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ラー・カイラムがアクシズから離れるための掩護をしていた紬は、アクシズに入る光の亀裂に、目を奪われていた。
紬「…アクシズが…割れる…!」
最早、敵も味方も消耗しきって、戦闘も散発的なものになっていた。
その少なくなったMS群に仲間たちを見つけられず、紬は気が気ではなかった。
紬「みんなは…どこなの?」
アクシズを分断させた光の筋は、広がって帯になり、二つになったアクシズが、別々に分かれていく。
その、分かれた後ろ部分の動きに、紬は少し違和感を覚えた。
紬「片方…地球に落ちていってない…?」
紬が、異変に気づいた頃、
澪「おい…アクシズの後部…」
律「…へ?」
梓「地球との相対位置、速度…計算してみるです!」
梓がそう言うやいなや、片腕のない梓のジェガンの頭部、
ゴーグルのようなグレイズ・シールドが明滅し、その下にあるモノアイ・センサーが光を発して地球とアクシズを捕らえ、測距を始めた。
唯「…あれ見て!」
その時、唯はアクシズ後部に、一筋の光を見た。
ラー・カイラムに取り付いた紬は、地球に落ちる破片の後部から、放射状に七色の光が発しているのを見て、それに見とれていた。
紬「あの光は…なんなの?」
そして、アクシズに絡みつく、何条もの航跡。
紬「…MS…? 何が起こっているの?」
レシーバーに、通信が入る。
「生き残ったMSは、損傷機の回収作業に当たれ。」
紬「り…了解!」
大気の摩擦熱で赤熱するアクシズから発する光は、その輝きを増し続けている。
そこにMSの航跡が次々にとりついて、スラスター光の輝きも、その光に加わっていく。
その時、紬はMS隊がアクシズを押し返そうとしていることに、気がついた。
紬「…私もあそこに…行かなきゃ!」
紬はもう、何も考えなかった。
測距と計算を終え、MSを通常管制に切り替えようとした時、戦闘データの羅列が誤表示され、梓は、ようやく自分が何故死ななかったのか、気がついた。
梓「憂が…私を助けた…?」
そこには、「コンピューターの判断により、緊急回避」という赤文字がビッシリと並んでいた。
その個数は憂の記憶が梓の命を助けた回数だったが、梓はそれを数えることが出来なかった。
見ない様にして、表示を切り替えた。
梓「…さっきも…?」
さっきも、敵に斬られる、と思ったが、片腕だけで済んだ。
頭の中には、憂の声が響き続けている。
憂『梓ちゃん、危なかったね。』
憂『もう、そんなんだから、お姉ちゃんを任せられないんだよ。』
梓「…私、憂のデータが無かったら…」
梓「…憂。」
梓の声は、虚しくコックピット内を揺らしただけだった。
唯たちも、MS隊がアクシズに取り付くのを見て、なすべきことに気がついた。
唯「私たちも、行かなくちゃ!!」
律「梓! アクシズの進路はどうなんだ!?」
憂のことを考えていた梓は、律の言葉に思考を中断させ、慌てて返答した。
梓「あとちょっと軌道が外に向けば、地球には落ちないはずです!!」
澪「よし、決まりだな!! 私たちも行くぞ!!」
4機は、武器を捨て、アクシズから発している光のなかに飛び込んでいった。
しかしそれは、彼女たちが忘れていた任務を思い出したからでは無かった。
彼女たちの心が、人としての部分が、その衝動を引き起こしたのである。
その衝動に、さっきまで心の中を占めていた怒りや憎しみは、完全に覆い隠されてしまったようだった。
いちごは、ヘルメットのバイザーを上げ、涙を拭ってアクシズの破片を見やった。
いちご「光が…あれは何…?」
いちご「MSが、アクシズの落下を阻止しようと…させない!!」
いちごは、MS隊を阻止すべく、サイコミュ試験型の機体を加速させ、エネルギーが残り少ないビームライフルを動けないMS達に向けた。
いちご「私を独りぼっちにして…貴様らみんな殺してやる!!」
「だめよ!」
いちご「…え?」
アーム・レイカーのトリガースイッチに力を込めようとした彼女の手を、確かな力を伴って、聞きなれた声が制した。
いちご「…立花さん…なの?」
コックピット内に姫子の優しい香りが漂った。
数秒の静寂の後、いちごはビームライフルを捨て、その乗機をアクシズに向けて加速させていた。
いちご「立花さん! 私…分かった!!」
いちご「あれが落ちたら、たくさんの命が…取り返しの付かないことが、起こるんでしょ!」
いちご「立花さん、言ってた! 人は、間違いを犯すけど、それに気づくことができて、繰り返さない!」
いちご「なら・・・犯す前に間違いに気がついたら・・・何としても、それを止めるまで!!」
いちごの機体がアクシズに取り付くのと、唯達がそうしたのは、ほぼ同時だった。
唯「…!」
律「こいつも…!」
梓「嘘でしょ…!」
澪「こんな事が…起こるんだな…。」
唯たちの中にあった憎悪の念は、徐々にその輪郭を、小さくしていった。
そして澪も、それを感じているようだった。
紬「みんなが…ここにいるの…?」
損傷機回収の命令を無視し、飛んできた紬は、光のなかに入って唯たちの存在を知覚した。
それは、視覚的なものを伴わない感覚だったが、確かな実感となって、紬には受け止められた。
紬「みんなと一緒に、こいつを止める!!」
その紬のシャープな意志は、光を媒体として、唯たちにも瞬時に伝わった。
唯「え…ムギちゃん?」
梓「ムギ先輩?」
律「ムギなのか?」
澪「ムギ…?」
五人は、同時にジェガンのスロットルを全開にした。
鈍足な機体を、ほぼ常にフルスロットルで使用していたため、
アクシズにとりついてすぐに、過熱気味だったサイコミュ試験機のエンジンがオーバーロードの悲鳴を上げ始めた。
いちご「まだまだ…!」
エンジンのリミッターを手動で解除し、さらに力を引き出す。
エンジンの熱は排出しきれず、ジリジリとコックピット内のいちごに襲いかかった。
いちご「!!」
その時、コックピット外周のサイコ・フレームが発光し始め、その光の奥に、いちごは姫子のイメージを捉えた。
いちご「立花さん…そんなところにいたんだ!!」
スロットルを固定し、シートから乗り出して、姫子に手を伸ばす。
だが、その手は虚しく空を切るだけだった。
いちご「私…寂しかった! ずっと…逢いたかった!!」
いちご「私、頑張ったよ! 間違いを、正しもした!!」
手は、溺れているように空を切り続ける。
姫子のイメージは、遠かった。
いちご「あなたに触れたい! 温もりが、欲しい!!」
涙でぼやける視界に捉えた、光の中の姫子も、こちらに手を差し伸べてくれた。
いちご「独りは、もう嫌なの!!」
もう少しで、手が届く。
その時、背中に強力な、瞬間的な圧力を感じ、いちごの体がリニアシートから放り出され、目の前に赤い飛沫が飛び散った。
いちご「あうっ!!」
焼けるような痛みがいちごを襲うが、目の前に姫子がいてくれるのだ。
彼女に抱き締めてもらえば、優しい言葉をかけてもらえば、そんな痛みも、つらいことも、色々なモヤモヤも、すべてその温もりが溶かしてくれる。
暑さにも、痛みにも、動かなくなってくる体にも構わず、いちごは姫子に手を伸ばし、今まで言えなかった、大事なことを話し始めた。
いちご「立花さん…あのね…私…ずっと言おうと思っていたの…」
いちご「いじめられているとき、助けてくれたこと…苦しい時、抱き締めてくれたこと…いつも側で、支えてくれたこと…色々、教えてくれたこと…」
いちご「…そして、こんな私を好きになってくれて…本当に…本当に…」
また、大きな衝撃を体が受け止めた。
それに押されたのか、今度はしっかりと姫子の手を握ることができた。
唯のジェガンの隣で、アクシズを押していたサイコミュ試験型のバックパックが赤熱しながら見る見るうちに膨張し、爆発とともに破裂した。
それを見た唯は、昔からの仲間を失ったように思った。
さっきまで、憎しみ合っていた、敵なのに。
唯「…ああ…。」
一瞬後、その機体は光り輝く七色の光をばらまきながら四散していった。
それは、サイコミュ試験型のコックピット周りの構造材として使われていたサイコ・フレームの輝きであったが、唯達にはそれが何なのか、分からない。
何故、MSがこんな光を出して爆発するのか、と思っただけである。
その光は装甲を突き抜け、唯の座っているコックピットまで流れて、一つの言葉となって彼女の心に食い込んで、消えた。
唯「…ありがとう…?」
律「…お前も、聞こえたか?」
梓「私も聞こえました…ありがとう、って。」
澪「私も聞こえた…。」
紬「ありがとうって…私にも…」
自分達に向けられた言葉ではない。
それは知っていたが、その言葉の温かみは、そんな事すらどうでもいいと5人に思わせた。
五人が奇跡を確かめ合っているうちにも、次々にオーバーロードと摩擦熱で耐え切れなくなったMSが爆発したり、アクシズからはじき出されたりしていく。
「もういいんだ! みんなやめろ!!」
レシーバーが拾ったのは、中央で隕石を押し出しているMSからの通信だろう。
しかし、その通信を聞いても、爆発するMSを見ても、彼女たちはスロットルを戻さない。戻す気も、無かった。
「離れろ、…ガンダムの力は…」
その声を聞いて、5人が離れるものか、と思った瞬間、七色の波動がそのMSから伝わってきて、5機はアクシズから引き剥がされた。
唯「うわあっ!!」
梓「何が起こったですか!?」
律「わっ…この力は…?」
澪「な…光…?」
紬「これは…なんなの…?」
何度もアクシズに取り付こうとするが、光に阻まれて、近付くことすらままならない。
その上、機体は徐々にアクシズから離されていく。
5機はアクシズから離れていき、全方位モニターの映像をCG合成映像から実視モードに切り替え、その光をじっと見つめることしか出来なかった。
光は、一瞬にしてアクシズの破片を包みこみ、帯になってもう一方の破片に伸びて行き、包みこみ、二つの隕石をつないでその輝きを増して行く。
唯「ねえ…あれ…何…?」
紬「オー…ロラ…かしら…?」
澪「…オーロラ?」
梓「アクシズが…地球から離れていくです!!」
律「ホントだ…動いてる…どうなってんだよ…?」
そして、さらに光の帯から一筋の光が離れ、地球をぐるりと一周した。
当のアクシズは、光の帯が示した一本の道に従って、ゆっくりと地球を離れていく。
その先には、太陽があったが、メンバーにはそんな事は分からない。
ただ、その美しい光に見とれているだけである。
もう映像では物足りなくなり、5人は次々にハッチを開け、宇宙空間に乗り出してその光を直に見つめていた。
唯「…きれいだね。」
梓「…はい。」
唯「ねえ、みんな…帰ったら、この光景を歌にしようよ!」
律「ああ…そうだな…」
梓「どんな歌詞か、メロディーか、想像も付きませんね。」
この三人の中に巣食っていた憎悪は、完全にこの光のなかに吸い込まれていったようだった。
それを感じた澪の瞳に涙が溢れる。
澪「私たち…また音楽がやれるんだな! 穏やかな気持ちで、楽しく! みんなの気持ちを、一つにして!」
紬は、5人が無事に集まることができた奇跡を噛みしめて、涙した。
紬「ええ…そうよ! みんな、一緒にね! ずっと、一緒に!」
光の帯は、徐々に薄くなり、アクシズとともに消えていった。
5機はそれを見届けてからジェガンに乗り込み、反転し、艦隊の方に飛んでいった。
唯「…ありがとう。」
梓「…ありがとうございます。」
律「…サンキュな。」
澪「…ありがとな。」
紬「…どうもありがとう。」
それは、誰に対して発せられた言葉でも無かったが、その言葉は、確実に、その光のなかに届いたように思われた。
彼女たちの背後でゆっくりと自転する地球には、まだうっすらと光の輪が掛かっていた。
最終話 宇宙の虹! おわり
エピローグ その後!
艦に帰って、ムギちゃんから和ちゃんのことを聞いて、私たちは、いっぱい泣きました。
その後…
律「唯、終わったのか?」
唯「ごめん、まだなんだ~。」
梓「もう、貸してください! 伝票の整理もできないなんて、唯先輩は私がいないとホント駄目なんだから…」
唯「あずにゃんごめんね~。 それよりムギちゃんと澪ちゃんは?」
律「澪の方は、5時の便で入港するってさ。 ムギの方はわからねえな、業者同士の会議の進捗次第だろ?」
唯「今日はみんなでそろって演奏が出来るのかな・・・?」
梓「それが心配なら、伝票の整理手伝ってくださいよ! ムギ先輩が間に合っても、こっちが間に合わないとなんにも出来ませんから!」
唯「ごめんごめん。」
律「梓の言うとおりだな! しっかりやれよ、唯!」
梓「律先輩もですよ!!」
律「…はいはい…。」
あの後、私たちは軍隊を辞め、ムギちゃんが作った宅配業の会社で働き始めました。
今日は週に一度、みんなが集まることが出来る日です。
澪「・・・ただいま。みんな揃っているのか?」
律「ムギがまだだ。」
澪「会議…どうなんだろうな。」
唯「ムギちゃんなら大丈夫だよ!」
律「だからそんな自信はどこから湧いてくるんだっつーの。」
梓「…先にスタジオ行って待ってますか?」
澪「ムギが来れなかったら、行くだけ無駄にならないか?」
唯「絶対大丈夫! ムギちゃんは必ず来るよ!!」
律「そうだな…じゃ、メールしておくわ!!」
澪「全く…無計画なんだからさ…じゃ、行くか。」
唯梓律「おおーーーーーーーっ!!」
ああは言ったものの、あれからあの光景を歌にすることは出来ていません。
でも、歌うとき、歌を作るときには、心のなかに、必ずあの光景が浮かんできます。
そして、ありがとうの言葉も…。
紬「…ごめん、待った?」
律「よし来た!! ムギ、早く位置に付け!!」
紬「準備よし!」フン
澪「じゃあ、いくか!」
梓「ですね!」
唯「ふわふわ時間!」
律「1・2・3!」
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紬「…という夢を見ちゃったの~」
唯「ムギちゃんも、だんだん染まってきたね!」
紬「今度はUCって言うのも見たいわ~」
澪「そういえば唯は憂ちゃんにDVD没収されて無かったっけ?」
唯「憂は純ちゃんに犯されてからおとなしくなってね、それからガンダム見ても、何も言わなくなったんだ~。」
紬「(きっと憂ちゃんは、ガンダムに唯ちゃんを取られたと思って辛かったのね…)でも、憂ちゃんの前でガンダムはよしたほうがいいんじゃない?」
律「じゃあ今日は唯の家に泊まりこんで、ロマサガ3でもやろうぜ!!」
唯梓律澪紬「おおーーーーーっ!!」
唯「CCA!」 おしまい
最終更新:2011年05月04日 00:53