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和が艦長室を出ていって数十分後、艦長はブリーフィングルームに主だった士官を招集した。
和が無理矢理連れてきたのか、部屋の隅では唯が俯き加減で座っている。

艦長「ネオ・ジオンが隕石落としを成功させ、一旦引いたため、我々も本拠地であるロンデニオンに帰港して一度態勢を立て直す。」

律「また対応が後手後手になる予感がするぜ。」

和「律!! やめなさい!!」

律「キャハ!」

紬(和ちゃん、まだ艦長をかばっている…おかしいわね…あとで聞いてみなきゃ。)

艦長「それとな、この前の戦闘の時、戦闘宙域にいた民間シャトル天鹿に、アデナウアー・パラヤが乗船していた。 彼も特命でロンデニオンに入るらしい。」

律「アデナウアー・パラヤって誰だよ?」

和「地球連邦宇宙軍の参謀次官よ。 もともと地球にいる彼が宇宙に上がってきたってことは、ネオ・ジオン側と何らかの交渉があると見ていいのでしょうか?」

艦長「ブライト司令はそう読んでいる。」

律「なんで民間機に乗ってきたんだ? 軍の専用機で来いよ。」

澪「・・・民間機なら攻撃されないと踏んだんじゃないのか?」

梓「…酷い…なんかシャアが隕石落としたくなった気持ち、分かりますね…。」

和「…だからってシャアに同調しちゃダメよ。」

梓「…分かってるです。」

艦長「取りあえずロンデニオンに着いたら上陸の許可を与えるが、何が起こるかわからん。 いつでも招集に応じられるようにしておけ。」

純(難しい話は退屈だなあ…今日の晩ご飯なんだっけ…?)

艦長「あと余計な混乱を避けるため、アデナウアーがロンデニオンに入ることは他言無用だぞ。」

和「了解です。」

艦長「解散だ。 平沢少尉はこの場に残れ。」

唯「…」

律「ちょっと待てよ、唯は…」

艦長「外野は黙ってろ! これは命令だ! お前らは出て行け!!」

その気迫に、律達はおとなしくブリーフィングルームを出た。
艦長と、唯のふたりだけが残っている。

艦長「貴様、一日中ヒキコモリやって、給料タダ取りしてるんだってな…」

唯「…」

艦長「妹が勝手に予備機ブッ壊してくたばったからって、仕事もやらないでいい身分だよ。 こっちはその予備機損失の辻褄合わせでヒイヒイ言ってるのにな。」

唯「…」

艦長「お前に、見せたいものがある。 付いて来い。」

艦長は、そのままぐったりとした唯をMS格納庫まで引っ張っていき、残骸になった憂のジェガンの前に立たせた。

艦長「貴様に見せつけるために、特別に保存しておいたよ。 これが妹の棺桶だ。」

憂が使ったジェガンはちょうどコックピットをサーベルが刳るように袈裟懸けに斬りつけられており、部品取りにでも使われたのか下半身は残っていなかった。
それを見て、今まで無反応だった唯が、かすかな反応を見せた。

唯「…!」

唯の反応を見逃さずに、艦長が続ける。

艦長「ボイスレコーダーも戦闘記録も生きていたからな。 遺言を聞かせてやる。 貴様のジェガンに乗り込め。」

唯は、動かなかった。

艦長「乗れって言ってんだよ!!」

艦長は、唯をジェガンのコックピットに押し込むと、自身もその中に入っていった。
無理矢理シートに唯を座らせ、ハッチを閉じる。

艦長「映像と音声付きで妹の最期を体験させてやる。 ありがたく思え!!」

憂の、戦闘記録が再生される。

憂『ハッチを閉めて…エレベーターはあそこ…』

憂の声と共に、全天周モニターに映し出されたMSデッキの映像が動き出した。
唯のジェガンにコピーされた、憂の操縦記録が、再生されているのである。
映像中のエレベーターが、上昇する。
まるで、自分が操っているようだ。

艦長『おい! そのジェガン! 誰が乗っているんだ!!』

憂『私、お姉ちゃんのところに行きます!!』

艦長『平沢妹か!! やめろ!!』

艦長『カタパルトを使わせるな!!』

唯が、その映像に見入っている。
映像は、宇宙空間に出て行った。
ジェガンの挙動が、危うい。

憂『動きが…軽い。』

そのまま、映像は宇宙空間をさまよっている。

憂『ええっと…敵は…? お姉ちゃんは…?』

唯が、たまりかねて口を開いた。
目には、涙が溢れている。

唯「…違うよ…憂…そっちじゃないよ…」

憂『お姉ちゃん…お姉ちゃん…』

艦長が、唯を追い詰めるように、憎まれ口を叩いた。

艦長「こんなに妹に心配させて、貴様はホントにロクでもない姉だったんだなあ。」

唯が、たまりかねて下を向く。

唯「もう見たくありません…消してください。」

艦長「バカタレ、ここからがイイ所なんだぞ!!」

憂『うわっ!!』

モニター上、ビームが機体の左を抜けていく。

艦長「戦闘開始だ! 妹を殺した敵を、その目に焼き付けろ!!」

艦長は、唯の顔を無理矢理正面に向けて固定している。
唯は見たくないと思いながらも目をつぶることは出来なかった。

憂『ライフルを…』

ビームライフルが発射される。
それに答えるように、虚空からビームが戻ってきた。
敵の姿は確認できないが、なぜか映像はそのビームをキレイにかわしている。

憂『シミュレーター通りだ…やれる!!』

映像が、流れるような操作で敵のビームをかわしていく。
唯の操縦より、格段に上手かった。

憂『そうだよ、お姉ちゃん、私、出来るよ!』

敵の姿が、はっきりと確認できた。
赤い、特別機だった。

憂『私、お姉ちゃんの、自慢の妹だから!!』

近距離からのビームもかわしている。
唯は、これが妹の操縦だと言うことに、驚きを隠しきれない様子だ。
映像中の装備が、ライフルからサーベルに切り替わった。

唯「憂…もうやめて…!」

憂『お姉ちゃん! こいつを倒して、すぐに行くからね!!』

唯「やめてよぉ…嫌だよぉ…」

サーベルが弾けあって、スパークが眩しい。
一旦離れて、サーベルを構えてお互いが最接近する。

唯「う~い…う~い…」

憂『お姉ちゃん!! 行くよ!!』

憂が横一文字になぎ払うサーベルの、軌跡。
それをくぐって接近した敵が、サーベルを下段に構えた。
唯が、ビクッ、と体を震わせる。

唯「…!!」

次の瞬間、逆袈裟に切り上げられた。

憂『おねえ』   『死ね。』

そこで映像は途切れた。
最期に割り込んできた言葉を聞いて、唯の眼の色が変わるのを、艦長は見逃していない。
接触回線が拾った、敵パイロットの声である。

艦長「こいつが、憎いだろ。」

唯は、無言で頷いた。

艦長「だったら訓練に参加しろ。 今のお前じゃ、遭遇したら真っ先に妹のところに連れて行かれるぞ。」

また唯が、無言で頷いた。

艦長「しかしな、こいつは強化人間かニュータイプだ。 必ず数人で当たらんと勝てんぞ。 チームワークで訓練するんだ。 それが出来なければ、貴様をジェガンから下ろす。」

唯が、艦長を睨んだ。

艦長「どうなんだ、やるのか?」

唯「…やります。」

それを聞いて、艦長はジェガンのコックピットハッチを開け、外に出た。
唯も出てくると思ったが、そのままハッチが閉まり、シミュレーターが起動された。

艦長「あとは、真鍋少尉の仕事だな・・・」

艦長は、そう言ってフラフラと艦長室へ向かった。

和は、艦長室でその主を待っていた。
ドアが開く。

和「艦長!」

艦長は、憔悴しきった様子だった。
無理もない。いくら軍人とは言え、善良な人間が人の殺されるところをその肉親に見せつけ、復讐を煽ったのだから。

艦長「…君にやらせんで正解だったよ。 全く気分が悪い。」

和「…申し訳ありません…。」

艦長「いや、あれの妹を殺したのは私みたいなものだからな。」

和「え…? どういう事でしょうか?」

艦長は、ため息を深く付いてから、話しだした。

艦長「実はな、平沢衛生科看護少尉はMSパイロットへの転向を希望していた。 姉が配属してきてすぐくらいからかな…」

和「そんな事が…」

艦長「始めは気の迷いかと思っていたが、先の戦闘の前に、どうしても姉と一緒に戦いたいと懇願されてな、君に相談しようと思ったんだが、君が忙しかったみたいで、つかまらなかっただろ。」

和は、紬と一緒に論文を作成していた時だな、と思った。

艦長「あの時、平沢妹は自分から真鍋少尉のところに相談に行く、と言っていたが、私はそれを許可しなかったんだ。 なんでだと思う?」

和「…職域転向は、私の一存では決定できませんから。」

艦長「それもあるけどな、私はその後戦闘が起こって奴が勝手に出ていくなんて想像も出来なかった。」

和「それは当たり前です。」

艦長「もう一つ、私は平沢妹の件を相談に行くことにかこつけて、君に会いたかっただけなんだよ。」

和「…それはどういう…」

艦長「私は、一人の女性として、君のことが好きだからな…君と話しをしたり…そういう時間が欲しかったんだ。」

和「…!」

艦長「軽蔑してくれていいぞ。 私はそれだけのことをしたんだ。 今回君の代わりに平沢姉をけしかけたのは、その罪滅ぼしでもある。」

和「…」

艦長「しかしな、私は自分のしたことを棚にあげて、平沢姉の怒りをすべて敵パイロットに向けてしまった。」

艦長「それが一番、辛いんだよ。 自分は、人に恨まれることから逃げたんじゃないかって思えてきてな…。」

艦長「そして、そんな私が、人が人想う気持ちを、戦いに利用しちまった…どうにかなりそうだ…。」

和は、無言で艦長の独白を聞いていた。

艦長「…不快な思いをさせてすまなかった。 とにかく平沢姉は戦うことに前向きになった。 あとは君があのニュータイプに打ち勝てるようにチームワークを叩き込んでくれ。」

和「…了解しました。」

和が出て行ったあと、艦長は天井を見上げながら、独り呟いた。

艦長「あーあ、絶対嫌われたな…私みたいなのが恋をすると、いつもこうなるんだよな…。」

艦長の視界は、徐々に霞んでいった。


戦闘シミュレーションが、いきなり中断された。
ハッチが強制開放され、その先には和の姿があった。

和「唯、あなた一人で訓練しろって言われたの!?」

唯「…」

和「降りなさい。」

唯は、無言でMSを降りた。

和「シミュレーターして、何か気づいたことは無い?」

唯「…オートで取る回避機動が、少し変わった。 それと、噴射剤の消費が最大で2%位抑えられてる…。」

それを聞いて、和は少し安心した。
観察力が残っているということは、兵士としても、人間としても、大丈夫であるという目安になる。

和「なぜだか分かる?」

唯「…コンピューターが更新されているから?」

和「そう、憂の戦闘データから、優れていたところをこの艦のジェガンにすべてにフィードバックしたのよ。 あの子、相当センスが良かったから。」

唯「…」

和「私たちのジェガンは、少しだけど、憂がサポートしてくれる様になっているの。 それが、危ない時、きっとあなたやみんなを守ってくれるわ。」

泣きはらした唯の目に、また涙の粒が浮かんできた。

唯「…うーい…」

和「それが分かったら、梓ちゃんを呼んできなさい。 チームで訓練するのよ。 憂の記憶を持った、そのジェガンで。」

それを聞いて、唯は涙をぬぐいながら、MSデッキを後にした。

和「機械の…記憶…か。」

和は、そう呟きながらジェガンの装甲に触れてみた。

ひやりとしたその感触はどこまでも無機質で、それが和には悲しかった。


第六話 機械の記憶! おわり

次回は、第七話 スウィート・ウォーター!



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