『愛国者へのアクセス及びスプリガンの再起動を開始するよ!用意は良いかい?』

がコード中継をかねているMk2からメンバーに声をかける。

「いつでも来い!やってやらぁ!」

律がスティックを振り上げ合図する。

『10カウントから開始するよ!10、9、8、7』

メンバーがごくりと唾を飲む。

『6、5、4、3、2,1』

スプリガンから起動音がスタートの合図だ。

唯がゆっくりと口をひらく。

「どもー放課後ティータイムです!いやーいきなり世界デビューって事になっちゃってぇ~えへへへへ。
自分でもビックリしてるんだけど、あ!コレ世界に聞こえてるんだよね!
英語じゃないとまずいよね!え、え~と、ハ、ハロー!アイアムジャパニーズ!アイライクお菓子」

「うぉおおい!MCからやるんかい!」

律が突っ込む。

「みんな寝てるとは言え世界にこの痴態は恥ずかしすぎます……」

「ああ……」

澪と梓はガックリ肩を落とした。
唯はえへへと舌を出す。

「つい、何時もの癖で~。ほいじゃ早速いきますよ!準備いい!?」

メンバーの顔つきが変わる。
演奏前のあの心地よい緊張感だ。

「放課後ティータイム!曲はカーペンターズで、SING!!」



ミラーは足を引きずりながら桜が丘高校体育館前に着いた。
大破したトラックから1人脱出しやっとの思いでココまでたどり着いたのだ。
肋骨と足の骨がやられているのが分かる。頭部からは血が流れ、時折意識が飛びそうになる。
つい先ほど街の町内放送用スピーカーからコントが聞こえてきた。
敵はスプリガンの乗っ取りに成功し、あまつさえ愛国者にアクセスを開始したのだ。
世界中に今のコントが配信されたと思って間違いはないだろう。

『放課後ティータイム、曲はカーペンターズでSING!!』

スピーカーから聞こえる唯の声。
間違いない、彼女らは唯の歌の性質を利用して眠っている人間を起こす気だ。

「しかし……よりによって……この歌とはな……」

手に持つXM8アサルトライフルをぐっと握る。

キーボードの心地よい前奏の後、次々に音が重なる。
ミラーは体育館の入り口でへたり込んだ。
血を失い、足ももう既に言う事を聞いてくれない。

この歌を止めなければ世界は目を覚まし作戦は失敗してしまう。

『sing,singasong singoutloudsingoutstrong
singofgoodthings,notbad singofhappy,notsad』

唯の歌声だ。優しく、包み込むような声。
ミラーはライフルの銃口を唯に向けた。この歌を止めさせるには彼女を殺すしかない。
愛国者へのAIへはアクセス出来なくなるが、この際仕方が無い。

『sing,singasong makeitsimpletolastyourwholelifelong』

膝を立て銃を固定する。

『don'tworrythatit'snotgoodenough foranyoneelsetohear』

ドットサイト内から唯を覗く。
スコープ越しに見るその姿はさながら世界に愛を降りまく天使のようだ。

『justsing,singasong……』

耳に聞こえるこの曲は40年の時を越えてミラーの心に染み込んでゆく。
ピースウォーカー、いや、ザ・ボスがこの歌を愛したその意味をミラーは感じた。

『lalalalalalalalalalalala』

メンバー全員の歌声が唯の声と交じり合った。
世界が平和であることを望む為に、ミラーは彼女に銃を向ける。

「動くな」

ミラーの後ろで声がする。
見なくても判る。伝説の英雄ソリッドスネークだ。

『sing,singasong lettheworldsingalong』

照準は合っている。後は引き金を引くだけだった。

『singoflovetherecouldbe singforyouandforme』

「スネーク、俺は引き金を引く。そのために俺はここにいるんだ」

ミラーは銃を構えたままそう呟く。まるで自分に言い聞かせるかのように。

『sing,singasong makeitsimpletolastyourwholelifelong』

「マスター、アンタには撃てない。その気があるのなら俺が銃を向けた時、その引き金を引いてたはずだ」

『don'tworrythatit'snotgoodenough foranyoneelsetohear』

「これからは、PMCの時代でも、核の時代でも、戦争の時代でも、ましてや俺たちの時代なんかじゃない。
これからは彼女達の時代だ。
俺はこの螺旋から降りる。俺たちが突き付けあった銃を降ろさない限り、彼女たちに未来はやってこない」

後ろで銃をしまう音がする。
戦場で敵に情けをかける。
伝説の英雄もなんてことは無い、感情に身を委ねてしまう愚か者だ。

『justsing,singasong』

ミラーの握っている手から力が抜け、銃口が下を向いた。
あらゆるしがらみからの開放。ミラーが得た感情はそれに近かった。
リキッドに殺されたあの日、自分は自由になったのだと思っていた。
けれど実際は戦いに身を起き、殺し合いの上になる世界で同じ事をしていたに過ぎない。

『justsing,singasong』

涙を流したのは何年ぶりだろう。
ミラーはふとそんな事を考える。本当に自由になれた気がした。
通信機を手に取り世界中で戦う仲間たちに回線を開く。

「カズヒラ・ミラーだ。作戦は失敗、現時刻を持って各部隊は撤退を開始しろ。だが、心配するな、時代は変わる。
俺は……そう確信した」




『lalalalalalalalalalala,,,,,,,,』

唯が、放課後ティータイムのメンバーと一緒に歌を口ずさむ。
全世界に向けてこの歌を歌っている事を唯は遠に忘れていた。

歌おう、歌を歌おう
生涯を共にできるように やさしい歌にしようね
誰かに聞かせる程上手くない、
なんてそんなことは心配しないで
ただ、歌を歌おうよ

この歌詞の意味を唯は深く考えた事がない。



けれど、優しげなこのメロディーと、幸せな気分にさせてくれる雰囲気が好きだった。
ギターを鳴らし、前のめりに歌う。
これからも、ずっとこのメンバーで歌っていけたらと思いながら。



傍でザ・ボスが笑った気がした。



今事件において後に語り継がれる記録は、曖昧なものであり多くの謎を残した。
国境なき軍隊は各作戦地域から撤退し、組織はそのすぐ後に解散、消滅。
各国の見解によれば事件の首謀者であるカズヒラ・ミラーの消息は生死も把握されておらず、
桜が丘高校の体育館の玄関にカズヒラ・ミラーの血液がついたアサルトライフルが1つ残っていたというのが
最後の手掛かりであった。
スプリガンの中にあるG・W識別コードは何者かが感染させたウィルスによって破壊されており、
愛国者と人を繋ぐ唯一の道は失われた。
一説によればこのウィルスの件にソリッド・スネークとハル・エメリッヒが関与しているという不確定な情報があるも、
日本政府はこれを拒否。

事件の最重要参考人である平沢唯と放課後ティータイムの証言はCIAと日本政府のごく一部の人間が知るのみで、
国際連合アンチテロ組織最高司令官に任命されたロイ・キャンベルの情報封鎖が主な原因であると言われている。

密に世界を救った放課後ティータイムはその後、半月にも渡る聞き取り調査と現場検証で
心身ともにクタクタな日々を送る羽目になった。
事件の全容は無論他言無用であり、それを条件に街の復興と生徒たちの心のケアを目的とした医師団と
復興作業班の派遣で彼女達は合意。

英語教師ジョン・コジマはその姿を消し、放課後ティータイムのメンバーは彼が何者だったのか知らされないまま
後に「スリーピングビューティー」と呼ばれる今回の事件は幕を下ろした。





エピローグ

事件から3ヵ月後、改装工事が終わったばかりの体育館には生徒や地元住民が溢れかえっていた。
街の復興とそこに住む住人に元気になってもらおうと桜が丘高校と地域の自治体、
それに国連の復興作業班が協力して「復興祭」なる催しを行ったのだ。
学校を取り囲むように屋台が並び、校内でも様々な催し物が行われていた。

「あわわわわ……律、むりだよ……学園祭の比じゃないよ」

舞台袖で澪が目を白黒させている。

「何言ってんだよ澪、お前の歌全世界に発信されたんだぞ?これぐらいの人数で怖がってどーすんだよ」

「あの時は私たちしか居なかったんだ。今は体育館に入りきらないぐらい人が入ってんだぞ」

澪が必死に訴えるもココまで来たら引き返すわけにはいかない。

「澪先輩、大丈夫ですよ。あれだけの事、乗り越えたんですから今回もきっと平気ですって」

梓が澪をなぐさめる。

「ハァ……そうだな……いつまでもこのまんまじゃジョン先生に示しがつかないもんな」

ふと澪が横を見る。

「聞かせてあげたかったね……新しい曲」

ギー太を抱えた唯はいつもより少し元気が無かった。

今回の「復興際」にあわせ彼女達は新しい曲を作ったのだ。
けれど一番聞いてほしかった人はここには居ない。

「唯ちゃん」

唯の肩に紬がそっと手を置く。柔らかくそれでいて暖かい。

「大丈夫よ、きっと届くわ……あの時のようにね」

唯はその言葉を聞くと曇った顔をほころばせた。

「そうだよね……そうだよね!」

目をきらきらさせる唯はいつもの唯だ。

「うん、だから頑張りましょう」

紬がそういうとメンバー全員が頷いた。



『それでは桜が丘軽音部、放課後ティータイムのミニライブです』

放送の後、幕がゆっくりと上がる。
今まで経験した事の無い拍手の波が彼女達を包んだ。
唯は用意されたマイクに向かってお辞儀をする。
勿論、おでこをぶつけ観客の笑いを誘うのはいつもの事だ。

「あわわ!ごめんなさい、えっと、放課後ティータイムです」

唯がギー太をジャジャンと鳴らす。
再び沸きあがる拍手。

「えへへへ、みんな今日は来てくれてありがとう。
私たち放課後ティータイムは桜が丘高校でバンド活動を行っています。
体育館も綺麗になってなんだかホッとしています。
3ヶ月前に起こった事は今でも実感が湧きません。
私たちもその場に居合わせてすッごく怖かったけど、未来を変えようと頑張った人達のお陰で
こうやってまたステージに立つことが出来ました」

唯はそう言って頭を下げる。

「今回の事で、テロだとか戦争だとか誰かのせいだとか、そういう事を私はあまり言って欲しくないなって思います。
みんなが未来を良くしようとして、それが誰かとぶつかっちゃって、その……
何ていえばいいのか分からないけど、みんな一生懸命だったんです」

唯は下げた頭を上げる。
彼女なりに何かを訴えようとしているのだ。

「私は歌を歌う事しか出来ません。スポーツも駄目だし、勉強もあんまり得意じゃありません。
お料理も憂が全部やってくれてます。
けど、そんな私にも出来る事があるんだって
それで何かを変えられるんだって……
今私たちが出来るせいいぱいいの事を、放課後ティータイムはしていきたいと思います。
だから……」

不意に体育館のドアが開き3つの影が姿を見せる。

「だから……」

白髪に白いひげ。英国紳士のような出で立ちの男。
隣にはメガネをかけ少しウェーブのかかった髪が特徴の如何にも研究者らしい出で立ちの男。
そして青い薔薇の花飾りを頭につけた小さな女の子。

唯は一瞬目を丸くしてメンバーの方を振り返る。
皆小さく頷くと笑みを見せた。

唯は大きく頷くと振り返り腕を突き出し彼らにVサインを決めた。
ひまわりのような笑顔が眩しい。

「だから皆さん!私たちの歌を聞いてください!」


世界中のみんなに、この歌が届きますように


「放課後ティータイムで SAY-Peace!!!」


おわり



長々と半日かけてうpしてきましたが自分の妄想を読んで下さった皆様お疲れ様でした。
会社で暇な時にしていた妄想を活字にするのは難しかったです。
製作は何だかんだで半月ちょいかかりました。

ピースウォーカーに感化されて勢いで書きましたがまた何か機会があればまたうpしたいと思います。

規制支援も助かりました。
また似たような感じで妄想して書きたくなったら頑張ります。

ではまたその時まで~ごきげんよう
さようなら~