第九話 だまし討ちから!

スウィート・ウォーターの港内に停泊している艦隊のうちの一つに、姫子たちのムサカ3番艦も混じっている。
そのMSデッキには演説中のシャアの立体映像が投影され、それを取り囲むように上下左右の壁面に将兵たちが整列していた。

シャア「…地球連邦政府が難民に対して行った施策はここまでで、入れ物さえ作ればよしとして、彼らは地球に引きこもり、我々に地球を開放することはしなかったのである。」

姫子「…」

シャア「…しかしその結果、地球連邦政府は増長し、連邦軍の内部は腐敗し、ティターンズのような反連邦政府運動を生み、ザビ家の残党を騙るハマーンの跳梁ともなった。」

信代「…」

シャア「…それが、アクシズを地球に落とす作戦の真の目的である。これによって、地球圏の戦争の源である地球に居続ける人々を粛清する。」

将兵「うおおおおおおおおおお!!」

潮「…」

将兵「ジーク!! ジーク!! ジーク!! ジーク!!」

シャア「諸君、みずからの道を拓く為、難民の為の政治を手に入れる為に、あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい。そして私は、父ジオンのもとに召されるであろう!」

慶子「…」

将兵「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」

熱狂が冷めると、すぐに出撃準備にとりかかる。
と言っても、演説前にその多くを済ませてしまっているので、MS隊のメンバーがやらなければならないことは殆ど無い。

姫子「あなた達、あまりノッてなかったみたいじゃない。」

信代「ああいうのに興味ないからね。」

潮「あんなのに熱狂するのって、男の仕事でしょ。」

慶子「それよりさ、強化人間は使えるの?」

姫子「若王子少尉でしょ!!」

信代「まあこっちはルナ2と違って大した任務じゃないし、わたし等だけで出来るでしょ。 問題はその後だけどね…」

姫子「アクシズに、ロンド・ベルが来る…でしょ。」

信代「ああ…で、その若王子少尉殿は、戦えるのかい?」

姫子「大丈夫! 彼女なら、やってくれるわ!」

慶子「あなた次第で、でしょ?」

姫子「そういう言い方、しないで!」

信代「まあ、期待しているよ。 しっかり仕事をさせな。」

信代たちと別れた後、姫子はいちごの部屋に彼女を迎えに行った。

シャアの一存で、ヤクト・ドーガを取り上げられ、失望したばかりだった。
問題はなかったのだが、念のために演説の現場には居合わせる事を許可されなかったのである。

そこには、いちごに対する明確な不信感があった。
姫子は、演説の間じゅう、それに耐えなければならなかったのだ。

姫子「大丈夫?」

いちご「寂しかった。」

姫子「あとはずっと一緒にいられるからね。」

いちご「…ん。」

姫子「MSデッキに行こっか!」

いちご「立花さん!」

姫子「…え…?」

姫子は、驚いた。
今まで、いちごが自分の苗字を呼んだことは無かったからだ。

いちご「あなたは、私が守ってあげる。」

姫子「ありがとう。 他の人も、守ってあげてね。 もうみんな、あなたをいじめたりしないんだから。」

いちご「了解!」

それから無言でMSデッキまで向かう。
二人は、軽く微笑み交わして、各々のMSに流れていった。


――――

MS隊のメンバーたちは、ブリーフィングルームでテレビ放送を眺めていた。
シャアの艦隊が、武装解除をしにルナ2へ向かう、というニュースをやっている。

TV「・・・我がスウィート・ウォーターに、独立と勇気をもたらした艦隊の、最後の、栄光の、船出であります。」

律「…このまま終わってくれりゃあいいんだけどな…」

紬「そうね…」

唯「和ちゃんは、何かしてくるだろうって言っているけど…」

梓「う~ん、ここからじゃどうしようも無い気がしますよね…」

澪「取りあえず、待機ってことでいいんじゃないか? いつでも出られるようにはしておこう。」

艦長室では、艦長と和が同じようにテレビにかじりついている。
和は、休暇の一件から暇さえあれば艦長室に通いつめるようになっていた。

TV「…ボン・ボワージュ、我が栄光のネオ・ジオン艦隊。惜別の念は消える事がありませんが、しかし、もうこの艦隊の姿は我々の心の中に残すだけに・・・」

和「…分かりませんね…」

艦長「…ああ…」

艦内電話が鳴り響く。

艦長「もし…何だって?」

受話器を置くと、和が艦長の方に向き直った。

和「なんて言ってたんですか?」

艦長「シャアの艦隊は申請より一隻多いらしい…少ないならまだしも、多いってなんだよ…ワケが分からんな…」

和「このまま終わるんでしょうか…?」

艦長「…分からん…一応ブライト司令がどっかから15発の核弾頭を仕入れたらしい。 事が起こったら、それでアクシズを…(そんな事より、和が近くて幸せすぎるんだが…)」ハアハア

和「一応手は打ってあるんですね。 それにしても・・・う~ん・・・分かりません・・・」

艦長(いい匂いだなあ…)クンカクンカ

言い出しっぺのこの男が、一番緊張感がなかった。


―――

ダミー混じりの艦隊がルナ2に向かった後、姫子たちのムサカ3番艦を含む艦隊が、スウィート・ウォーターの港から出て、アクシズへ向かった。
MS部隊はコックピット内で待機である。

姫子は、通信を用いていちごにたびたび話しかけていた。

姫子「戦いが終わったら、どうする?」

いちご「…分からない。」

姫子「アハハ、あたしもわかんないや…」

いちご「分からないけど…あなたと一緒にいたい…」

姫子「フフフ…あたしも…」

そんな会話に耐えかねて、信代が間に入る。

信代「お二人さん、いちゃつくのはいいけど、こっちにも筒抜けだよ。」

姫子「いいじゃない…中島さんは、戦いが終わったらどうするの?」

信代「知ったこっちゃないよ。 そんな事戦闘前にしゃべっていたら、死んじまうじゃないか。」

潮「死亡フラグって言うんだよ。」

慶子「そうだよ、不吉なんじゃない?」

いちご「私が守るから、死なない。」

信代「またムズ痒い事言っているね。」

いちご「あなた達も、守ってあげる。」

信代「ハン、どういう風の吹き回しだい? またイジメるよ!」

潮「何か裏があるんじゃない? どうして助けてくれんのさ?」

いちご「立花さんの命令だから。」

慶子「ほうら、やっぱりね。」

姫子「若王子さん! そうじゃないでしょ!! 中島さんたちも、どうしてそう素直じゃないの?」

信代「教えてやってんのさ、人の好意を素直に受けられない奴ってのは、腹が立つだろう?」

姫子「誰のこと!? あなた達のことでしょ!」

信代「分かっていないねえ、昔の若王子少尉殿のことじゃないか。」

いちご「…!!」

信代「さんざん気を使ってやったアタシらを無視し続けてさ、イジメたくもなるよ。」

いちご「…ごめんなさい。」

信代「まあ、今はそうじゃないみたいだけどね。 だから若王子少尉殿にも、期待してあげるよ。」

姫子「当たり前でしょ!」

潮「守ってもらう礼は、立花さん宛でいいんだっけ?」

姫子「やっぱり素直じゃないじゃない!」

信代「あっははははは!」

その時、ブリッジから通信が入った。

通信手「おしゃべりはそこまでだ。 もうすぐアクシズへ到着する。 警護の艦隊は少ないが、油断はするなってさ。」

通信手「ミサイル斉射の30秒後に出撃し、残存部隊の掃討と、アクシズ表面及び内部の偵察だ。 じ後補給を受けた後、アクシズの警護に当たるそうだ。 いいな。」

信代「了解ぃ。 ちゃんと引き際は教えてくれよな。 アクシズと一緒に地球なんか行きたくないからね。」

通信手「分かっているよ。」

通信が切れると、静かになった。

いちごは、さっきの姫子との会話を、心のなかで反芻していた。

姫子『戦いが終わったら、どうする?』

いちごは、通信が切れている事を確認して、呟いた。

いちご「まずはあなたにありがとうを、伝えたい。」

すぐにミサイル発射の振動が、コックピット内にも伝わってきた。


―――

ブリーフィングルームに招集がかけられてすぐ、主だった士官が集合した。
艦長は緊張した面持ちだ。
それで全員が、事が起こったことを知った。

艦長「ネオ・ジオンがやりやがった!! ルナ2は壊滅だろう!! アデナウアー・パラヤを乗せてルナ2に行ったクラップも損害を受けてこっちに向かっている最中らしい!!」

律「でも私らが先にアクシズに着くんだろう? 早く行って確保しちまおうぜ!!」

艦長「それがな…ラー・カイラムから、ルナ2に行ったのはダミー混じりの艦隊だろう、と言ってきたんだ。」

澪「・・・ということはダミーの数だけ・・・」

和「そう、アクシズに向かっているか、もう着いている頃よ。」

律「おいおいおいおい…それはやばいんじゃないのか…?」

唯「そんな…ルナ2には核もたくさんあったんじゃ…」

梓「そうですよね…かなりマズイですよ…」

艦長「我々は、アクシズに急行する! あれを地球に落としてはならん!!」

ミーティング後、すぐに艦隊はロンデニオンを出航した。

急に出現したシャアの艦隊に対応する暇もなく、アクシズの警護に当たっていた二隻のサラミス改はミサイルとビームの雨の中で爆散していった。

通信手「MS隊、アクシズを偵察に出ろ。」

信代「了解ぃ!」

カタパルトに接続した潮が、旗艦レウルーラの方を見て驚きの声を上げた。

潮「ちょっと、レウルーラが変なの引っ張っているよ!」

信代「ホントだね、何だありゃ? 100mはあるよ…。」

射出されたあとも、二人はそれがなんなのか気になっていた。
信代の小隊の後に、姫子たちも続く。

姫子「ねえ、あれ何?」

いちご「α・アジール…完成していたの…?」

姫子「α・アジール?」

いちご「私も聞いたことがあるだけ、ニュータイプ用のMA。」

姫子「ふうん…。 そんなに沢山ニュータイプなんか居るのかな?」

いちご「さあ。」

姫子「でも、あれに乗るの、あなたじゃなくてよかったな。」

いちご「…どうして?」

姫子「恐いもん。」

いちご「ああ…そうね…。」

いちごは姫子のその言葉に、なぜだか妙に納得してしまった。
人型ですらない、その巨大なMA。
そう、あんなのに乗るのは、普通の人間じゃない。

いちご(私も…立花さんと同じ…普通の…。)

姫子「アクシズ、静かだね。」

その言葉に、いちごの思考は中断された。

いちご(…一体、何を考えていたのだろう、私は。)

いちご「…敵の気配は感じない。」

信代「おい、コッチ来てみなよ。」

2機は、その言葉に、アクシズの裏側に流れていった。

姫子「大きな、ノズル…!」

そこには核パルスエンジンの、4つのノズルが鎮座していた。

信代「こいつらが、我が隊の防衛目標だ! 戦闘のイメージトレーニングでもしておきな。」

姫子「分かったわ。」

いちご「了解。」

もうすぐ、これに火が入って、地球に落ちる。
この場にいる誰もが、それで地球がどうなるのか全く想像出来なかった。

否、想像などしようとも、思わなかった。


――――

アクシズに向け、ロンデニオンを出発したロンド・ベル隊は、ルナ2の残存艦艇と接触していた。
唯達が、ブリーフィングルームのスクリーンでブリッジからの映像に見入っている。

唯「わあ…クラップ、ボロボロだね。」

梓「艦橋部なんかめちゃくちゃですね。 艦長も、乗っていたアデナウアー・パラヤも即死だったんでしょうね。」

その時、和がブリーフィングルームに入ってきて、ブリッジで仕入れてきた情報を伝えた。

和「唯が心配していたとおり、ルナ2の核はネオ・ジオンの手に渡ったと見ていいわね。 核貯蔵庫に奴らが入っていくのを見たものが居るらしいわ。」

澪「そんな…」

和「コロニーに駐留する連邦軍の艦隊も、内乱を恐れて出てこないし…」

澪「ヒィィィッ!! 四面楚歌じゃないか…!」

律「核を持ったルナ2からの艦がアクシズの艦隊に合流する前に、私らがアクシズを叩いちまえばいい話じゃねえか! まだ諦めるのは早いぜ!!」

澪「…そっか、そうだよな! うん、頑張ろう!」

律「せっかく艦長が和とのデートを反古にして素早く艦を動かしたんだ! そいつを無駄にするわけには行かねえぜ!」

唯梓紬澪純「おおーッ!!」

和「ちょっと…声が大きいわよ!!/////////」

紬「もう艦内で知らない人はいないわよ~。」

純「ニヒヒ…私がバラしました!」

和「鈴木さん、後で覚えてらっしゃい!!/////////」

どっと笑いが起こるのと同時に、艦内放送がかかった。

通信手「アクシズと接触まであと1時間! 総員、戦闘配置につけ!!」

律「よっしゃ、いっちょうやってやるか!」

各員は、素早くそれぞれのコックピットに滑りこんでいった。
最初に回線を開いたのは、律だった。

律「なあ、聞こえてるか?」

唯「りっちゃん?」

澪「何だよ? 律。」

紬「りっちゃんどうしたの?」

梓「何ですか? 律先輩。」

律「戦いが終わったらさ…唯がロンデニオンで言ってたように、今度はちゃんとした休暇をとって、みんなで沢山演奏しようぜ!」

紬「うふふ…お茶会もね。」

唯「そうだね! 約束しようよ!」

梓「これで、死ねなくなりましたね。」

澪「…」

律「おい、感動の場面で何黙ってんだよ、澪!!」

澪「…馬鹿律…。」

律「ハァ?」

澪「それ、死亡フラグじゃないか!」

澪以外の4人が、一斉に笑い出す。
それにつられて、澪の笑い声も聞こえてきた。

和「戦いが終わったら…か。」

和「その時生きているか、死んでるのかも分からないのに、つい考えてしまうのよね…」

純「先輩は、戦いが終わったら艦長とデートですよね!?」

和「鈴木さん!!//////」

ロンド・ベル隊の進む軌道の先には、青い地球が浮かんでいる。

まだ、アクシズは、見えない。


第九話 だまし討ちから! おわり

次回 第十話 天に火を噴くもの! 



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