金田一「食事中、ムギちゃんに質問してしまったのもその表れさ」
梓『あ、あの。ムギ先輩』
梓『気になったんですけど……あの地下室って一体何なんですか?』
律「……そうか、だから梓のやつ」
金田一「おそらく、夜になるまで色んな場所を調べていたんだろう」
金田一「しかし、どこか別の部屋で犯行が行われた様子は無い。これは俺も調べたからよくわかる」
金田一「……そして、夜になってから憂ちゃんにメールをして……遺体のある地下室へ向かったんだ」
金田一「おそらく、犯人にとって遺体を調べられる事が怖かったんだろう」
金田一「犯行の現場が違うにしろ、何か証拠が見つかってしまってはマズイと思った犯人は……」
唯「あずにゃんを……」
金田一「……」
紬「……」
金田一「一応……これが二件目までの流れさ」
澪「……」
美雪「……」
金田一「ところで、あの地下室なんだが……あそこに扉があるのを知っていた人はいたのかな……」
佐木「扉……ですか?」
金田一「……まず、一日目の途中からここに着いた俺たち三人は知るはずがない。現に俺も気付かなかったし……」
金田一「では、合宿に参加していたみんなはどうだろうか。律ちゃん」
律「……私は、知らない」
金田一「澪ちゃんは?」
澪「私も、知らなかったぞ」
金田一「……唯ちゃんは?」
唯「知らないよ~」
金田一「そして先ほどの質問から、中野梓もその扉の奥は知らなかった事になる」
紬「……つまり、何が言いたいのかしら?」
金田一「遺体の隠し場所を、知っている人物がいたかどうか、さ」
金田一「階段から落とした後の遺体をどこに隠すか。犯人は考えたはずさ」
金田一「首の骨が折れている状態だ、余っている客室に放り込むのも不自然だ」
金田一「他にいい場所もない……犯人は戸惑った。しかし、すぐに最適な場所を思い出す」
律「それが階段のある……地下室?」
金田一「ああ、そうだ」
澪「で、でもさ。さっきの話だと……」
金田一「……地下室の存在を知っていた人物。それが第一の事件の犯人さ」
金田一「それは……あんただよ」
金田一「琴吹紬!」
紬「……」
金田一「あんたが鈴木純を殺害した……犯人だ」
澪「そ、そんな……」
律「ムギが……犯人」
唯「……」
ムギ「言い逃れは、しないわ」
!?
金田一「……」
ムギ「考えてみれば、当然よね。みんなが地下室の存在を知らないって言っちゃえば……それまでですもの」
律「ムギ……」
金田一「俺が、アンタを疑った理由はもう一つある」
金田一「それは救援の電話さ」
紬「……」
金田一「俺が、ある知り合いの警察官から連絡を受けた……ついさっきの事さ」
金田一「この辺りで崖崩れなんて、全く起こってなかったんだろう?」
律「な!」
唯「そう……なの?」
美雪「本当なの、はじめちゃん!?」
金田一「……ああ。今ここに助けの車が向かってるよ。着くのはまだしばらくかかるみたいだけどさ」
紬「……」
金田一「考えてみれば、アンタはこの別荘内の事で中心になってよく動いていた……」
金田一「俺たちも、まんまとその印象に騙されたってわけさ」
金田一「おそらく、別荘にかかってきた電話も自分の携帯からかけていたんだろう」
金田一「なんなら、通話記録を調べてみてもいいんだぜ?」
紬「……その必要はないわよ。だってその通りなんですもの」
澪「ムギっ、一体どうして……!」
紬「ごめんなさい。怖かったの……一時間もしないうちに、私がどこかへ連れていかれて……一人になってしまう」
紬「そう考えたら、自然と嘘を並べていたわ……本当に、ごめんなさい……」
律「そんな事から……逃げたってなあ!」
律「いい事なんかあるわけないだろ! そうやって、私たちを騙しながら……楽しく……ぐっ」
美雪「律ちゃん……」
律「ぐっ、ちくしょー……楽しくても、悲しいじゃねーかよっ……バカ……ムギっ。ぐすっ」
紬「律ちゃん……」
紬「ごめんなさい、本当に。心配させてしまって、ごめんなさい……」
律「……ぐしっ。ところではじめちゃんよ~、さっき『第一の事件の犯人』って言ったよな?」
金田一「ああ」
律「もしかして、はじめちゃんはこう言いたいのかな。第二と第三の事件は、別の犯人がいるって」
澪「な……!」
金田一「その通りさ。でも、そう考えるまで苦労したぜ。それぞれの事件の中で……」
金田一「犯人が一人だと考えると、どうしても成立しない犯行があるんだからな」
律「それは一体……どういう事なんだ?」
金田一「ここからは、また中野梓の事件の話さ」
金田一「彼女の行動を思い返して欲しいんだ。彼女は地下室に行く前に……まず何をしたのか」
澪「……メール、だっけか?」
金田一「そう。平沢憂に地下室へ一緒に行くためのメールをした。すぐに返事が来て……彼女は一人で地下室に向かった」
金田一「憂ちゃんの話だと、最後にメールをしてから15分。この時間の間に殺された事になる」
澪「15分、か……」
律「意外と時間あるように思えるな~」
金田一「これが、メール上のやり取りって事を忘れちゃいけないぜ?」
金田一「なありっちゃん。そもそも、犯人はどうやって中野梓が地下に向かう事を知ったんだろう」
律「え……そ、そりゃあ扉の前で聞き耳立ててだな~」
澪「ただ廊下を歩く音だけで、判断出来るのか?」
律「う……ま、毎回廊下に出て確認してみるとか?」
唯「何にもないのに、廊下ばっか出ていたら不審者だよ~?」
律「い、いいんだよ! そこは犯人なんだからっ!」
金田一「おまけに、殺しに使える時間が15分以下だ。よほどいいタイミングで地下に向かわないと、この犯行は成立しない」
金田一「……要するにあの時間。犯人が情報無しに、中野梓を地下室で殺害するのは不可能なんだ」
唯「……」
律「情報があれば殺人できるって? どんな情報だよ?」
金田一「簡単さ。犯人は中野梓本人からのメールを見て地下に向かったんだからな」
美雪「え……それってもしかして犯人は」
金田一「そう。中野梓を殺したのは、メールをしていた平沢憂自身さ」
澪「じ、じゃあ……梓は」
律「メールしなきゃあ殺されなかったかもしれない……のか?」
紬「……金田一さん。ちょっといいですか?」
金田一「……」
紬「そもそも、どうして憂ちゃんが梓ちゃんを殺さなきゃいけないのかしら?」
紬「純ちゃんを殺した犯人は、私。憂ちゃんは殺人に関係なんか無……」
金田一「いいや、それがあるんだよ。この上ないくらいに、重要な関係がな」
紬「……」
金田一「佐木、ビデオをまわしてくれ」
佐木「はい、わっかりました」
カチッ。
紬『でも、どうして冷蔵室に……』
律「これは……」
金田一「三日目の聞き込みの時の様子さ」
憂『探検じゃないかな。純ちゃんて元気な子……だったから』ジー
唯「あ、カメラ……憂」
澪「唯……」ナデナデ
金田一「ここだ。よく聞いてほしい」
唯『ええ~。でもあんな格好で冷蔵庫開けたくないよ~……』
金田一「そして、ついさっきのこの発言だ」
唯『違うよりっちゃん。純ちゃんは最初バスタオルを巻いた状態で見つかったんだよ~』
律『ああね~。って……あれ、唯。どうしてそれ知ってるんだっけか?』
唯『? 憂に聞いたんだよ~』
紬「……この発言が?」
金田一「よく思い出してほしい。最初の話をした、三日目の時点で。純ちゃんの格好を知っていたのは、誰かっていう話さ」
金田一「まず、現場を直接見た俺と佐木は知っている」
金田一「そして……第一の事件の犯人、琴吹紬もその一人のはずだ」
紬「そう、ね」
金田一「じゃあ逆に知らない人物はどうなんだろうか?」
金田一「まあ、これは現場を見ていない人間。さっき名前が出た以外の人物が当てはまる事になると思う」
金田一「……ただ二人を、除いては」
澪「ふ、二人って?」
金田一「三日目に、服装について話していた人物。つまり……平沢唯、憂。この二人のどちらかが……第一、第二の事件の共犯者さ!」
唯「!」
律「唯と……憂ちゃんが? その理由は?」
金田一「……現場を見ていない人間が、被害者の服装の事を知るはずがない」
金田一「そしてさっきの話だ……もしも、本当に憂ちゃんが唯ちゃんに情報を教えていたとしたら」
金田一「毛布を羽織っていた状態だけでなく、パジャマでいた時の事を知っていた……平沢憂が第一の事件に関わった共犯者になる」
金田一「逆に、それが嘘だとしてもだ。服装の状態を知っていた平沢唯が第一の事件の共犯者になるんだ」
金田一「アンタは自分で、逃げ道を潰しちまったんだよ」
唯「……」
唯「えっとね、私は嘘ついてないよ。憂が私に教えてくれたの」
唯「こういう風に話合わせてね、お姉ちゃん、って……」
金田一「……」
唯「嘘じゃないよ? 私は憂に言われたままに動いただけだよ~」
唯「ね、ムギちゃん」
紬「……ん、そうね」
唯「でしょ~」
金田一(……確かに、この話が嘘だという様子は無い)
金田一(最初に姉妹の共犯を疑った、俺の推理も……結果的には正しかったわけだ)
金田一(間違ってはいないはずなのに、なんだ……)
金田一(これじゃあまるで、犯人を見つけて欲しい……だぜ?)
紬「……第三の事件は、完全に私一人の犯行です」
金田一(この後、琴吹紬の独白)
紬「鍵はここの……団欒室の引き出しにしまってある、マスターキーを使いました」
金田一(……このマスターキーについては、けいおん部が合宿場に到着した時、一番最初に説明を受けたんだそうだ)
金田一(鍵の管理は大事だからな、とりっちゃんが威張りながら言っていた気がする)
金田一(開けようと思えば、誰でも開ける事のできる密室)
金田一(……平沢憂は、そんな空間で殺されたのだ)
金田一(いや、鍵が開いていた時点で、密室でも何でもないのか……)
紬「殺してしまった理由は、やはり事件の発覚が怖かったからです」
紬「ごめんなさい、唯ちゃん」
紬「ごめんなさい……憂ちゃん……」
金田一(……全ての罪を告白した彼女は、その場に崩れさって)
金田一(仲間に抱き寄せられたまま、赤ん坊のようにワンワンと涙を流していた)
美雪「……終わったのよね、はじめちゃん」
これで、全てが終わり。
……しかし、俺だけはそう思っていなかったんだ。
金田一(……なんだ、この違和感は……)
紬「うっ……うっ……ぐすっ……」
金田一(事件はこれで終わった。犯人も明らかになった。それなのに……)
金田一(この、胸に引っ掛かるようなモヤモヤはなんだ……!)
金田一(事件は解決したはずだ)
金田一(……それとも)
澪「ムギ、ムギぃ……」
律「よしよし、わかったから。大丈夫だからな」
唯「ムギちゃん……」
金田一(まだ……事件は完全には終わっていないのか?)
……。
お仕事。
次書いたらきっと終わります。
とりあえず、事件は解決。
解決はしたけれども……な展開です。
最終更新:2011年05月04日 01:42