二階・紬の部屋

三日目、午後16時過ぎ

紬「……」

『探偵さんが、行くよ』

紬(短いメール)

紬(それは私を疑っているからなのか)

紬(……それとも)

コンコン。

金田一「失礼しま~す」

紬「!」

紬(とにかく……普通に受け答えするしかないわよね。何もやましい事は無いんですもの)

紬(きっと……大丈夫よね)

紬「は~い、今開けます」



紬「今、お茶を用意するわね」

金田一「すんませ~ん」

紬「……それで、何か私にお話?」

金田一「ああ、実はちょっと色々聞きたくて。聞かせてもらえないかな?」

紬「ええ、私にわかる事だったら何でも話すわよ~」

金田一「よかった。じゃあまず……」

紬「……うん。他にも別荘はいくつかあったけど、多数決でここに決まったの」

紬「憂ちゃんたちも一緒にって……誰が言い出したかな。忘れちゃったけど、誰か特定の人がそれを推していた訳じゃなかったと思うわ~」

金田一「ふ~む(聞いた話そのまま、か)」

金田一「……にしても、別荘をいくつか持ってるなんて。すごい豪勢な話じゃない」

紬「私のお金じゃないもの。親が……親の会社がそういうのって言う、だけ」

金田一「そう言えば、佐木がカメラがどうとか言ってたけど……あれは?」

紬「企業の新製品が、一通り家に送られてくるの。ふふっ、でも今回のカメラは憂ちゃんが気に入ったみたいで……ね」

金田一(ああ、確かに。佐木も憂ちゃん……いや、カメラを見る目付きが尋常じゃなかったしな)

金田一「い、いやあ。それにしてもうらやましい。俺がそんなお金持ってたら、絶対遊ぶお金に消えてますよ」

紬「……」

紬「それくらいの方が、いいのかもしれないわね」

金田一「……え」

紬「ふふっ、前に一度ね。唯ちゃんにそういうお話をしたの」

紬「部室にみんなでいる時、お金の話になって……」

紬「私、あまり家の事はお話したくなかったんだけど。やっぱりみんな言ってくるのよね」



律『お金持ちってうらやましいな~』

澪『……やめろよ、律』

梓『でも、無いよりはあった方がいいに決まってます』

憂『あ、私もそれは思うな~。何があるかわからないから、あるに越した事は……』

律『あ、やっぱ? うんうん、さすが憂ちゃんしっかりもんだね~』

憂『そ、そんな事……えへへっ』

梓『もう、こんな先輩に捕まったからってかまう事ないよ。早く帰ろうよ、憂』

律『こんなとはなんだぁ~! 私は部長だぞ~!』

澪『まあまあ……』

紬(……)



紬「正直、居辛かったわ」

紬「でもね……唯ちゃんだけは違ったの」



唯『ん~。難しい事はよくわかんないけど~』モグモグ

唯『ムギちゃんちに、そんなにお金がたくさんあるんだったら』

唯『そのお金全部でケーキ買って、ムギちゃんと半分こしたいなあ~』

全員『…………』

唯『あ、やっぱダメダメ。お茶を買うお金と、ご飯を買うお金も残しておかないと。ケーキばっかじゃ栄養かたよっちゃ……』

律『……ぷ』

澪『ふ、ふふっ……』

梓『ゆ、唯先輩……くくっ』

唯『え~?』



紬「……もう、みんな大笑いで」

紬「全部ケーキのお金にする、なんて唯ちゃんらしいわよね」

紬「でも私は、その一言に救われた気がしたの」

紬「ああ、私はお金よりも素敵なモノを持ってるんだ、って」

金田一「……」



二階・金田一の部屋

三日目、午後18時

金田一「……」

ガチャッ。

美雪「はじめちゃん、夕食よ」

金田一「……」

美雪「はじめちゃん?」

佐木「先輩?」ジー

金田一「ん、あ、ああ」

美雪「もう、大丈夫?」

金田一「……」

佐木「食事すれば、ちょっとは元気になりますよ」ジー

美雪「さ、行きましょう」



二階・廊下。

唯「あ」

美雪「あら、みんな」

紬「ふふっ」

唯「じゃあみんなで行こう行こう~」

憂「……あれ? 澪先輩と律先輩は?」

金田一「ああ、あの二人は大浴場に行くって言ってたから……多分もう下にいるんじゃないかな」

美雪「……」ジロッ

金田一「……とと。早くご飯ご飯~と」ダダダッ

美雪「こら、待ちなさ~い!」ダダダッ

紬「あらあら、私も~」タタタッ

唯「えへへ~、ご飯~」スタスタ

憂「もう。お姉ちゃんたら」テクテク

佐木「……」ジー



一階・団欒室

三日目、午後19時過ぎ。

金田一「……」カチャカチャ

美雪「もう、どうしたのよはじめちゃん。さっきから黙っちゃって」

金田一「ん~」モグモグ

美雪「ほら、こぼしてるわよ」

佐木「……」ジー

律「食べる時くらい、カメラ止めろっての」

唯「美味しい~」モグモグ

憂「あ、お姉ちゃん。こぼしてるよ~」

唯「ん~」

律「ほら~カメラ係の憂ちゃんだってご飯の時はお姉ちゃん係になるんだぞ~」

澪「……なんだよ、お姉ちゃん係って」

紬「ふふっ」

美雪「……何だかんだで、みんな少し元気になったみたいね。はじめちゃん?」

金田一「そう……だな」

佐木「……にしても、雨ずっと降りっぱなしですね」

美雪「初日に比べれば随分穏やかにもなったけど……」

澪「この様子だと、まだ救助は来ないかな……」

紬「連絡も無いし……そうみたいね」

律「もうしばらく足止め、か」

金田一「……」

紬「あ……ね。よかったら、この後みんなで一緒にお風呂入らない?」

金田一「な、な、な、なんですと!」ガタッ

律「バカっ! 男は無しに決まってるだろ!」

金田一「ちぇ~。つまんね~の」

佐木「……」ジー

美雪「カメラを後ろに、喋らないの」ビシッ

金田一「いててっ……」

紬「たまには一緒に、ね?」

澪「あ、でも私と律はさっきお風呂すませてたから」

律「いいじゃんか~。もう一度みんなであったまろうぜ?」

澪「……律がそういうなら」

紬「唯ちゃんたちもどうかしら?」

唯「うん、行く~」

憂「はい、じゃあ私も」

紬「もちろん、美雪さんもね」

美雪「わ、私もいいの?」

律「人数は多い方が楽しいって~」

美雪「じ、じゃあ私も……ご一緒しようかな」

唯「やった~」

紬「ふふっ」

金田一「じゃあ俺も……ご一緒しちゃおうかな」ヌギッ

美雪「……」ギロッ

金田一「冗談、冗談ですよ……もう」

佐木「……」ジー



二階・金田一の部屋

20時過ぎ

金田一「……ったく、冗談が通じねえんだから。せっかく俺が雰囲気を和ませてやろうと……」

佐木「まあ、落ち込むよりはいいと思いますけどね」ジー

金田一「佐木よ、二人きりでビデオ撮るのは止めてくれないか?」

佐木「そういうわけにも、行きませんよ」ジー

金田一「ったく……」

佐木「にしても先輩。今回は僕の出番は無しですかね?」

金田一「ん? ああ……」

佐木「見落としてる事、あるんじゃないですかね?」

金田一「そう……だな」

佐木「じゃあ、今からテープ持ってきますよ! 待っていて下さいね」ダダダッ

ガチャッ。



ピリリリリ

ピリリリリ

金田一「ん? 電話……おっさんから?」

金田一『はい、金田い……』

剣持『金田一ぃ! 無事かぁ!』キーン

金田一『……っ!!』

剣持『良かった繋がった。大丈夫か金田一!』

金田一『ま、待て待ておっさん。いきなりなんだよ!』

剣持『あ、ああ……すまんな、つい』

剣持『お前のお母さんから連絡があってな。沢登りに出掛けたまま帰って来ない、と……今しがた連絡があったんだ』

金田一『……あ、しまった。連絡入れるの、忘れてた。すまねえなおっさん』

剣持『全く、お前と言うやつは』

金田一『……と、それどころじゃないんだ。こっちは大変な事が起こってるんだよ!』

剣持『……ん?』



剣持『ふ~む、そんな事が……。閉じ込められて、殺人にが起こって……か』

金田一『ああ、検死のできる人間もいないから、苦労しているよ』

剣持『ふ~む…

金田一『……そうだおっさん! 一つ頼まれてくれないかな?』

剣持『ん?』

金田一『ちょっと……調べ物を、な?』

剣持『ま、待て待て。もしかしてさっき言った……女子高生の事を調べろって言うのか?』

金田一『そのとーり』

剣持『金田一、いくら警察でも一高校生の事なんて調べられるわけ……』

金田一『何でもいいから、調べて欲しいんだ。それこそ……学生の事だけじゃない。何か彼女たちの周りで事件が起こったかどうか……』

剣持『……わかったよ、お前がそう言うなら何かアテがあるんだろ? 調べてやるよ』

金田一『すまねえなおっさん。でもな……今回は正直アテがあるわけじゃないんだ』

剣持『……な、なにぃ?』

金田一『さっきも事件の概要は話したけど……正直言って殺す理由が見つかっていないんだ』

剣持『ふむ……動機、か』

金田一『おまけに、何も証拠も見つかっていない』

剣持『おいおい、そいつはちょっとヤバいんじゃないのか?』

金田一『だからこそ、おっさんに頼みたいんだ。何でもいい、彼女たちの事を調べて欲しいんだ』

剣持『……はぁ。また残業時間だけが増えるのか』

金田一『おっさん……!』

剣持『わかったよ。調べ終わったらお前に言う。大変だと思うが、頑張れよ』

金田一『……ああ、ありがとうおっさん』

プツッ。

金田一「……」

金田一「動機、か」


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