律「そう、この近所に来るんだってさ」

梓「何ですかそれ?」

唯「マジックっていうくらいだから、きっとすごいマジシャンが乗ってるんだよ」

紬「まあ! 手品だったら見てみたいわ!」

律「私も良くは知らないんだけどさ」

律「聡の奴が部屋で朝からえらく興奮してたんだよ」

律「『ついにこの街にもマジックミラー号が来る!』って」

唯「りっちゃんの弟が朝から興奮するほどすごい手品師が来るってこと!?」

紬「きっと、プリンセス天功よりもすごいマジシャンに違いないわ!」

梓「なんだか私も楽しみになってきました!」




澪「……」




唯「ところでこの街のどの辺に来るの?」

律「そりゃあ、人が集まるところだろ」

紬「この街で一番人が集まるところっていったら……」

梓「駅前の繁華街ですかね?」

律「国道沿いのショッピングモールかもしれないな」

唯「そこって噴水のある広場でマジックショーやってたことあるよね」

梓「私も見たことあります」

紬「そんなお店でマジックショーなんてできるの!?」

律「週末はなにかしらイベントやってるよ」

紬「すごいわ!」




澪「……」




梓「今回もきっと土日にやるんでしょうね」

律「じゃあ、みんなで見に行くか!」

唯「賛成~!」

紬「是非行きましょう!」

律「よし! じゃあ、けって~い!」

梓「生で手品なんてずいぶん見てないです」

唯「楽しみだね、ムギちゃん♪」

紬「そうね♪」





澪「おい、ちょっと待て」




律「なんだ~澪。もうこの件は賛成多数によって決まったんだからな」

澪「お前ら、本当にそのマジックミラー号が手品を見せに来てくれるって思ってるのか?」

唯「違うの?」

澪「違う」

梓「じゃあ、いったい何をしに来るんです?」

澪「それは……、私の口からは……」

紬「どうしたの澪ちゃん?」

澪「とにかく、行かない方が身のためだ」

律「はっは~ん」

澪「何だよ」

律「さては澪……」

律「手品見るのが恐いんだろ?」

澪「なっ!?」

律「だって、手品って結構スリルある仕掛けもあるもんな」

唯「ギロチンとか、箱の中に入ってる人に剣を刺すとかね!」

紬「私は爆発する直前に箱から脱出するイリュージョンを以前ラスベガスで見たわ」

梓「確かに、目を覆いたくなる手品もありますね」

唯「澪ちゃん痛いのとか恐いの駄目だもんね」

澪「いや、そうじゃなくって……」

律「恐いなら恐いって言えばいいのに~」

澪「だから違うってば!」

律「そんなに怒鳴らなくてもいいだろ」

紬「もしかして、私たちの認識が間違ってるの?」

澪「うん、マジックミラー号っていうのは……」

梓「何ですか?」

澪「その……」

唯「何?」

澪「外からは、見えなくて……」

澪「でも、中からは外が丸見えだから……」

唯「なぞなぞ?」

澪「いや、そうじゃなくて……」

律「もう! 全然わからないぞ!」

澪「だから、説明するのが恥ずかしいんだよ!」

梓「恥ずかしいことなんですか?」

澪「う、うん」

律「ちゃんと言ってくんなきゃわかんない!」

澪「だから、え、エッチな……」

唯「えっち?」

澪「と、とにかくマジックミラー号はお前達が思ってるようなものとは全然違うから!」

紬「手品を見せに来るわけじゃないってこと?」

澪「そうだぞ! 絶対に行っちゃ駄目なんだからな!」

唯「そこまで言われると逆に行きたくなっちゃうよ」

澪「駄目だ! 絶対駄目!!」



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 澪の部屋

澪「ううっ……あいつら何も知らないで……」

澪「私だってたまたま深夜のお笑い番組見てたら芸人がそのことについて熱く語ってたから
  一体何なんだろうなって気になってネットで調べて知っただけなのに……」

澪「これを知ってるって軽音部の皆にバレたらなんて言われるか……」

澪「律になんかはきっと『胸が大きい奴はやっぱりエッチなんだな』なんて馬鹿にされそうだ」

澪「嫌だよ~……」

澪「なんとかバレないように過ごすしかない」

澪「律はパソコンなんてしないから調べたりしないだろうし
  唯もわからないことはネットで調べるなんてこともしなさそうだから大丈夫そうだけど」

澪「問題は、ムギと梓だな……」

澪「特に梓はネットショッピングなんかしてるっていうし……
  きっと『マジックミラー号』でググったりしてるんだろうな……」

澪「はぁ……気が重いな……」



 律の部屋

律「今日の澪変だったな~」

律「手品見にいきたくなかったら素直にそう言えばいいのに……」

律「まぁ、そんなことは今に始まったことでもないしな」

律「意地っ張りな澪のことだ。きっと当日もなんだかんだ言ってついて来るよな」

聡「ねーちゃん、ご飯できたって」

律「おー、今行く」

聡「今日はトンカツだってさ」

律「おおっ! もちろん付け合せはキャベツの千切りだろうな?」

聡「主役はトンカツだろ? ねーちゃんキャベツ好きだよな」

律「っさい、キャベツには胸を大きくするっていう伝説があってだな」

聡「おえっ! 弟の前でそんな女の部分見せるなよ、気持ち悪ぃ……」

律「な、なんだとー!」

聡「ねーちゃんの癖に男っぽいところがいいのに」

律「んまっ! 花の女子高生を捕まえて何を言ってるんざましょー!」

聡「ねーちゃんだとは言いつつも、俺はにーちゃんだと思っていつも接してるけどな」

律「こんな美人な姉を持って何を言ってるんだ?」

聡「普段のねーちゃんは、もっとズボラで、飯食うときだって俺のも取る時があるだろ」

聡「ねーちゃんはそれでいいんだよ。それがいきなり胸がどうしただとか……」

律「わ、私だってなー」

聡「何だよ?」

律「ポストに入ってたラブレターに一喜一憂したりするんだぞ」

聡「ええっ!? ねーちゃんにラブレター!?」

律「まぁ、あれは間違いだったけど……」ボソッ

聡「えっ? 何か言った?」

律「な、なんでもねーよ!」

聡「ったく……、ねーちゃんが男と付き合うとか認めねーから」ボソッ

律「ん? 何か言った?」

聡「な、なんでもねーよ!」

聡「早く下に降りてこいよな!」

律「わーったよ」

律「あ、そうだ。なぁ、聡」

聡「なに?」

律「お前、今日の朝、部屋で何か言ってたろ?」

聡「え?」

律「マジックミラーが何とかって」

聡「……」

律「それってさ、どの辺に来るの?」

聡「……ねーちゃんは知らなくてもいいんだよ」

律「ああ?」

聡「ほら、早くしねーとトンカツが逃げるぞ!」

律「待て」

聡「うっ!」

律「そのマジックミラー号ってのはいったい何なんだ? 手品見せに来るんじゃないのか?」

聡「あの……その……」

律「ちゃんと言わなきゃお前が部屋の中に隠しているお宝本をかーちゃんにバラすからな」

聡「そ、それだけはっ! って言うか、なんでねーちゃんが知ってるんだよ!」

律「おほほっ! お姉さまには全てお見通しなのよっ!」

聡「くっ……!!」

律「ほれほれ、早く言え」

聡「ま、マジックミラー号っていうのは……」

律「うんうん」


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