第十話 天に火を噴くもの!

ブリッジは、緊張でパンパンに膨らんだ風船のようになっていた。

艦長「第一波ミサイル、発射用意だ!!」

艦長の号令で、それに穴が開いたようにせわしなくブリッジが動き出した。

砲手「第一波ミサイル、発射用意!!」

通信手「じ後、管制を戦闘ブリッジへ移行します! ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布!!」

副長「総員、有視界戦闘用意!! 監視機器を作動させろ!!」

レーダー手「…ミノフスキー粒子散布完了! 監視機器、良好です!!」

艦長「…3・2・1 第一波ミサイル、発射!!」

砲手「第一波ミサイル、発射!!」

ラー・チャターの前部ミサイル発射管から、次々にミサイルが発射される。
旗艦ラー・カイラムによって統制された艦隊すべての艦が、同じようにミサイルを発射し、その針のような航跡がアクシズへ殺到した。

戦闘開始の雰囲気は、MSデッキにも伝播していた。

通信手「MS隊各員、発進用意! 繰り返す MS隊各員は、発進用意!!」

律「澪、私らは第二波だ! 大丈夫か!」

澪「ああ、もう怖くない!」

唯「あずにゃん!!」

梓「やってやるです!!」

和「いよいよね!」

紬「必ず…帰ってくる。」

純「真鍋先輩のウエディングドレス姿見るまでは死にませんよ!」

和「こんな時にふざけないでよ!/////////」

戦闘中はブリッジのやり取りが艦内放送となり、艦内のどこにいても聞こえるようになっている。

通信手「デッキ内減圧5分前! 作業員はノーマルスーツの点検!」

艦長「第二波ミサイル、発射用意!!」

和は、艦長の声を聞いて、心がくすぐられているような気持ちになった。
ミサイルが次々に発射される中、出撃前独特の重苦しい緊張が、MS隊のメンバーにまとわりついてくる。
純が、その緊張を振り払うように、冗談を言った。

純「真鍋先輩、艦長の声、凛々しいですね!」

和「ハァ…しつこいわよ!」

和は、呆れて物が言えないようなふりをしながら、少し誇らしい気持ちになっていた。


――――

最初に敵を感知したのは、いちごだった。

いちご「…来る!」

その声に、全員が防御の態勢を取る。

潮「おい、全然見えないよ、本当に…」

来るのか? と潮が言おうとしたときに、前方に瞬くミサイルの光芒が出現した。
アクシズから出た、赤い機体がMS部隊に命令する。
総帥の専用機だった。

シャア「MS部隊は、アクシズの北弦より攻撃! 味方にやられるな!」

信代「言われなくったって…! 打ち落とすよ! ノズルはやらせない!!」

MS部隊が前に出て、ライフルで次々にミサイルを落としていく。
アクシズ付近からは、艦艇がメガ粒子砲や対ミサイル粒子弾で対抗している。

エンジンのノズルは、無傷のままだ。

信代「相手がMSじゃなけりゃ、ちょろいもんさ!」

と、信代が言った瞬間、ひときわ大きな火球がアクシズを照らし出した。

姫子「何…あれ…?」

いちご「核爆発…。」

慶子「あんなのが当たったら、ノズルが一発でおジャンになっちゃうじゃない!」

信代「敵も馬鹿じゃないってことさ! 第二波もきっと核混じりで来るよ! 全力で阻止する!!」


まだ、戦闘は始まったばかりだが、たった一発で任務成功を脅かす核ミサイルの存在はアクシズのノズルを守る信代達にとって、大きなプレッシャーとなる。
それが、知らず知らずのうちに疲労を誘発するのだ。

いちご「…第二波…来る!」

そんな中、敵を素早く察知し、少しではあるが行動の余裕を与えてくれるいちごは、信代達にとって女神のような存在であった。

信代「撃ち落せ!」

ミサイルが撃ち落されるときに発する無数の光が、アクシズの前面に、帯のように広がった。
黙って見れば、それは美しい光景だったが、そんなものをまじまじと見る余裕は、誰にもなかった。


――――

艦は、敵MSが展開中の宙域に近づきつつあった。
艦長は、この言葉を発するのが、一番嫌だった。

艦長「ミサイル第四波発射後、MS隊、第一波、出せ!」

砲手「第四波ミサイル、発射!」

正面のディスプレイに映る顔を見て、ドキリとする。

和「第1編隊、出ます!」

艦長は、ゴクリとつばを飲み込んだあと、

艦長「必ず、帰って来い。」

と言った。

和が笑顔で返事をしたあと、彼女を乗せたジェガンは射出され、ベース・ジャバーに飛び乗って戦闘宙域に消えていった。

和は、前にも同じような光景を見たことがある、と思った。

和「…火が付いた…!?」

ひときわ大きな光がミサイル爆発の間に見え隠れする。
核パルスの光である。

唯「でもフィフス・ルナの時と違って核ミサイルで阻止できる! まだあきらめちゃいけないよ!」

梓「そうです!! 止めに行くです!!」

和が立ち直った唯を徹底的にしごいていたので、彼女が編隊長として、唯の小隊が麾下についていた。
紬と純の小隊は、艦隊直掩である。
彼女たちはもう、誰と誰が組んでもチームの形になる位の練度には達していた。

和「…見えた! 離脱!!」

その号令と共に、ベース・ジャバーからジェガンが離脱し、空になったベース・ジャバーがそのまま敵に突っ込んでいった。
戦闘、開始である。

叩き込まれたチームワークで、和が囮になり、梓が追い散らし、唯が直撃を浴びせ、瞬く間に1機のギラ・ドーガを撃墜した。

和「ノズルに直接攻撃をかけるわ!! 艦隊は無視!!」

敵を落としながら、3機はノズルに近づいていく。
その方向には、憂を殺したあの特別機が待ち受けている。

アクシズの異変は、ラー・チャターもすぐにキャッチした。

副長「あ…アクシズに火が入りました!!」

艦長「んなこた見りゃ分かる! 第五波ミサイル発射!」

砲手「第五波ミサイル、発射!!」

艦長「戦闘宙域に突っ込むぞ! 総員、第一戦闘配置!!」

通信手「第一戦闘配置!!」

艦長「ダミー放出! 艦隊戦用意!! 回避運動始めろ!!」

操舵手「了解!!」

艦や岩の形をしたダミー・バルーンが次々に膨らんでいく。
そしてそれは、すぐに敵の砲火にさらされて破れ始めるのだ。
ダミーの風船に敵の攻撃が当たるたびに、艦長はひやりとする。

目の前に、MSの航跡が互いの後ろをとろうとくるくると円を描いているのが幾つも見える。
それに混じって、爆発の光も見えるのだ。

艦長「和、必ず帰ってこいよ。」

艦長は、誰にも聞かれないように、独り、呟いた。


――――

核パルス推進の超大な光を目の当たりにして、防衛にあたっていたMS隊は軽い興奮を覚えた。

潮「エンジン、点火したよ!!」

信代「よっしゃ! そのまま、行っけー!!」

姫子「気を抜かないで!!」

姫子がそう言うやいなや、また前方で核ミサイルの爆発が起こった。
興奮が一気に冷める。

いちご「敵MS隊、接近!」

その声に、MS隊が信代を中心にしっかりと隊形をとり直した。
次の瞬間、いちごの機体が飛び出して、2機のジェガンと交戦状態に入った。

姫子「若王子さん!」

姫子が掩護に向かおうとしたとき、2機のジェガンは、いちごの機体から放出された2基のファンネルにエンジンを撃ちぬかれて爆散していた。
その隙に、いちごはライフルでまた1機、撃墜している。

信代「…すげえ…。」

姫子は、それを見てマズイと思った。
また、いちごが頭痛に苦しむかも知れないのだ。

姫子「若王子さん、サイコミュは…」

いちご「問題ない!」

いちごは姫子の心配をはっきりと言葉で制した。
姫子は、いちごが他の仲間に心配を掛けたくないのだろう、と思って言葉を変えた。

姫子「若王子さんだけに負担を掛けないで、私達も前に出るわよ!!」

信代「言われなくったってね!!」

潮「ちょっと遅れをとっただけだよ!!」

慶子「あいつだけに、いいカッコさせないよ!」

目の前に、またジェガンの編隊が出現する。
信代達が前に出ようと思った瞬間、2基のファンネルが1機のジェガンを爆発させた。

信代「やるじゃないか。」

信代が、ニヤリと笑って軽口でいちごを励ました瞬間、打ち上げ花火のような光のシャワーがファンネルにやられたジェガンの残骸を消し飛ばしていた。

信代「MS戦に、あんな細かい散弾を持ってくるアホがいるのかい!? そんなんでやられるほどギラ・ドーガはヤワじゃないよ!!」

その軽口に、いちごが深刻に返答する。

いちご「…ファンネルを、やられた。」

信代「は?」

いちご「奴らは、広範囲を制圧できる散弾でファンネルを無効化しようとしている。」

信代は、そのやり取りですべてを理解した。

信代「せこい手を使いやがる!! 潮、慶子、散弾を撃つジェガンを黙らせな!!」

潮慶子「了解!!」

通常兵装のジェガンの群れに混じってバズーカを背負ったジェガンの3機編隊が見える。 
1機はバズーカを手に装備している。 さっき撃ったのはこいつだろう。
しかし、その他にもジェガンが居る。

慶子が一瞬、通常兵装のジェガンに目移りした瞬間に、
バズーカを右肩部のウェポンラッチに接続したジェガンが2機、慶子のギラ・ドーガを取り囲み、ビームで撃ちぬいていた。

潮「飯田さんがやられた!! バズーカ装備の奴ら、動きが妙にそろってる!!」

いちご「バズーカを潰せば…」

いちごはさらにファンネルを2基放出し、バズーカを手持ちにしているジェガンの方に飛ばした。

いちご「行け!」

バズーカを、2方向から細いビームが溶断する。
次の瞬間、さっきまでバズーカを持っていたジェガンがシールドを構えた。

いちご「…そんなもので!」

いちごは、ファンネルを防ごうとしているのだと思い、ファンネルをそのジェガンの斜め後ろに移動させる。
その際、ビームライフルでバズーカを持った他のジェガンを相手にするのを忘れてはいない。

しかし、あろうことか残りの1機がシールドで防御しているジェガンに遠慮無く散弾を浴びせかけていたのである。
シールドは、散弾を防ぐ為のものだったのだ。
この散弾で、さらに2基のファンネルを損失した。

いちご「…!」

ファンネルは残り2基、と思った瞬間、機体右側に殺気を感じ、鈍足な機体にムチを打って回避機動を取らせる。

いちご「…来る!」

機体右側に衝撃が走り、肩のアーマー型コンテナに格納されていたファンネルが使用不能になった。
また散弾だ。 ファンネルは、残り1基。

その時初めて、いちごはこの統制された動きの3機が、自分に向けて猛烈な殺意を抱いていることに気がついた。
ライフルでいなすが、3機はまるで一つの意思のもとに動いているように別れてはひとつになり、いちごに殺気と攻撃を向けてくる。

いちご「…私を…憎んでいる…?」

この時いちごは初めて、軽くではあるが敵に対して恐怖の念を抱いていた。

梓のバズーカは、ファンネルで破壊された。
しかしそんな事より梓は、唯の攻撃が苛烈になってきているのが、心配だった。
梓と和の2機が何とかカバーしているが、これ以上熱くなられると、チームワークを乱しかねない。

梓「唯先輩、私達と動きを合わせて!」

唯「分かってるよ!!」

憂の仇に向けて、ライフルを連射する。
敵はヒラリヒラリとそれをかわしている。
和が先回りして、後ろから放ったビームも、敵はかわしているのだ。

唯「憂の仇…憂の仇…」


レシーバーに、念仏のような唯の声が聞こえる。
それは、梓にとって恐怖でしかない。

梓「唯先輩!! 訓練を思い出して!!」

唯「あずにゃんうるさいよ!! 黙ってて!!」

さっきから、目の前の敵に散弾以外の攻撃は一発も命中していない。
散弾では、ファンネルを潰せても、MSを撃墜することは難しい。

3機で当たって、1機の敵を仕留められないという事実に、さすがの梓も焦りを感じ始めて来ていた。

和「落ち着いて! 敵は確実に疲れてきているはずよ! 持久戦に持ち込めれば仕留められるわ!」

梓「はいです!」

和の言葉が無ければ、梓も自分を見失っているところだった。
唯も、少し落ち着きを取り戻したらしい。

梓「3機で、一つの仕事をする…!」

3機が連携しているからこそ敵を落とすこともできるが、個々の練度はそう高いわけではない。
フィフス・ルナの時、一度落とされそうになっている梓はそれをよく知っていた。

梓「データは、データなんだから…憂なんか、頼りにしないんだから…」

憂のデータで、ジェガンの動きは格段によくなっているものの、梓はそれを当てにしたくなかった。

憂に、負けてしまうような気がしたからだ。

和「唯、左に回って!」

唯「了解!!」

和が上手く編隊を誘導して、他の隊の味方機から離れすぎないようにしてくれている。
悪く言えば、他の味方機を盾にしているのである。
3機には、MS隊の先頭を切るだけの腕が無いのだ。

梓たちの戦果は、状況判断力と、チームワークだけで何とか持ちこたえている不安定なものなのである。
その危ういバランスが崩れたら、各個に撃破されるだけだ。

唯「憂の仇…憂の仇…」

また唯が熱くなっている、と梓は思った。
心臓が萎縮し、冷や汗が頬を伝った。

憂が、唯を自分のところに引きこもうとしている。
唯が憂に取られてしまう、と梓は感じていた。

梓「憂、お願い…唯先輩を連れて行かないで…。」

梓の祈りの声が、彼女のノーマルスーツのヘルメット内に響いた。


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