プロローグ 発端!

不明艦が3隻、スウィート・ウォーターへの進路をとっていた。
しかし、地球圏一キナ臭いこのコロニーからは当然出動要請が来ない。
連邦政府もあまり関心がないのかだんまりだ。
パトロール中だったロンド・ベルの巡洋艦、ラー・チャターの艦長は、敵を捉えながら動くことが出来ない事態に苛立っていた。

艦長「クソッタレ!正体不明の艦隊がスウィート・ウォーターに向かっているんだぞ!! ありゃ絶対ネオ・ジオンだと思うんだよね、私は!!」

副長「…どういたしましょう?」

艦長「…正体だけでも突き止める。下駄履きでジェガンを二個小隊出せ!偵察だ!! 出来れば所属と航行目的も確認させろ!!」

副長「…よろしいので…?」

艦長「…やっぱり怖いなあ…独断行動は終身刑だっけっか…やめようかな…」

副長「曽我部中尉!聞いたとおりだ!!」

恵「了解です!ジェガン1・2小隊、発進します!」

直線的なシルエットを持つグリーンの機体を乗せたSFSがカタパルトに固定された。
この機体は、まだロンド・ベルやルナ2など一部のエリート部隊にしか配備されていない新型量産機RGM-89 ジェガンである。

艦長「オイ、ちょっとタンマ!! やっぱヤメる!! 撤回だ!! 連邦政府からの出動要請を待とうじゃないか!! そうだ、そうしよう!!」

うだうだ言い出した艦長の耳元に、副長が魔法の言葉を吹き込んだ。

副長「真鍋少尉に男を見せるチャンスですよ。」ボソ

艦長「よっしゃ! 出撃を許可する!!」キリッ

恵「ストーカー01 RGM-89 曽我部恵 行きます!!」

副長「射出!!」

おめでたい艦長にすべての責任を押し付け、ジェガン4機がクラップ級巡洋艦ラー・チャターから射出された。
この即応性が、ロンド・ベルのロンド・ベルたる所以である。

スウィート・ウォーターに程近い宙域に、赤いズングリとした人型兵器が浮かんでいる。
機体名はAMS-120X ギラ・ドーガサイコミュ試験型。
火力は高いが、機体バランスが悪く、機動性に難があるためネオ・ジオンによって一度は廃棄が決定された実験機である。

その胸のコックピットに座るパイロット、若王子いちごも境遇は乗機と似たようなものだった。

いちご「敵が…来る。」

その声を拾ったはるか向こうの味方機から通信が入る。

信代「強化人間、出来るのか?」

いちご「問題ない。」

通信相手の短い言葉を聞きながら、信代は顔をしかめた。

信代「ふん…失敗作がよく言うよ…私は知らないからね…」

信代はこの表情の薄い強化人間が嫌いだった。
死んでしまえばいい、そう思っていると、機体が揺れて接触回線が開かれた。

姫子「彼女を一人にしていいの? 掩護が必要なんじゃない?」

信代「一人でやりたいってんだから、いいんじゃないの?」

姫子「私、行ってくる!」

姫子のギラ・ドーガが艦を離れていく、それを見て信代はまた顔をしかめた。

信代「ハン、失敗作と共同戦線を張りたいなんて、もの好きもいたもんだよ…。」

信代「しっかし、丸腰の艦艇のエスコートだなんて、うちらも貧乏くじ引いたもんだよ。 失敗作の強化人間も配属されてくるし、商売上がったりだね!」

シャアが3隻の艦艇でスウィート・ウォーターを占拠したのがつい一週間ほど前。
ネオ・ジオンは戦力を整備している最中である。
ロールアウト直後の数少ないAMS-119 ギラ・ドーガとサイコミュ試験型を配備された信代達の座乗艦であるムサカ級3番艦は、
島一号タイプのベースコロニーを改造した造船施設で建造された艦艇をスウィート・ウォーターまで護衛する任務を帯びていたのだった。

その時いちごは、まだ見ぬ敵を正確に捉えていた。
彼女は不完全ながらも、外界を動く気配を察知出来るように頭の中を作りかえられている。

いちご「下駄履きのMSが二個小隊…」

いちご「新型…ロンド・ベルの先鋒と思われる…」

それを確認するように口に出すと、アーム・レイカー型の操縦桿から手を離し、目を閉じながら、ポツリと呟いた。

いちご「…ファンネル。」

両肩に突き出ていた6つの円筒が機体を離れる。
いちごがパチン、と指を鳴らすと、円筒の側面が開き、四つの花弁を持つ花のような形になった。
指を鳴らす、などという茶目っ気のある行動が出来るのは独りの時だけだ。
そのため、無条件で独りになれるMSのコックピットは、彼女にとって最も落ち着ける場所の一つであった。

いちご「行け!」

そう言うと、彼女の意志に従うように、6基のファンネルは直線的なジグザグ軌道を描きながらあっという間に見えなくなった。

恵「2小隊はコロニーの裏側から接近。艦隊の撮影と警戒。」

恵「我々は正面から行って所属及び航行目的の確認をする! 敵機が出てくるかも知れないわ! 気をつけて!」

そう言って、編隊長である恵が僚機に合図をだそうとしたとき、その僚機を三方向から細いビームが貫いていた。
僚機のジェガンが赤熱し、あっという間に爆散する。

恵「散開!!」

SFSであるベース・ジャバーから離脱し、三機のジェガンは素早く警戒態勢をとった。

恵「敵影は!?」

2小隊長「見当たりません!!」

2小隊長「うわっ!!」

その時、2小隊の隊長機にもビームが殺到していた。
回避機動をとっているものの、手足を次々にもがれ、次第に動きがなくなっていく。

2小隊長「さ…サイコミュ兵器だ…」

それが、2小隊長の最後の言葉だった。

恵「え…援軍を!!…援軍を!!」

恵のジェガンにも、四方から次々とビームが命中し始めた。

恵「きゃあああああああああああああああ!!」

恵は、パニック状態に陥ってしまい、アーム・レイカーをめちゃくちゃに動かすことしか出来なかった。

姫子「一人じゃ辛いだろうから、援護に来たわ。」

その言葉に、サイコミュから脳に送り込まれていた標的のイメージが一瞬、かき消される。
次の瞬間、いちごは大声で叫んでいた。

いちご「邪魔をしないで!!」

姫子「あ…ご…ごめんなさい…」

姫子のギラ・ドーガがその気迫に押されて後ずさる。

いちご「目障り。後ろで見ていて。」

姫子は、遥か遠くで数条の火線が煌き、小さな爆発光がいくつか瞬くのを見た。

姫子「これがサイコミュ兵器…? すごい…」

驚く姫子に、いちごの冷たい言葉がレシーバー越しに浴びせかけられた。

いちご「一機撃ち漏らした。あなたのせい。」

姫子「…ごめんなさい…」

気がつくと、六つの花のような形のビーム砲がどこからともなく集まって、花弁をたたんで円筒形になり、いちごの機体の肩に収納された。

いちご「帰投する。」

いちごの機体が姫子を無視して加速する。
姫子は、慌ててそれについていった。

その時、サイド1のサクラガオカバンチ防衛隊では、パイロット4名と人事将校が言い争いをしていた。

唯「みんなで一緒に仕事できなければ、わたし軍隊辞める!!」

律「私もだ。大体な、勧誘のおっさんがみんなと一緒に仕事できるから、バンドも解散しなくて済むよ、なんいうから連邦軍の試験を受けたんだ!!」

律「こんなの詐欺だぜ!!ほら、辞表だ!!」バン

律は、人事将校の机に辞表を叩きつけた。
どうせ受け取ってもらえないシロモノである。

紬「りっちゃんかっこいいわあ…//////」

澪(人事と喧嘩…あとが怖い…)ブルブル

人事将校「困るんだよ、そう言うのは!!転属の時期なんだから少しは異動があるものなんだよ!!」

律「うるせえ、梓じゃなくて他の奴を異動させろ!!」

人事将校「ああ…もう分かった。調整してやるからまた明日来い。」

人事将校が折れたとは到底思えない。
明日もまた同じ話をされるのだろう。
四人は挨拶もなしに部屋を出た。

律「全くふざけた話だぜ!!」

唯「辞めたら何やろうか?」

律「宅配業でもやるか、大型船に荷物を運び入れるモビルワーカーやプチモビのオペレーターなら腐るほど募集があるぜ。」

澪「お前ら本気なのかよ…」

紬「いっそのことみんなで宅配のお仕事始めるのはどうかしら?」

澪「ム…ムギまで!!」

紬「私、一から事業を始めるのが夢だったの~。」


その時艦長は、これ以上ないくらい焦っていた。

艦長「おい、応答しろ!!誰でもいい!!おおおおい!!」

彼の独断による出撃で、援軍を含め、6機1個中隊のジェガンをロストしたのである。
これによって、彼の終身刑が現実味を帯びてきた。

和「艦長、私の小隊が行って、確認してきましょうか?」

艦長「真鍋少尉、君の小隊は予備だ!! 経験も浅いし、絶対だめだぞ!!」

艦長「それに艦にMSがなくなるのも困るし…」

和「MSがなくなるのが困るのでしたら、ベース・ジャバーで行きますが。」

艦長「駄目だ!!パイロットがいなきゃMSは動かん!!君は大事な体なんだ!!」

純「あの~…私が行きましょうか?」

艦長「おう、鈴木少尉、行ってくれるか。」

和「どうして私より経験の浅い、私の小隊の鈴木少尉なら行ってもよろしいのでしょうか?」イラッ

艦長「ええっと…それはだな…//////」

純「あの…私、行きますね!(修羅場になるぞ~♪)」

副長「私は医務官の手配を…」

砲手「用はないけど戦闘ブリッジに行ってきます。」ウィーン

操舵手「交代の時間だ。代わりを呼んできます。」

通信手がヘッドホンを取り付けると、会話が可能な人間は艦長と和だけになった。
露骨に気を使っているのだが、和はそれに気づくことはない。

和「艦長、私をのけ者にしてますよね…?」

艦長「ち…違うんだ…その…//////」

和「何が違うんですか!?」

艦長「と、取りあえず鈴木少尉の報告を待て!状況がわからんと動けんからな!!君はジェガンのコックピットで待機だ!!」アセアセ

和「…了解」ムスッ

和は、ふくれっ面でブリッジを出た。
それと同時に、通信手がヘッドホンを外し、言った。

通信手「今日は告白しなくて正解でしたよ。」

艦長「やはりか…」

通信手「ええ、恐らく全滅です…」

艦長「…私は終身刑かな…?」

通信手「…そう思いますねぇ。」

人事のように、通信手が言った。
事実、人事であるからだ。
通信手は、艦長が変われば少しはこの艦もマトモになるだろうか、と思っていた。


――

姫子が愛機をMSハンガーに固定したとき、いちごはすでにMSデッキを出ようとしていた。

姫子「ち…ちょっと待ってよ!」

自分でも何がしたいのかわからなかったが、姫子は慌てていちごを追ってしまう。

姫子「待ってったら!!」

いちごはうっとおしそうに姫子に振り返り、短い言葉を吐き捨てた。

いちご「何?」

姫子「ごめん、謝るから、許して。」

いちご「何が?」

姫子「邪魔したこと、怒ってるんじゃないの?」

いちご「別に。」

姫子「じゃあなんでそんなに急いでるの?」

いちご「独りにして。」

それだけ言うと、いちごは姫子を置いて部屋に入っていった。

いちご「…頭が…痛い…」

部屋に戻ると、すぐにいちごは頭を抱えてうずくまった。
彼女は、強化に失敗し、サイコミュへの適応が不完全だったのである。

いちご「大丈夫…私は…大丈夫…」

いちご「わたしは、ニュータイプだから…」

それでも彼女は、戦いに向かわせる為にそう刷り込みをされていた。
戦力が絶対的に不足しているネオ・ジオンは、失敗作の強化人間も、採用を見送られた実験機も、このように無理矢理にでも利用する必要があったのである。


――

純は、ベース・ジャバーでジェガンをロストした宙域に到着していた。
そこは、まるでジェガンの墓場である。

純「こりゃ…ひどいや…。」

純「えっと、生存者は…」

その時、コンソールのモニターが点滅し始めた。

純「救難信号…? 向こうからだ!」

純は、救難信号の発信ポイントにベース・ジャバーを向けた。

純「艦に帰ろうとしたのかな…?」

少し飛ぶと、上半身だけになったジェガンを発見した。
腕も片方しかないようだ。

推進剤も漏れており、もう動けないようである。

純「もしもし、救助に来ましたよ~。 生きてますか~?」

返事がない。
純は宇宙空間に出て、ジェガンのハッチを開いてみた。

純「曽我部…先輩…?」

恵「 *1 ))」ガクガクブルブル

そこには、怯えきった曽我部がうずくまっていた。
言葉の発し方すら忘れたようにも見える。
艦に連れ帰っても、曽我部は口を開くことはなかった。


――

唯達四人が退職後について話し合っている最中、人事担当の事務所に一本の電話が入っていた。

人事将校「はい、こちら人事…」

人事将校「MSパイロットですか?…5名?」

人事将校「大丈夫です。むしろ丁度良かった。」

人事将校「ジムⅢのパイロットです。5人とも腕はいいですよ。」

人事将校「それじゃあ決定ということで…明後日にはそちらに。」

受話器を置く音が事務所に響き渡った。

人事将校「あの5人…絶対死ぬな。」

人事将校の口元が、ニヤリと歪んだ。

四人は、梓の部屋に入っていった。
梓は泣きはらした目をこすりながら話しをしている。

梓「私、皆さんと離れたくないです…私だけサイド2に異動なんて…」

律「大丈夫だ、梓。いざとなったら辞めるって言って来た!」

唯「そうだよあずにゃん!私たちはみんな一緒だよ!」

梓「うえ~ん…唯先輩~」ダキッ

唯「よしよし…大丈夫だよ~」ナデナデ

紬「いいわねえ…//////」ポワポワ

澪「まあ…私達なら何とかなるだろ…安心していいぞ、梓。」


翌日、5人は人事部に呼び出されていた。
期待など全くと言っていいほどしていない。

人事将校「君等の配属が決定した。」

律「5人一緒なんだろうな!」

人事将校「そうだ。」

意外な言葉に、一同の顔がほころんだ。

唯「どこですか?」

人事将校「ロンド・ベルのクラップ級巡洋艦ラー・チャターだ。」

澪「ヒッ…ロンド・ベル!!」チーン

紬「まあ…」ビックリ

律「や…やってやろうじゃねえか!!」

人事将校「田井中少尉は大丈夫そうだがね、そこに一名気絶してる者が居るぞ。」

律「澪! おい澪!!」

澪「」

紬「完全に気絶しちゃってるわねえ…」

人事将校「貴様らが無理言ったんだから、気絶したところで変更は無しだぞ。 明日着任だから、今日はもう帰って準備するように。」

活動を停止した澪を紬が担いで人事部を出ると、律が絶望と共に口を開いた。

律「クソ…澪に実戦部隊はハードルが高すぎたか…。」

騒動の発端である梓は完全に暗くなっている。

梓「すみません…私が我侭言ったから…」

それを見かねた唯が、梓の肩に手を添えて、むさ苦しいドヤ顔を作りながら自信満々で言い放った。

唯「大丈夫だよあずにゃん!!」フンス

律「その自信はどっから来るんだよ…怖くないのか?」

唯「その艦、和ちゃんと憂が居るんだよ! 会えるのが楽しみだよ~!」

紬「でも即応部隊のロンド・ベルがこんなにパイロットを欲しがるってことは実戦でパイロットが消耗したってことよね…」

それを聞いて、唯の表情が硬くなる。

唯「…もしかして和ちゃんがケガしてたり…」

唯「早く行かなきゃ!!」

その反応に、澪を除くメンバーの表情が緩む。

律「唯は相変わらずだな…」

紬「唯ちゃんを見ていると、何とかなりそうって思うわよねえ…」

梓「そうですね!」

澪「」

5人は翌日、ロンド・ベル隊に配属された。


プロローグ 発端! おわり

明日は一話一話が短いので二本立て。

 第一話 ロンド・ベル! 第二話 ネオ・ジオン!

です。



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