紬「……」
律「……チョップ!」ペシン
紬「きゃうん!」
律「長い」
紬「えぇっ!?」ガーン
唯「よくわかんなーい」
紬「ええぇっ!!?」ガガーン
唯「……でも、ムギちゃんが私たちのこと、すっごく考えてくれてたってことは、分かったよ!」
紬「ゆ、唯ちゃん……!」
梓「そうです!それに私も、ムギ先輩のこと、だっ、だ、大好きですから!!」
紬「梓ちゃん……」
律「桜高軽音部を舐めるなよー?そんなことくらいで、私たちの結束はビクともしないぜ!」
紬「律っちゃん……」
澪「そうだな。それに、ムギがどう思おうと、ムギはムギなんだ。他の誰でもないよ」
紬「澪ちゃんも……」
澪「ムギ……ありがとう」
唯「ありがとぉ~!」
梓「ありがとうございます」
律「ありがとなぁー!」
紬「みんな……」
紬「っ……ぐす……、うぇぇぇぇぇん!!うわあぁぁぁぁぁぁん!!!」
唯「あはは、また泣いちゃったー」
梓「今日のムギ先輩は泣き虫さんです」
紬「あっ、あり……っ、ありが……ぐずっ……ふえぇぇぇぇぇぇ!!!」
その日の夜
梓の部屋。梓がベッドで寝そべりながら、携帯電話で憂と会話している。
梓「――そりゃ、憂は女らしいって感じするじゃん。胸とか胸とか」
憂『む、胸は関係ないよぉ……。でも、女らしくなりたいんだったら、軽音部はいい先輩いっぱいいるでしょ?紬さんとか……』
梓「ムギ先輩は……、だってもう、天使だもん……」
憂『なにそれぇ』クスクス
梓「内緒♪とにかく、ムギ先輩マジ天使、なの!」
憂『そうなの~?でも、本当に天使だったら、ちょっぴり残念かな?』
梓「どうして?」
憂『だって、天使は天国に住んでるんでしょ?だから、いつかは――』
律の部屋。律が携帯電話で澪と会話している。
律「――で、今日のことって?やっぱりムギのことか?」
澪『うん、そうなんだけどさ……』
律「もう綺麗さっぱり片付いたつもりでいたんだけど……。何か、気になるのか?」
澪『……ムギ、言ってただろ?自分は軽音部のためだけにいる、って』
律「あぁ……」
澪『だから、私たちが卒業しちゃって、それで……今の軽音部が、なくなったら?』
律「……え。いや、まさかそんな……」
澪『まさかとは思うよ。でも、そのときムギは、もしかしたら――』
唯の部屋。
唯「……Zzzz……Zzz」
唯「ムニャ……」
唯「これまでのあらすじ!」
唯「ムギちゃんの背中から分度器が生えました」
唯「すごい!」
紬「うふふ♪」
唯「ムギちゃん、分度器貸して~」
紬「ごめんね、唯ちゃん」パタパタ
唯「わあ、飛んだ」
紬「私、もう行かなきゃ……」パタパタ
唯「む、ムギちゃん!これじゃ角度が見えないよ~」
紬「唯ちゃん、これだけは覚えておいて?」パタパタ
唯「?」
紬「タクアンの角度は、180度よ」
唯「ムギちゃあぁーん!!!」
紬「しゃらんらしゃらんら~♪」パタパタ
唯「……、……うーんうーん……」
紬の部屋――ではない。
紬「……って、どこかしら、ここ」
?「ムギちゃん!ムギちゃーん!!」
紬「だ、誰……?」
俺「俺だよ、俺!!」
紬「ホントに誰!!」
俺「俺俺!俺だってば!分かんないかなぁ……?」
紬「……オレオレ詐欺?」
俺「古くね……?まあ仕方ないか。そもそも初対面だしね」
紬(不審者だ)
茜「どうしようかな……。じゃあ、俺のことは茜ってよんでよ!私は三浦茜!」
紬「え、お……女の子?」
茜「そうですよぉ、ムギ先輩。三浦茜、桜ヶ丘高校二年、17歳!172cm、45kgです」
紬「何そのスタイル」
茜「ちなみに3サイズは100/50/80」
紬「そ、そんな女子高生いない!」
茜「あはは、傷つく。っていうか、それをアナタがいいますか、ムギ先輩」
紬「あ……」
茜「いやまあ、軽音部の皆さん的には、ノープロブレムだったみたいですけどね。いやいや、一時はどうなることかと」
紬「あ、あなたは……」
茜「ノンノン!今は私のことより、ムギ先輩のことですよぉ~?」
紬「なんの……こと?」
茜「正確には、軽音部じゃなくなってからの、ムギ先輩のことですね」
紬「!!」
茜「今日のところは丸く収まった感じですけど……、みなさん多分、そろそろ気づいちゃってるんじゃないかなぁ~」
茜「卒業しちゃったら、」
茜「軽音部がなくなったら、」
茜「ムギ先輩も、いなくなるって」
紬「……」
茜「ムギ先輩も、なんとなく分かってはいましたよね?」
紬「……私、死ぬのかしら?」
茜「あー。ちょっと違いますね。何て言えばいいんでしょう……」
茜「人間だけは残って、人生は消えちゃう……みたいな?」
茜「哲学的ゾンビってご存知ですか?要はクオリアの問題なんですけど。内観の欠如というか」
紬「……よく分からないわ」
茜「ですよね。すみません。簡単に言えば……ムギ先輩の、気持ちだけが死にます」
紬「!!……それって!」
茜「卒業しても、社会に出ても、ムギ先輩は今までどおりですよ」
茜「みんなと仲良く過ごして、笑ったり、泣いたり」
茜「いつもニコニコみんなのムギちゃん、ってなもんですよ。いやもう、むぎゅううううう!ですよ」
茜「でも、そこにいるムギ先輩自身は、何も感じてない」
紬「そんな……」
茜「他人事みたいに実感のない、けれど実感がないという実感すら持てない」
茜「そんな毎日が死ぬまで続くだけです」
紬「……」
茜「それでも、軽音部のみなさんは、もう一生幸せですよ?ハッピーエンドの中にいるみたいに」
茜「唯先輩は幸せな家庭を築きますし、梓ちゃんは音楽修行のために、渡米するんですよー!」
茜「律先輩と澪先輩は、なんとプロデビューです!すごいですよねぇー!」
茜「それもこれも、ムギ先輩のおかげなんです」
茜「ただ……」
紬「ただ?」
茜「さっきも言いましたけど、気づいちゃったんですよねぇ、みなさん……」
茜「ムギ先輩がいなくなっちゃうことに……」
茜「それじゃあ、ムギ先輩がいくら頑張っても、みなさんがどんなに頑張っても、幸せにはなれないですよねぇ」
紬「どうにか……ならないのかしら」
紬「私は別に、どうなってもいい……。だから、軽音部のみんなが、どうか幸せに……」
茜「んふー、そう来ると思って、本日はご提案を用意させていただきましたー!」
茜「あ、やっと本題にたどり着いた。ふぃー、長かったですねぇー……」
紬「その……提案、って?」
茜「軽音部のみなさんの、ムギ先輩についての余計な記憶を消します」
紬「!!」
茜「まぁ、基本的には、数日前の関係に元通り、って感じですね」
茜「お望みとあらば、ムギ先輩自身の記憶も、一緒に消しちゃいますけど」
紬「茜ちゃん……、あなた一体……」
茜「だから、私のことはいいんですって~。言っておきますけど、神様とかじゃないですよ?」
茜「神様だったら、問答無用のハッピーエンド用意できますけど、そんなの私できないですし」
茜「私はただのナイスバデーな女子高生ですから」
茜「……さて、どうしますか?ムギ先輩」
紬「……それでみんなが、幸せになれるなら……」
茜「ですよねー。提案なんて言っておいてナンですけど、他に選択肢なんてないですよねー」
茜「なにせ、『みんなのムギちゃん』ですもんね」ニコッ
紬「でも……ごめんなさい。ひとつだけ、お願いがあるの」
茜「……何でしょう」
紬「1日だけ、時間をください。みんなに……私を受け入れてくれたみんなに、お礼が言いたいの」
紬「それから、いつかのために、先にさよならも――」
茜「どうせすぐ忘れちゃいますよ?」
紬「分かってる。ただの自己満足よ。……それでも……」
茜「んふ、いいですよぉ?ムギ先輩にそんな顔で頼まれたら、茜ちゃん断れないですよぉ」
紬「ありがとう」
茜「それじゃ、私はこの辺で消えますけど……、何か言い残したこととか、あります?」
紬「じゃあ、一つだけ」
茜「なんでそお」
紬「茜ちゃん……私、あなた大嫌い」ニッコリ
茜「ありゃりゃ……泣いちゃいますよ?」
紬「うふふ、ごめんね?」
茜「ま、しょうがないです。それじゃあ、また――いつ――――か――――――――
最終更新:2011年05月02日 17:58