敵の攻撃は激しさを増してくる。
姫子は今まで、ジェガンを2機撃墜している。
しかし、それでも目の前にまたジェガンが迫ってくる。

姫子「…そんなに数は多くないはずなんだけど…!」

姫子のサーベルがジェガンを捉えた、と思ったが、敵の右腕を斬り落としただけだった。
もしかしたら、疲労がたまってきたのかも知れない。
敵が後退した隙を付いて、いちごを探す。

姫子「若王子さん…!」

いちごの赤い機体に、3機のジェガンが絡み付いている。
それを見て、姫子の中に怒りが湧き出してきた。

姫子「どうして…あの娘ばかりを…」

蔓草のように纏わり付くジェガンの機動を読み、射線をくぐっていちごの機体は何とか大した損傷もなく健在だった。
しかし、敵の苛烈な攻撃は、いちごに反撃の機会を与えていない。

姫子「…若王子さんばかりを、狙うのよ!!」

相手が腕のいいパイロットと見るや、チームワークでその動きを封じ、撃破しようというのは戦いの常套手段ではあった。
しかし、いちごに対して過剰に思い入れのある姫子には、それが別の光景に見えていた。

姫子「今助けに行くわ!!」

何故、彼女をいじめるのだろう?
今だって、3機も彼女に纏わり付いている。
目立つ機体に乗っているからって、ファンネルを使えるからって、彼女は特別でも何でもないのに。
ただの寂しがりな、女の子なのに…。

姫子は目の前の光景に、そういった理不尽さを感じていたのである。
もしかしたら、敵パイロットのいちごに対する執念のようなものをも感じていたのかもしれない。

ビームマシンガンでいちごを掩護しようとしたとき、また姫子の目の前にジェガンが現れた。

姫子「邪魔をしないで!!」

焦る気持ちが姫子の攻撃を散漫なものにする。
しかし、その気迫は目の前の敵を追い詰め、傷付け、ついには撃破した。

姫子「若王子さん!!」

もうすぐ、若王子さんに手が届く。
今度はあたしが、助けてあげられる。

彼女は、いつもああやって独りで全部を背負い込んで…孤独に戦っていた。
今だって3機を相手にして、誰かに助けを求めることすらしないではないか。
でも、そのたびに苦しんで、無理をして…きっと辛い思いをしているに違いない。
もしかしたら、怖くて逃げ出したいのかも知れない。

それにあたしは、気がついた。
だから、手を差し伸べてあげる義務がある。
いや、義務とかじゃない。 助けてあげたいんだ。

人の鋭敏な感覚と、発達した感性は、そうやってお互いを思いやり、助けあうためのものではないのか。

姫子「あたしが、助けてあげる!! 守ってあげる!!」

あの3機のジェガン達は、なんなのだろうか?
さっきから、執拗に若王子さんを追い掛け回して、自分たちのことを卑怯だと思わないのだろうか?
ああやって、多数の敵に追い掛け回される彼女の気持ちを、きっと想像すら出来ないのだろう。

姫子「あんな奴ら、すぐにあたしが追い返してあげるからね!!」

姫子の心は、うさぎを追う猟犬のような3機のジェガンに対する怒りで飽和していた。

しかしその怒りと、早くいちごのもとに行ってやりたいと焦る気持ちが、姫子の機動を単調なものにしていることに、彼女は気づいていなかった。


―――

艦長は、通信手の言うことを聞き逃した。
さっきから情報が次から次へと押し寄せてくるのだ。

艦長「あん? 何だと!?」

通信手「右弦側から熱源多数、敵艦隊と思われます!!」

艦長「クソ! ルナ2からの増援か!?」

通信手「そう思います!! ラー・カイラムから、第二波MS隊の出撃要請!! 艦隊は直掩のみで持たせるようにとのことです!!」

艦長「田井中!! 出ろ!!」

律「了解!!」

艦長「琴吹、いいな!!」

紬「持たせてみせます!!」

さっきから、大して時間は経っていない。
それでも艦長は、もう何時間も戦闘を行っているような錯覚に陥っていた。

そして、永遠に戦いが続くのではないかと、絶望しそうになるのだ。

カタパルトに、律のジェガンが固定される。

律「田井中律、いっくぜー!!」

カタパルトで加速され、敵の居る宙域に投げ出される。
続いて、澪も射出される

澪「秋山澪、イクッ!!///」

2機は、第二波のMS隊と共に、アクシズに向かう艦隊の足を止めに前進する。
澪が、不安そうに律と回線を開いた。

澪「唯達、大丈夫かな?」

律「あんだけ訓練をやってきたんだ! そう簡単に落とされたりしねえって!」

澪「そうだな! みんなで、生きて帰るんだもんな!」

律「澪、敵だ!!」

敵MSの航跡が、クイ、とこちらに曲がってきた。
訓練通り、ここで散開。
散開した間隙を、ビームが抜けていった。
律たちの正面でも、戦闘が始まったのである。

艦隊は、重要な局面を迎えようとしていた。
本命の核ミサイル6発を含む第六波ミサイルを、アクシズに向け発射しようというのである。

艦長「いよいよ本命の第六波だ!! ブライト司令が怪しげな筋から入手した虎の子の核ミサイル6発で、アクシズは粉々になるぞ!!」

ブライトが15発の核弾頭を入手した、という情報だけは艦長たちにも知らされていたが、それがどこからのものなのかは伏せられていた。
違法に入手したものだろう事は誰の目にも明らかだったが、それを咎めるものが居るはずもなかった。

艦長「第六波ミサイル、発射だ!!」

砲手「第六波ミサイル、発射!!」

艦長は、これで終わってくれ、と、心のなかで何度も祈っていた。

和は、時間を確認し、目の前にミサイルの航跡が現れるのを見て、とっさに叫んでいた。

和「本命の核ミサイル群が来るわ!!」

和がそう言うやいなや、今までミサイルの航跡があった場所に、六つの大きな火球が姿を現した。
和は内心舌打ちをした。
核攻撃が、何者かによって一度に阻止されたのである。

しかし、心を動かしている暇は与えられない。
赤い特別機は、まだ健在である

和「分が、悪いかも知れないわね…」

ルナ2からの敵艦隊と、こちらの第二波も宙域に合流し、戦場は混沌とし始めてきている。


――

信代は、何度も舌打ちを繰り返していた。
主兵装であるランゲ・ブルーノ砲が使い辛い状況だったからである。

信代「ちっ、こう混戦になっちゃあ、仕方ないね!」

敵味方が混じり合う前は、接近信管付きの榴弾で弾幕を張ることもできたが、混戦になってしまえば味方に当たる可能性もあるため、弾幕は張れない。

モンロー効果を利用した対装甲用榴弾もあるにはあるが、弾速も遅く、MS相手には使い辛い。
これは対艦用の弾薬で、MS相手には、同じような弾薬であるシュツルムファウストを使ったほうがずっと効果的であった。

徹甲弾で敵MSを何機か落としたが、弾数がすでに残り少ない。
おまけに砲身の長いこの武器は、接近戦では取り回しが著しく悪かった。

信代「対艦戦が、出来ればね…」

潮「予備のマシンガンをあげるよ!! 受け取って!!」

信代「すまん! 恩に着る!」

阿吽の呼吸で、僚機の潮からビームマシンガンを受け取ったが、ランゲ・ブルーノ砲を投棄することはしなかった。
敵が引いたら、また榴弾をお見舞いできるからである。

ランゲ・ブルーノ砲を機体後方に格納すると、釣竿を担いでいるようにも見える。

信代「ホントに間抜けだね! 大は小を兼ねるってのは、嘘だ!」

潮「仕方ないよ! 長距離砲だし!」

さっきから、姫子達とははぐれてしまっていた。
潮からもらったビームマシンガンは使いやすかったが、信代はそのチマチマしたビームの光跡に、違和感を拭いきれなかった。

信代「艦を、やりたいねぇ…思いっ切りさ…」

フラストレーションのこもった信代の呟きは、戦場の喧騒に紛れて、潮には聞き取れなかった。


――

艦も、敵の攻撃にさらされていた。
ルナ2からのネオ・ジオンの援軍である。

数は多く無いものの、艦隊直掩も同じように数が少ない。
そして、攻める方と、艦を守っている方では、後者のほうが圧倒的に不利である。

純と紬はいっぱいいっぱいだった。

紬「右弦側!?」

純「艦をやらせるわけには行かないんだから!」

純のジェガンが艦を狙うギラ・ドーガに向けてライフルを連射した。
紬は掩護に行きたかったが、自分の前にも敵が迫っていたため、それはかなわなかった。

純「艦橋部!?」

純は、ギラ・ドーガが1機、艦橋部の目前に迫るのを見た。
シールドに搭載したシュツルムファウストを構えている。

純「艦長にもしもの事があったら、真鍋先輩が…」

純は、とっさにギラ・ドーガと艦橋部の間にジェガンを滑り込ませていた。

シュツルムファウストが、発射される。
シールドごと、左手を持って行かれた。

もう一発。
機体を守るものは、もうない。

ギラ・ドーガの後ろに、サーベルを振り上げた紬のジェガンが見える。

もう艦は、大丈夫。

純「艦長、ちゃんと真鍋先輩を、大事にしてくださいね。」

純は、ゆっくりと目を閉じた。

艦長は、艦をかばうように爆散したジェガンを、唖然と見ていた。

艦長「おい…あれは誰だ…?」

通信手「鈴木…少尉です…」

艦長「鈴木だと…?」

艦長の脳裏に、純に手を焼かされてきた日々の記憶が蘇ってきた。

艦長『お前、即応部隊に配備されたからって、クサってるらしいな。』

純『当たり前じゃないですか! 地球のために命なんか賭けたくないですよ! お気楽なコロニー勤務が良かったです!』

艦長『命が惜しいならなんで軍隊なんか入ったんだよ!』

純『資格を取るためですよーだ!! すぐに辞めてやりますからね!!』

艦長『今日はましな顔してるじゃないか。』

純『面白い事、気づいたんですよ!』

艦長『何だ?』

純『艦長、真鍋先輩のこと、好きでしょ?』

艦長『…分かるのか!?』

純『私が恋のキューピットをやってあげましょうか?』

艦長『二つ返事で頼む!!』

純『はいはい。』

艦長『最近は楽しそうに勤務しているじゃないか?』

純『艦長と真鍋先輩見てると面白いんですよ!』

艦長『私は真面目なんだ! 面白いとは何だ!!』

純『中学生の恋愛見てるみたいですよ~!』

艦長『貴様、張り倒すぞ!!』

純『じゃあ協力してあげない!』

艦長『すみませんでした。』

純『艦長、今日は暗いですね。 どうしました?』

艦長『失恋した。 真鍋少尉に嫌われるようなこと、言っちまったんだ…正直者は、バカを見るんだよ。』

純『エッチさせてくれ、とか言っちゃったんですか?』

艦長『アホタレ! 違う!!』

純『ふうん…それで真鍋先輩、食事の時…そうだ、簡易休憩室に居て下さい! きっと誤解が解けますよ!!』

艦長『誤解だあ?』

純『私は、恋のキューピットですから! 休憩室で待っていてくださいね!!』

艦長「あいつが…あんなことするわけ無いだろ…資格取るために軍隊入った…あいつが…」

通信手「艦長…ラー・カイラムから、撤退命令がでています。」

艦長「…信号を、出せ。」

艦長「…畜生…くそったれ…。」

艦の周りに、もう敵はいなかった。
艦長は、俯いている。

副長は、泣いているのかも知れない、と思ったが、確認はしなかった。


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