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唯は、目の前の敵に、梓と協力して当たっている。
敵と言っても、憂と律達の戦闘データから作り上げられた特別機の模倣品である。
それでも、戦い方の癖なんかまで、結構正確にコンピューターが再現してくれるため、訓練としてはバカにできたものではない。

梓「きゃっ!」

唯「あずにゃん、ファンネルだよ!! シールド!!」

梓「はいです!!」

唯が、散弾を撃つ。

梓「攻撃が止みました! ファンネル撃墜!」

唯「まだいくつ持っているか分からないよ! 気を抜かないで!!」

梓「唯先輩、後ろ!!」

唯「来た!!」

特別機を型どったCGが唯にビームライフルを連射する。

唯「正確な射撃だ!! あずにゃん、散弾!!」

梓「はいです!!」

敵の形をしたCGが、散弾の有効範囲に入らないように大きく回避機動をとった。
それは、大きな隙になる。

唯「今だ!! あずにゃん、突っ込むからライフルで掩護して!!」

梓「はいです!!」

唯のジェガンがサーベルを発振して突っ込む。
敵を型どったCGはライフルを連射する梓の方に釘付けだ。

唯「憂の仇! もらったよ!!」

斬りかかろうとしたとき、敵は唯の方に向き直り、そのまま格闘戦に移行した。
恐ろしい反応速度である。
唯は信じられなかったが、これは実際戦闘で敵がとった行動を基に作り上げられたシミュレーションなのである。

梓「私も行くです!!」

梓もサーベルに持ち替え、ふたりがかりで格闘戦を行う。
しかし2機は、今一歩攻めきれない。

梓「あっ!!」

梓の機体が攻撃を受ける。
ファンネルだ。
すぐに撃墜と判定され、梓のジェガンはシミュレーターを終了させた。

唯「あずにゃん!! このォーっ!!」

突っ込むと、敵の姿がモニターから消え、すぐに唯のシミュレーターも終了された。

唯「また、勝てなかった…」

梓「もう3時間もぶっ続けでやってますよ、一旦休憩しましょう。」

唯「そうだね…」

梓「ムギ先輩がお茶を入れて待ってくれているそうです。」

二人はフラフラとコックピットを出て、休憩室へ入っていった。

紬「はい、お茶。」

唯「ありがとう、ムギちゃん。」

梓「頂きます。」

美味そうにお茶をすする二人を見て、紬が口を開いた。

紬「今回はどうだったの?」

唯「また負けちゃったよ。 すっごく悔しい。」

紬「りっちゃんも交戦したとき、すごく強かったって言ってたけど、やっぱりニュータイプなのかな?」

唯「そうだと思う。」

梓「反応速度が尋常じゃありません。 シミュレーターで敵機の性能を割り出して、同等のものを作って操作してみたんですけど、ジェガンより機動性が低いんですよ。」

紬「そうなの?」

梓「ええ、びっくりしましたよ。 そんな機体をあそこまで操るなんて、とても人間技じゃありません。」

素早い反応速度は、サイコミュ試験型に搭載されているサイコ・フレームの影響もあるのだが、梓達にそんな事は分からない。

唯「でも、必ず勝ってみせるよ。 もう少しで何とか形になりそうなんだよ。」

梓「ですね!」

紬「和ちゃんも言ってたけど、あまり根を詰めないでね。 ロンデニオンに入港したら、一度みんなで上陸しましょう。」

唯「うん、そうしようか!」

梓「そういえば律先輩達は…?」

紬「二人と同じことをやっているわ。 気がつかなかった?」

唯と梓は、ハンガーに固定されている律と澪のジェガンに目をやった。

紬「二人も、あの特別機を倒すためにシミュレーターで小隊訓練しているの。 憂ちゃんの仇を取りたいのは、唯ちゃん達だけじゃないってことね。」

唯「そうなんだ…」

梓「頼もしいですね!」

紬「ちなみに、私達もシミュレーター訓練するときは必ずあの特別機を敵機に混ぜて行っているわ。」

紬「必ず、私達の手で憂ちゃんと曽我部先輩の仇を討ちましょう!!」

唯梓「おーっ!!」

無重力用の食器を片付けて、解散する。
片付けているさい、唯は紬の表情が少し陰っているのを見逃さなかった。
妹を失った唯は、同じような雰囲気をまとったものに対して敏感になっていたのだ。

梓が部屋に帰ったのを確認してから紬を追いかけて、聞いてみる。

唯「ムギちゃん、どうしたの?」

紬「唯ちゃん…何が?」

唯「ムギちゃん、なんか変だったから…落ち込んでいるって言うか…」

そこまで聞いて、紬の目に涙が溜まっていった。

紬「ここじゃなんだから、私の部屋に入って。」

唯は、促されるまま紬の部屋に入っていった。

部屋に入ると、紬の目から涙が溢れ、無重力に漂った。

紬「私、唯ちゃんに謝らなきゃいけないの…」

唯「え…どうしたの?」

紬「憂ちゃんを死なせたの、わたしかも知れないの…」

その言葉に、唯は目を丸くして問いかける。

唯「どうしてムギちゃんが…?」

紬「さっき和ちゃんから聞いたんだけど…これは唯ちゃんには話すなって言われたんだけど…」

紬「出撃前にね…憂ちゃん、艦長にMS部隊に職域変換したいって、お願いしていたらしいのよ…」

唯「…」

紬「それを艦長は、和ちゃんに相談したかったらしいんだけど、私、艦長と和ちゃんが仲良くしてるの見るのが嫌だったから、和ちゃんに艦長に近づかないように言ってしまったの…」

紬「もし、和ちゃんが艦長に会って、その話を聞いていたら、憂ちゃんが無理して出撃することが無かったかも知れないって思うと、わたし辛くて…」

唯「ムギちゃん…」

紬「唯ちゃん、ごめんなさい…ごめんなさい…」

紬は、その場に膝を折って泣き崩れた。
今まで溜め込んでいた辛さが、一気に彼女に押しかかってくる。
そんな紬に、唯が優しく語りかけた。

唯「ムギちゃんのせいじゃないよ…」

紬「…唯ちゃん…」

唯「憂は、あれですごく頑固なんだよ。 だから何がどう変わっていても、あの時出ていたと思う。 ムギちゃんがそんな風に自分を責める必要はないんだよ。」

紬「唯ちゃん、ありがとう…」

唯「わたしこそ、ごめんね。 ムギちゃんがそんなに苦しんでいたの。気づいてあげられなかった…。」

唯「みんなで力を合わせて、憂の仇を討とうね。」

紬「うん…頑張りましょ…私達なら、出来るわ…」

紬は、心のなかにわだかまるものが小さくなっていくのを感じていた。
しかしそれは完全には消えず、罪の意識となって心の隅に留まった。

それが、人が人である理由だと、紬は思った。


――――

民間のホテルだったものを接収した宿舎に、姫子といちごは帰ってきていた。
姫子の部屋の前まで、いちごが付いてくる。

姫子「また、明日ね。」

いちご「…」

姫子「どうしたの?」

いちご「…何でもない。」

姫子「…じゃあ、また明日」

いちご「…ん。」

いちごは、とぼとぼと自室に帰り、冷えたベッドに潜り込んだ。

いちご「独りは、嫌。」

いちご「早く、明日に…」

毛布をかぶっても、温もりが今ひとつ足りないような気がする。

いちご「…寒い。」

姫子の笑顔を思い浮かべながら、目を閉じた。
そうしたら、少し暖かくなったような気がした。


第七話 スウィート・ウォーター! おわり

次回は第八話 愚行!



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