ゆうがた!


唯「遅いねえ…澪ちゃん」

唯「……そうだな」紅茶ズズー

梓「…もうすぐ下校時間ですよ」

紬「せっかく準備して、すぐ練習できるようにしておいたのに。残念ね…」

律「澪のことだから、あたしらがいない間にベースを取りにくるってこともあると思うんだ」
「だから、まだ可能性がないわけじゃねーさ」

梓「……なんでそんなことわかるんですか」

律「あたしが澪と何年一緒にいると思ってるんだっての!」

唯「幼馴染の勘だね!?りっちゃんっ」

紬「りっちゃんが言うから本当に来ちゃいそうね」うふふ

律「おうっ!………でも来なくてもあたしを攻めないでなっ」



しばらく後!

ガチャッ

さわ子「やっぱりいたのね…。あなた達、とっとと帰りなさい。もう下校時間過ぎてるわよ」

律「げ。さわちゃん…」

梓「……もう19時ですしね。届出も出してませんし」

紬「……りっちゃん」

律「…えー……もうちょっと…」

さわ子「ほらほら急いで!校門閉まるわよっ!」

唯「澪ちゃん……」

律「…しゃーねぇ、出るか」

さわちゃんに急かされ、渋々ながら楽器を片付ける。
澪のベースに少しだけついてしまっていた埃を落とすと、あたし達はそのまま鍵をさわちゃんに返して
学校を出た。



校門前!

梓「では、実は私親に頼まれた買い物がありますのでこれd…」ガシッ

律「まぁまぁもうちょっと話していこうじゃないかー!」

梓「な、なんでですか!何で校門前なんかで!」

唯「ここで澪ちゃんを待つんだね!りっちゃん!」

紬「ちょっと不良っぽくて良いわねー」

梓「そんなコンビニ前にたむろってる人達じゃあるまいし…っ」

外はちょっと寒い。
でもみんなで話してるとなんか暖かい。

当然だけど、澪が学校に向かっているだなんて核心はもててない。
それはみんな一緒だ。
でもこうして話してると楽しいよ。……もし澪がまだ家で寝ててさ、
明日の朝になるまで学校に来なくても、何かそれはそれで良い気がしてきたよ。
そしたらお前は笑うんだろうな『朝まで何やってんだバカ律』ってあたしを殴りつつ。

梓「まったく…、元はと言えば律先輩がドッキリしようなんて酷いこと考えるからいけないんです!」
「ドッキリなんかじゃなくて普通にメールを送っていたら…!」

唯「あはは、でも『返事は全て嫌だ!ドッキリ』はやってみたかったな~」

紬「唯ちゃんったら。うふふ」

律「そのドッキリはもうあたしでやってたじゃないかよー…」





唯「あずにゃん私お腹空いちゃったよー。アイス買って帰ろうよ~」

梓「帰ったら憂がご飯作って待ってるでしょうに……もう」

律「唯、お前さっき澪の分まで食べてたくせによー」

唯「甘いものは別腹って言うじゃないのさ!りっちゃん!!」

律「えー…?」

紬「今日は宿題もなかったし、もうちょっと遅くなっても良いんじゃないかしら」

律「そうだな。澪がきたら、みんなでアイス買って帰るか」

唯「さんせ~いっ!」



律「……ン」

みんなで談笑しつつ、校門で過ごして数十分。

ようやくご登場かよ…。
お前の気配にあたしが気づかないとでも思ったか、澪。

唯「…りっちゃん?どうかしたの?」

梓「やっと帰る気になりました…?」

律「………澪…」

紬「えっ!本当にっ!?どこ!?どこかしら!?」キョロキョロ

唯「あ、あれかな?…でももう見えなくなっちゃうよ!?」

やっと来てくれたのかと思ったのも束の間、澪は校門とは逆方向へ歩いていた。
……やっぱりあたしらとは会いづらいみたいだな。

ま、それならこっちから捕まえてやるさ。

律「…追いかけよう」

唯「了解ですっ!!!」フンス

紬「了解ですっ!!!」

梓「わかりましたよ、もー!」

あたし達は早足で澪を追いかける。





律「…で、なんでこんな人ごみ激しいトコに来てんだよ」

紬「……見事に見失っちゃったわね…」

唯「どうする?りっちゃん」

律「どうするって言ってもな。じゃあ手分けして探…」

梓「……それは反対です。というかちょっと怖いですこの辺り」

紬「確かに、あまり良くない噂ばかり聞くわね…」

律「しょうがない。なら一緒に行くか。回りを見つつ、ゆっくり進もうぜ」

唯「あいよぅりっちゃんっ!!」



あたし達は見逃さないように、人間だけではなく、道の隅から隅までを見ながら歩く。

でも20分程探し回っても、澪を見つけることはできなかった。



梓「いませんね…。さっきの見間違えとかじゃないですよね」

律「そんなはず…」

そんなはずはない。
あれは確かに澪だ。
黒髪でロングヘアでうちの制服を着ていたってこともあるけれど
それだけじゃない。
澪にしかない雰囲気ってやつを持っていた気がするんだ。

唯「…りっちゃん、こっちにも道があるよ」

律「ん。おう、行ってみよう」



そこは今までの道とは違う。
人通りが激しいこの場所で、何故か誰もそこを通ろうとする人はいない。
そんな道だ。
正直澪がこんなところに一人で来ることは考えにくいとは思う。
でも唯が見つけたからか、何故か気になってしまった。

梓「く、暗いですね…」

紬「本当ね…。さっきまでの賑やかな場所が嘘みたい」



……そして見つける。

律「……ッ!!!」

男に詰め寄られ、腕を縛られ、服を汚され、身動きができなくなってしまっている女の子の姿。
あれは紛れもなく……!

唯「あっ!!りっちゃん待ってっ!!」

あたしは走った。
せっかく見つけたんだ。
捕まえるまでもう止まれない。



走りながら何か武器はないかと鞄を弄る。お目当てのものがすぐに指に当たる。
……これだっ!!

律「(へへ、これなら扱いなれてるッ!!)」

握ったのはドラムスティック。
そして…



律「何してんだよ、オッサン」

「…あ?なんだおm…」」

律「おらァッ!!!!!」

力まかせにぶん殴った。

バゴッ!!!!!

鈍い音が聞こえる。
そして響く。

ドガッ!!バキィッ!

「あゲッ!!!!!」



律「はぁ…っ!はぁ…っ!」

「……………」ピクピクッ

おいおい、もうのびたのか?
まだたった3発しか殴ってないぞ…!
澪にこんなことしてこの程度で済むと思ってんのか…!?
昨日ドラム叩けなかった分、思いっきりやらせてもらったけどさ!

ま、でもこれだけは言わせてもらう。



律「…私の親友に手を出そーなんて1億年はえーんだよ!!!」デデーン


ハハーン!どうだ!仁王立ちで言い切ってやったぜっ!



あたしは軽くふうっと深呼吸をした後、澪の方を見る。
澪は震えながらもあたしを見つめ返してくれていた。
その様子は、とてもじゃないけどいつもの澪とは程遠い。

澪「…り…つ……?」

律「…あぁ、迎えにきたぜ、澪」

あたしは近づき、澪をそっと抱きしめた。
もう力が残ってないのか、さすがに抱き返してくれるなんてことはなかったけど
澪が今まであたしにもあまり見せてくれたことがないような顔をしてくれるもんだから
あたしはちょっとだけ嬉しかった。

律「すげー震えてる。澪、辛かったよな…。ごめんな。本当にごめんな」

澪「……りつ…私…私…」

律「…もう喋らなくていいよ」

もうちょっとだけこのままでいても良いかな、何てことも考えたけど
後ろで叫びながら近づいてくる仲間がいたので、少しだけ離れる。



唯「りっちゃぁーん!!」

梓「律先輩…!澪先輩っ!!」

紬「大丈夫ー?2人ともー…!」

澪はもう眼を閉じていてしまったけれど…
その可愛らしい表情は間違いなくさっきまでよりも安心してくれている。
いきなり男に襲われてる所を見つけた時はさすがのあたしも驚いたけど
澪が無事で良かった良かった。

とりあえず、帰ろっか。澪。
あたしも今日は疲れたや。





澪のへや!

律「……」

澪「……すぅ、すぅ」

澪を自宅まで送って、この日はあたしも帰って休もうかと思ってたんだけど
おばさんに澪についていてあげて、と、頼まれてしまった。

まぁ、少しだけならいいかな、と。
あたしは澪と一緒に部屋にいる。
澪はベッドで。
あたしはイスで。

律「……」

澪「すぅ、すぅ…」

今は静かに寝息を立てている澪だけど、既に何度か涙を流している。
涙を流す時は、決まってうなされる時だ。

よっぽど今日の事が怖かったんだろうなあ。



澪「…ん……」

律「…お。やっと起きたか」

澪「…り…つ?」

律「おう。おはよ。あたしだ」



あたしがこの部屋に来てからどのくらい経っただろうか。
ようやく澪の瞳が開く。

澪「……ここ、どこ…?」

律「どこって…。澪の部屋だけど。何かまずかったか?」

…つーかなんだよ、寝ぼけてるのか。

澪「私の…へや……?どうして?」

律「どうしてって…おい…」

なんだ、この…丸一日寝てたみたいな反応。
一瞬、澪の精神的な部分に良からぬ悪影響を与えてしまったのかと思っちゃったよ。

ま、次の澪の言葉でそんな不安は消し飛んだけど。



澪「りつ…。り、律?律なんだ。律なんだな…?」

律「…そうだよ」

澪「律…!律…!!」
「うわぁああああん!!律ぅうううううううううっ!!」ガバッ

律「…ぉおっ!?」

やっと感覚が戻ったのか知らないけど、急にあたしに抱きついてくる澪。
しかもマジ泣きしてやがる…。
おいおい、もう怖いのは去ったんだぞ。
あの男はムギがどこかに運んでいってくれたんだ。

澪「…怖かったんだ…!!私、すごく…!!でも律が助けてくれて…!!」

律「……澪を助けたのはあたしだけじゃないぜ。みんなが澪を助けたんだよ」
「確かに良いトコ見せちゃったのはあたしかもしんないけどさ」

澪「…みんな…?」

律「…どうしてみんなで校門で待ってたのに逃げちゃったんだよ」

澪「だって…、だって…。みんな私がいなくても笑顔で…。律だって笑ってた」
「それにメールで……」

律「(…あ。)」

…やっぱり気にしてたのか、澪は。
いやー、ムギと梓と唯には悪いことしちゃったな、ははっ。

澪「…それだけじゃない、昨日。私は律に酷い事をしちゃったし」
「だから学校でまた律と会うのが怖くて」

律「昨日は…あたしも悪かったよ。澪をぶっちゃったりしたし…」

澪「いいんだ。私が律の事を考えずに、ポカポカ殴ったりしてきたから…」

律「いいっていいって。つーかそんな風にしょぼくれてんの。澪らしくないぜ」
「もっと元気出せよ。元気」

澪「律…」

律「昨日の後、みんなに脅迫されたんだぜ?」
「『じゃあ放課後ティータイムは解散ですね』なんて梓に言われた時にはまじで焦ったよ」
「あたしと澪の友情がこんな簡単に崩れるわけねーってのにさ」

澪「……放課後ティータイム、私はクビなんじゃ」

律「そんなわけないだろ。あたしらは軽音部のあの5人で放課後ティータイムなの」

澪「う。…そ、そっか…。そうだよな…」

律「おう。…だからさ」

澪「…うん?」

律「またいつも通りあたしがヘマした時にはツッコミ入れてくれよ」
「この役は澪以外には勤まんねーからさ」

澪「……うん。わかった」

律「よしっ!」



澪「……ごめんね。律」



おわり



おまけ

澪「……何……ドッキリ…?あのメールは全部律が……?」

紬「そうなのよ澪ちゃんっ!りっちゃんが私達の携帯取り上げて!」

律「ちょ、ムギ!!!」

澪「…律……、私、せっかく律のこと……」

律「ちょ!!ま、待てよ!!!唯!梓っ!お前らからもなんか言ってくれよっ!」

唯「嫌だー!」

梓「嫌です」

律「今そのドッキリはシャレになってな……って痛ィ!!」ゴツンッ!

澪「謝って損した!!!!」