澪ちゃんが何も言わずに部室を出ようとする

それ自体はこの数週間何度もあったこと

でも今日は、顔つきがなんだか少し違う

だから、今日は思い切って声をかけてみた

唯「・・・帰るの?」

澪「・・・・・」

ガラっと扉を開けて澪ちゃんは出て行った

おかしい、いくらこんな雰囲気でも普段の澪ちゃんなら「あぁ」くらいは言う

何も言わなかったという事は・・・それすら答える心の余裕がないってこと

唯「・・・・・」

少し考えて私は後を追うことにした

ムギちゃんはテーブルに突っ伏している

寝ているのかどうかは分からないけど、声はかけずに行く事にした

と、その前に・・・

私はケータイを取り出した



―――少し早足で階段を下りていく

いた。痛んで枝毛だらけになった長くて黒い髪。澪ちゃんだ

なにかをぶつぶつと呟きながらトボトボと階段を下りている

踊り場で方向転換するときにチラっとその横顔が見えた

僅かに見えた澪ちゃんの目は黒く濁っていて、だけどどこか力強い炎が灯っているように感じた

一階まで降り、廊下を進む

私はもう自分の存在を隠そうとせず、堂々と足音を立てて澪ちゃんの背中に近づいた

澪ちゃんは立ち止まり、呟く

澪「・・まを・・るなよ・・・」

澪「邪魔を・・・・するなよ・・・・・」

そして、振り向く

澪「唯」

唯「・・・・・・」

正面から見たそれは、もう私の知っている

優しくて厳しくて怖がりで寂しがりな澪ちゃんの顔じゃなかった



唯「どこ行くの?澪ちゃん」

澪「・・・律に会いに行く」

唯「そっかー、会ってどうするの?」

澪「・・・唯には関係ないだろ」

唯「そうかな?どうかな?」

澪「・・・・」

唯「私の子供を殺すつもりなんだよね?」

澪「・・・・」

唯「駄目だよ~」

澪「・・・うるさい」

唯「そんなことをしてもりっちゃんは澪ちゃんと一緒にいてくれないんだよ~」

澪「うるさい」

唯「私たちは放課後ティータイムだよ?部長のりっちゃんを悲しませちゃ駄目だよ」

澪「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッ!!!!!」

澪ちゃんは長い髪を振り乱して叫ぶ

澪「じゃあどうしろっていうんだ!!?このままじゃ律が死ぬかもしれないんだぞ!!」

唯「それはりっちゃんが決めた事だよ」

澪「はァ?じゃあお前は律が死んでもいいっていうのかよ!!」

唯「りっちゃんは死なないよ」

澪「・・・は?はぁ・・・?なんだそりゃ・・・何を根拠に・・・・」

唯「だってりっちゃん言ってたもん、この子達を産むって」

澪「・・・だから?」

唯「だから死なないよ」

澪「意味わかんねぇこと言ってんなよっ!!!」

唯「なんでりっちゃんを信じてあげないの?」

澪「――――!!」

唯「どっちかを選ぶって事はりっちゃんを信じないってことだよね。澪ちゃんはりっちゃんを信じてないんだね」

澪「ぎ・・・こ、この・・・・!!」

唯「私はりっちゃんもあずにゃんも信じてるよ」

唯「澪ちゃんも怖がらないでりっちゃんを信じてあげようよ」

澪「じゃ、じゃあ梓も律も無事に産んだとして、唯はどうするつもりなんだよ!!」

唯「私はあずにゃんと一緒にムギちゃんの子供を育てるよ」

澪「はッ!!やっぱり律のことは見捨てるつもりか!それでよくそんなえらそうな事を・・・」

唯「見捨てないよ。りっちゃんが私の子供を産んだら、私はりっちゃんにお願いして、あずにゃんと一緒にその子も育てる」

澪「・・・は?はぁ?なんだよそれ・・・、律や梓はそれでいいって言ったのかよ!!」

唯「ううん、だから産んでからお願いするつもり。りっちゃんとあずにゃんに頭を下げてね」

澪「な、んだよ・・・そんな自分勝手な・・・・!!」

唯「そうかもね。でも私は二人が無事に子供を産んでくれることを信じてその先のことを考えて決めたんだよ」

唯「澪ちゃんは今が怖いから、今から逃げる手段として動こうとしてるよね」

澪「っ・・・ぅっ・・・・・何・・を・・・」

唯「それはりっちゃんに対する裏切りだし、私の決意を踏みにじることだよ」

澪「はっ・・・・ははっ・・・なんだそれ・・・私が自分のことしか考えてないとでも言いたいのかよ」

唯「そうだよ」

澪「・・・・・」

唯「澪ちゃんは少なくともりっちゃんの覚悟からは逃げちゃ駄目なはずだよ」

澪「じゃぁ・・・、じゃあ私の決意は、蔑ろにされていいっていうのかよ・・・・!」ガンッ

唯「澪ちゃんの逃げたいっていう安い気持ちが決意って呼べるのかどうか怪しいもんだね」

澪「!!こ・・・いつ・・・・、ふ・・・ふふ・・・もういい、わかった」

唯「・・・・・」

澪「あーぁ、そうだよな。普段から何言ってるか分からない脳内万年春女の言う事なんかに耳を貸した私が馬鹿だった」

唯「・・・・・」

澪「あの唯がここまでそれらしい事言えるとは思わなかったよ。はいはい面白かった。・・・・もう邪魔だから消えてくれよ」

唯「そうはいかないよ」

澪「・・・あっそう、じゃあ寝てて」スッ・・・

バシュッ! バシュッ!

唯「!?」

ズコココォッ!!!!

唯「・・・・」

澪「・・・へー、今のを避けるなんて・・・唯は本当になんでも出来ちゃうなァ・・・そういうとこ・・・ムカツクなァ・・・」

横目で私がさっきまで立っていた場所を見る。・・・黄金の粒と共に廊下のタイルが砕け散っていた



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