翌日

放課後、音楽室。ドアの前に紬がためらった様子で立ち尽くしている。

紬(さて……、何から言おうかしら……)

紬(ありがとうと、頑張ってねと、幸せにねと……)

紬(あと、ごめんなさいも……よね)

紬(でも、なんて言えば……)

紬「……もう!入ってから考えよう!」

ガチャ

紬「みんなお待た――」

律「確保ぉー!!」

紬「えぇぇ~~!!?」

唯「シンミョウにオナワにつけぇぇ!」

紬「唯ちゃんまで~!?」

ドタバタ

ドタバタ



律「よっしゃ~!ムギ確保!梓、時間取れ!」カシャ

梓「午後5時17分、容疑者ムギ先輩、逮捕!です!!」

紬「容疑者!?逮捕!?」

澪「……いつまでやってるんだ。梓まで巻き込んで……」

紬「澪ちゃん、これは一体……」

澪「ごめんな、ムギ。とりあえず座ってくれ」

律「これから秋山鬼警部の取調べだぁー!」

澪「誰が鬼警部だ!」ゴンッ

律「きゅふん……」

唯「ムギちゃんから事情ちょーしゅするための、本格けーさつごっこだよ!!」

紬「ごっこっていうか……、手錠されちゃってるんだけど……」カチャカチャ

唯「本格だからね!」フンス

紬「こんなのどこから……」

律「さわちゃんが持ってた」

梓「深く触れない方がいいんです、きっと。それより……」

唯「ムギちゃん!勝手にどっか行っちゃうなんて、絶対ダメなんだからね!」

紬「え……」

梓「そうですよ!黙っていなくなったりしたら、承知しないです!」

紬(……やっぱり、みんな気付いてるんだ。茜ちゃんの言ってたとおり……)



律「これだけは、きっちり確認しとかなきゃと思ってさ」

澪「ムギ……、軽音部を抜けちゃったら、ムギはどうなるんだ?」

紬「それは……」

紬(言えない……、本当のことは)

紬(明日には、みんな忘れちゃってるとしても……)

紬(本当のことを言えば、みんなきっと悲しむ……)

紬(みんなが悲しむのは、絶対嫌……)



紬「や、やだ~、どうにもならないわよぉ……」

梓「本当ですか!?」

紬「本当よ~。卒業してからも、私たちずっと一緒だもの。ずっと仲良しで、今までみたいに楽しくて……」

紬「だから、私はどこにもいかないし、みんなと一緒に、ずっと、たくさん幸せなの……」

唯「ムギちゃん……」

紬(そこに私の心はいないけど……)

紬「だから、何も心配はいらな――」

律「ムギ……、前から思ってたんだけど……」

紬「え?」

律「ムギってさ、すぐ顔に出るよな……」

紬「え?あ……!えぇ……っ!?」アワアワ

梓「そんな捨てられた子犬みたいな顔して、『ずっと、たくさん幸せ』なんて言われても、誰も信じませんよ」

紬「う、嘘はついてないもの!みんな将来、今みたいに……ううん、今よりも毎日楽しくて、充実して……」

唯「それで、ムギちゃんは、幸せになるの?」

紬「う……」

唯「さっきからムギちゃん『みんな』って、自分のこと入ってないみたいに話してる……」

唯「そこにいるムギちゃんは、幸せじゃないのかな……?」

唯「一緒に、幸せになれないのかな……?」

唯「やだよ……、駄目だよ、そんなの……」

梓「唯先輩……」

律「唯……」

唯「私、どんなに楽しくても、どんなに幸せでも……」

唯「ムギちゃんが幸せじゃなきゃ、絶対やだもん……」

唯「ぜったい……うぅ、うっうぅぅぅ……」グスッ

澪「お、おい……泣くなよ唯」

唯「だってえぇぇぇぇ!ふぇぇぇぇぇんんん!!!」

澪「ああもう!鼻水飛ばすな!」

梓「ムギ先輩……私たちみんな、唯先輩と同じ気持ちなんですよ?」

紬「どうして……」

律「あったりまえだろー?仲間だもん!」

唯「そぉだよおぉぉぉぉ!!ふぐっ……うっ、むえぇぇぇぇぇ!!」

紬「あ……」

紬(そっか……)

紬(何勘違いしてたんだろう、私……)

紬(みんなと一緒にいる理由なんて、本当は全然関係ないのに)

紬(みんなのことが大好き。みんなと一緒にいたい)

紬(こんな、簡単なことなのに……)

紬(本当の自分の気持ちが分からない?)

紬(今、この瞬間……私がみんなのこと大好きって気持ちに真実がないなら……)

紬(何が真実だっていうの……!)

紬「澪ちゃん……」

澪「ん、どうした?」

紬「あの、手錠とか……外してもらいたいんだけど……」

唯「まだ駄目!今外したらムギちゃん、どこか行っちゃうもん!絶対駄目!」

紬「大丈夫よ、唯ちゃん。私、どこにも行かないわ」

唯「ほ、本当に……?」

澪「じゃあ、ちょっと待ってな……」



カシャリ

澪「――外れたよ、ムギ」

紬「うん、ありがとう」

唯「……」

紬「……」ニッコリ

唯「……?」ニコッ

紬「……」

紬「……ムギダァーッシュ!!」ダッ

唯「あぁぁぁ!!」

梓「逃げた!ムギ先輩逃げた!」

澪「お、追うぞ!」

律「はえー!ムギダッシュ超はえぇー!!」



二年教室

ダダダッ

紬「失礼しまーっす!」

憂「うわ!びっくりしたぁ……あれ、紬さん……?」

紬「はぁ……はぁ……、憂ちゃん……?あの、三浦茜ちゃんって子、知らないかしら……?」

憂「三浦……さん?さぁ……えっと……」

俺「茜ちゃんならさっき、トイレで見かけましたよ」

紬「あ、ありがとう!!」ダダッ

俺「うわ、紬先輩はやいなぁー……」

憂「……えっ」

俺「えっ」



5