梓と純ちゃんが『喜多上中学校』の卒業生に当たり、むぎの頼んだ組織が唯を探している間、残る私たちは
パソコンで今までどおりに作業をするということに決めた

例の容疑者3人がまったくの無関係だったときのことを考えて、ほかの犯人の目星をつけておく必要もあるかもしれない。ゆっくりしてはいられないのだ

ところが

むぎに調査を頼んだ次の日の夕方、むぎから電話があった

「唯ちゃんを見つけたって!例の歓楽街のあたりよ!」

私はこのとき、むぎの力にもっと早くから頼るべきだったかもしれない、と思った

それからすぐ、私たち3人は私の部屋に集まった

唯に会いにいく。今夜だ。むぎの頼んだ組織は唯をぴったりマークしているから、見失うことはないだろう

あくまで偶然を装って。唯のことが心配だからとりあえず会いに来たら、本当に会えた、ということにして…

私たちは夜8時ごろ、家を出た



8時半、私たちは例の繁華街に立っていた。むぎの携帯電話が鳴り、今、唯がどの辺りにいるかの情報が入った

「『xyz』っていうバーの辺りにいるらしいわ」

そこならば、以前唯を探していた頃に何度か前を通っているからよくわかった

律が深呼吸をして

「準備はいいか?」

と確認した。私とむぎがうなずく

唯に会える…期待と不安で心臓が張り裂けそうだ

10分ほど歩き、そろそろ『xyz』が見えてくる頃…

「え~?い~じゃん遊んでよ~!サービスするよ~?ケチー!」

唯が、いた

「唯!」「唯ちゃん!」「唯ぃ!」

3人とも全力で駆け出していた

「!?みんな!?…うえあぁっ!?」

私たちは唯に抱きついた。3人ともわんわん泣いた。涙の理由はわからなかった

「みんなぁ~、重い、重いよぉ~」

唯は困ったような笑顔を浮かべていた


それから私たちは、以前入った喫茶店に行った

席に着き、律が頭をかきながら話す

「いや、な。3人でちょっと出掛けたんだけど…唯は大丈夫かな、って急に心配になってな
 ダメもとで来てみたんだけど…ダメじゃなかった」

唯が笑って答える。この間とはまた別の制服だ。衣装として何着も持っているのだろうか

「そっか~私すごくびっくりしたよ~だってみんなが泣きながら突っ込んで来るんだもん」

それからしばらく話をした

唯はまだ援助交際を続けているらしく、

「もうすっかり慣れちゃったよ。この仕事、私に向いてるのかもしれないよ~」

と悲しいことをあっけらかんと言い放った。こんなの仕事じゃないだろうに…

また、探偵事務所は新しくしたが、やはり進展はないようだ

「『虎田探偵所』っていうんだよ。おもしろい名前でしょ。ネットカフェで探して見つけたんだ」

あっさり探偵事務所の名前がわかってしまった。これで情報を流すことができる

とりあえずの目的は達した。でもそんなことは、正直どうでもよかった

今は、とにかく唯といっしょにいたい。話していたい。笑いあっていたい…

でも、そうもいかなかった。9時半を回った頃、唯が言った

「ごめんね、今日はちょっとお得意さんと約束があるから…もう行かないと」

お得意さんまでいるのか…やっぱりショックだ

私は立ち上がった唯に、こう聞いた

「なあ…まだ、あの時と気持ちは変わらないのか?」

私の問い掛けに、唯は表情を曇らせて、

「うん…ごめんね。私はやっぱり、あいつらを許せないし、自分の力だけで仇をうちたいと思ってるよ
 これは…こればっかりは、ずっと変わらない気持ちだと思う」

…そうか。やっぱりな…

私たちは唯と一緒に店を出た

唯はやつれた笑顔で

「じゃーね!また会おうねー!」

と手を大きく振り、駆けていった

唯の背中が見えなくなった頃、私は、私たちがまた泣いていることに気付いた



その後私たちはネットで探偵事務所の名前を調べ、電話番号を控えておいた

ただし、そこへの連絡はもう少し先にするべきだ、ということになった

情報に不確定の部分が多すぎる。もう少し煮詰める必要がある

そのためには、2年生コンビの頑張りを期待しないと…

3日後の夕方。梓から連絡が入った

「色々わかったことがあるんです。すぐにみなさんを集めてください!」

どこか自信の溢れる声だった

数時間後の私の部屋。純ちゃんが口火を切った

「ジャズ研の同級生が『喜多上中』の出身だったんで…ほら、これ」

純ちゃんがカバンから出したのは卒業アルバムだった

「おおー!!」

3年生チームがどよめく

むぎが両手をあわせて笑う

「すごい!お手柄よ、純ちゃん!」

「お褒めいただくのはまだ早いですよ」

純ちゃんは不敵に笑った

「その子の家に梓と遊びに行って、いろいろ聞いたんです。というか、まあその子がおしゃべりで…ね?」

純ちゃんが梓に笑いかける。あずさは苦笑して

「聞いてもないことぺらぺらしゃべるんだよね…」

「まったくね…まあ、それはいいか。で、その子に聞いた話で、この間の3人はほぼ特定できました」

純ちゃんは卒業アルバムを開くと、クラスの集合写真のページを開いた

「『岡本和也』…これがおそらく『かず』です。で、その隣の『川口純平』が『ぐっさん』
 それからこっちのクラスの…これ、『杉田恭平』が『タキ』です。『すぎ たき ょうへい』で、『タキ』なんでしょうね」

私は尋ねた

「確かに名前とニックネームの関係は自然だな。でもそれだけじゃ材料として弱い」

純ちゃんが語る

「もちろん、そこも聞いてます。この3人はとても仲がよくて、いつもつるんで遊んでいたそうです
 しかも一緒の高校…そう、『梅ヶ峰』を受験しています。そして何より…この『杉田恭平』…」

純ちゃんは一呼吸置いて

「夏でも長袖しか着ていなかったそうです」

と言った

「この『杉田』、聞いた話では子供の頃に、腕に大やけどを負ってるらしいんです。それを人に見られるのが嫌で
 いつも長袖を着ていたようですよ」

律はかなり興奮している

「うっしゃあー!!間違いない、こいつらがそいつらだ!!」

しかし、それを制するようにむぎが言う

「でも、犯人は4人組でしょう?残る一人は…?」

「…あー……」

むぎの言葉を聞いて、律は急に萎えたようだ。しかし

純ちゃんはまだ語るべきことがあるようだ

「その子に聞いたんです。この3人と特に仲のよかった人はいないのか、って。そしたら
 ええと…こいつです、『三谷晃治』。あの3人とこの『三谷』の4人はすごく仲がよかったそうです
 一部女子の間ではホモなんじゃないかって噂されるくらい…あぁ、失礼しました」

「この『三谷』って人は『梅ヶ峰高校』の人ではないの?」

むぎの問に純ちゃんが答える

「はい、この三谷は進学せずに就職したそうです。どこに就職したかまではわからないけど…」

「ニクシィには加入してないのかな?」

「『タキ』たちが友達登録している人を全員調べてみたけど、この三谷に該当するような人はいませんでした
 もしニクシィに加入していれば、絶対に『三谷』も友達登録されてるはずですから。多分『三谷』はニクシィに加入していません」

私はそれを聞いて少なからず落胆した

「そうか…容疑者の中学時代の親友ってだけじゃあ証拠として弱すぎるな…今も交流があるかすらわからないし…」

と、そこで梓が口を開いた

「まだ話は終わっていないですよ、澪先輩!
 私、見つけたんです、この『三谷』のブログ!」

「ほ、本当か、梓!?」

「はい!昨日、手当たり次第に検索ワード入れて検索しまくってたんです。そしたら見つかりました
 パソコン、お借りしますね」

梓は点けっ放しにしてあったパソコンの前に座り、あるページを開いた

『コウちゃんの、こうすればいいんだ日記!!』

というホームページだった。力が抜ける…

梓が画面をスクロールさせる

「ほら、見てください。この画像。そこのアルバムの『三谷』と同じ顔です」

そこには、タンクトップを着てジーパンをはき、ネックレスをした茶髪のやさ男が木刀を構えている写真があった。間違いない、『三谷』だ

梓がマウスをクリックしページを開いていく

「それにここ、この写真…先週アップされたものです。『三谷』は海に行ってるんですけど…
 この、『三谷』と一緒に写ってる男、『岡本』と『川口』です。こっちの写真には…ほら、『杉田』ですよ、これ」

卒業アルバムのページと見比べる。髪は茶髪になっているし、多少雰囲気も変わっているが、間違いない
『三谷』は今も『岡本』『川口』『杉田』と仲が良いのだ

梓はさらにページを開く

「それからもう一つ。…事件があった日の日記です。短いんですけど、こう書いてあります

 『MTCの新エキスパンション「シャドウの夜明け」を大量ゲット。発売日に買えると気分イーぜ!』 」

律が尋ねる

「えむてぃーしー?えきすぱんしょん?何だそりゃ」

「MTCって言うのは『三谷』がハマってるカードゲームで、新エキスパンションというのは新しいシリーズのことです
 ほかの日記でも、『三谷』はこのカードゲームについて色々書いてますね」

私には梓の真意がまだ読めないでいる

「それが…どう繋がるんだ?」

「このブログで『三谷』はこう不満を漏らしています

 『何でこれだけメジャーかつエクセレントかつエンジョイなものがここにしかないかねー
  もっとコンビニとかにも置け!本屋とかにも置け!置け!オーケー!』

……正直ムカつきますねこいつ。まあいいや、どうやらこのMTCってカードは、この辺にはあんまり置いてる店がないみたいです
 で、『三谷』がMTCを買える唯一のお店がここ…『ゲームショップ ペルセウス』」

「『ペルセウス』!?あの商店街にあるゲームショップじゃん!!」

「はい。つまり『三谷』はあの日、あの商店街にいた可能性が極めて高いんです…!」

繋がった。確かに繋がった…!

  • 『かず』『ぐっさん』『タキ』『三谷』は事件当日にあの商店街に、一緒に行っている可能性が高い
  • 憂ちゃんを襲ったのは『梅ヶ峰高校』の生徒で『かず』『ぐっさん』『タキ』は『梅ヶ峰高校』の生徒
  • 憂ちゃんを襲ったうちの一人は7月なのに長袖のシャッを着ていて、『タキ』は一年中長袖を着ている
  • 『ぐっさん』は商店街で『良いこと』があったらしいが、その『良いこと』が何かを、その日の日記にもその後
の日記でもまったく明かしていない

私は叫んだ

「お手柄だ、純ちゃん!梓!もしかすると、もしかするぞこれは!」

律も再び興奮して言う

「とうとう犯人が見つかった!!やったぞ!!」

梓がそれを抑える

「待ってください律先輩。そう考えるのは早計過ぎますよ」

「そうですよ、特に、『三谷』に関しては情報がまだ少ないです。犯人と決め付けるのはまだ…」

律はぺたんと座り込んだ

「まあ…それは、そう…か。…そうだな。あー!でもさー、喜びたいじゃんよー!!」

「そうだな、少しぐらいは喜んでもいいよな」

むぎがニコニコしながら言った

「そうだわ!唯ちゃんが頼んでる探偵さんにこのことを伝えたほうがいいんじゃないかしら?」

そうだ、これだけの情報があれば、その『虎田探偵所』も動いてくれるかもしれない。善は急げだ

ああ。でも…

「な、なあ、何て言って電話すればいいと思う?女子高生の人探しに匿名で情報提供者が現れるなんて変じゃないか?」

「確かにそうですね…」

「しかも、絶対に私たちが情報を提供したって唯にばれちゃダメなんだ。その辺の事情をどう説明したらいいかなあ!?」

律が苦笑いして言った

「会議はもう少し長引きそうですかな~?」

その時

律の携帯電話が鳴った

「ん~?ありゃ、さわちゃんだ。心配して電話でもしてきたかな?」

律が通話ボタンを押して携帯電話を耳に当てる

「はい、もしもし……先生?………!!」

律…?…顔色が……

「……唯が、トラックにはねられたって」

律の携帯電話がぼとりと落ちた

「さわ子先生!!」

病院の廊下。両脇にソファが置いてあり、唯のご両親、とさわ子先生が座っていた

私たちの声に、ハンカチを握り締めたさわ子先生が立ち上がる。目が真っ赤だ

「みんな…!唯ちゃん、唯ちゃんが…!ああっ!!」

さわ子先生はその場に泣き崩れてしまった

律が先生の肩を揺さぶって問い掛ける

「さわちゃん!唯の、唯の容態は!?助かるよな!?大丈夫だよな!?さわちゃん!答えろよぉ!」

駄目だ、さわ子先生はただ泣きじゃくっている……唯のご両親!!

私は唯の両親のところへ駆け寄り問い掛けた

「あの!唯のお父さん!唯は、あの、唯さんは大丈夫なんですか!?大丈夫ですよね!?」

「これはねぇ…天罰なんだ…」

何を…言っている?…天罰?

梓が駆け寄り、私と同じように尋ねた

「唯先輩のことを教えてください!怪我の具合はどうなんですか!?重いんですか軽いんですか!?教えてください!!」

「これはねぇ、私たちへの罰なんだよ。子供をないがしろにした罰なんだよ。神様が、お前たちは子供なんかいらないんだろう、って唯も憂も連れて行ってしまったんだ。もう無理だ。もう無理だ。もう無理だ…」

唯のお父さんはうつむいてブツブツ呟くだけだ。唯のお母さんは…ソファに腰掛けたままぴくりとも動かない

事態がうまく掴めない。心臓が痛いほどに脈を打つ。汗が全身から吹き出す。めまいを感じて私はソファに倒れこむように腰をかけた

梓は泣きながらおろおろしている。純ちゃんは落着きなくあたりをキョロキョロ見回している

むぎはさわ子先生の傍に寄り添って介抱している。律は…

「澪…」

律が私の横にどさりと座った

「大丈夫だよな…だって、約束したもんな…約束したよ…」

そうだ。約束したんだ。絶対に軽音部に戻ってくると、約束したんだよ、唯…

「ああ。唯は甘えん坊でいい加減なところも多いけど…約束を破ったことは一度だってない…!きっと、大丈夫だ…!だから律、泣くな」

私はハンカチで、律の顔をそっと拭った

それからしばらくの間、私たちは手術が終わるのを待ち続けた

途中、何とか落ち着きを取り戻したさわ子先生に、ここまでの経緯を話してもらった

今日の夜9時過ぎ、例の歓楽街の交差点で、唯が道路に飛び出し、直進してきたトラックにはね飛ばされた

数分後、救急車が到着し、この病院に搬送された。唯は全身を強く打っており意識不明の重体

身分や住所の証明となるものがなかったため、病院側は携帯電話の電話帳から自宅及びさわ子先生の電話番号を調べ、連絡した、ということらしかった

道路に飛び出した…?一体なぜ…?

私は『手術中』のランプをぼんやりと見つめていた

唯…私たち、すごい手がかりを掴んだんだぞ…。だから、ちゃんと戻って来いよ…



どれほどの時間、そうしていただろうか

不意に手術室のランプが消えた

唯のご両親以外の全員が立ち上がる

手術室の扉が開き、お医者さんと思しき人と、看護士さんがあらわれた

私たちは一斉に駆け寄り、尋ねた

「唯は、唯は助かりましたか!?」

お医者さんはこう言った

「出来る限りの手は尽くしましたが…残念です。申し訳ありません」





私はその夜、親友を失った



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