ドガッ!!バキィッ!

「あガッ!!!!!」

男の身に何があったのだろうと、私は閉じていた目をゆっくりと開く。

律「…私の親友に手を出そーなんて1億年はえーんだよ!!!」

澪「…り…つ……?」



そこにはいなくなってしまったと思っていたはずの…
捨てられてしまったと思っていたはずの親友の律がいた。

……その後、すぐに唯や梓が走ってくるのが見えて…
そこでやっと、あぁ私は助かったんだな、と思えた。

そして何だか眠くなってきたので再び目を閉じた。



律side
律の家!

律「あぁあ…うざ…っ!!」

この日、あたしはイライラしていた。
両親と進路について揉めたからだ。

律「まだまだ先の話じゃねーか全く…」

いつもの食事で話すようなノリじゃない。
その時一緒にいた聡は追い出され、両親と3人で話した。
あたしが進路なんてまだ考えてねーよって答えたらマジギレ。

律「(あんなに怒らなくてもいいっつーのに!!)」

最初は適当に聞き流していたあたしも、さすがにそれが1時間も続くと
殺意が湧くってもんだ。
結局あたしは『ほっといてくれよ!』と怒鳴って部屋に逃げ帰ってきたんだ。

律「(イライラする。寝よ)」



次の日!

律「(やべぇ。まだむかつく)」

昨日の気持ちは今日になっても無くならなかった。
それどころか…

律「(もう家出しちまうかなちくしょー)」

こんなことまで考えてしまうほどだ。

澪「おはよ、律。なんかグッタリしてるな」

律「…おう」

登校中、澪に会った。
でもそっけない返事を返してしまう。
それくらいあたしはイラついていたんだ。
昨日の両親にも、1日経ってもこんなムカツク気持ちが晴れないあたし自身にも。



放課後!

澪「律、どうしたんだよ。お前今日1日ずっと様子おかしいぞ…」

律「へぃへぃ、すいやせーん」

まじ気分も乗らねえ。
それなのに澪は授業と授業の間の休み時間の度にまであたしに話しかけてきた。
普段はここまでしつこいやつじゃないのに。
こういう時こそ空気読んでこないでくれよ…。

律「(…かと言って澪にキレるのもお門違いだしなー)」

ここはおもいっきしドラム叩いて気分発散すればきっと!!

なんて思った矢先…

澪「…部活、今日はやめておいた方がいいんじゃないか?」

律「あー?なんで」

こいつはあたしが機嫌悪いのとか、気づいてるんだろうか。
それでもただ何となく言ってるだけなんだろうか。

でも当然そんなことは言えずに…

律「部活はやるよ。ほらいこうぜ、もう鍵借りてあるし」

澪「……律が良いならいいけど」

別に澪が悪いなんて思ってない。
思ってないけど、無償に腹が立つ。
澪に腹が立ってる自分にも腹が立つ。

あーー!!もーーっ!!!



部室!

律「ふぅ、あいつら来るまでしばらく待つか」

澪「…そうだな」

たまにはティータイムの前に練習するのも悪くないだろ。
……そう思いながらセッティングを始める。
あたしが始めたら、何も言わなくても澪も自然と始めた。

この辺りはさすが幼馴染ってとこかね。
…別にそんなん自慢する気とかねーけどさ。

唯「ふぃー、掃除に時間かかっちゃったよぉーう…」ヘトヘト

紬「あらあら。唯ちゃんが転んでバケツひっくり返しちゃったからよー?」
「自業自得ってとこかしらね♪」

唯「痛いトコをつきますねぇ!ムギちゃんっ」

律「…お。2人ともおーっす」



準備が終わって軽くドラムを叩こうとした時、唯とムギが入ってきた。
2人が掃除当番なのは知ってたけど、さすがにちょっと遅いと思ってたんだよな。

唯「あれれー?もう練習するの?」

律「たまには良いんじゃないかなーって、な」

紬「うふふ。すぐ準備するから待っててね」

さすが2人はノリがいいぜー。

あたし以外の3人が準備している中、暇だったから、ドラムのスティックをくるくる回す。
けど、その時。
スティックはあたしの指から離れて、あらぬ方向に飛んでいった。
んでそれが…

澪「……痛っ…」

澪に当たる。

律「(……あー……)」

唯「もー!りっちゃん危ないよお!」

まぁそんな勢いつけて回してたわけじゃないし、大して痛くなかっただろーし。
別にそこまで怒るようなことでもないよな。

なんて考えてしまったけど、当然澪が怒らないわけもなく…

澪「……」プルプル

律「なはははー、み、澪すまん」

澪「またお前はそうやってふざけてっ!」ゴチンッ



……あれ。

律「………」

いつもと同じ。
いつもと同じ感じで殴られたハズなのに。

やばい、何でだろう。
すげームカツク。



律「……痛ってぇーな」

思わず発してしまう。
でももうあたしの感情は止まらなかった。

「な、何怒ってるんだよ。こんなのいつものツッコミだろ」
トドメと言わんばかりに澪からこんな声が発せられたらもう…。



律「はぁ…?」

いつもと同じツッコミだ?
あたしらは漫才のグループでも組んでるのか?

律「いい加減にしろよ。いつもいつもポカポカポカポカ」
「あたしを何だと思ってるんだよ澪は?あぁ?」

澪「そ、そうやって私を騙そうとしても無駄だっ!!」ゴチンッ

唯「わっ…」

紬「澪ちゃんっ!!」

律「…痛っ……」

何でまた殴るんだよこいつ。
もう怒りの衝動が抑えられない。いくら澪でももうダメだ。
あたしはもう何も考えられずに右手を振りかざす。

律「お前…いい加減にしろよ」

パチーーンっ!!

澪「あぐっ!!」

唯「りっちゃんーっ!?」

澪はあたしが振りかざした右手に一瞬驚いた顔をした。
でも衝撃を受ける準備をさせる前にあたしの平手が澪の頬をとらえる。

澪「う…ぐっ…」

ついにやっちまった。
澪をぶった右手が震えてる…。
自分でやったくせに情けないぜあたし…。



紬「ふ、2人ともまぁまぁおさえて…、お茶飲みましょ?」

澪「律、私はいつも軽く叩いてやっていたんだぞ。お前今…」

…軽く?軽くならいいのか?
そんなわけないだろ、だって今あたしはこんなにムカついてんのに。

律「本気ではたいたよ、今までの仕返しも含めてな。あースッキリした」

澪の言葉を聞いて、自然とそんな台詞が出た。
だけどもちろん全然スッキリなんてしてない。
むしろまた自分に腹が立っちまったよ。

澪「そっか、律…、本気でやったのか…」

あー、こりゃ澪相当怒ってるな。
また殴られるかな。

…そう思いつつ次の言葉を発しようとしたその時。

バコッ!!!

紬「きゃっ…」

唯「澪ちゃん!?グーはダメだよグーはっ!!」

律「ッ…、澪てめ…」

おい。
グーはねえだろグーは。しかも顔面。
こんなんでもあたし女なんだぞ…。

澪をぶって、せっかく下がりかかっていた怒りのボルテージがまた上がっていく。

律「(あー、ちくしょ、立てねえ…)」

澪があたしを上から見下ろすような角度で見つめてきていたのがムカついたから
立ち上がってもう一発澪にきついの入れてやろうかと思ってたんだけど、
あたしは唸るのが精一杯で立つことができない。
そんなあたしの様子を見て、唯と紬はこちらに向かって介抱しにきてくれる。

律「別に痛くねーから平気だよ…っ」

強がってこんな台詞を吐いたけどまじ痛ってぇ…。
とか、思ったら血が出てるし…。

澪「…さっき思いっきり痛がってただろ。だから私をぶったんだろ」

…またこいつはあたしの気持ちを言い当てるように態々言ってきやがって……。

律「黙ってろ、澪」

だからあたしがそう言ってやると、澪はまた驚いたような表情をした後、ゆっくりと俯いた。





あたしが澪に顔面グーパンチされてから暫く経ち、ようやく血も止まってくれた。
…にしても素早く丁寧に介抱してくれたムギと違って、唯はあたしのおでこ撫でてただけだな。
別にいいけどさ。

律「サンキュ、唯、ムギ。もう大丈夫」

あたしの言葉で聞いて、唯とムギからは、ふうっと溜め息と似たようなものがでた。

もちろんその間は無言だ。
澪なんかその場から1mmたりとも動いてない。

あたしは2人に介抱されてる間も、澪になんて言ってやろうか考えていた。
少なくてももう今日は澪の顔は見たくない。
見てるだけでも腹が立つってもんだよ……ったく。

「あ、あのさ!!練習しようよ練習っ!ねっ!!私上手く引けないところがあってぇ…」アセアセッ
「ちょっと澪ちゃんに見てほし…」

律「澪。出て行けよ、もうここに用はないだろ」

あたしはまだちょっと動けそうにないから、澪に出ていってもらおうと言葉を発すると
唯の台詞と見事に被さってしまった。
ま、これから演奏する気になんてなれないだろうし別にいいか。

澪「…律…ッ!!」

凄い目で睨まれた。
ムカっときたのであたしも睨み返してやる。

紬「澪ちゃん待って、少し話をしましょ…?こんなことで私達が…」

唯「そ、そうだよ!りっちゃんも怒ってないよね!ねー??」

2人とも余計なこと言うなよ…。
友達思いなのは良いことだけどさ、こんな状態で今すぐ仲直りなんてどう考えても無理だろ。

律「…早く出て行け」

澪「わかったよ…!」

ガチャ…、バタン。

あたしのダメ押しの一言で澪はやっと出ていった。



律「はーあ……。なんでこんなことに」

唯「………」

紬「………」

律「悪りぃな、2人とも、嫌なとこ見せちまって…。あたしちょっと昨日色々あってさ」
「機嫌悪かったというか…、少しイライラしてたんだよ」

唯「………」

紬「………」

律「…おい、何か…」



唯「もう、りっちゃん!!!!なんでよ!!!」プンスコ

紬「りっちゃんっ!!ダメよ!!!」プンスコ



律「……えー、なんであたしが怒られるの?」

意味わかんないぞお前ら。

……まぁこんな空気はあたしには似合わないか。
2人のおかげで気が抜けたわ。



ガチャ。

再び部室の扉が開く。
一瞬、また澪が入ってきたのかと思って顔を強張らせようとしたけれど
入ってきたのは澪じゃなかった。

梓「こんにちは。あの、今澪先輩が泣いて…」

律「……なんだ」

唯「あずにゃぁーん!!!りっちゃんたら酷いんだよ!!」プンスコ

紬「そうよ!?酷いのよー!?りっちゃんたら!」プンスコ


梓「……何なんですか一体…?」

律「この流れやめろって…」





梓「は、はぁ…、そんなことが…」

唯「これってどっちが悪いのかなあ?」

紬「うーん…」

どっちが悪いってそりゃ澪の方だろ。
元はといえば、イライラしてるあたしにあいつが殴ったから…



梓「どっちが悪いとかないんじゃないですか?」

律「な、なんでだ。あたしは顔面グーパンチ食らったんだぞっ」

梓「それは律先輩がぶった上に、澪先輩を挑発したからじゃないですか」

律「……う…」

こ、こいつ…。
年下のくせになんて冷静な意見を出すんだ…

梓「こういうのは片方が許した時点で、片方が謝れば解決だと思うんですけど」

唯「おぉぉぅ!?あずにゃんあったまいー!」

紬「あったまいぃー♪」

律「……おい、まさかお前ら」

あたしに3人の視線が集まってくる…。
おいおい冗談じゃねー……。

律「…おい、あたしは謝る気なんか今のトコこれっぽっちもないぞっ!!」
「あ、あたしは被害者だぞぉっ!!?」

梓「…では、放課後ティータイムは解散ですね」

律「……えっ?」



梓「澪先輩抜きで放課後ティータイムを続けるなんて、私は嫌ですけど?」

律「いや、ちょっと待てよっ、そんなつもりは…」

唯「もちろん私もだよ??りっちゃん」

紬「うふふ。右に同じく」

どんどん話が膨らんでいってる。
放課後ティータイムが解散…?
おいおいそんなバカなことがあるか。

…気づいたら、いつの間にかさっきまでのイライラしてる気持ちは大分落ち着いていた。
そんなことよりも不安な気持ちの方が大きくなっていたからかね。

唯「りっちゃん。りっちゃんは澪ちゃんと幼馴染だし」
「私たちなんかよりも澪ちゃんのことをずっとずっと良くしってると思ってたけどなぁ?」

そ、そりゃそうだよ。
あいつとあたしは……。
…あぁ、そうだ。あたしは澪のことを誰よりもよくわかってるつもりだ…。

梓「…律先輩」



……そうだな。澪の性格を考えたら…。
だったらあたしから謝らないと…。でも…。


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