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旗艦を狙っていた信代は、クラップ級の一隻が盾になっているのを見て、舌打ちをした。

信代「チッ、そこまでして旗艦を守りたいってのかい!」

信代は、回避機動をとりながらランゲ・ブルーノ砲を構えて、言い放った。

信代「じゃああんたから沈めてやるよ!!」

ランゲ・ブルーノ砲から発射された200ミリ対装甲用榴弾は、大きすぎる標的に、次々に飲み込まれ、閃光にかわっていく。
しかし、信代が3発目を打ち込もうとしたとき、1機のジェガンが絡みついてきた。

信代「直掩か!?」

信代は、また舌打ちをして、敵機とドッグファイトにもつれ込んだ。

信代「小賢しいね!!」

ランゲ・ブルーノ砲を右のマニュピレーターに保持させたまま、シールドに装備されていたシュツルムファウストを発射する。
命中。
足をもがれた敵が怯むことなくサーベルを発振し、さらに接近する。


――

和は敵の群れの中に入り、長距離砲を持った敵が、艦に大経口の実体弾を撃ち込むのを見て、頭に血が上った。

和「何よ…やめてよ…やめなさいよっ!!」

敵が多すぎ、紬も他の機体と交戦状態である。
和は得意のチーム戦ではなく、単機で交戦せざるを得なかった。
それが、和に冷静さを取り戻させた。
だが、焦る気持ちは機動を単調にさせる。

和「…敵は長距離砲だから、小回りは効かないはず…」

ビームライフルを連射して、一気に距離を詰める。
衝撃。
敵の撃ったシュツルムファウストで、左足が無くなった。

和「アンタなんかに、私の大事な人を連れて行かせるもんですか!!」

和のジェガンは損傷にも構わずにビームサーベルを発振し、敵にそのまま突っ込んだ。

――

信代「艦も艦なら、艦載機も艦載機だね! そろって死ににきやがる!!」

信代は、そのMSのパイロットの度胸をすこぶる気に入った。

信代「でもそう言うの、嫌いじゃないんだな…いい度胸だ!! あたしの命、くれてやるよ!!」

信代は、覚悟を決めて、ランゲ・ブルーノ砲を構え直した。


――

和「艦長は、私が守る!!」

貫いた。そう思ったとき、機体の左側に、短い、強烈な振動を何発も感じた。

後ろを振り返ると、艦に幾つもの弾着の光が見えた。
敵は、はじめから艦を目標にしていたのである。

和「…しまった!!」

もう、艦はボロボロだ。
爆発の光がそこここから生まれ出ている。
脱出しなければ、クルーは…艦長は…。

和は、艦長のもとに飛んできたかった。
しかし、目の前にはまだ数機のギラ・ドーガが紬の機体と交戦中だった。
他の艦隊直掩もまだ交戦中だ。
和が紬の掩護をしようと前進をかけたとき、紬の通信が彼女の耳を打った。

紬「艦長さんのところに、行ってあげて!!」

和「でも…まだ敵が…」

紬「ここは私が引き受けるわ! 早く!!」

和「でも、単機じゃ…」

紬「行け!!」

紬の強い言葉を聞いて、和は迷わずラー・チャターの艦橋部に取り付き、接触回線を開いていた。


戦闘ブリッジ内に、和の声が響いた。

和「艦長、脱出してください!! 艦はもう…!!」

艦長「まだだ! アクシズが分割するのを見るまでは…」

その時、正面に3つの大きな火球が観測できた。

副長「核ミサイルが…阻止されたのか…?」

次の瞬間、アクシズ付近で大きな爆発が起こった。

副長「いや、一発はアクシズへ…」

それを見て、艦長が落ち着いた声で命令した。

艦長「一発じゃ足りんかったな…当艦は、引き続きアクシズに接舷するラー・カイラムを、身を呈して掩護する。」

和「艦長!! もう無理です!! 艦はその役目を果たしました!! 脱出してください!! お願いします!! 生きて…」

和の絶叫に近い懇願が戦闘ブリッジ内に飽和しているのを見かねて、副長が艦長に目配せをした。

艦長「何だ、副長。」

副長「あなただけ通常ブリッジに上がってください。 うるさくてかないません。 ここは私らだけで何とかなりますから…」

艦長「…しかしな…」

艦長が周りを見る。
戦闘ブリッジをほったらかして、女に会いに行くというのは、どうも責任者として不適切な気がしたのである。

通信手「艦長は、邪魔なんですよね…最後まで、イチャイチャしてるとこ見せつけたりして…上が空いてんですから二人だけでやってくださいよ。」

レーダー手「女の声は、監視機器とレーダーに響きますんでね、黙らせたいんですけど、我々じゃ役不足ですな。」

砲手「あーあ、我々は、自分の女も黙らせられない男に付き合って死ぬんですか?」

操舵手「早く行かないと、ラー・カイラムを敵に晒しちゃいますよ? 分かったら、痴話喧嘩は上でお願いします。」

副長「…最期の時くらい、静かに迎えさせちゃくれませんかね。 みんな考えたいこともあるんです。 うるさいのは、ゴメンですよ。」

艦長「すまない、諸君。」

艦長は、そう言い終わるやいなや、通常ブリッジに上がっていった。


紬は、単機で4機2個小隊を相手にしていた。
だが、この状況にもかかわらず、不思議なほど心は落ち着いていた。

紬「フフフ…人の為に命を掛けるの、夢だったの。」

冷静に敵機を見ると、弱い部分が見えてくる。
数を頼みにしている敵だった。
目の前の敵をいなして、弱い敵機に向かっていく。

紬「チームワークが、なっていないわね!」

数を頼みに押してくるのは、各人の役割が明確でないからだ。
チーム訓練を重ねてきた紬には、それが手に取るように分かった。

紬「落ちなさい!!」

3射目で、弱い敵機をビームが貫いた。
そうすると、他の敵機も目に見えて動揺を始めた。
躊躇せず、突っ込んでいく。

紬「和ちゃんと、艦長さんの最後のひととき、邪魔はさせない!!」

また、弱い部分を見つけた。
ツノ付きの機体だった。

紬「指揮官が、怖がってちゃ終わりよね!!」

機体をまっすぐ突っ込ませるが、敵を捉えたジェガンはオートで回避機動をとりながら突進する。
敵のうろたえ弾が装甲をかすめたが、ビームマシンガンの低出力ビームはビームコーティングに弾かれて装甲板を焦がしながら霧散していった。

紬「もらった!!」

敵を貫くと、警報音がコックピット内に響いた。
2機の敵が、並んで接近してくる。
衝撃が走り、シールドが吹き飛んでいた。

紬「シールドなんか、要らないわよ!! 軽くなって、いい感じだわ!!」

ダミーを放出し、一旦後退をかける。

敵は、ようやく紬に連携して当たることを思いついたらしい。
2機が分かれて、紬を挟みこんでくる。

紬「…まだまだ…」

敵を振り払うように回避機動をとりながら、隙を窺う。
Gが、体にのしかかる。
アーム・レイカーを操作すると、それに答えるように体が上下左右に、暴力的に揺さぶられる。
被弾の衝撃も加わり、紬の背骨がミシミシッ、と軋んだ。

1機、ハッキリと敵を捉えた。
反射的に右人差し指に力を込めると、次の瞬間、その機体がビームの直撃ではじけ飛んでいた。

残り1機。

そう思って周りを確認すると、さらに2機1個小隊が紬の攻撃に回ってきていた。

紬「ウフフ…私ったら、モテモテね…」

紬「でも私、女の子同士にしか、興味ないのよね!!」

弱い部分を探してみた。
見つからないな、と思った。

艦長が通常ブリッジに上がると、艦橋部に取り付いたジェガンのコックピットハッチが開いて、和の姿が確認できた。

そのまま、二重になっているブリッジのサイドハッチから和が艦内に入り込んで、艦長の胸に飛び込んだ。
見つめ合うと、すぐに二人はヘルメットをかなぐり捨てた。

和「あなた!!」

艦長「和、さよならだ。 ジェガンに戻れ。 ラー・カイラムの掩護をしろ!」

和「嫌よ!!」

艦内に、衝撃が走った。
かなり大きい。

艦長「もう艦が持たん! 艦長命令だ! 出ろ!!」

和「嫌だったら、嫌なの!!」

艦長「そんなに死にたいのか!!」

和「あなたを失うくらいなら、死んだほうがマシよ!!」

艦長「このわからず屋め!! 君がそんなにアホだとは思わなかったぞ!!」

涙に濡れた和の顔が、フッ、と笑顔を作った。

和「私、あなたの言う事なんか、まともに聞いたこと、あったかしら?」

それにつられて、艦長の顔も、笑顔になった。

艦長「そういえば、無かったな。」

一瞬、見つめ合った後、艦長が和を抱きしめる手に力を込めて、言った。

艦長「仕方ない…もう、君を離さんからな! 地獄の底まで、私についてこい!」

和「…その言葉、プロポーズとして、受け取るわ。」

二人の唇が重なりあった瞬間、ラー・チャターは、和のジェガンもろとも爆散し、宇宙の塵になった。

紬が覚悟を決めたとき、2機のギラ・ドーガがほぼ同時に爆散していた。
次の瞬間、味方を失った残り1機を反射的に紬のビームが捉えていた。

紬「味方!?」

ロンド・ベル兵1「ラー・チャターMS隊の方ですね! ラー・カイラムMS隊、第3小隊です! 掩護します!!」

紬「助かります!!」

ロンド・ベル兵2「ラー・チャターのお陰で、何とか作戦を続行出来ているんです。 感謝したいのはこちらですよ!!」

紬「来る!!」

さらにギラ・ドーガが2機、紬達に向かってきた。
敵の後ろを取ろうと旋回をすると、宇宙空間を照らす大きな火球がチラッ、と視界に入った。
ラー・チャターの、最期の光だった。

紬「和ちゃん…艦長さん…。」

戦闘中の紬はそれを目の端に捉え、二人の名前を呟くことしか出来なかった。


第十一話 律動! おわり



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