最初に攻撃を受けたのは先頭を行く恵の機体である。

機体全体を覆うほどの大型シールドに、二発のビームが命中した。
右の腿にも衝撃が走ったが、耐ビームコーティングが施されている装甲はファンネルのビームを受け付けていない。

小型、軽量を優先させた結果、ファンネルのビームはかなり出力が低いものだったのである。

恵は、ダミーをいくつか放出しながら律と澪に指示を出した。

恵「ファンネル対処!!」

律澪「了解!!」

ビームの方向から当たりをつけて、律と澪のジェガンはバズーカを発射した。
と、言ってもモニターにファンネルは捕えきれないのでめくら撃ちもいいところである。

しかし数百メートル飛ぶと、バズーカの弾体がはじけて、5発に1発の割合で含まれる曳光弾が打ち上げ花火のような放射状の軌跡を描いた。

散弾である。

その弾子は恵のジェガンにも遠慮会釈なく降りかかったが、事前に合図をされている恵は大型シールドでこれを防いでいる。

律「やったか!?」

澪「気を抜くな!!撃ちまくるぞ!!」

二機のジェガンは周囲に散弾を撃ちまくった。
その光景はまるで夏の夜空を彩る花火大会さながらである。

ファンネルの攻撃は、徐々に単調なものになっていた。

恵「明らかに攻撃が弱まっているわ!!成功よ!!」

律「よっしゃ!!」

澪「続けるぞ!!」

散弾をばらまき続けると、とうとう、攻撃が止んだ。

恵「攻撃が止んだ! 警戒しつつそのまま前進するわ!!」

律澪「了解ぃ!!」

確認すると、和の編隊の方角にも散弾の花が次々に咲いている。
向こうも上手く行っているようである。

恵「防御を固めて、散弾を撃つだけでこうも簡単にサイコミュ兵器を防げるなんて…」

恵は、作戦を立案した和の有能さに改めて舌を巻いた。

重い拳で頭を殴られたような衝撃と共に、サイコミュを通して脳に直接送られてくるファンネルからの映像が次々に途絶えていく。

いちご「ファンネルが…落とされていく…」

姫子「え?」

いちご「戻れ!」

姫子「どうしたの?」

いちご「防げなかった…敵が来る!!」

いちごがそう言い終わると、ファンネルが1基だけ戻ってきていちごの機体の肩にはまり込んだ。
姫子はそれを見てすぐに事態を理解した。

姫子「敵接近!! 戦闘用意!!」

そう、味方に警告すると、すぐさま姫子はいちごとの通信を開いていた。

姫子「敵にもニュータイプが居るってこと?」

いちご「そういうプレッシャーは感じない。」

いちご「普通の人間にファンネルを落とされた…情けない。」

弱気ないちごのセリフに驚いた姫子は、すぐに激励の言葉を脳内に並べ始めていた。
それらが驚くほど流暢に口をついて出てくる。

姫子「大丈夫! まだファンネルも1基ある!! 私もついてるわ!! 頑張ろう!!」

いちご「でも…」

姫子「あなたは絶対負けないわ!! ニュータイプなんでしょ!?」

いちご「わかった。 残りの1基、上手く使う。」

姫子「ファンネルがなくったって、あなたなら出来るはずよ!!自信持って!!」

失敗作といえど、戦闘のプロとして強化されたいちごは、ブレないように精神を上手くコントロールしてやれば無類の強さを発揮する。

図らずして、姫子の激励が彼女の精神安定剤となっていた。

信代は、姫子の言葉を聞いて、すぐさま僚機に通信を送っていた。

信代「強化人間が聞いて呆れるね! もう終わりだってさ!!」

潮「今回は撃墜ゼロですかぁ?」

信代「時間を見なよ! 聞かなくても分かるだろう?」

レシーバーからの音声が、嘲笑で飽和した。

信代「せっかくおハチが回ってきたんだ!アタシらだけでやるよ!!」

潮圭子慶子「了解!!」

四機のギラ・ドーガが防御の陣形を組むと、姫子といちごの機体もそれに合流しようとした。
しかし四機は、それを拒むように陣形を固める。

信代「負け犬は、艦の直掩でもやってな!!」

信代がそう言った数十秒後に、他の艦から直掩として差し出された2機を含むギラ・ドーガ6機と、ロンド・ベル先鋒のジェガン6機がぶつかり合った。

相手はMS1個中隊。
母艦は単艦である。
和は、とっさに状況を判断した。

和「艦長、こいつらは時間稼ぎです! 本隊をフィフス・ルナへ向かわせて下さい!!」

艦長「こっちの心配はしなくていい! もう本隊はそのように動いているぞ!!」

和「そこらへんは、さすが即応部隊って言うところね…」

MS同士のドッグファイトが始まる。

ファンネル対処用の重装備では機動力が落ちて不利である。
和が迷わず爆発ボルトを起爆させて重い大型シールドをパージすると、その下から通常兵装のシールドが現れた。

これで見かけはバズーカをバックパックに装着している以外、普通のジェガンと変わらない。

和は、そのまま敵に突っ込んでいく。

和「ムギ、鈴木さん、掩護をお願いね!!」

紬「和ちゃん!!減速!!」

和がその声を聞いてとっさに減速すると、一瞬にして、目の前に放射状に広がるいくつもの光の線が現れた。

紬が散弾を撃ったのだ。

それに怯んだ敵機を、迷わず和のビームが貫いていた。

和「行けるわ!!」

和は、初めての実戦で自分が作り上げたチームの手応えを掴んでいた。

分が悪い。
そう思って信代は舌打ちをした。

信代「敵本隊が我々を迂回してフィフス・ルナへ向かっている!! あたしらがここに留まる理由はない!! 一旦艦まで引くよ!!」

潮慶子圭子「了解!!」

信代「奴らに、もう一度強化人間をぶつける!! 艦の掩護が受けられるようになったら、私は対艦戦をやるから、飯田さんが編隊長をお願い!!」

信代がそう言うやいなや、よく訓練された彼女の同僚たちは統制された動きで引いていく。

信代は殿軍となり、主兵装であるランゲ・ブルーノ砲で広範囲制圧用の榴弾を撃ちまくってジェガンを怯ませ、ダミーをばらまきながら後退した。

艦の直掩に当たっていた姫子は、信代たちの後退を聞きつけ、いちごと通信を開いた。

姫子「味方がこちらに合流してくるわ。 2番艦から来てくれてたMSが1機落とされたみたい。」

いちご「いちいち言われなくても分かっている。」

姫子「敵、そんなに強いの?」

いちご「個々の技術はそうでもない。 しかしチームワークがいい。 作戦も奇抜。」

姫子「手強いのね!」

いちご「あなた達は知らないけど、私は負けない。」

二手にわかれた敵の一方が姫子達の艦に向かってくる。
後退中の信代たちに合流し、姫子達は敵機の真ん中に突っ込んでいった。

恵は、目標があくまでフィフス・ルナであることを承知していた。
和の編隊をフィフス・ルナへ向かわせて、自分たちの編隊に艦と直掩を合流させて、目の前のムサカ級とそのMS部隊に当たる。

恵「間に合ってくれればいいんだけど…」

和たちを気遣うことができたのはそこまでだった。
態勢を立て直した敵とぶつかる。

恵「つぅっ…」

恵のジェガンのシールドが吹き飛んだ。
長砲身の重火器を持った敵だった。

そのまま格闘戦になり、2、3回馳せ違った後にバルカンで牽制する。
距離を取ると、敵は思い切りよく恵のジェガンから離れ、飛んでいった。

その先には母艦がレーザーやメガ粒子砲を撃ちまくっているのが目に入った。

艦をやらせるわけには、行かない。

恵「直掩は、重装型のギラ・ドーガに集中攻撃!!」

とっさにそう叫ぶと、目の前に別のギラ・ドーガが切りかかってくる。

左腕を斬られたが、刺し違えるように何とかコックピットを貫いた。

もう一度、周りを確認する。
それは編隊長の義務だ。

澪のジェガンが動きのいいギラ・ドーガに追い掛け回されているのが目に入った。

恵「秋山さん!!今助けに行くわ!!」

今なら澪を狙っている敵機を後ろから攻撃出来る。
恵は迷わずサーベルを構えて突進していた。

いちごは、強烈な頭痛に耐えながら一番動きのいいジェガンと格闘戦をやっている。

その時、姫子の機体に向かう殺気を感じ取った。
反射的に温存していた最後のファンネルを放出し、姫子の背後から近付くジェガンのコックピットハッチ正面に滑りこませた。

いちご「させない…!」

いちごの強烈な意志がファンネルのトリガーを引くと、ファンネルが出しうる最大出力のビームが発射された。

ギラ・ドーガはまだ背中を向けている。
行ける、と思った瞬間、目の前のモニターに見たこともない何かが映り込んだ。

それが光を発した瞬間、恵はその物体がサイコミュ兵器であることに気づいたが、
コックピットハッチにゼロ距離から撃ち込まれたビームは耐ビームコーティングが施された装甲板を赤熱させ、ついには打ち破ってコックピット内を焼きながら突き抜けていった。

恵「秋山さn」

恵の体がなくなって数秒後、その乗機も自らが生み出した爆発光に飲まれていった。

確かにレシーバーから恵の声が聞こえた。
助けてくれる。そう思って恵を探すと、敵の後方に起こった爆発の光が目に入った。
澪にはそれが、なぜか恵だと分かってしまった。

澪「曽我部先輩!!」

律にすがろうと思ってその機体を探したが、赤くペイントされた特別機らしいものと交戦中らしかった。

澪「律、大丈夫か!?」

律は、苦戦しているようだった。
というか、何とかシールドと機体に施された耐ビームコーティングで耐えている感じだ。
もう怖がってばかりはいられない。

澪「怖くない…怖くない…」

澪は恐怖を振り払いながら、律の掩護に向かった。
しかし恐怖心は心の底でブレーキをかけ続けていた。
澪は、今更ながら自分がパイロットに向いていない事を情けなく思った。

敵のジェガンを追い詰めていた姫子は、後ろからの爆風に煽られて機体が前につんのめり、
自らもエアバッグに顔を突っ込んで、状況が分からずに軽いパニックに陥った。

姫子「え…後ろ!? 何があったの?」

レシーバーを通して、いちごの冷たい声が耳に刺さった。

いちご「あなたは落とされるところだった。」

周りを確認すると、いちごの機体は2機のジェガンを相手に何とか互角の戦いをしていた。
そのうちの一機は、さっきまで姫子が追い詰めていた敵だ。
いちごはファンネルを使っていない。なぜ、と思う前に口が開いていた。

姫子「若王子さん! ファンネルは!?」

いちご「さっきあなたを掩護した時、敵機の爆発に巻き込まれて損失した。」

姫子「じゃあ今度は私が掩護する!! 私がファンネルの代わりをやるから!!」

いちごは足手纏い、と言おうと思ったが、口が開かなかった。
交戦中に無駄話をしている余裕はない、と自分に言い聞かせた。
そんな事より、さっきから頭が痛くてたまらない。

いちご「こんな敵…」

1機のジェガンは確かに一番動きがいいが、それは腕がいいのではなく単に性格から来る操縦の癖でしかない。
コンディションが万全なら一刀のもとに斬り伏せることが出来るだろう程度の腕だ。

また、ライフルが命中した。

しかし、ライフルのビームは装甲で弾かれ、本来の威力を発揮していない。

いちご「うう…装甲がこんなに持つのか…?」

いちごは、頭痛で判断力が鈍り、耐ビームコーティングの存在を失念していた。

いちご「うっとおしい…」

もう1機は臆病な性格が操縦に出ている。
ヒットアンドアウェイでもなくつかず離れずで不正確な射撃をするだけの素人だった。

動きの良い方の機体に姫子が向かってくれた。

いちご「当たれ!」

腹部に搭載されている高出力のメガ粒子砲を臆病なジェガンに向かって発射する。
次の瞬間メガ粒子ビームは、ジェガンのシールドごと左腕をもぎ取っていた。

いちご「…っ」

いちごは舌打ちをした。
直撃させるつもりだったのだ。

さっきから、頭痛は酷くなってくる一方だ。
頭の形がゆがんでいるような感覚に襲われる。
場所が自分の部屋なら、頭を抱えて転げまわっているだろう。

いちご「私は…大丈夫…」

最早いちごは、自機がどんな動きをしているのかもわからなかった。
ただ、敵を正面に捉え、その動きに反射的に対処しているだけだ。

フィフス・ルナで戦闘中の艦隊主力を掩護しに向かった和が見た光景は、絶望的なものだった。

和「間に合わなかったの…?」

フィフス・ルナの核パルスエンジンに火が入り、長い光の帯が戦闘宙域を照らし出す。
それと同時に、敵が素早く引いていく。

和「ラー・チャター! こちらスワロー1、フィフス・ルナの加速を確認! 阻止は失敗!!」

自分に出来うることはすべてやった。
しかし和は、それでも自分の無力を呪わずにはいられなかった。

唯と梓は、2機がかりで1機のギラ・ドーガ重装型に翻弄されていた。
正確に言うと、長距離から撃たれ、左の腕と足を失った梓のジェガンをかばっているため、唯は上手く動けていないのだ。

梓「私のことはいいですから!」

唯「黙ってて! あずにゃんはやらせないよ!!」

唯のジェガンのビームサーベルが空を斬った。
すかさず敵に向けバルカンを撃つ。
いくらか命中したが、距離をとった敵はまた梓のジェガンの方に旋回する。

唯「何とか、あずにゃんを後退させる暇だけでも…」

グレネードで敵機を牽制すると、今まで動きがなかったフィフス・ルナから瞬時に青白い光が伸びるのが見えた。
核パルスエンジンに火が入ったのである。

それを確認すると、すぐに敵機はダミーを放出して後退した。

唯「助かった…あずにゃん大丈夫?」

梓「私は問題ありません。ただ足が一本しか無くなっちゃったから、着艦は難しいです。」

唯「私が支えてあげるから、大丈夫だよ!」

そのまま、梓の機体を抱えてMS曳航時の着艦シークエンスを起動する。

梓「すみません…私、足手まといでしたね…。」

唯「敵はかなり手強かったから、仕方ないよ。 最初に狙われてたのが私だったら、きっと立場は逆になってた。」

梓はそれを聞いて、最初に唯が狙われていたら二人共死んでいただろう、と思った。

2機が着艦すると、続いて他の機体も帰ってきた。

恵の機体だけが、帰って来なかった。

いちごの機体を引き連れて帰投している姫子に、艦から通信が入った。

通信手「立花少尉、一番に着艦させるから、降りたらすぐに艦長室に来るように。」

姫子「了解。」

なんの用だろう、と思ったが、後ろについていたいちごが遅れ気味なのでその心配で頭が一杯になった。
戦闘中から、徐々に動きが悪くなっていったのだ。

姫子「若王子さん、大丈夫?」

いちご「…問題ない。」

返事はようやく聞き取れるくらいのか細い声だったが、ミノフスキー粒子の影響だろう、と考え、姫子はいちごの異変に気づかなかった。

艦では律を始め、メンバーが集まって澪を慰めていた。
澪は泣きじゃくりながら後悔の言葉を吐き続けている。

澪「私が情けない戦い方をしていたから、曽我部先輩が…」

律「だから澪のせいじゃねえって…」

梓「そうですよ。 私だって唯先輩がいなかったら、今頃…」

澪「私、普段から曽我部先輩を避けてたんだ…ストーカーされてたこともあって、怖かったし…」

紬「そんな事気にしなくていいのよ。 曽我部先輩も、澪ちゃんの側に居られて、とっても喜んでいたし。」

澪「こんな事なら、もっと曽我部先輩に優しくしていれば…」

唯「澪ちゃん、元気出して…」

和「曽我部さんのことは残念だったけど、戦闘が起こっているんだから、明日は我が身と思って、訓練に励みましょう。」

その日、澪が泣き止むことはなかった。
澪は泣きながら自分の臆病さを噛み締め、自分が兵士になりきれないことをもどかしく感じていた。


第三話 フィフス・ルナ! おわり





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