大型トラックに乗せられた唯はギターケースを抱えぶるぶる震えていた。
トラックの中には見たことも無い機材が並び兵士達が銃の手入れや装備のチェックを行っている。

「付近一帯の交通網アクセス権限掌握。一般車両の邪魔は入りません。このまま合流地点まで1直線でいけるかと」

コンピューターの前に座った兵士がキーボードの上で指を踊らせながら言った。

「司令、やりましたね!」

兵士の1人が唯ともう1人、司令と呼ばれた人物を交互に見ながら興奮した様子で話す。

「まだこれからだ。フォックスハウンドは伊達じゃない。スネークは必ずやって来る。気を抜くな」

司令と呼ばれた男は強化外骨格を着た他の兵とは違い
迷彩柄の標準的な歩兵兵装でサングラスが印象的な男だった。

唯はイレギュラーな状況に困惑し、ただぎゅっとギー太を抱きしめた。

「……ギターか」

サングラスの男がそっと近付いてくる。
尻餅をついた様な格好で座っている唯の前に、彼は屈んで視線を同じ高さにした。

「ちょっと借りるぞ」

「ああっ!ギー太!」

「なーに、取って食うわけじゃない」

ギターカバーを開け中身を見るとサングラスの男は嬉しそうに言った。

「ギブソン・レスポールじゃないか。スタンダードモデルか?」

「う……うん。おじさん……ギター弾くの?」

「昔な、今は弾いてないよ。ピックも借りるぞ」

サングラスの男はギー太を抱えるとあぐらをかき2、3弦を弾くと深呼吸した。
小気味良くピックと弦が踊り、サングラスの男はギターを弾く事にしばし没頭する。
唯は予想外の事に面食らったが男の演奏技術の虜になるのにそう時間は掛からなかった。

「すごい!これなんて曲!?」

「TrampledUnderfoot。レッド・ツェッペリンの曲だ。カッコいいだろ」

男はひとしきりギターを触るとそれを唯の元へ返した。

唯はすぐさまギターを抱えるとさっきの物まねをする。
完全とはいえないがそれでも凄いコピー能力だった。

「凄いな」

「えへへぇ~」

唯はニヘラと笑う。

「おじさん凄いね!どーしてギター始めたの?」

「ん?そうだな……モテたかったからかな」

「動機が不純だよぉ」

唯は頬を脹らませている。

「じゃあお前はどうしてギターを始めたんだ?」

「え?あ~……えっとぉ~。
軽音部って軽い音楽って書くからてっきりカスタネットとかの軽い音楽ばかりやるのかと……」

唯は顔を真っ赤にしながらモジモジした。
表情がコロコロ変わって面白い。

「ぶはははは!そりゃーいい」

男は自分の膝を叩いて笑った。

「いきなり相棒を借りて悪かったな。お詫びに良い物をやろう」

男は1粒の錠剤を取り出した。

「ケーキやお菓子は好きか?」

「うん、大好きだよ。いつもムギちゃんが持ってきてくれるの」

「そうか、だったらこいつを飲めばいい。ケーキがたらふく食える」

「え~でもケーキ1人でいっぱい食べたら、みんなの分が無くなっちゃ……がぽっ……んっぐ」

唯が話している間に男は錠剤を指で弾いて唯の口の中にシュートした。

「もう!ひどいよ!」

「はははは!悪い悪い。毒じゃないから、安心しろ」

「そーいう問題じゃないよぉ、まったくぅ……」

彼女は人を引き付けすぐに溶け込み、心を満たしてくれる。
報告の通りだった。

「おじさん、名前なんて言うの?」

この子は巻き込まれるべきではない。
しかし、計画に必要不可欠な要素だった。

「俺の名前?俺ははカズヒラ・ミラー。日本語で平和って意味だ」



唯を乗せたトラックはショッピングモールに向かっていた。
付近に近付くと一般人が蜘蛛の子を散らすように建物から逃げ出している。
別働隊が当初の予定通り建物を占拠したのだ。
トラックは物資搬入口に止められ、中からギターをぎゅっと抱いた唯がスヤスヤ寝息を立てながら運び出された。
カズヒラ・ミラーが搬入口に降り立つと、そこで警備していた兵士が敬礼した。

「無事、制圧が完了いたしました!」

「ご苦労、こっちも平沢唯を入手した。既に薬で眠らせてある。スプリガンの到着は何分後だ?」

「残り10分程で到着の予定です。他の部隊も到着完了しつつあります」

「よし、主役が来るまで何としても平沢唯とこの場所を守り抜け。
スネークが来たら俺に知らせろ、手は出すな」

「よろしいのですか?」

「月光を3機向かわせたが……たった今、全滅したらしい。正直言って化け物だよ」

「なら、尚のこと危険なのでは!?私は……命は惜しくありません!」

ミラーは小さくため息をつくとすれ違いざまに兵士の肩を軽く叩く。

「無謀な事はするな、だがどうしてもと言うなら、彼女を守ってやってくれ」

兵士は背筋を伸ばしミラーに再び敬礼した。



非核装備型メタルギア「スプリガン」はショッピングモール目指し一直線に行動していた。
オタコンはノーマッド機内でその様子をつぶさに観察していた。

大佐の資料によれば装甲はセラミックチタンの複合装甲で
装甲の状態変化に伴い区画閉鎖や予備回路を自動で行う、メタルギアRAYと同様のシステムを導入していた。
更にリキッドがビッグシェルで見せた電磁波兵装による
弾丸、グレネード、ミサイル等の火器を無効化する技術も加えて堅固な装甲を誇っている。
武装は次世代兵器が主で、火器等は一切積んでおらず
対空対地迎撃用COIL酸素‐ヨウ素化学レーザーと長距離音響兵器であるLRAD
それに短中距離における戦術高エネルギーレーザーTHELが装備されていた。
機動面においては脚部ローラーによる高速移動と収納したアームを足部で展開する事で
悪路や段差を難なくクリアする事が出来た。
自己防衛能力の高さは他の追随を許さず現状で物理的破壊は絶望的とも言え、番人の名に恥じぬ性能だった。

「ハル兄さん……ス、スプリガンが搭載してる戦略AIの事が、少しわ……分かったよ」

「本当かい?有難うサニー」

サニーが作ったフォルダを画面で開く。
大佐の提示した資料とネットに散らばる無数のヒントをサニーなりに集めまとめた物だ。
サニーは自分が集めた資料を1つづつ説明してゆく。

「スプリガンのニューロAIは3つに分かれてるの……
1つはスプリガンを動かす動物的なAI「レプタイル」
そして思考的な部分を司り愛国者のAIを操作する「ママル」
そして搭乗者の意識をデジタルにより反映させる「ゼロ」

えっと、ママルとレプタイルは当時天才と言われたAI学者ストレンジラブが1974年に基本理論を構築したとされていて
当時中南米を巡るCIAとKGBが関与したピースウォーカ計画の産物。
ママルにはビッグボスの師、ザ・ボスの人格を移植し核報復攻撃の意思決定の役割を果たす機能をになっていたみたい」

「ザ・ボスの?」

「うん、彼女は最初NASAの有人宇宙飛行のスタッフだったの。
ザ・ボスが乗ったロケットの……。性同一性障害で、彼女の机にはザ・ボスの写真が飾ってあった。
き……きっと尊敬してたし、好きだったんだと思う……ストレンジラブというのはそこの職員につけられたあだ名。
ビッグボスはピースウォーカーに搭載された記憶盤を全て抜き取ったとされていて
今回はその記憶盤を論理基礎データとしてニューロAIに記憶させたんだと思う……」

「じゃあ、ゼロAIは何のために?」

「あ、愛国者のAIにアクセスする為の生体データの認証のために必要。けど……」

「それだけじゃない。そうだろ?それにしては容量があまり過ぎてる」

「うん。ごめんなさい……今はココまでしか分からないの」

サニーはしゅんと下を向いてしまう。

「いや、参考になったよ」

オタコンはサニーの小さな頭をなでてやる。

「けど、調べているうちに……関係あるかどうか分からないけどその国境無き軍隊が調べてたと思われる
別の資料群が見つかったの」

「何だい?その資料って」

「そ、相続者計画、それとジーンとウルスラの事例を調べてたみたい。
ジーンとウルスラはESP能力者で、えっと……
特にその能力や、メタルギアRAXAにウルスラが搭乗した際のデータをごっそり持ち出してるみたいなの……」

「何かありそうだね……もう少し調べてみよう。ありがとう、サニー」

画面上の地図にはショッピングモールを目指すスネークと同目的地を目指すスプリガンのマーカーが点滅していた。


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