それからすぐに、布団にもぐった

でも、眠ることはできなかった

これからどうなるのかという不安

『三谷』を殺したときの感触

唯と憂ちゃんの復讐ができたという喜び

色々な思いが廻って、色々な考えが頭を廻って…

私は布団から出ると、キッチンでお父さんのお酒を少し飲み、ヘッドホンで音楽をかけながら目を閉じた

何も考えぬように、何も考えぬように…

そうしているうちに、私は眠りに落ちていった



翌朝、私は両腕の筋肉痛で目を覚ました

昨日のことが夢でないことが、起きてすぐにわかってしまった

茶の間に行き、両親と朝の挨拶を交わす

部屋に戻って携帯電話を見ると、むぎからのメールが届いていた

『昨日はおつかれさまでした。すべてうまくいったから、安心して。
 とりあえず、お昼に私の家に来てください。』

という内容だった。すべてうまくいった…?

私は家を出て、律の家に向かった

律は思っていたよりも元気で、

「おっす!おつかれー!」

と挨拶をしてくれた

二人で一緒に、むぎの家に向かうことにした

「なあ、すべてうまくいった、ってどういうことなんだろう…?」

「さあな。でも、むぎの言うことだ。心配はいらないんじゃないか?」

むぎの家の離れには、梓と純ちゃんがいた。

梓は私たちが来ると、急に立ち上がり、頭を下げた

詳しい事情を純ちゃんから聞く

私は、その話を聞いて、不思議と安心した気持ちになった。律もそのようで、

「この弱虫!お前には罰を与える!」

と言って梓にデコピンをして、笑った

それからむぎがやってきたので、席に着く

「昨日、高校生の乗る2台のバイクが電柱に衝突し、炎上する事故が起きました
 運転していた二人の少年と二人の同乗者は死亡が確認されました
 スピードの出しすぎによるものと思われます
 おそらく、祭の後の高揚感と、夏休みが終わるということへの苛立ちから、無茶をしたのでしょう」

開口一番、むぎはそう言った

「むぎ…それって…」

「残念よね~、若い命をこんなことで散らせてしまうだなんて~
 …そういうことにしておいて。ね?」

「結局…最後はすべてむぎに頼ちゃったか…」

律は申し訳なさそうに言った

「結局、私たちだけじゃ何もできませんでしたね…」

純ちゃんも呟く

むぎは、何も言わなかった

梓が私の顔を見て、聞いた

「澪先輩…私たちがしたことって、正しかったんでしょうか…?」

私は

「これっぽっちも正しくなんてないさ。もし私たちが死んでも、きっと唯や憂ちゃんには会えない
 あの4人がいるところに私たちもきっと落ちるよ。でも…」

「でも…?」

「私は少しも…後悔はしていない」

そう答えて、私はゆっくり目を閉じた



おわり