第二話 ネオ・ジオン!

いちごは、うんざりしていた。
四人に囲まれて罵声をあびせかけられている。
この艦に配属になってから、毎日のようにこの儀式が行われるのだ。

信代「ジェガンを6機沈めたからって、いい気になってるみたいじゃない?」

いちご「…1機は損傷を与えたものの宙域から離脱した。だから撃墜は5機。」

潮「口答えすんなよ、この人形!!」

いちご「私は人形じゃない…」

慶子「人形じゃないなら強化人間だっけ?」

いちご「違う。」

圭子「違うくないでしょ。どう見てもあなたは強化人間だよ。」

中島信代、太田潮、飯田慶子、佐野圭子の四人はこのムサカ級3番艦に勤務するMSパイロットである。
いわば同僚なのだが、飽きもせず食事に行く前にこうしていちごに絡んでくるのだった。

姫子「アンタたち、何やってるの!?」

その声に、嫌な儀式が中断される。
いちごは終わるのがいつもより少し早いな、とだけ思った。

信代「うるさいのが来たよ!」

潮「撤退!!」

姫子の声に、絡んでいた四人が逃げ去っていく。

姫子「若王子さん、大丈夫?」

いちご「平気。」

姫子「食事、一緒に行こうか?」

いちご「嫌だ。」

姫子「一人で食べるの、つまんないよ?」

いちご「あなたといてもつまらない。」

姫子「じゃあいてもいなくても同じでしょ? 一緒に行こ!」

いちご「…」

結局いちごは姫子と一緒に食堂へ行くことになった。
味気ない宇宙食を食べながら、一つ浮かんだ疑問を姫子にぶつけてみる。

いちご「何故私に構うの?」

姫子は、すぐにはその質問に答えなかった。

姫子「やっと若王子さんから話しかけてくれたね。」

嬉しそうなその表情がいちごの癇に障った。
頭に浮かんだ言葉をそのまま姫子に吐きかける。

いちご「質問に答えて。」

姫子「ごめんごめん、ええと、ニュータイプに興味があったのかな?」

いちごは、この艦に配属されてから初めて自分をニュータイプと呼んだ人間に出会った、と思った。
しかしそれは口に出さないでおいた。
余計な事を言って、また嬉しそうな表情をされたら堪らないからだ。

姫子「それに若王子さんってなんかほっとけないし…」

いちご「…」

ほっといて欲しい、そう思ったが、なぜか口には出せなかった。
自分は無口なのだ、と、自分に言い聞かせる。

姫子「そういえばあれ、なんだっけ…サイコミュ兵器! えっと…なんて名前だったかな?」

いちご「ファンネル。」

いちごは漏斗、という意味であるその兵器の名前の由来を知らない。
特に知っている必要もなかったのである。

姫子「そうそう、それ! どうやって操作するの?」

いちご「話せば長くなる。面倒。」

姫子「いいじゃん、教えて!」

いちご「話しているうちに食事が終わってしまう。」

姫子「じゃあ、食事のあとあなたの部屋に行く!そこで話して!」

いちご「部屋では独りになりたい。」

姫子「話が終わったら独りになれるからさ、少しだけ!」

姫子が両手を合わせて拝むように懇願した。
それを見て、いちごは少し困ったような表情を作りながらも、

いちご「…少しだけなら。」

と言ってしまった。

――

信代達は、つまらなそうに食堂を出た。

信代「立花さん、どうして強化人間の味方なんかするんだろうねえ。」

慶子「立花さんは腕もいいし人望もあるからやり合いたくないしね。」

信代達四人は、気に入らない、という理由を振りかざし、ストレスの貯まる艦内生活での活力の源として、いちごをいじめていたのである。
それを姫子に邪魔され、困っているのだ。

潮「でもさ、私達の言うこと聞かないからホントむかつくよね、あの強化人間。」

圭子「強化人間って昔はもっとひどかったんでしょ?」

潮「今もひどいじゃん!! 表情ないし!!」

信代「あれは失敗作だからね。 成功例のギュネイとか言うのはわりかし人間味があるみたいじゃないか。」

慶子「総帥の直属になった奴でしょ? 見たことないからなんとも言えないなあ…それよりこれからどうやってストレス発散するの?」

信代「立花さんのいないときにやればいいんじゃない?」

四人とも、いじめをヤメる気はないらしかった。

――

部屋に着くと、姫子が嬉しそうにいちごの隣に腰掛けた。
隣に人がいる、という感覚はいちごにとって不快そのものだ。

姫子「予想はしてたけど、何もない部屋だね! まああたしの部屋もなんだけど!」

いちご「…本題に入る。」

姫子「…本題?」

いちご「ファンネルの操作法。」

姫子「え~、もうちょっとおしゃべりしようよ。」

いちご「嫌。 早く出ていって。」

姫子「…わかった。 じゃあ教えて。」

いちご「ロックを外してファンネル放出をイメージすると放出される。」

姫子「それで?」

いちご「敵の自機との相対座標をイメージすると、ファンネルが自動でそこまで侵入する。」

姫子「へえ、イメージね…」

いちご「敵機付近までファンネルが侵入したら、サイコミュを通して頭の中に浮かんでくるファンネルが捉えた映像を頼りに敵機に狙いを定めて、攻撃指令を出す。」

姫子「それもイメージするの?」

いちご「そう、それがサイコミュ。」

姫子「へえ、すごいじゃん!! そんな事出来るんだ!!」

いちご「…」

いちごには姫子が何故そこまで感動するのかわからなかった。
いちいち話をするたびにコロコロと変わるその表情も変だと思った。

いちご「話は終わり。 出ていって。」

姫子「出ていくからさ、あなたも一緒に行こ。」

いちご「話している意味がわからない。」

姫子「今度はあたしの部屋に行こうよ。 お菓子くらいはだすからさ。」

いちご「嫌だ。 独りになりたい。」

姫子「じゃあさ、今日のところは帰るから、明日また色々教えて。 今度はあたしの部屋で。」

いちご「…少しだけなら。」

いちごはまた言ってしまった、と思った。

姫子が部屋を出ると、いちごは本当に独りになった。
ベッドに潜り込み、つぶやいてみる。

いちご「明日も、少しだけ。」

意味のない言葉が出た、と思った。

第二話 ネオ・ジオン! おわり



第三話 フィフス・ルナ!

配属から2ヶ月程たって、主だった士官がブリーフィングルームに集められた。
艦長は、真っ青だ。

艦長「ネオ・ジオンのラサ攻撃作戦の概要が判明した。」

和「どういった作戦ですか?」

艦長「静止衛星軌道上にある資源採掘衛星フィフス・ルナをラサへ落とすらしい。」

フィフス・ルナはコロニー建造用の資源を供給するために、アステロイドベルトから運ばれてきた直径数十キロほどの小さな隕石である。
軍事施設でも何でもない為、駐留している部隊など皆無だ。
普通、どこにでもありそうなちっぽけな鉱山に軍隊を駐留させる国がないのと同じ理由である。

和「ネオ・ジオン艦隊の位置は!?」

艦長「フィフス・ルナに向かっている。もう目と鼻の先くらいだ。」

律「後手後手じゃねえか!!どうすんだよ!!」

艦長「…今から急行して阻止する…。」

律「全く、ロンド・ベルが聞いて呆れるぜ!」

艦長「…敵の方が一枚上手だったということだ。(オメーも脅しだって断定してたじゃねえか、畜生!!)」

和「急いで出撃用意よ!!」

澪「ひぃぃーーーっ!! 出撃!! 恐い!!」ビクビク

律「澪、大丈夫だぞ。」

紬「訓練通りやれば問題ないわよ。」

唯「澪ちゃん!ファイト!!」

梓「みんな一緒だから怖く無いですよ。」

恵「秋山さんかわいい!!//////」キュンキュン

艦長「…秋山は置いてけよ。 こんなんじゃとても実戦なんか無理だぞ。」

和「私たちはまだ満足いく練度まで達していませんので、それをカバーするために重点的に訓練したチームワークが必要です。 連れていきます。」

彼女たちは、この2ヶ月ほど、和の指示でみっちりと訓練をやらされていた。
主にチームワークの訓練である。
これにより、各人の役割が明確になっており、メンバーを外すことは出来なくなっていたのだ。
しかも和は、MS戦戦術を模索すると理由をつけて、予備機まで編隊に加え、当たり前のように稼働させていた。
そのしわ寄せはすべて艦長に押し付けられていたが、和はお構いなしである。

艦長「真鍋少尉、君は艦内で待機d」

和「私は第2編隊長です!!」

律「私が編隊長を代わってもいいぜ~」

和「律!!」

律「キャハ☆」

紬「りっちゃん、余計なことを言わないで!」ギロ

律「ご…ごめんムギ…(なんか怖い)」

すぐにメンバーがMSデッキに流れていく。

コックピットに入り込むと、律がぐちを言い始めた。

律「しっかし、重いシールドに実体弾のバズーカ背負っていくのかよ。スピードが殺されちまうな。」

和「サイコミュ兵器にやられたいなら、通常兵装で出ていいわよ。」

律「冗談だってば。」

律たちのジェガンは耐ビームコーティング処理をした大型シールドに、バズーカを追加装備していた。
胴体や頭部、肩、腿、ランドセルの装甲にも耐ビームコーティング処理が為されている。

これらの装備は和が艦長に命令して揃えさせたものである。
耐ビームコーティングなどの面倒な作業に関わる整備兵たちの悲鳴は当然のように艦長に浴びせられている。

律「しっかし、このキノコみたいな操縦桿はなかなか慣れねーな!」

和「アーム・レイカーよ。 みんな同じこと言うわね。」

律「そうだろ? 前の方がいいぞ。」

和「今はあるものでやるしかないわ。」

ジェガンのコックピットに採用されている半円球型操縦桿アーム・レイカーは被弾時の衝撃で手がすっぽ抜ける等の問題が発生し、すぐに従来のグリップ・タイプの操縦桿に差し戻されることになる。

恵「じゃあ、第1編隊、出るわよ。」

律「了解!!」

澪「了解…(曽我部さんと一緒…怖い…)」

和「第2編隊も準備はいいかしら?」

紬純「準備よし!!」

梓「私たちは艦直掩ですね。」

唯「そうだね。」

予備機も合わせた8機のジェガンがクラップ級より順次発艦した。
行先には、フィフス・ルナの影が地球を目指して前進している。

長砲身の重火器を装備した信代のギラ・ドーガを編隊の要として、ムサカ級3番艦と二個小隊がフィフス・ルナへのアクセスルートを塞いでいる。
敵の接近を本隊に知らせるとともに、これを遅滞させる時間稼ぎの警戒監視部隊である。

信代「露払いはさ、強化人間に任せればいいんだけどね。」

潮「失敗作だからいつ壊れるか分かんないって言うんでしょ。」

信代「分かってるじゃない。私達だけでやるつもりで行くよ!!」

潮慶子圭子「了解!!」

そのもう少し前方には、いちごと姫子の機体が漂っている。

姫子「ファンネルを放出したら、みんなと合流だよ! いい!?」

姫子の言葉に、いちごがむっとした声で反応する。

いちご「言われなくても分かっている。」

そう言ったすぐ後、いちごは迫り来る敵をサイコミュで捉えた。
すぐさま迎撃に入る。

いちご「来る! ファンネル!」

姫子「…!!」

姫子のギラ・ドーガはまだ敵を捉えていない。
姫子に、いなくてもいい、とでも言うように花弁を開いた6つのファンネルがまだ何も見えない宇宙に飲み込まれていった。


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