澪母「あら…?制服になんて着替えちゃって。これから学校?」

澪「あ…、ちょっと学校に忘れ物したの思い出して…。だいぶ調子も良くなってきたし」

当然、玄関でママに気づかれる。
私は頭の中に用意しておいた言葉を発する。

澪母「でも、これからなんて…。明日にしておいたら?」

澪「明日までに提出する宿題で使うんだ。すぐ帰ってくるよ」

澪母「あらそう…。でももう外は暗いし、気をつけるのよ?」

澪「うん、行ってくる」

言いながら靴を既に履き終えていた私は、最後の言葉とほぼ同時に家を出た。

バタンッ。



澪「(夜はさすがに冷えるな…)」

マフラー巻いてくればよかったかな。

寒さを飛ばすように、私は早歩きで学校に向かう。
一人で歩いていると、いつも歩いている学校までの道のりが遠く…
そして広く感じた。

澪「(別に毎日律と学校行ってたわけじゃあるまいし何考えてんだ)」クスッ

ちょっとだけ笑みがこぼれた。

別に律に嫌われて、部活を辞めたからといって、もう今後律と会わない訳じゃないしな。
きっと私が挨拶すれば、不器用ながらも律は『おはよう』って挨拶を返してくれると思う。
寂しくはなるけど…。

澪「(ん。あれは…?)」

もうすぐ学校に到着しそうな所、目視で校門が見える地点まで歩いてくると、
知っている影を見つけた。

澪「唯と…梓…律もムギもいるな…」

部活でこんなに遅くまで残っていたのか…

でも、正直今顔を合わせるのは辛い。そんな気にはとてもじゃないけどなれない。
…と言うか、会いづらいから今学校に来たわけで…。

私はメールに返事をしてないし、今日は学校を休んでいる。
何より律がいるし…。
明日みんなと会ったら、本当に風邪を引いて寝込んでいたことにしよう。
そんな事を考えていると…



梓「まったく…、律先輩……酷……す」

唯「……あ…はは…でも……」

紬「……唯ちゃ……うふふ……」



会話の一部が少しだけ聞こえてきた。
既に辺りに誰もいないせいか、声が響いているんだ。
でも何だろう。違和感を感じる。



唯「あずにゃん私お腹空いちゃったよー。アイス買って帰ろうよ~」

梓「帰ったら憂がご飯作って待ってるでしょうに……もう」

律「唯、お前さっき澪の分まで食べてたくせによー」

唯「甘いものは別腹って言うじゃないのさ!りっちゃん!!」

律「えー…?」

紬「今日は宿題もなかったし、もうちょっと遅くなっても良いんじゃないかしら」



え、どうして…。
違和感。違和感だ。

澪「(何だろうコレ…)」



……そっか、みんな笑顔なんだ。

私がいないのに。
私が……。

「(ぅっ…)」

律は私がいなくても、みんなと笑ってる。

…何でそんなに笑ってるんだよ。
やめてくれよ…、そこに私は…、今お前の隣に私はいないんだよ。
そんな顔で笑わないでくれよ…。

これは律に対する怒りなのだろうか。
それとも嫉妬なのだろうか。

澪「(帰ろう…)」グスッ

鼻を啜って気持ちを少しだけ整えた後、私はUターンした。


澪「(もういいよ…)」



Uターンしたからと言って家に帰る気は起きなかった。
誰もいない道を歩いていると、この世界で私は一人ぼっちになっている気がして嫌だった。
別にそんな気はなかったのに、自然と賑やかな場所へと足が進んでいた。

人が多い。多いはずなのに…。
私に話しかける人はいないし、私が話しかける人もいない。

澪「(…そりゃ当然だよな…)」

1分1秒経つ度に、現実を思い知らされる気がした。
そしてどこに向かうこともなく道を歩いていると…



ドンッ!!

澪「痛っ…つ」

誰かとぶつかった。

やっぱり人通りが激しい所はダメだな。
考え事もできやしない。
そろそろ帰ろう。結局何も食べてないし…。

「おい。謝れよ。てめーからぶつかってきたんだろ」



澪「……」

何だろうこの人は。

「聞いてんのか?おい」

澪「……さい…」

私からぶつかってなんかいないよ。
今のは貴方からぶつかってきたんだ。
確かに考え事はしてたけど、前はちゃんと見て歩いてたんだ。

澪「……るさい…」

「あ?てめー、ブツブツ何言って…」

あー…、もう…
知らない奴と話すのは嫌なのに…
律だったら何て返すのかな、こういう時。



澪「…うるさい!!!!」



「…………あ?」



つい、大声を出してしまった。
律のこと考えちゃったからかな。
知り合い相手でもないのに…

「…てめぇ、ちょっとこっちへ来いよ」

澪「…え…、ぁっ!」

ここで私は初めて相手の姿を見た。
私より20cm近くは背が高くて、髪は茶髪で大柄で…
露出した右肩にはタトゥーのようなものがついていて、
片手には大きめの黒いリュックサックを持っていた。

澪「や、やめ……痛っ…」

「……」

凄い力だ。これが男の人の力なのか。
とても私なんかでは逆らえない。
もちろん抵抗はしていた。
しかも結構暴れていたつもり。
でも誰もこっちを見てくれない。
私の姿が誰にも見えていないのだろうか?
そんなことも考えてしまう。

抵抗はしていたものの、恐怖で悲鳴をあげることもできず、
私はあっという間に誰も来ないような路地裏に連れていかれてしまった。



澪「…や、やだっやだやだ…!!」

男が制服の中へ手をまさぐる。
片手で私の両腕を掴む。

男は片手、私は両手だと言うのに、男の手は少しも開く気がしない。
だから上半身と下半身で精一杯抵抗する。

澪「離せ…!!離せっ!!離して!!!」

「うっせーな…」

ドサッ!

澪「あぐっ!!」

男が私の足を引っ掛けた。
簡単に転んでしまう。

澪「…な、何…っ」

そして男は私に馬乗りになると、先程手に持っていたリュックサックを、
私の顔が包むように押し付ける。
その男の押し付ける力に私は呼吸ができなくなる。

たまらなくなって暴れるが、両手を掴まれている上に馬乗りになられているのでは
私の力では全く歯が立たなかった。

「暴れんな。このまま殺すぞ」

澪「…ゥッ…ムぐぅ……ッ」

本当に息ができない。
苦しい。このままじゃ死んじゃう。
助けて、助けて。

ふと頭に、つい昨日喧嘩してしまった親友の名前が浮かんだ。

でもその親友はもういないんだ。
私は捨てられたんだ……。

何かを諦めるように、私は抵抗をやめた。


「……わかればいいんだよ」

男は先程のリュックサックから太い紐のようなものを取り出す。
何でそんなもの持っているんだ。と言う言葉は、頭の中では浮かんでいたけど
ガクガクと震えている私の口からは発せられなかった。
男は慣れた手つきで私の両手首を縛る。

もうどうにもならない。

澪「……」

「…よく見ると中々いいじゃねーか。運悪いと思ってたら今日はついてるな」

澪「……」

「何か喋れよ。元はと言えばお前が悪いんだ」

澪「…解いて」

「あ?」

私の一言で男の目つきが変わる。

「人にお願いする時は敬語、だろ?」

澪「……」

こんな最低な事する奴に…
でも私は最後の望みにかけて言葉を発する。
どうせ助けてくれるなんてことはない。そんなのわかってるけど…

澪「助けて…ください」

「まぁ無理なんだけどさ」

澪「……」

ほらね…。
予想通りだ。

男はもう1本、両手首を縛ったのと同じ紐を取り出すと、私の口を塞いだ。
これから何をされるのか。
それを考えると震えが止まらない。
私はあまりの恐怖に目を閉じる。



澪「う…」

片手は胸へ、片手はまだ殆ど触ったことがない場所へと、男の手が移動する。
こういう行為を知らない訳じゃない。
でもしたことないし、する相手もいない。
そしてこの行為は、好きな人同士ですることだ。
こんな男の手が私の体を這い回っているかと思うと吐き気がする。



?「……おい」

「あ?」

これ以上行為を続けられたら立ち直れないかもしれない。
だがそんな時、どこかで聞き覚えのある声が聞こえた。

?「何してんだよ。オッサン」

「…あ?なんだおm…」

バゴッ!!!!!

鈍い音が聞こえた。
そして響いた。


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