佐木「そろそろ終わりの方になりますね。最後に先輩が推理する辺りのテープになります」
澪『遅いぞ二人とも~』
唯『えへへ、ごめんごめん』
律『休んで、ちょっとは元気になったみたいだな~唯』
唯『うん。おかげさまで! もう大丈夫だよ!』フンス
美雪『……ねえ唯ちゃん。本当に体調悪くない? 無理しないで大丈夫なのよ?』
唯『ふぇ? 私は大丈夫だよ?』
美雪『……でも、何だか辛そうに見えちゃって。気のせいかしら?』
唯『そうだよ気のせいだよ~。私は大丈夫だから、気にしないでね?』
美雪『そう……ね。それならいいんだけど』
美雪「憂ちゃんが殺された後……ね」
金田一『彼女があの格好で、現場にいたのはなんでだろうか?』
律『だって、階段から落ちちゃったんだろ? だったら別に現場まで行かなくても……ほら』
律『そこの地下室の扉を開けて、一歩だけ踏み出して落ちちゃった可能性もあるんだろ?』
律『別に変な事は……』
金田一『想像してみなよ。風呂上がりの水分を纏ったような体でさ、明らかに冷たい空気が流れている場所に入りたいと思うかい?』
律『ん……あんまり』
澪『まあ、確かに……一歩踏み出してみようとは思わないかな』
金田一「……」
金田一『……地下室の存在を知っていた人物。それが第一の事件の犯人さ』
金田一『それは……あんただよ』
金田一『琴吹紬!』
紬『……』
金田一『あんたが鈴木純を殺害した……犯人だ』
澪『そ、そんな……』
律『ムギが……犯人』
唯『……』
ムギ『言い逃れは、しないわ』
佐木「……そして第二の事件の部分です」
唯『何にもないのに、廊下ばっか出ていたら不審者だよ~?』
律『い、いいんだよ! そこは犯人なんだからっ!』
金田一『おまけに、殺しに使える時間が15分以下だ。よほどいいタイミングで地下に向かわないと、この犯行は成立しない』
金田一『……要するにあの時間。犯人が情報無しに、中野梓を地下室で殺害するのは不可能なんだ』
美雪「メールをもらった、憂ちゃんが犯行を……ね」
金田一「……」
紬『……第三の事件は、完全に私一人の犯行です』
紬『鍵はここの……団欒室の引き出しにしまってある、マスターキーを使いました』
佐木「そして、犯人の独白……で僕のテープは終わりです」
紬『……』
紬『私は、共犯者の憂ちゃんを殺そうとしてました』
紬『まず最初に、私は憂ちゃんの部屋に向かって……中に入るとそこには唯ちゃんがいて……』
紬『ああ、唯ちゃんの部屋だ、と私はすぐに思いました』
紬『返り血を浴びないよう、体の上にシーツを何重かでかけて……そのまま……何度も、何度も』
紬『……』
金田一「……」
佐木「……これで、全部になります」
唯『……笑わないで、どうか聞いて』
金田一「……」
佐木「いやあ、憂ちゃんカメラの才能ありますよ。おそらく無意識でしょうけど、ちゃんと構図を考えて撮ってますもん」
美雪「……確かに、見易いっていうか。無駄がない感じの映像よね」
佐木「まあ、撮り方に関しちゃあ僕のが上でしょうけどね!」
金田一「へいへいわかったから……早く次のテープ入れてくれい」
佐木「おなじく、一日目の夜です」
美雪『でも本当にいいの? いきなり三人も泊まっちゃうなんて……なんだか悪いわ』
紬『気にしないで、部屋なら余っているから』
金田一『よかった~、フカフカベッドで寝られるぜ!』
美雪『もう……少しは遠慮しなさい』
金田一「なあ、これ本当に憂ちゃんのテープか? 撮り方とかそっくりって言うか……あんま違いわっかんね~んだけど」
佐木「視点が全然違いますよ? でも……やっぱり撮る技術があるんでしょう。先輩が自然にそれを受け入れてるのが証拠です」
律『まま、気にしない気にしない。賑やかなのはいい事だ』
紬『ええ。それに……雨もまだ止んでないみたいですし。外を歩くのは危険よ』
美雪「でも、本当にどっちが撮った映像かわかりにくいわね……」
佐木「それは大丈夫ですよ……確か、もうすぐ僕が、ほら」
佐木『僕もそう思います』ジー
佐木「こうやって、カメラを構えてる姿が映れば一発です」
美雪「ははあ、なるほどね」
金田一「……お。佐木、そろそろ終わるみたいだぞ」
佐木「あ、はい。じゃあ次は……えっと」
ガタンッ!
佐木「わっ! わっ!」
ガシャーン!
佐木「い、いててて……」
金田一「おいおい、平気かよお。あ~あ、テープがごちゃ混ぜ……」
美雪「だ、大丈夫佐木君?」
佐木「は、はい……で、でもテープが」
美雪「見事に混ざっちゃったわね……」
金田一「時間が無いってのに……しゃーねえ。確認して整理していくしかないな」
佐木「ううっ、すいません先輩」
金田一「じゃあ、早速このテープから……ほいっと」
カチッ。
金田一「……」
美雪「……」
佐木「……」
紬『でも、どうして冷蔵室に……』
金田一「……ん?」
紬『でも、地下の冷蔵庫内には冷凍されたお肉とかしか……お菓子類は何もないはずよ~』
美雪「……あら?」
紬『あ、所有している別荘全てに似たようなお部屋があるの。中身も大体同じだって聞いたから……多分そうかなって』
佐木「……?」
金田一「これは……」
美雪「ねえはじめちゃん、これって……」
金田一「……ああ」
金田一(これはおそらく他のテープにも……同じモノが映っているはず)
金田一(でも……まだだ。これは映っていてもおかしくない。何だ……何が足りないんだ……)
……。
佐木「両方のテープが、終わりました」
金田一「……」
美雪「はじめちゃんの言った通り……だったね」
金田一「ああ、でも……」
金田一(思い出せ、思い出すんだ金田一一……この違和感の正体を)
金田一(俺はそれを見ているはずだ。どこかで、どこかで、聞いているはずだ……)
金田一「う~ん……」
美雪「……はじめちゃん、具合大丈夫? 少し休憩したら……」
金田一「……!」
金田一「それだ、それだよ美雪!」
美雪「えっ、えっ? な……何の事よ?」
金田一「美雪、教えてくれ。どうしてあの時……唯ちゃんに体調を尋ねたんだ?」
美雪「あの時って?」
金田一「さっきだよ。俺が推理の話を始める前……お前、唯ちゃんに同じような質問してただろ?」
美雪「え……ええ。したわよ」
金田一「それはどうして!?」
美雪「だ、だって。彼女具合が悪そうだったから……それでつい聞いちゃっただけよ」
金田一「……」
金田一「佐木は気付いたか? 彼女のその様子に?」
佐木「いいえ。現にその後、彼女自身で言ってたじゃないですか」
美雪『……でも、何だか辛そうに見えちゃって。気のせいかしら?』
唯『そうだよ気のせいだよ~。私は大丈夫だから、気にしないでね?』
美雪「……フンだ。はじめちゃんにはわからなくて当然ね」
金田一「? 何怒ってんだよ」
美雪「知らないわよっ!」
金田一「……大事な事なんだ、頼むよ美雪教えてくれ。今はどんな小さな事でも知りたいんだ」
美雪「もう……わかったわよ」
美雪「実はね……」
美雪「私が思ったのは、その……」
美雪「お、女の子のデリケートな日だと……思ったから」
金田一「……はい?」
美雪「だ、だって! そう思えちゃったんだから仕方ないでしょ!」
金田一「……まあ、確かにな。あんまり男には気付かない事で……」
美雪「……もうっ!」
美雪「私は、あんなに様子だったから心配で声をかけちゃったの。それだけなんだから……」
金田一(ふ~ん……ん? その理由は?)
金田一「なあ、美雪。お前が声をかけたのってさ……」
美雪「言ったでしょ。具合が悪そうだったからって」
金田一「具体的には!?」
美雪「具体的って、それは……」
美雪「……」
美雪「……って思って」
!?
金田一「……そうか、そういう事か! 佐木、もう一度テープを確認するぞ!」
美雪「ちょっとはじめちゃん?!」
佐木「え、えっと。どのテープですか?」
金田一「決まってるだよ、お前が録画したテープを。もう一度全部をだ」
一階・団欒室
19時27分
ピンポーン。
全員「!」
「あ~、警視庁から来た剣持だ。ここを開けてくれないか」
紬「……来ちゃったわね」
……ガチャッ。
剣持「君たちか、この別荘に来ていたという女子高生たちは。代表者は?」
律「……はい」
剣持「ん。早速だが……琴吹紬、俺と一緒に来てもらおう。外にパトカーが待機している」
紬「……」
澪「ムギ……」
律「ムギ……っ!」
剣持「あ~、君たちは別に救助の者が来る。それまではここを動かないように」
剣持「……ん、金田一たちはどうした? 姿が見えないようだが」
紬「二階にあがったままよ。刑事さん、行くなら早く行きましょう」
剣持「……俺は警部なんだがな。まあいい、じゃあ……行くか」
紬「はい」
律「ムギ!」
紬「さよなら、りっちゃん。部活、私のせいでバラバラにしちゃってごめんなさい」
澪「ムギ……」
紬「澪ちゃん。あなたの歌詞に曲をつけるの……とても楽しかったよ。ありがとう」
唯「ムギちゃん……」
紬(最後に……もう一度だけ)
紬「唯ちゃん。あなたはお金なんかよりずっと大切なお友達。私の中で、あの日からずっとそう。これからも……変わらない」
唯「……ぁ!」
紬(さよなら、みんな……)
剣持「……おほん。手錠はしないでおく。さ、行くぞ」
紬「……はい」
(琴吹紬の背中が、一歩一歩と遠ざかる)
(時計の鐘が、静かに一回だけ鳴った)
(これで。私は……勝ったんだ)
(玄関の扉が閉まれば、この事件は本当に終わり)
金田一「……ちょっと待ちなよおっさん」
(!?)
金田一「またこの事件は終わっちゃいないぜ」
剣持「お、おお。金田一! 無事だったか!」
紬「金田一……さん」
剣持「しかし金田一よ。事件が終わってないって……そりゃあ一体どういう事だ!」
金田一「決まってるだろ。この事件を陰で操っていた……真犯人を暴くのさ!」
律「なっ!?」
唯「真犯人って……」
澪「も、もう事件は解決したんじゃないのかよ」
金田一「表面上は、ね。しかし……それは大きな思い違いだった。今からそれをみんなの前で証明する」
剣持「じゃあ……やったんだな、金田一!」
金田一「ああ」
金田一「謎はすべて解けた!」
最終更新:2011年05月04日 01:43