二年トイレ。鏡の前で茜が髪を整えている。

茜「~♪~~♪」

ドタン!! ガチャン!!!

紬「茜ちゃん!」

茜「んにゃ!?び、びっくりしたぁ~。ムギ先輩じゃないですかぁ」

紬「茜ちゃん、大事なお話があるの!」

茜「な、何ですか?もしかして……」

紬「昨夜言っていた、みんなの記憶を消すって提案……、あれ、やっぱりなしにして!」

茜「ぐぁー、やっぱりぃー……」ガクリ

茜「そんなこと言われてもムギ先輩、もうこっちは準備万端なんですよ?リハだって三回もやったし」

紬「なしなの!絶対なしなの!決定なの!!」

茜「横暴だぁ……、ムギ先輩なんかキャラ変わってるし……」

茜「それに、軽音部のみなさんのことは、どうするんですか」

茜「今のままじゃ、絶対納得してくれないでしょ」

紬「だから、茜ちゃん……。私から提案があるの」

茜「はい?」



紬「私を、普通の女の子にしてほしいの」

茜「……えぇーっと?」



紬「『軽音部のためのムギちゃん』じゃなくて、みんなと同じように、……ただの琴吹紬に」

紬「そうすれば、軽音部を抜けちゃったあとでも、私は私のままなんでしょ?」

茜「理論的にはそうですけど……、言ってること、理解してます?」

茜「『軽音部のためのムギちゃん』がいるから、みんなキラキラハッピーなんですよ?」

茜「それを捨てちゃったら……ムギ先輩だけじゃなくて、みんなが幸せになれないんですよ?」

紬「『なれないかもしれない』でしょ?やってみなくちゃ、分からないわ」

紬「それに……、私だって、みんなと一緒にいたい」

紬「心から、みんなと笑いあっていたいから」



茜「……だから、誰かが不幸になっても後悔しない、と?」

茜「ずいぶん自分勝手なんですね……」

紬「そうね……、そう思うわ」



紬「でもね、茜ちゃん。私は自分の力で、幸せになりたい」

紬「そして、みんなのことも絶対に幸せにしてみせるわ」

紬「用意された幸せに頼らなくても……」

紬「そんなものよりずっと、最高の幸せを手にしてみせる」

紬「だから……!」



茜「……」

茜「……はぁ。分かりました……」

紬「それじゃあ!」

茜「まぁ、いいですよ。私ムギ先輩のこと大好きですし。ゆーことなんでも聞いちゃいますもん」

そう言って茜は、懐から何かを取り出す。

茜「この楽器を使います」

紬「ユーフォニウム?」

茜「いや、ブブゼラ」

紬「ああ」



茜「――確認なんですけど。……普通のムギ先輩には、みなさんを幸せにする資格は、一切ありません」

紬「分かってるわ」

茜「都合よく楽しいことがあったり、問題なんてあっという間に解決したり」

茜「ライブが無条件で成功したりも、しません。二度と」

紬「……覚悟してる」

茜「そのときになって、茜ちゃん好き好き~♪なんて言っても、助けてあげられませんよ?」

紬「嫌いだから大丈夫よ」ニコッ

茜「あ、大嫌いからランクアップ。やったね茜ちゃん」



茜「――それじゃあ、ちょっとブブゼラを覗き込んでもらっていいですか?」

紬「えっと……、こうしかしら?」ヒョイッ

ヴェェェェェェエエェェェェエエェエェェェエェェェエェェエェェ

紬「ふわああぁ!!!」

ヴェェェェェエェェェェェエエェエェェェェェェエエェエェェェ

紬「」

ヴェェェエエェェェエェェェェェ

ヴェェェェェェエエ

ゴエェェ――



音楽室

律「駄目だ、やっぱり見つからなかった……」

澪「どこ行っちゃったんだ、ムギのやつ……」

唯「うぅぅ……もしかして……、もう二度と戻ってこないんじゃあ……!」

梓「そ、そんなわけありません!絶対戻ってきます!ムギ先輩は――」



ガチャ

紬「みんな、お待たせぇー♪」

唯「!!ムギちゃ――おわ!」

澪「か、髪が……」

梓「ムギ先輩の髪が、真っ黒に……」

紬「うふふ♪」



紬「……私ねぇ、もう『軽音部のためのムギちゃん』じゃないんだぁ」

紬「だから、卒業しちゃっても……軽音部がなくなっちゃっても、ずっと、みんなと一緒――」

唯「ほんとに!?ほんとのほんと!?」

紬「本当よ?……でも、よかったのかなぁ、って……」

紬「私……みんなのために、何もしてあげられない……」

律「そんなことないって!」



紬「お茶もお菓子も、もう用意してあげられないの……」

梓「わ、私がやります!お茶の淹れ方だって練習するです!」



紬「合宿のために、別荘を用意したりもできないし……」

律「いいじゃん別に!安い民宿とかでも絶対楽しいって~♪」



紬「唯ちゃんが褒めてくれた髪だって……」

澪「私とお揃いで、嬉しいよ!それに、すごく似合ってると思うぞ、ムギ」



紬「今までみたいに、楽しく音楽できないかもしれない……、喧嘩だっていっぱいするだろうし、悲しいことだって――」

唯「ムギちゃん!!」

紬「唯ちゃ……」

唯「何があっても、ずっと、ずぅっと一緒だよっ!!」ダキッ

紬「…………うんっ!」

律「お、やぁっと笑ったなー?」

澪「やっぱりムギは、笑顔じゃないとな」

梓「暗い顔なんて、似合わないです!」

紬「みんなの……おかげよ」

紬「……私、みんなのこと大好き」

紬「これから、どうなるのか……先のことなんて、分からないけど……」

紬「みんなと一緒なら、きっとどんなことでも、乗り越えられるから……」

澪「私もそう思うよ」

律「ははっ、とーぜんだよなっ!」

梓「私だって、が、頑張りますから!」

唯「えへへ……みんなムギちゃんが大好きで」

唯「ムギちゃんもみんなが大好きで……」

唯「やっぱり、ムギちゃんは天使だね!」



唯律澪梓「ムギちゃんマジ天使!」




【終わり】



お読みいただいた皆さん、ありがとうございました。
柿ピーのピーは育つって本当ですか?ごめんなさい。

ムギちゃんマジ天使。