主要幹線道路を我が物顔で走行したスプリガンはショッピングモールを目測で捉えると
住宅街が密集する路地にその巨体を向けた。
脚部のローラーを引っ込め、無骨な爪を展開し民家のブロック塀や電柱をなぎ倒しながら爆進する。
スプリガンが通過した後には土煙が濛々と立ちこめ、切断された電線からは火花が散った。
勢いをつけたスプリガンはそのままショッピングモールの正面玄関に頭から突っ込み
1階天井を機体上部でえぐりとりながら吹き抜けのセンターホールへ向かった。

轟音と土煙と共にやってくるスプリガンには目もくれず
センターホール脇にあるコーヒーショップでミラーはコーヒーを立てていた。
センターホール中央に到着した瓦礫とホコリまみれのスプリガンは動きを止め
放熱用蒸気を排出した後、誰も乗っていないコックピットを開放した。
そしてそのまま身を屈め待機モードに移行する。

ミラーはコーヒーをマグカップに入れ終わるとコインを1枚店のレジに置いた。
黒曜石を溶かしたような黒い液体を胃に流し込む。
苦い。しかし力強く、野性味あふれる懐かしい味だった。

「ふむ……やっぱりコーヒーはコスタリカ産に限るな」

カップを持ったままミラーはスプリガンに近付く。
スプリガンのセンサー部分がミラーを捕らえた。

『タダイマ』

「ああ、おかえり」



数分後、スネークはバイクのアクセルを全開にしたままショッピングモールの敷地内に入った。
オタコンの通信によるとスプリガンは既にショッピングモールに着いたのだと言う。
食料品売り場入り口のガラスを突き破りスネークが乗るバイクは建物内に進入する。
そのままスピードを落とさずセンターホールに向かうと嫌でもその巨大なシルエットが目に入る。

「……メタルギア」

スネークはホールに入った所で急ブレーキをかけ、車体で半円を描くとその場で停止した。
蟹の化け物のようなメタルギアの頭部のコックピットには平沢唯がヘッドギアをつけられ
すやすや寝息を立てている。しかし妙なのはギターケースごとベルトで固定されていることだった。

「彼女がギターを離そうとはしなかったんでね。相当大切らしい」

声がした方にアサルトライフルを向ける。

「心配するな、彼女には夢を見てもらっている。
一定の脳波を維持するために彼女が食べたいものを食べる夢を、な
食欲中枢の刺激は案外デリケートなんだ」

銃のサイト越しに写った人物を見てスネークが動揺しなかったと言えば嘘になる。

「マスター……ミラー。アンタ、生きていたのか!」

マグカップに入ったコーヒーを飲み干すとミラーはカップをコーヒーショップのガラスケースの上に置いた。

「久しぶりだなスネーク。どうだ?1杯」

各国原産のコーヒー豆が詰まったケースをミラーがコンコンと叩く。

「お前が今回の事件の首謀者か?答えろ!」

スネークが吼える。

「そうだとして、お前はどうする?罪を裁き俺を殺すか?」

「俺の任務は彼女の護衛だ。俺は人殺しじゃない。
死んだと思っていた……何故なんだ!」

「変わっていないな、スネーク」

ミラーはスネークに向かってゆっくりと歩き出す。

「リキッドが欲しかったのはマスターミラー死ではなくマスターミラーとしてお前の行動をつぶさに監視することだった。

俺の死がフェイクかどうかなんてどさほど問題じゃなかったさ。それどころか俺はリキッドに感謝すらしてる」

「何?」

「当時フォックスハウンドのサバイバル教官に所属すると言う事は愛国者に操られるコマになることと同義だった。
気がついたときには俺はシステムの1部だった。
逃げ出そうとしても逃げられない。
お前もその中の1人だった。
ビッグボスを再起不能にし愛国者に対する唯一の抑止力を奪うという大役を演じたんだからな。
リキッドが与えてくれた虚偽の死はお前たちだけじゃなく、愛国者からの開放を意味していた。

俺は……自由を手に入れたんだ」

「愛国者は死んだ!もう武器は必要ない!」

「愛国者が統治した世界は戦争経済という鞘に落ち着いた。
機械が人を殺す狂った世界だ。
スネーク、平和とは何だ?
大国が世界を統治する事か?
第二の愛国者が、AIが世界を統治する事か?
小国大国が入り乱れて戦争する事か?
核を撃ち合って人類が滅ぶ事か?

愛国者がいなくなった今、この世界には抑止力が必要なんだ。
統治じゃない、互いの力が均衡するバランスの取れた世界だ。
そしてそれはフェアでなければならない。
国同士の利権争いや宗教や思想、歴史に縛られない抑止力。
今世界は新たな形を成そうとしている。俺たちは何も無いその土壌に新しい法を根づかせる!
その為には力が必要だ、大国に匹敵するだけの力が!!」

「お前たちがそんな力を持つなんて事は不可能だ。そんな絵空事が通用するほど世界はヤワじゃない」ミラーの足がぴたりと止まる。
スネークが向ける銃口の目の先だ。

「確かにリスクは高い、ピースが噛み合うかも分からない。けれど隊を危険に晒す、それだけの価値はある」

ミラーは手を差し出す。

「新しい時代を作ろうスネーク。俺達にはそれが可能だ」

「俺はお前たちに加担するつもりは無い!」

「そうか……残念……だっ!」

ミラーはスネークが構えたM4を一瞬で絡めとり分解する。

「ちいっ!」

すぐさま拳銃を構えようとするが顎と腕を持たれそのまま床に叩きつけられる。
拳銃が手から離れ床を転がった。

「がはっ!」

仰向けになったスネークの喉元にナイフが突きつけられる。

「ぐっ……愛国者のAIを今手に入れた所で何になる?自衛隊にすぐ制圧されるだけだ!」

「勝算はあるさ」

ミラーはナイフをそっと引っ込めた。

「平沢唯とゼロAIのリンク処理に後5分間時間がある。それまでに俺を倒してみろ。
リンク処理が終われば後は全てプログラムが行ってくれる。スリーピングビューティーは誰にも止められない」

スネークはゆっくりと立ち上がりCQCの構えを取る。

「そうだ、それでいい。
結局俺たちは、戦う事でしか自分の価値を見出せない。
戦う事でしか自分を表現できない。
ならば戦う事でそれを体現すればいい」

スネークがジャブを放つ。
しかしその初弾はあっという間にミラーの両腕に捕まった。
体勢を崩され両足を踏ん張るも、軸足を払われ姿勢を崩される。
そこにミラーの膝が顔面に飛んだ。

「ごふっ」

顔を上げるとミラーの右ストレートが立て続けにスネークの顎を刈った。
ミラーの手を離れ数歩足が下がる。

しかしそれをミラーは見逃さなかず数発拳を打ち込む。
最後の打撃の軌道が甘い事をスネークは見逃さなかった。
手の甲で軌道を逸らし反撃しようとするももう一方の手でそれを受け止められる。

「お前は接近戦において最も合理的な方法で最も素早く相手にダメージを与えようとする」

ぐにゃりとスネークの腕をひねる。

「ぐああああああ!」

「だから軌道を読まれる、応用を利かせろ!」

さらにその腕に力が入る。

「ビッグボスはこんなものじゃ無かったぞ!」

スネークの体が弧を描き再び地面に叩きつけられた。

「これでお前は二度死んだ」

「はぁ…はぁ…いや、まだだ」

背中を軸に体を反転させ両足でミラーの足を挟み体勢を崩す。
四つんばいになったミラーにスネークが素早くチョークスリーパーをかける。

「ぐが……ぐ……」

スネークのこめかみに3度パンチを食らわせるとようやくその拘束から逃れる事が出来た。
しかし上からスネークが全体重をかけ後頭部目掛けてかかとを振り下ろす。
後頭部に凄まじい衝撃を受けた後、ミラーは地面とキスをした。



二人はふらふらと立ち上がる。
そこからは互いに根競べだった。
1発殴っては1発殴られ、また殴っては殴り返す。
ダメージは確実に体に蓄積し次第に拳の重みが落ちてくる。

先に膝をついたのはスネークだった。
ミラーはスネークの顎をサッカーボールのように蹴り上げる。

「がぽっ!」

ミラーはスネークの上に馬乗りになった。

「ぜぇ…ぜぇ…俺の……勝ちだ!」

ミラーは体内に残った力を振り絞り拳を振り下ろす。

「今だ!オタコォォォォン!」

そう叫んだ瞬間スネークのスニーキングスーツから強烈な電撃が流れた。
生命維持に使われるエネルギーを電気エネルギーに変え一気に放電したのだ。

「ぐおおおおおおおお!」

「ぐうううううっ!」

バチバチと花火のような音を立て、二人の体は離れた。
スネークは歯を食いしばり体から細い煙を立てながら立ち上がる。

『システム起動マデ後20秒、作業員ハ離レテクダサイ』

スプリガンからアナウンスが流れる。

スネークはよろよろと走り出した。
ミラーはゆっくりと顔を上げる。
走るスネークの背中が見える。自分も追いかけようとするが体が動かない。

『9、8、7、6……』

スネークがコックピットに手を伸ばす。
非常停止用のボタンが見えた

『5、4、3……』

スネークの足に衝撃が走る。

「何!」

咄嗟に自分の足を見ると強化外骨格をまとった兵士の1人がスネークの足にしがみつきタックルを放ったのだ。

『2、1……システム起動。T・J、A・L、T・R二アクセス開始』

コックピットが閉まりメタルギアの駆動音が唸る。
スネークにタックルをかました兵士はスネークと共にタイルの上に叩きつけられた。

「ぐはっ……ぜぇ……良く、やった……よく、彼女を守ってくれた……礼を言う」

ミラーはゆっくりと立ち上がる。
その兵士は物資搬入口でミラーに敬礼した兵士だった。
スネークは力を使いすぎたのか小さく息をしつつもうつ伏せのままだった。

「大丈夫ですか!?司令!」

兵士はミラーに自分の肩を貸す。

「俺もまだまだ青さが抜けて…ぐふっ……いないな。後は……スプリガンと、世界中に散った仲間がやってくれる……
時代は……俺たちを選んだんだ」



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