「もしもしあずにゃん!?あれから澪ちゃんから連絡とかない!?」

どこか焦った様子の唯からの電話に、梓は謝る事しか出来なかった。
何よりもまず、律や唯よりも先に、私のところに連絡が来る事などないだろう。

突然姿を消した、私の先輩。

あの時、散々泣いたはずなのに。
澪の名前を聞いた途端、勝手に涙がこぼれた。

唯も、律も、紬も、大切な先輩だ。
部分部分とはいえ、尊敬もしている。でも、

澪は特別だった。
何が特別なのかは自分自身でも分からないけれど、一番澪を頼っていた。そう、思う。


『――LIARGAME特別参加枠当選のお知らせ――』


その澪はもう、自分の近くにはいない。

「……なんとかしなきゃ。自分で……!」

――

「……もう来たのか」

借りているウィークリーマンションのポストに差し込まれた黒い葉書。
1回戦が終了してからわずか5日後。
路上で唯と別れた翌日の事だった。

―――――――――――――――――――――――――――
LIAR GAME 2回戦のご案内

秋山澪様、LIAR GAME1回戦勝ち抜け、おめでとうございます。
2回戦は下記の日時・会場で……――

前回と違い、ゲーム内容に関しての記述はない。
その代わり、「ドロップアウト」の条件についてが書かれていた。

あなたはここで、ドロップアウトを選択する事も出来ます。
1回戦で獲得した賞金の半額を返還すれば、2回戦以降の全てのゲームから降りる事が出来ます。
あなたの場合は、5千万円です。
また、指定時刻、指定場所にプレイヤーが現れない場合棄権とみなし、1回戦で獲得した賞金を全て返却して頂きます。
あなたの場合は、1億円です。

(なるほど。要は素直に抜けさせる気はない、って事か。……ま、)


「抜ける気もないけどね」


天才詐欺師、秋山澪
LIAR GAME 第2回戦の幕が今、静かに上がる。

――


2回戦当日
指定時刻ぎりぎりに会場に到着した澪の前には、路上で泣き崩れる女性の姿があった

「う……うぅ……」
「どうしたんですか?」

「うぅ……もう私……どうしたらいいか……」

「ひょっとして、ライアーゲームの参加者?」
「はい……」

「……そうですか。よかったら、お話聞きますよ」
「え……は、はい」

――

話を聞いたところ、この女性は1回戦で相手から1億満額を奪い取ったらしい。
しかし、ゲームとはいえ他人から大金を奪った事で激しい自責の念に駆られ、
ドロップアウトに必要な5千万円だけでなく、1億全額を事務局に返却しようとここを訪れた。
そしてたまたま出くわした事務局員に事情を話し、1億の小切手を返却しドロップアウトが成立した。

……はずだった。

「事務局員は偽者で、実際はライアーゲームの参加者だった、と」

「……はい、後から現れた本物の事務局員の方から聞きました。
小切手を無くした私は当然ドロップアウトも出来ないそうです……」

「……なるほどね」

ゲーム開始前の出来事を事務局がどう処理するかは分からないが、
このままではこの女性が棄権扱いになるのは間違いないだろう。


「……タカダさん、でしたっけ?」

「え?はい、」

「このまま泣いていてもしょうがありません。前向きに考えませんか」
「前向き……?」

「このままだとタカダさんは棄権扱いとなり、1回戦での獲得金1億円を返済しなければなりません」
「はい……」

「2回戦がどういうゲームかは分かりませんが、1回戦と同様に1億を貸付けられ、終了後1億を返済するというルールだった場合、
もし敗北したとしても負債は1億、棄権時と変わりません。
それどころか、参加すれば勿論勝者になる可能性もありますし、偽の事務局員から奪われた1億を取り返すチャンスだってある」

「あ……」

「私も参加者である以上敵同士になってしまいますが、どこかで協力し合える事もあるかもしれない」
「……そう、ですね。このまま泣いててもしょうがないですよね」

「ええ。行きましょう」
「……はい。ありがとうございます」

多少の打算もあった。
どんなゲームかは分からないが、「協力者」の存在がゲームの結果を左右するかもしれない。

――

会場に入ると、番号と名前が書かれたネームプレートが渡された。
長い廊下を歩き、通された大広間には、20人程の人達がいる。
その中に、

(……梓!?)
「!!?……み、澪せ……」

「(しっ!!話は後だ)」
「(は、はい)」

『皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。
私はこのゲームの進行役、レロニラとお呼びください。
現在この場にいるプレイヤーは22人。ライアーゲーム2回戦、始めさせていただきます』


(……ここにいるって事は梓も1回戦を勝ち抜いたって事か)

『では、簡単にルールを説明します。前回同様、皆さんには持ち金として1億円をもってもらいます。
つまりこの会場全体に22億がある状態になるわけですが、この22億を22人のプレイヤーで取り合ってもらいます』

「………」

『これから皆さんにあるゲームをやっていただきます。負けた者は順次退場、いわゆる負け抜けゲームですね。
敗者は退場の際、場に1億を置いて帰る、ゲームが進むにつれ人数は減っていきますが、場の金額22億円は変わらないという事。
そして、最後に残ったものは、場の22億を総取りできるのです。
まぁ、最初に貸し付けた1億返済してもらうので、実際に手に出来るのは21億ですが』

「21億……!!」
「最初にって、1億なんてもらってないぞ!?」

『いえいえ、1億といっても現金を持ってゲームをしていただくわけではありません。
皆さんにお渡ししたネームプレート、そこにピンク色の石が埋め込まれているでしょう』

「あ、あぁ」

『実はそれ、極めて希少とされるピンクダイヤモンド3カラット、それだけで約1億円相当です』

「……えっ!?」 
「これが!?」

『2回戦ではそのネームプレートをマネーとして使い、
勝者のみこの場で現金に換金し賞金としてお渡しします』

「……」

『前置きが長くなってしまいましたね。それでは、肝心のゲーム内容についてお話します。
今回皆さんにやっていただくゲーム、それは』


【少数決】


「少数決?」
「何それ……」

『多数決はご存知ですよね。数が多い方の意見が採用される、あれです。
皆さんにやっていただくのはその逆、
多数派が死に、少数派が生き残る――、少数決ゲームです』

「……」

『では、簡単にやり方を説明しましょう。
まず、二者択一の問題が出題されます。それに対しプレイヤーはYESかNOの答えを投票します。
全員が投票し終わったら開票、その結果少数派になる回答をした方々が勝利です。
多数派になった方はそこでゲームセット、ネームプレートを場に置きたい退場してもらいます』

「……」

『票が同数、もしくは片一方に全員が投票した場合はノーカウント。もう一度投票をやり直します。
この要領で投票は繰り返され、場の人数が一人か二人になるまでゲームを続けます。
二人以下では少数が生まれませんからね。ここでゲームが終了。
勝者が一人の場合は賞金が21億、二人の場合はそれぞれ10億が支払われます。大まかな流れは以上です』

「……仕組まれてるって事はねーのか!?」
『?』

「この中に事務局の人間が何人か混じってて、必ずそいつが勝つように仕組まれてるんじゃないかって事だよ!!」

『くっくっくっ……仕組む、ってどうやって?』
「どうって……」

『もしこれが多数決なら仕組む事は可能でしょう。事務局の人間を過半数入れておけば必ず勝てますからね。
でも、これは少数派が勝つ少数決。仕組む余地などないではありませんか』

「……」 
「………」

『ゲーム本番は明日です。本日夕方に一度リハーサルを行いますので質問はその時に受け付けます。
お食事を用意しておりますので、夕方までゆったりとお過ごしください』

目の前には豪勢な料理が並んだが、1億の負債を負うかもしれないというのに食欲など沸くはずがなかった。
この状況でも食べているのは、15番のプレートをつけたサングラスの男性と、

「……澪先輩」

「話は後。今はあまり近づくな。知り合いだって事を悟られない方がいい」
「な、何でですか?」
「念の為」
「はあ……」


「食べないの?美味しいよ」

「遠慮しときます……」

(どうしてこんなに落ち着いていられるんだろう、
借金を背負う事になるかもしれないのに。……でも、)

聞きたい事は色々あった。
澪の両親の事情は律から聞いて知っている。
そしてその先、律達は話してくれなかったが、あの詐欺会社の破綻に澪が関わっている事も薄々感づいてはいた。


(やっぱり、頼りになるなぁ……)

黙々と食べ続ける澪の横顔が、とても心強かった。

――

――

『ではみなさん、これより模擬ゲームを行います。
ゲームではまず、我々が抽選で出題者を決めます。えー今回は、6番ですね』

「私?」

呼ばれたのは澪の番号、6

『皆さんのネームプレートにはそれぞれ番号がついていると思います。6番の方、壇上に上がり出題してください」

「何でもいいの?」
『はい。但し一つだけ条件があります。出題内容は必ず、答えがイエスかノーの二者択一となるものでなくてはなりません』

「分かった。……どうするかな」
『何でもいいです、予行ですから。気楽にどうぞ』

「そうだな、じゃあ、」


【自分がバンドを始めるとしたら、選ぶ楽器は勿論ベースだ】


『さあ、出題者から問題が出ました。出題と同時に、自身の番号が記されたYESとNO、2枚の投票用紙が渡されます。
YESだと思う人はYESの紙を、NOの人はNOの紙をこの「VOTE」の箱に投票します。
この際2枚とも投票したりすると即失格です。ご注意ください』

『出題後、考える時間を6時間与えます。つまり投票できるのはその6時間以内』

「6時間……?」
「……なんで?」

『もちろん、すぐに投票したい人はそれでも構いませんし、6時間フルに考えたい人はリミット間際の投票でもかまいません。
ただし、6時間を越えた場合はその人は無条件に敗北、退場していただきます。
まぁ今回は予行ですから制限時間は10分としましょう。ではスタート』

(ベースかぁ……澪先輩には悪いけどやっぱり私はギターかなぁ。
でも、何でこれだけの事に6時間もかけるの……?)

――


――ジリリリリリリ

『時間です。では開票いたします』
『5番NO、11番NO、19番NO……』

『……さて、結果が出ました。投票の結果18対4でNOが、つまりベースなど選ばないと答えた方が少数派となりました』
「……」

(あ……私勝ち抜けだ。……でも、澪先輩には悪いけど普通初心者ってギターとかドラムやりたがるものじゃ……こんなに偏るなんて……)
「あ、あなたもYESに入れたんですか?ベース好きなの?」

「いや全然。ベースなんて選ぶ奴いないと思ったから裏をかいてYESにしたんだ」
「なるほど……」

(おい壇上まで聞こえてるぞお前……)

『くっくっくっ、そういうゲームなんです。問われているのは「少数派となりそうな意見を投票する事」。
正しいか正しくないかなんて関係ない。出題内容など単なるお飾り。
いかに自分が少数派に入るか。いかに他人を欺いて多数派にしてしまうか。
その駆け引き、ハラの探りあいのために、6時間もの時間が用意されているのです』

「……」

『このゲームで重要なのは運などではない。
「時間」、一見無駄とも思える時間を有効に使ったものこそが、このゲームを制すのです』

――

模擬ゲーム終了後、プレイヤーはそれぞれ与えられた個室に案内された。
本番は明日。今出来る事は何も無い。

(少数決か……。時間、ってどういう意味だろ。6時間使って皆がでどっちに入れるか探るとか?)

無理がある。そんな原始的な方法での勝負とは思えない。

時間の使い方。
時間。……時間、が何?

(うぅ、わかんない……無理だよ1億の借金なんて……どうすればいいの……)

一向に浮かんでこない、ゲームの攻略法。
居ても立ってもいられず、梓は澪の部屋を訪ねた。

――


――コンコン

「はーい」

「……先輩、梓です」
「ああ。開いてるよ」

「失礼します」

「どうした?泣きそうな顔して」
「どうしたじゃないですよ……!!何で今まで連絡くれなかったんですか!!」

「うん、まぁいろいろあってさ。ゴメンな、梓」
「う……うぅ……先輩……」

「背伸びたな。私と同じくらいかも」
「どうでもいいですよぅそんなの……!!」

「……。ここにいるって事は、1回戦勝ったんだよな」

「え?あー、はい……勝ったというかですね……」

「?」

梓の1回戦の相手は、面識のない30前後の男性だった。
自宅に1億が届けられた後、唯と同じように一通り警察・弁護士に相談し、無駄だと悟った。

手紙には『1回戦』の記述。つまり、2回戦があるという事。
梓は金を奪う気などなかったので、このままゲームが動かなければ引き分けで終わる事になるが、それだと2回戦への参加がどうなるか分からない。

つまり、両者が駒を進めるか、それとも両者が敗退となるのか。もし前者だとしたら……、

「私お金を奪うなんてできないし、こんな危ないゲーム早く抜けたかったから、相手の男の人に頼みにいったんです」

「5万渡すから勝者になってくれ、か」
「はい。負債でも5万くらいなら自腹で払えるし、負け抜け出来るから良い案だと思って。相手も了解してくれたんです」

「……で、何で梓が勝ってるの?」

「終了時刻ちょうどに時間指定郵便で6万円届いたんです」
「は?」

「やっぱり怖くなった、ごめん(泣)って書いてありました」

「……それで1万円差で勝っちゃったの?」
「笑っちゃいますよね……」

(笑えない……)

「な、ならドロップアウトすればよかっただろ。たった5千円だぞ?」

「なんか相手の男の情けなさに頭来て……巡り巡って事務局に頭来て……、
時給950円の私が5千円稼ぐのに6時間もかかるんだぞーとか、考え始めたら止まんなくて……
気づいたらここにいました」

(なんか律っぽい行動だな……)

「……」
「?」

「……先輩」
「何?」


「……私、負けちゃうんですかね」


「え?」

「先輩と会えたのは嬉しかったけど……ゲームに勝つ方法なんて全然思いつかないし、
1億の借金なんて絶対どうにもできない。……何でこんなとこ来ちゃったんだろう、って後悔してばっかりです。
こんな怪しい人達だし、売られちゃったりするのかなとか、悪い方にばかり考えちゃって……」

「負けたらそうなってもおかしくないな」

「え……う、うそ……?」
「ぽんぽん億単位の金を使う奴らだ。何されるかは分からないよ」

「そ……そんなぁ……。う、うぅ……うぅっ……」

「あー……ごめん、不安を煽る事様な言って」
「うぅ……でも、でも、このままじゃ……」


「心配するな。お前は負けない」
「え……?」


「――このゲームには、必勝法がある」



未完