一階・団欒室。

午後12時過ぎ。

梓「う……ぐすっ……」

律「……」

澪「……」

紬「……」

唯「えっと、本当なの? その……」

唯「……」

憂「お姉ちゃん……」

金田一「……」

美雪「はじめちゃん……」

律「ま、まあ……嫌な事故だった、な」

紬「……」

梓「ううっ……純……純っ……」

唯「あずにゃん……」

紬「……とりあえず、警察と救急車は呼んだから。後は……」

律「……もう、合宿を楽しむ気分じゃないよな」

澪「鈴木さん……」

律「部長である、私の責任だ……どうケジメつければいいんだよ、クソッ」

梓「り、律先輩はっ……ぐすっ、わ、悪くなんかないですよっ……」

梓「わたしが……わたしが一緒にいてあげてたら……う、うわぁああん!」

澪「梓……」

憂「梓ちゃん……仕方ないよ」ギュッ

美雪「はじめちゃん……」

金田一(妙だ、なんか引っ掛かる)

金田一(あれは本当に……事故なのか……?)

……。



プルルルル。

全員「!」

澪「で、電話か……び、びっくりした……」ガタガタ

ガチャッ。

紬「……はい、琴吹です。あ、警察の……え?」

紬「それは本当……ですか? わかりました、はい、はい……」

ガチャッ。

唯「ど、どうしたのムギちゃん?」

澪「け、警察は? 警察が来るんだろ?」

紬「それが……この豪雨でこの別荘までの道が崖崩れを起こしたらしくて……」


!?


憂「そ、そんな……」

紬「こんな場所じゃあヘリも飛ばせないし、道が復旧するまで私たちは……」

紬「この別荘に、閉じ込められた事になるわね」

金田一「……」

佐木「それで、復旧にはどれくらいかかる予定なんです?」ジー

紬「最低でもあと三日は……雨が弱まらなければ、もっと長くなる可能性も……」

澪「ぐっ……ぐすっ……」

律「澪!」

唯「み、澪ちゃん。泣いちゃだめだよ~」

澪「だ、だってぇ……ぐす……」

律「……心配すんなって。ほら、手握ってやるから。そしたら少し落ち着くだろ……」

澪「りつ……りつぅ……」

唯「私も、ギュ~だってするしお菓子もあげちゃうよ。だから……泣かないで、ね?」

澪「ゆい……うわぁん……」

唯「よしよし」

美雪「……とっても仲がいいのね、みんな」

金田一「ああ……そう、だな」

梓(……)

梓(純……)



二階・金田一の部屋。

午後14時5分。

金田一「……」

佐木「先輩、どうしたんです。難しい顔しちゃって」

金田一「……事件の事を、考えていたんだ」

美雪「え? だってあれは事故……」

金田一「みんなの手前、言えなかったけどな。どう考えても……不自然なんだ」

佐木「……どういう事ですか?」

金田一「考えてみろよ佐木。どうして彼女はあんな場所にいたんだ?」

金田一「それも、薄いパジャマ一枚で」

佐木「それは……興味本位であの地下室を覗いて、そのまま……階段から転げ落ちてしまって……」

金田一「確かに、あれが普通の地下室ならそれもあったかもしれない。でも思い出せよ佐木、俺たちが初めてあの扉を開けた時の事を」



佐木『階段……ですね。地下に続いているみたいだ』ジー

金田一『ううっ、さぶっ。なんだこの冷たい空気……』



佐木「あっ!」

金田一「そう、扉を開けただけであれだけ冷たい空気を感じるんだ。そこからパジャマ一枚で階段を降りていくのは、どう考えても不自然なんだ」

佐木「なるほど。でも、彼女……好奇心旺盛な感じでしたからね。もしかしたら、寒いくらいはへっちゃらで……」

金田一「いや、あの時の彼女に限って、それはあり得ない事なんだ」

金田一「彼女の体に巻かれていた……タオル」

佐木「……あ! バスタオル!」

金田一「そう。あれが毛布や膝掛けなら可能性もあるけれど……バスタオルを持ち歩いてあの部屋に行く事は、どちらにしろ不自然なんだ」

美雪「じゃあ、はじめちゃん……もしかして」

金田一「……でもな。本当に事故の可能性もあるんだ」

金田一「俺には……あのメンバーが殺人を犯すとはどうも考えにくい」

美雪「はじめちゃん……」

佐木「先輩……」

金田一「あんな仲のいい姿を見てたら……さ」

金田一「……というわけで。今からちょっと現場を調べてくるよ」

金田一「何かあった時が、嫌だからな」

佐木「あ、じゃあ僕も行きます」

金田一「おう、ビデオカメラは心強いからな。バッチリ頼むぜ佐木」

佐木「任せといてください!」

美雪「……気をつけてね、いってらっしゃい」

金田一「あ、あと。さっきの事はみんなには秘密な。余計な心配かけたくねえからさ」

美雪「うんっ、わかってる」

金田一「じゃあ、また後でな」

バタン。

美雪「……はぁ」

美雪(……本当に、私出来ないなあ……こんな時に待ってるだけなんて)

美雪(はじめちゃん……)



二階・階段

梓「……あ」

金田一「っと。梓ちゃんだっけ、どうしたのさ、階段で座っちゃったりして」

梓「……いえ、これ。純に持っていこうかなって思ったんですけど」

佐木「毛布?」

梓「純、ずっと寒い所にいるから……凍えて、風邪ひいちゃうから……」

梓「でも、でも……やっぱり純と向き合うのが怖くて……何も話してくれない親友と会うのはやっぱり……ううっ……」

金田一「……」

スッ。

梓「金田一、さん?」

金田一「心配すんなって。これは俺が純ちゃんに届けておくよ」

梓「で、でも、でも……」

金田一「あと、この毛布にくるまってるお菓子も一緒に、さ」

梓「金田一さん……」

梓「う、ううっ……あ、ま、また……泣かないって決めた、のにっ」

梓「純のために、笑おうって決めたのに……ぐすっ」

金田一「……純ちゃんはさ、多分お腹出したまんま寝ちゃう子だと思うんだ」

梓「え? ……ぐすっ」

金田一「だから、この梓ちゃんからの毛布をちゃんと巻いて眠ってもらえば……あっという間に風邪をひかない純ちゃんになるってわけ」

梓「う……く、ぐすっ、純。風邪ひかないでちゃんと眠りますよね……」ニコッ

金田一「ああ、梓ちゃんの毛布なんだから。きっと……大丈夫さ」

梓「うん……うん……」ニコッ



地下室

佐木「先輩もいいとこあるじゃないですか」

金田一「……うるせー。あんなに泣かれちゃ、男失格だっての」

佐木「またまた~」

金田一「ったく……もう。さっさと調べて戻るからな」

佐木「は~い」

金田一「電気をつけて、と」

カチッ。

金田一(……被害者の様子は変わっていない)

金田一(階段のすぐ下に、転げ落ちた様子で横たわっている)

金田一(確かに、ここが現場にも思える、が……)

金田一(コンクリートの床には、血痕がほんの僅か飛び散っている)

金田一(頭部の損傷の割に……血が少なすぎる。これはやっぱり……)

金田一(……)

眠っている彼女に毛布をかけ、俺たちは階段を上がっていった。



一階・中央団欒室

午後19時

唯「……」モグモグ

澪「……」モグモグ

梓(純……もう、一緒にご飯は食べられないの?)

次第に、自分の中に……「どうして」という感情が沸いてくるのがわかる。

どうして純はあんな所に行ったんだろう。

どうして、私に何も話してくれなかったんだろう。

どうして、純じゃなきゃいけなかったんだろう。

そして……。

梓(……)

私の頭には、どうしても拭いきれない一つの考えがあった。

それは、時間が経ってきて気持ちが落ち着けば落ち着く程……私の中で大きくなった。

それは……。

梓(純は誰に……殺されたんだろう)



梓(確信があるわけじゃない……)

梓(本当に事故なのかもしれない)

それでも、もしかしたら。

唯「……」モグモグ

物静かに食事をしている。

律「……」モグモグ

この中の誰かが。

澪「……」モグ

紬「……」

憂「……」

梓(純を……殺した)

金田一「……」モグモグ

あの三人も含めて、私は人を疑う事にした。

違っていたら謝ればいい。

もしそれがわかってしまったら、私は……どうするんだろう。



梓「あ、あの。ムギ先輩」


!?


食事の手が止まり、全員が一斉に梓の方を向く。

梓(落ち着け……これだけ。これだけだから)

紬「ど、どうしたのかしら?」

ムギ先輩は少し慌てている。

多分誰に質問をしても、同じような反応で会話が進むんだろう。

例え……純を殺した犯人であっても。

梓「気になったんですけど……あの地下室って一体何なんですか?」

紬「ん……」

ムギ先輩は意外、ともとれるような顔をしていた。

私は誰にも気付かれないように目配せをし、全員の顔を盗み見る。

梓「……」

誰も顔色を変える事なく、私を見ている。

私はムギ先輩の返答を待った。

紬「あの地下室は……食料貯蔵庫、いわば冷蔵庫ね」

梓「冷蔵庫、ですか?」

紬「ええ。普段の食料とは別に、非常用の食材を常備してあるの。中には冷蔵庫しかないから……他には何も」

律「……どうして鈴木さんはあんな所に」

紬「説明しておかなかった私が悪いのよ。まさか、あんな事に……なるなんて」

「……」

再び団欒室が沈黙に包まれた。

盗み見た表情の中で……金田一さんが何かを言いたそうだったが言葉を呑み込んでいたように見えた。

が、私はそのまま何も言えずに、二日目の夕食を終えた。


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