私たちは商店街に戻ると、さっきのお店とは別のファーストフードに入り、これからのことを話し合った

この商店街が活動圏内にあると思われる、共学校・男子校を調べ、さらにそのうちで、制服のスラックスが緑系統の学校を絞り込むこと

ボタンを調べて、手がかりを探すこと

制服に関しては私と律が、ボタンはむぎが調べることにした

梓と純ちゃんには、他に手がかりがないか、記憶を反芻するよう言った

お店を出たのは1時過ぎ。次は明後日また集まるということにして、解散した

帰り道、私と律は、得体の知れない満足感に、少なからず酔っていた

コンビニに立ち寄って買い物をし、店を出た

と…その時、ほとんど二人同時に、携帯電話の着信音が鳴り出した

「唯…」

私の着信は、唯からのメールだった

「…さわちゃんだ…!」

律には、さわ子先生からの電話のようだ。不安そうな顔で私を見つめる律

「律、うまくやれよ」

私の励ましに、律は顔をいっそう引きつらせた。不安だ…

律は深呼吸をすると、震える手で通話ボタンを押した

「もしもし、あ、ハイ。まあ…そこそこには。それで、あの……えっ!?唯と連絡がついたんですか!?
 ええ、私はまだ…。はい、はい…はあ!?あっ、すいません、驚いちゃって…いえ…はい…
 はい、わかりました。あの、うちのメンバーには私から連絡しておきますから。…いえ、大丈夫です
 あの…先生、あんまり無理しないで下さいね…いえ、はい、わかりました。はい、また…

 ふーっ…」

律の額には汗が玉のように浮かんでいる。私はそれをハンカチで拭いながら

「お疲れ。さわ子先生…何だって?」

と聞いた

「唯から電話があったってさ。ま、昨日の約束を唯はちゃんと守ったわけだな
 唯のやつ、好きな男の人ができて、そこに入り浸ってるってことにしたみたいだ
 で、また連絡するから心配しないで、って言って一方的に切っちゃったんだとさ」

「そっか…まあ、それが一番妥当な理由かもな」

「さわちゃん…かなり疲れてるみたいだった。本気で唯のこと心配してるんだ」

私は終業式で見た、さわ子先生のやつれた顔を思い出した

「……あぁ、そうだ澪、唯からのメールは何だって?」

「ちょっと待って。今確認する」

私は唯からのメールを開封した

『両親とさわちゃんに電話しました。
 さわちゃんは、ずいぶん心配してたみたい。
 探偵事務所のほうは、まだ探してる途中です。
 約束はちゃんと守るから、みんなもよろしくね。
 それじゃまたね。』

要点だけを伝える、簡素なメール。件名もなく、絵文字も使っていない

私は律に、メールを読んで聞かせた

「……頑張らなきゃな、私たちも」

「……ああ」

さっきまでの満足感は、とっくに消え去っていた



それから私と律は手分けして、インターネットで緑のスラックスのことを調べていった

地図で、商店街のある程度近くにある、共学と男子校、それから中学校を調べる。それらをひとつひとつ検索し、条件に該当するものをピックアップしていく

サイトのある学校はかなり多く、調べるのもそう難しくなかった。

「便利な時代になったもんだ…」

どうしてもわからないところは、本屋に行って受験関係の資料に当たった

翌日のお昼過ぎには調べ終えることができた。予想よりずっと早い

「みんなは…大丈夫かな…」

進展があるといいのだけれど



翌日。場所は私の部屋にした。パソコンが使えると便利だろうという理由からだ

「じゃあ、まずは私と澪が調べたことから行くか」

律に促され、私は発表を始めた

「ああ、そうだな。えっと、パソコンを使って、あの商店街を利用しそうな範囲にある学校を調べてみたわけだけど…」

「もっと要点だけババーンと行けよ、ババーンと!」

だったらお前が発表しろよ…という言葉をぐっと飲み込み、私は要点を述べていくことにした

机の上に置いておいたファイルを手に取る

「ええと、グリーン系のスラックスが制服になってるところは、調べた限りでは4つだな
 高校が3つと中学が1つ。ホームページをプリントアウトしてあるから、見てみて」

ファイルを開いて、テーブルの上に置く

「4つか…すごい、結構絞れましたね」

「ああ、でも正直言えばもっと少ないかとも思ったけど。緑のスラックスなんて見たことなかったから」

「なあ、梓。この4つの制服のなかに見覚えのあるものは?」

律が聞く。梓がファイルを引き寄せじっくりと見ていく

「……ううん…すみません、これだ!という感じはしないかもです…」

まあ、そうだろう。どのスラックスも色味以外には特徴らしい特徴はあまりない

「大丈夫だ、気にするな、梓」

私は梓の肩を軽く叩いた

「あの、ちょっといい?」

むぎがファイルを引き寄せ、左手の手帳を見ながらぺらぺらとページを繰っていく。心なしかいつもより落ち着きがないような…

その時、むぎが目を大きく見開いた

「やっぱり…!」

そして、ある学校のページを指差して

「多分、ここ!」

叫んだ

ここ…って…まさか…!?

「むぎ!ここか!?ここがそのそれのそこなのか!?」

「り、律、おお落着け!落着けって」

あぁ、私も落着けって

梓がむぎに詰め寄る

「どういうことなんですか、むぎ先輩!?」

「説明するから、説明するからみんな落着いて!」

ああ、そうだよな、落着かないと…

私はみんなをなだめることにした

「とりあえずみんな座って、な、むぎの話を聞こう、な!」

「お、おう…」

「はい…そうですね、すみません」

律も梓も自分の席に戻った。純ちゃんは…この子はこんなに落ち着きのある子だったろうか

とりあえずみんな落着いたようだ。私はむぎに話すよう促す

「あの、絶対にそうだ、とは言い切れないんだけど…」

そう前置きして、むぎは話し始めた

「家に帰って、あのボタンを調べてみたの。そしたら、あのボタンにね、ちょっと変わった特徴があったの」

「特徴?」

「うん。ぱっと見た限りでは普通のボタンだったでしょ?でも、よく見るとボタンの裏面にアルファベットが刻まれていたの」

「アルファ…ベット…?」

「そう。ローマ字で『FUJITAYA』って刻まれていたわ。それでピンと来たの。
学生服ってオーダーしたり、特定のお店が学校に卸したりするでしょ?だから、その『FUJITAYA』っていうのはお店の名前で、そこが作ってる学生服なんじゃないか、って」

「なるほど…確かにそう考えることもできますね…」

梓の声はどこかかすれていた

「それで、この辺りで『FUJITAYA』っていう名前の、学生服を扱ってる服屋さんを探してみたら、1件だけ見つかってね、そこに行って、ご主人にあのボタンを見てもらったの
そうしたら、間違いなくうちのボタンだって。藤田屋さんはとても歴史のある服屋さんで、自分のお店で売る学生用のワイシャツなんかには、オリジナルの店名入りボタンを工場でつけさせるのが昔からの決まりらしいわ」

何だか無性にのどが渇いた。手の平の汗が止まらない

むぎの言葉はさらに続く

「それでね、藤田屋さんが主に学生服を卸している学校の名前を聞いて、この手帳にメモをとっておいたの
 それで…今、このファイルにある学校とメモを照らし合わせてみたら…」

むぎが唾を飲み込む音がはっきり聞こえた

「1校だけ…あったわ。このファイルとメモに共通する学校が…!」

私は、むぎの前で開かれているページに視線を落とした

『私立梅ヶ峰高等学校』

律が苦々しげに呟く

「ここか…!」

梓の顔にも、純ちゃんもの顔にも、ありありと怒りが浮かんでいた

多分、きっと、私の顔にも

むぎが慌てた口調で言う

「ま、待って待って!まだ決まったわけじゃないのよ?確実な証拠もないし、
 もしかしたらあのボタンは事件と何の関係もないのかもしれないわ!」

律が反論する

「何言ってんだよむぎ!お前が見つけた証拠じゃんか!この状況で、これだけの偶然が普通重なるか?
 間違いない、憂ちゃんをやったのは…ここのやつらだ!」

純ちゃんも律に同調する

「そうですよ…きっとここに、私たちの敵がいるんです…!」

むぎと梓はますますオロオロするばかりだ

私は、少し様子を見ることにした。ただ何となく

その時

ヴヴヴヴヴン、ヴヴヴヴヴン、ヴヴヴヴヴン

奇妙な音が部屋に響いた

私の携帯電話が、テーブルの上で震えている

ディスプレイには『唯』の文字

「唯からのメールだ…」

みんなの動きが止まった

私は携帯電話を手に取り、メールを開いた

『新しい探偵事務所を見つけました。
 料金も前よりずっと安くて、ちゃんとしてるみたいです。
 これならきっと、すぐに見つけてもらえると思います。
 でも大丈夫、見つけたらちゃんとしらせます。
 それじゃみんなによろしくね。』

私はメールを読み上げると、

「ごちゃごちゃやってる場合か?」

と尋ねた。誰も何も答えなかった

「今のメールの中身、聞いたろ?あの詐欺みたいな探偵事務所はやめたみたいだけど、
 また別のところに依頼はしてるんだ。つまりまだまだお金はかかるんだよ
 唯がどうやって、どんな気持ちでお金を稼いでるのか、忘れたのか?
 折角みんなで頑張って、むぎがいいところに気付いてくれたおかげで、大きなヒントが手に入ったんだろ?
 ここで馬鹿になって仲間割れしてどうするんだよ、律!純!」

律と純ちゃんはうつむいて黙り込んでしまった

「すみませんでした…私、憂の仇が見つかったと思ったら…夢中になっちゃって…」

純ちゃんが泣きながら謝る

律はそっぽを向いたまま

「悪かったよ。あたしもさ、興奮しすぎた。ごめんな、むぎ…澪も」

むぎが微笑む

「ううん、私はいいの。わかってもらえれば何も気にしないわ」

梓もホッとしたようだ。とりあえず一安心…か…?

とりあえず、仕切り直しだ

「まあ何にせよ、この発見は私たちにとっては大きな一歩だと思う。調べてみる価値は十分すぎるほどにあるはずだ
 …ちなみに、この梅ヶ峰高について…何か知ってる人はいないか?
 どういう学校かとか、友達が通ってる、とか…」

みんなお互いに顔を見合わせるばかり

「現状としては情報ゼロ、か…」

梓がファイルを見ながら言う

「ここ、生徒数が600人以上いますね…男女半々と考えても約300人…」

律が投げやりに言う

「多いんだか少ないんだかよくわかんないなー」

言い方はともかくとして、私もそう思う

300人の中から4人を絞り込むというのは実際のところどうなのだろう

「でも…やるしかないわ。手がかりがそれしかないのなら…やるしかないもの!」

むぎが決然と言い放った

そうだ。やるしかない。ごちゃごちゃ言っている暇はないのだ

唯のために…

「さてと、どうやって4人を絞るかだが…」

私がアイデアを募ろうとしたところで、律がそれを遮った

「待った待った」

「何だよ律。せっかく喋ろうと思ったのに…」

「いやゴメンゴメン。でもさ、まだ後輩組の発表聞いてないぞ?」

あ。そう言われればそうだ。私としたことがすっかり忘れていた。結局何だかんだ言ったところで私も舞い上がってたということか

「ごめん、梓、純ちゃん!べ、別に他意はないんだ」

私が両手を合わせると、二人ともくすくす笑った

「別に大丈夫ですよ、気にしてないです。ね、純?」

「そうですよ。それに私は…結局何もヒントになるようなことは思い出せませんでしたし…すみません」

純ちゃんがしょげてしまった。私はそれを慌てて慰める

「いや、それはでも、しょうがないよ。というか当たり前なんだ、純ちゃんは犯人を見てないんだから」

「そうよ。それに、純ちゃんはその分、色々私たちのためにいい意見を言ってくれているもの」

むぎも優しくねぎらう

「先輩方…すみません、ありがとうございます」

「おさんにんさーん」

素っ頓狂な律の声

「な、何だよいきなり…」

「まあそっちのしてることもそれはそれでいいんだけどさあ
 ここに一人ぐんぐんハードル上げられてる美少女がいるんだよなぁ~」

律の目線の先には…涙目になっている梓…

「私…純の分までカバーできるほど…たいしたこと…思い出せてないかもです…」

あああまずい、これはまずい

「大丈夫だ!大丈夫だから泣くな梓!」

「そ、そうよ梓ちゃん!ほんの小さな一歩が大きな一歩に繋がることはたくさんあるわ!」

「そ、そうそう!何も言うことがない私よりずっとマシだって!」

ああもう、どうしたものか。律、お前も何かフォローを…

「若いってのはいいもんですなぁ~」

私はこのとき、律に軽い殺意を覚えた

とりあえず、一旦ここで休憩ということにした

お茶を淹れ直し、私たちはむぎの持ってきてきれたお菓子を楽しんだ

またいつか、唯と一緒にお菓子を食べられたらいいな、なんてことを考えながら

それから、あらためて梓の発表に入った

「あの、あんまり役に立つことは思い出せてないかもしれません
 あと、思い出したりみなさんの話を聞いたりしているうちに考えたこともあるので、それも一緒に聞いていただけますか?」

「もちろんだ。遠慮なくどんどん言ってくれ」

「はい。それじゃあ…」

そう言って梓は数枚のルーズリーフを取り出した

「ええと…まず犯人の特徴をあらためて思い返してみました。まず…髪の毛が黒い人はいませんでした」

「全員、茶髪ってことか?」

「はい。色の濃さとかそういう細かいところまでははっきりしませんが、黒髪はいなかったです
 それから…憂の腕を押さえていた男は白いタンクトップを着ていました
 もう一人の、ビデオを回していた男も、制服って感じはしなくて。私服っぽかったです」

律が腕を組んで考える

「私服が二人…何だろうな、何か変だ」

梓が続ける

「はい、私もどこか違和感を感じて、考えたんです。で、思ったんですけど
 全員が全員高校生とは限らないんじゃないかって
 高校生がいたから、それは高校生だけの集団だ、と決まるわけじゃないですよね
 高校生は学生服を着た二人だけで、残りの二人は中学生かもしれない、大学生かもしれないです
 もちろん、ただ単に私服に着替えてたってだけで、全員が同じ高校の生徒って可能性もやっぱりあると思います」

純ちゃんが

「多角的に考えろ、ってことだね…」

と呟いた

梓がうなずいて続ける

「そう。色んな可能性を考えて事に当たらないと、大きな失敗にも繋がっちゃう
 私たちがしてることは、ただの人探しじゃないんだから」

「あー、何かいろいろややこしいなーもー!」

「それから、体型は全体的に…中肉中背というか。すごく太ってたりすごく背の高い人はいませんでした
 あと、これも確証はないんですけど、タンクトップの男が逃げるときに、胸元が一瞬光った気がしたんです
 こう、ピカっと。あれは多分、ペンダントか何かが反射したんじゃないかと思います」

「茶髪で、タンクトップで、ペンダント…」

「何だかいかにもって感じだなー」

律は呆れ顔だ

梓はルーズリーフを半分にたたんで言った

「とりあえず、今のところは…これくらいです。すみません、大したことのない情報ばかりで…」

「そんなことないよ。十分役に立つ情報だったじゃないか」

私は心底そう思った。これで、探すべき目標もある程度絞られる

着実に、目標に近付いている。そんな確信があった

「ここまででわかったことをまとめるぞ
 憂ちゃんを襲った犯人は4人組で、『私立梅ヶ峰高等学校』の生徒である可能性が高い
 ただし4人全員がそこの生徒だとは限らない
 また、最悪『梅ヶ峰高』と犯人とはまったく関係ないというケースもありうる。ここは覚悟しておいてくれ
 次に、犯人の特徴。中肉中背で、全員が茶髪。これは重要な手がかりだ
 …とりあえず今のところはこれくらいだな。あと…何かある人はいるか?」

お互いに顔を見合わせる。特にないようだ

私はお茶で唇を湿らせて、次の段階にうつることにした

「それでは、『梅ヶ峰高』を当面のターゲットとして調べていくことにする
 それで、調べる方法だけど…」

「やっぱ地道に聞き込みかー?」

「まあ、それが妥当な線だと思う。知り合いでも入れば内部の細かいことも聞けたんだろうけどな…」

私はそこで、聞き込みの方法を話し合おうと思った。しかし

「あの、もっといい方法がありますよ」

純ちゃんが言った

「いい方法?」

私は純ちゃんの顔を見る。どこか不敵な笑顔だ

「はい。澪先輩、ちょっとパソコンお借りしてもいいですか?」

「ああ、もちろん、それは構わないよ。ちょっと待ってて」

私はパソコンの前に陣取って電源を入れた

「何だ何だ?ハッキングか?」

律が面白がって聞く。ところでこいつはハッキングの意味をわかっているのだろうか

「いえ、そんな大それたことはしませんよ。というか全然できないし」

パソコンが立ち上がった。私はイスを純ちゃんに譲る

「どうするんだ?」

私の問に純ちゃんは

「自己顕示欲を利用してやります」

と言ってにやりと笑った

「自己顕示欲…?」

「はい。…みなさん、ちょっとこれ見てください」

検索エンジンを回して、純ちゃんはあるウェブサイトを開いていた

ディスプレイを覗き込む

『nyxi~ニクシィ~』というサイトのようだ

「このサイト、ご存知ですか?」

純ちゃんが尋ねる。私は知らないが…どうやらみんな知らないようだ

純ちゃんは一瞬呆れ顔をした

「このサイト、国内で一番利用者数が多いSNSなんです」

「えすえぬえす?」

「純、もう少しわかりやすく説明してよ」

純ちゃんが、また呆れ顔になった。さっきより長時間だ

「SNSっていうのは、ソーシャル・ネットワーキング・システムの略で…」

「日本語でお願いします!」

「あうぅ…ま、まあ要するに、ネットの中で友達を作っていくシステムですね」

むぎが首をかしげる

「ネットの中でお友達を作るの?」

純ちゃんが詳しく説明を始める

「はい。たとえばこのニクシィには、登録するとそれぞれ自分のページを持つことが出来るんです」

カタカタと入力をしてマウスをクリック。ページが切り替わる

「これは私のページなんですけど、簡単な自己紹介とか、自分の好きなものとかを書き込めます
 それから、ブログみたいに日記をつけることもできますよ……ブログはわかりますよね?」

さすがに私もブログくらいはわかる。律が言った

「知ってるぞー、芸能人がなんかやってるやつだろ?」

わかってないかもしれない

説明が続く

「まあ日記じゃなくてもいいんですけどね。とりあえず何か書いてアップすると、それが公開されます
 登録してるならどこの誰のページも自由に見れるんですよ」

日記を書いて、誰でも見られるように公開…。何だそれすごく怖いじゃないか

「何だか面白そうね~」

むぎの目がキラキラしている気がする

「それで、色々検索したりして、いろんな人のページを見ていくわけです
 それで気が合いそうだな、とか友達になりたいな、って人がいたら友達になってもらったり、コミュに誘ったりします」

「コミュってのは?」

「共通する趣味とか興味なんかがある人が集まって作る、サークルみたいなものですね
 甘いものが好きな人が集まって美味しい店のこと話し合ったり、映画好きのコミュでは映画について語り合ったり…」

「へえ…すごいんだな…知らなかった」

私は素直に感心した

「…女子高生なら常識レベルなんですけどね」

純ちゃんがぽつりと言った

「でもさ、それはわかったけど…だからどうなんだ?」

律が問い掛ける

「まあ見ていてください…たとえば…」

純ちゃんが何か入力している…桜が丘高校…?

ページが切り替わる

「見てください、これ」

長方形の枠の中に、文字と小さな画像、それが縦にいくつも並んでいる

『桜が丘高卒業生』、『桜が丘高バスケ部あつまれ』、『新潟県立桜が高等学校』…

これって…

「これ全部、コミュです。桜が丘高校って入力するだけでかなりありますね
 まあ私たちの学校以外にも桜が丘高校ってあるみたいだけど、そのへんは見分けるのも簡単だし
 多分詳しく探せば先輩の知り合いの方なんかも見つかるかもしれませんよ
 もちろん、その学校の生徒全員がニクシィに登録してるとは思えないし、登録しててもコミュにまで入ってるかはわからないけど…」

くるりとイスを回転させ、純ちゃんが私たちのほうを向き、言った

「これ、使えると思いませんか?」

「梅ヶ峰校のコミュを探して、その中から犯人の手がかりを探すってこと…?」

「そう。コミュだけじゃなくてもいいんだ。日記のタイトルとか、もっと細かい検索も出来る
 日記だから日付もはっきりわかるし、画像も貼り付けられるからそこから何か見つけることも出来るかもしれないよ」

純ちゃんの言葉に、みんなの顔がほころんだ

「…いける!これならいけるかもしれないぞ!」

「はいです!少なくとも聞き込みよりずっと早く情報が集められます!」

「本当だな。純ちゃん、お手柄だ!」

「ありがとうございます。それに…もしかしたら、犯人の顔や名前も意外とあっさり特定できるかもしれませんよ」

むぎが驚きの声を上げる

「へえっ!?本当に!?」

純ちゃんが答える

「もしかしたら、ですけど。犯人の男どもがチャラい馬鹿男だったとしたら、です」

「このサイトって、実は個人情報がかなり漏洩しやすいんです
 サイトの運営側のせいじゃなくて、ユーザーのミスのせいでですけど
 たとえば…ちょっと見てください。これは私のページなんですけど」

画面は先ほどの、純ちゃんの日記に戻っている

梓が画面上を指差す。熊のぬいぐるみの写真だ

「これ、純の部屋にあるぬいぐるみだ」

「そう。トップページには自由に画像が貼れるんだ
 まあ自分の部屋だとかお気に入りのものだとか、ペットだとかの写真を貼るのが普通だね
 自分の顔写真貼るにしても、普通は一部隠したり、加工したりして、はっきりとわからなくする」

「まあ、それはそうだよな」

私なら絶対に顔なんか載せない

「でも中にはその辺気にしてなくて、はっきり顔がわかる画像を貼り付ける人もいるわけです」

「本当か?」

「ええ、いろいろ見ていけば見つけられるはずです
 それから、ここ、見てください」

純ちゃんは画像の下あたりを指差す。『Jum』と書いてある

「ジャム?」

「私のニックネームです。このニクシィの中では、私は『Jum』なんです」 

律が感心したような反応をする

「はー、別に本名じゃなくてもいいわけだ」

純ちゃんが答える

「ええ。というか本名で登録してる人のほうがずっと少ないと思います
 顔出ししてる人よりは多いでしょうけど」

梓が感想を漏らす

「でも、やっぱり普通はそこら辺は隠すよね」

「そう。普通の人は隠すんだ。個人情報だだ漏れにすることが危険だってわかってる人はね
 つまり、顔をはっきり出して本名で登録してるなんてのは相当の馬鹿だと思う」

純ちゃんは続ける

「このサイト、どっぷり楽しもうとすると、自分の個人情報をどんどん晒していくことになりやすいんです、顔も名前もしっかり隠してても
 本当にコミュの数が多くて、しかもけっこう細かいところを攻めてたりするから
 『出身校』のコミュに入れば住んでる地域が絞られちゃうし、『髪の毛が長い人』のコミュで熱弁ふるえば髪は長いってわかる
 『マックのバイト店員』のコミュに入れば、さらにマックでバイトしてるってこともわかっちゃう」

「調子に乗って仲間増やしてると、自分のことがどんどん覚られちゃうのか…」

背筋に寒気が走った。面白そうだと思ったが、撤回する、ひたすら怖いぞこれは…

「だから、まあ何度も言いますけど普通の人は歯止め聞かせて程ほどにするんです
 でも、馬鹿だったらその辺あんまり考えないだろうから、私たちには都合がいい
 つまり…」

「つまり?」

「犯人どもが馬鹿だったらラッキーですね」

何だそのまとめは

「ま、まあとにかく、これはという人がいたら色々コミュをたどったり
 その人のお友達をさぐってみたりするといいんじゃないかと
 大丈夫そうですか?」

怖いけど…やるしかないな

「わかった。純ちゃんの策に乗ろう。みんなもそれでいいか?」

3人がうなずいた

私たちはそれから、純ちゃんにアカウントを作ってもらい、正式にニクシィの会員になった

「これであとは、パスワードさえ入れればどこのパソコンからでもアクセスできますよ
 後でサイト説明も一応読んでおいた方がいいかもしれませんね 
 まあ、わからないことがあったら、まず私に電話かメールして聞いてください。出会い系の誘いとかもあったりするし」

出会い系まで…最近の女子高生にはこんなに怖いサイトが常識だったのか…

しかし、とにかくこれで当面のなすべきことは決まった

私はこのときあらためて、仲間と協力することの大切さを実感した

『ニクシィの日記やコミュに徹底的に当たり、犯人の手がかりを掴むこと』

これが、今の私たちが私たちの力だけでできる、最も重要な仕事だ

私たちは、これを進める上での注意点などについて話し合った

 不用意に質問やコメントなどをしないこと

 自分の個人情報をもらすようなことはしないこと

 何度も同じ人のページに何度も何度もアクセスしないこと(誰がいつアクセスしたかということが、記録され公 開されるシステムがあるかららしい。『足跡』というらしいがよくわからない)

などなど、純ちゃんを中核に据えて、色々と取り決めをした

それから、集合などについては特に日時を決めず、報告すべきことが見つかったらその都度召集をかける、ということにした

やっと解散ということになった

時間にしてみればほんの数時間だが、驚くべきスピードで進展したと思う

だが、すべてはこれからだ。油断も安心もできない、いや、してはいけないのだ

律を残して、あとの3人は私の家を出た。去り際にむぎが

「夏休みが終わるまでに、一度くらいはみんなでどこかに遊びに行ければいいのにね」

と言って微笑んだ

そうだ、一度くらいはみんなで思い切り遊びたい

そしてそこには、笑顔の唯が、いなくてはならないんだ


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