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律の小隊は、戦場の異変をすぐに察知していた。
無駄な交戦はせず、唯たちと合流しようとアクシズ付近まで流れてきたのである。

律「味方が、νガンダムを先頭にぼちぼち引いていくぞ!」

艦の方角に、発光信号が瞬いた。

澪「信号弾だ! 後退だぞ!」

律「核ミサイル、阻止されちゃったもんなー!」

戦闘が終結しかけている戦場に、激しい戦闘の火線が見えた。

律「おい、あれ!」

澪「識別信号、和の編隊だ! 後退命令に気づいてないのか!?」

律「行くぞ!!」

2機は、ポツポツと後退を始めた味方機の流れに逆らって、まだ戦火の燻る宙域にジェガンを突進させた。

再起不能かと思われた唯は、憎しみによって立ち上がった。
しかし、極端な感情は、諸刃の剣となりうる。

唯は、憎悪に飲まれそうになっている。

和は、痛いほどそれを感じていた。いや、実際、心が痛かった。 
唯をけしかけたのは艦長だったが、和が提案しなければ、唯は今頃ロンデニオンの療養所だったからだ。

唯「当たれ、当たれ、当たれ当たれ当たれ当たれ!!!!」

梓「唯先輩、落ち着いて!!」

唯は、もう限界かもしれない。
和の頭に、後退という言葉がよぎった。
核ミサイルをことごとく防がれ、本隊はもう一度作戦を立て直す必要に迫られるはずだ。

戦闘はもう、そう長くはない。
そう、和が思った瞬間、動きのいいギラ・ドーガが編隊の中に突っ込んできた。

和「唯、梓ちゃん!! 正面のギラ・ドーガ!!」

こう、号令するだけで、編隊の2機は即座にターゲットを変更する。
訓練通り、和がライフルでギラ・ドーガに注意を向けさせ、唯と梓の機体がその後方から、挟みこむように包囲した。

終わりだ。
迂闊な敵だな、と和は思った。

頭痛に耐えながら、いちごは3機のジェガンを相手にしていた。
頭痛が心身を蝕んでいる状態で戦闘が長時間続くと、さすがにこの数の敵はマズイ。
そう思っていると、レシーバーに、聞きなれた声が入ってきた。

姫子「若王子さん! 助けに来たわ!!」

その声とともに、自分に向かっていた殺気がスッ、と引いていく。
嫌な予感がしてその声の主の方に向き直ったとき、いちごの背筋に、冷たいものが走った。

それは、酷くゆっくりとした光景だった。

まず、姫子のギラ・ドーガが1機のジェガンに食いついた。
この時点で、いちごはこのジェガンの役割に気づいていた。

囮である。

いちごが姫子にそれを伝えようとしたとき、
姫子の機体の斜め後ろにそれぞれ2機のアタッカーが配置を終えており、そのうちの1機が、ライフルを放った。

姫子のギラ・ドーガは、左腕を失い、ビームに弾かれてくるくると回転しながら宇宙空間を溺れ始めた。

次の瞬間、もう1機のジェガンが突進し、サーベルを姫子のギラ・ドーガに突き立てていた。

敵が離れると、すぐに姫子のギラ・ドーガは、爆発して影も形も無くなった。

姫子に抱き締めてもらった時の、優しい香りがいちごの鼻腔をくすぐったような気がした。
頭の中に、姫子の掌の中で、動かなくなった蝶のイメージが浮かぶ。

いちご「あ・・・ああ・・・嫌・・・嫌・・・」

視界が、ぼやけていく。
涙だった。

まだ、一度だって姫子にありがとうと言っていない。
いつでも、言えると思っていたから。

激しい後悔の念がいちごの心を押しつぶし、そこから悲しみと憎悪が溢れでた。

いちご「立花さんを…私の…大切な人を…!」

残りの2機が、姫子を殺したジェガンをカバーするようにいちごの前に立ちふさがる。
いちごは、その2機のことなど目に入っていない。

いちご「取り返しが、付かないことを!! ファンネル!!」

残り1基のファンネルが、妨害する2機の間を通り抜けて姫子を殺した機体に飛んでいき、ビームを浴びせかけた。

しかし、そのビームは装甲表面で虚しく散っていく。

いちご「ビームコーティングか…小賢しい!」

耐ビームコーティング処理は、短時間ならビームを無効化するが、長時間ビームの照射が続くと、すぐに表面が劣化して、効果がなくなってしまう。

いちごはファンネルを振りほどくように回避機動を取る敵機にファンネルをぴったりと追随させようとした。
だが、敵機は不規則な回避機動を取り、うまくファンネルの狙いが定まらず、装甲の一点に攻撃を集中させることが出来ない。
その回避機動に、いちごは思い当たるふしがあった。

いちご「…お前は、私が殺したはずだ!」

陽動作戦の時、フラフラと戦場に現れた、素人。
攻撃をかわすたびに成長し、馳せ違う頃には、いちごに匹敵する腕になっていた、あの危険なパイロットだ。
確かに、コックピットをサーベルで抉ったはず。
殺した、はずなのに。

いちご「邪魔をするな、亡霊が!!」

いちごの意志は、それにも怯まず、振りほどこうともがくジェガンに、根気よくファンネルのビームを浴びせ続けた。
すると、ビームを弾きながらも、徐々にその装甲板が赤熱しだした。

残り2機がいちごの機体に攻撃を仕掛けてくるが、
いちごはそれに対応しながらも、ファンネルの射撃位置を敵機の胴体から外してはいない。

しかし次の瞬間、頭に重い衝撃が走り、最期のファンネルは消し飛んでいた。

いちご「新手か!!」

同じようにバズーカを装備した、2機のジェガンがいちごに突っ込んでくる。

姫子を殺した敵は、ファンネルを破壊した散弾をモロに喰らってボロボロになっているが、
動きのいいその2機と、先程囮だった1機が素早くかばうような態勢をとった。

その隙に、残りの一機が姫子を殺した敵を引っ張って後退を始める。
しかし、いちごは敵を逃がすつもりは無かった。

いちご「そいつを殺させろ!!」

いちごは、躊躇なく敵に突っ込んでいった。

和の散弾は弾切れだった。
唯がファンネルにやられてしまう。
そう思った瞬間、唯の機体ごとファンネルに散弾があびせかけられた。

律「唯、大丈夫か!?」

和「律、来てくれたの!?」

先程から、味方の第二波がアクシズ付近に合流していた。
戦いの中で、律が和たちの編隊を見つけてくれたのだった。

澪「後退命令が出ているんだ!」

和「分かったわ!! 後退掩護をお願い!!」

律「了解!!」

和「梓ちゃん! 唯の機体を艦まで曳航!!」

梓「はいです!!」

和「撤退!!」

ダミーを放出して後退をかけた編隊に、赤い特別機が単機で突っ込んでくる。
全くおそれを感じていないようだ。

律「私達が相手だ!!」

律が後退しながら応戦しようとしたとき、重装型のギラ・ドーガが長砲身の重火器を編隊の真ん中に打ち込んできた。
それに反応したのか、サイコミュ搭載機の動きが、一瞬止まった。

澪「今だ、逃げるぞ!!」

その隙に、5機は戦場を離脱することができた。


――

信代「深追いするな!!」

その声に、いちごの体がピタリと追撃をやめた。
戦闘者として強化された彼女は、命令口調に体が勝手に反応してしまう。
強化人間の、悲しい性だった。

いちご「何故止めたの? 奴らは…立花さんを…!」

信代「立花さんが…やられたのか?」

信代は、信じられなかった。
姫子の死もそうだったが、いちごが涙声なのがである。

信代「私等は戦争やっているんだ。 行動は統制されなきゃならない。 私等の任務はノズルの防衛だったろ? 敵の撃滅じゃ無かったはずだ!」

いちご「私には、関係ない。 彼女の仇を討つ! 行かせて!!」

信代「補給も整備も無しでか? ファンネルも、無いじゃないか?」

いちご「…っ!」

信代「とにかく、アクシズに帰投するよ。」

潮「敵はまた来るよ! その時一緒に仇を討とう!」

3機のMSが、アクシズに吸い込まれるように、消えていった。


第十話 天に火を噴くもの! おわり

次回 第十一話 律動!



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