そして、「あちら側の世界」の音楽準備室に到達。
もう後戻りは出来ない、のかな。今なら引き返せるけど。

律「……外から音はしないな」

唯「そうだね」

律「誰も居ないのかな」

唯「…………」

ドアを少しずつ、ゆっくりと、音がしないように開ける。
恐る恐る覗き込むと、そこは、音楽室だった。
私たちの世界と、間取りと奥行きは全く同じの音楽室。
しかし、そこに存在する物品は、全くの別物。

ホワイトボード。沢山の落書き。「学祭頑張ろう!」の文字。
二つ連結した生徒用机の周囲に配置された椅子6つ。
黒板の周囲には、ドラム。キーボード。
壁に立てかけられている、ベース。

人は誰も居ない。助かった……のかな。

律「誰も居ないみたい」

唯「……そっか…よかったよー」

唯がへなへなと体勢を崩す。

唯「…………疲れがどっと出てきちゃった。猛烈に眠いよ、りっちゃん」

律「ちょっと今寝られるとまずいっす、唯隊員」

唯「わかってるますですよー、りっちゃん隊員」

「おぉ、律に唯、先来てたのか」

唯・律「え!」

視線をドアの方向へ。
そこには、……澪が居た。
正真正銘の、秋山澪だ。
あー、もう目にしちまった。澪が居るのを目にしてしまった。
自分の姿を視線の隅で見るってのと訳が違う。言い逃れは出来ない。
これで、あっち側の世界が存在するってのは「確定」って訳だ。

澪「どうしたんだ、二人とも。何か怖いものでも見たみたいな顔してるけど」

唯「……い、いやぁ、みおちゃん、これはですね、その、

律「あぁ、唯の奴が私のケーキ食べやがるから、ちょっとお仕置きしてやろうと思ってたんだけどさ、
  でも唯の野郎抵抗し始めて、そんでちょっと取っ組み合いしてたんだー、はは、ははははは」
何度も夢に見た、このシチュエーションが、そのまま役に立つなんて。

澪「? ……ん、ま、良いけどさ」

疑問が残るようだが、そのまま澪は椅子に座った。

澪「あー、明日学祭ライブ本番なんて、信じられないよなー」

律「……あ、あぁ、そうだな」

唯「そ、そうだね。全然、しんじられない、よねー!」

何故か片言で話す唯。私も似たようなものだが。

澪「……二人とも、何だかおかしいぞ。どうしたんだ」

唯「いや、これはですね……ちょっと緊張してしまいまして、ほら、明日学祭のライブだし? ね、りっちゃん」

律「あぁ、そうだな。それに澪、今私は猛烈にトイレに行きたいんだ。いや、唯もトイレに行きたいんだよな。なぁ、唯?」

唯「う、うん、そうなんだよみおちゃん、今結構やばい状態なんだよ、ちょっと行ってくるね!」

と言うや否や、私と唯は、猛スピードで音楽室の外に出る。
そして、猛スピードで1階のトイレへと駆け込み、どちらが示し合わせることもなく、同じ個室に入った。


律「あー、びっくりしたびっくりした、死ぬかと思ったー」

唯「…………死ぬ、ってか死ぬ寸前まで行ったよ、アレは……」

お互いに息絶え絶え。そして、お互いに笑う。

律「ははははは、澪の奴、何も理解できてないって顔だったぞ! まさに「ポカンとした」って表現がぴったり!」

唯「そうだねそうだね! あんなにポカンとしたみおちゃん、始めてかもしれない!」

律「けど唯、お前澪と知りあいじゃないだろう!」

唯「……いや、まぁ…その、りっちゃん……ん…まぁ、夢で会ってますし、ね?」

律「ん? ま、そうですか」

それにしても。今後どうすればいいんだろう。

律「なぁ、唯。私はお前がしたいこと、だいたい推測はできてるんだけど、
  具体的にどうするのか、とか、段取り、とかは一切聞いてないんだ」

唯「……そうだね。でも、その前に、ちょっとだけ休ませて」

律「……うん、わかった……って、ちょっと待って唯、ここで寝るのかよ!
 寝るんなら、あたしが出て行った後、自分で鍵閉めてからにしてくれよ!」


唯は微かに微笑みを浮かべた。
私は唯に感じている違和感。
それは、今私の目の前に居る唯は、夢の中の唯とは性格が違う、ということ。
外見はほぼ全く同じ(目の前の唯は、結構痩せて色が白いけど)、声も同じ、
服装も(夢の中の制服を着ている唯と)同じ。

だが、性格は大分異なる。
夢の中の唯は、何というか、もっとぽえっとした感じ。
頭もそこまで切れないし、もっと単純だし、もっと子供だ。
だけど、温かみがあった。人を惹きつける温かみが。

一方、こちらの唯は。
頭の回転が速い。私が提示した情報で、すぐに結論を導き出す。
喋り方も、幾分知的だ。
だが……、冷たい。目に宿る温かさも、消え失せてしまっている。
私は、夢の中の唯と目の前にいる唯を、別人と捉えてることが出来る。

そんなことを言えば、澪だって少し違う気もするが、基本は同じだ
(中野さんは会って日数が浅いので、わからない)。

なのに、何故唯はここまで違うのだろう。


なんてことを考えながら、廊下を歩いてみたりする。

生徒でごった返している。みんな楽しそうに笑って、大道具を作ったり、
劇の練習をしたり(わざわざ衣装まで着て!)、衣装を作ったり、
屋台の宣伝ポスターを作ったり。1年前に経験した学祭も、こんなんだったっけか。
勿論、あまり関わっていなかったので、良い思い出はないけれど。

またブルーな気持ちになる。
でも、ひとまず、だ。
知人に会ってはいけない。特に軽音部の面子とは。あと、「自分」と会っては駄目だ。
それこそ大問題。私はここには居られない(まぁあちらの世界に帰ればいいんだけど)。
けど、唯の願いを叶えてやるまでは、こっちに留まらないといけないからな。
あんま人目につかないところに行きたいところではあるな。

?「あ、りっちゃんじゃん」
律「ん?」

全然知らない女子。ジャージの色からして、私たちと同じ学年か。

?「軽音部の練習行ったんじゃないの?」
律「あー、そ、そうだったんだけど、ちょっと用事が出来ちゃって」
?「そうなんだ。その用事って何?」

笑顔で問い詰められる、私。笑顔で問い詰める、相手。
何なんだ、この構図は。

律「な、何って言われても」
?「大事な用事じゃなかったら、クラスのお化け屋敷手伝ってよ」
律「………んー」

これは、大丈夫なのかな?
もし軽音部のメンバーとか居たら……面倒なことになるな。
そこに唯とか紬とか居たら……特に紬は面倒なことになる。
あと、私とか居たら、大惨事。

?「あ、その顔は大丈夫ってことだね。じゃ、はい来る来る」
律「あ、ちょっと」

引っ張られるがままに、クラスへ。
クラスの中に引っ張られていく私。
中には、ジャージ姿で作業しているクラスメイト多数。
きょろきょろ見渡すが、幸いなことに軽音部の皆さまは居ない……らしい。

様々な角度から、クラスメイトが私に声をかける。
?「え、りっちゃん何で制服なの?」
?「またりっちゃんサボろうとしてたでしょ」
律「え、制服なのはちょいジャージが洗濯中だからで、サボるってのは、
  いや、軽音部の練習の時間がずれたの、サボりではない!」
?「まーたそんなこと言って」
律「あー、まー、本当かどうかはわからないんだけどね」
と、小さなこえで付け加えておく。


?「唯ちゃんと紬ちゃんは?」
律「し、知らねーけどな。買い出しとかじゃね?」
買い出し、とそれっぽい言葉をつけておけば、ごまかせるかも、という安直な考え。

?「じゃ、早速だけど、手伝ってね。そのすずらんテープ、そっちにつけて」
律「は……ははぁ…」
と、何となく断れない流れを形成されてしまう。私、こういうの断るの苦手なんだっけ。

漫然と作業をしていく。クラスメイトとの会話を楽しみながら。
……会話を楽しみながら? 何て私らしくない言葉!
高校入ってから、クラスメイトと会話を楽しむなんてことがあったっけ?
最も、周囲から言葉なんてかかってこないから、別にこちらから会話を投げ返さなくて良いし、楽なんだけどさ。
それでも、少しだけ、楽しくなった。学祭の準備。
このクラスには、私が顔を知ってる奴らもちらほら居た(勿論話したことある奴は稀だけど)。
けれど、その話したことない奴らでさえも、私に話しかけてくれる。

律(これは……)

これは、こっちの世界の私が、クラスに溶け込めるってことなんだろうな。
お調子者で面白いりっちゃん、って感じ。
中学までは私もそんなんだったから、懐かしい気分。

そして、ちょとtこっちの世界の私に嫉妬。

と。
ふと時計を見ると、17時ちょっと過ぎ。


作業始めてから1時間は経ってるじゃん。我に返る。
駄目だ! 温かさと懐かしさに埋没していた。
ここに居ることで、どんどん知りあいに会う確率が上がってくじゃん!

律「ごめん、今度はまじで軽音部の練習あるんだ! 明日ライブだから、勘弁しておくれ!」
とか言い捨てて、私は教室を出る。
皆、何やかんや言いながらも、「頑張れー」「ライブ楽しみにしてるよー」とか優しい言葉をかけてくれた。
優しい言葉を。

あー、本当にもう、わけわかんない気持ちにさせられる

早足で1階女子トイレに向かう。唯を起こす為だ。
無駄な動きなく唯が眠っているはずの個室へと、向かう。
向かうのは、良いが。

ノックする。
返事がない。


律「ゆーいー」
返事がない。

激しくノックしていると、気付く。
このドア、鍵がかかっていない。ということは。
急いでドアを開ける。
そこには、誰も、居ない。
誰もいないということは、唯が居ない。

そこは、確かに唯と私が別れた個室だった。
唯が、疲れたから眠る、と言って別れた個室だ。



……どうしよ。
あー、こんな可能性もあるってどうして事前に予測できなかったんだろう!
ずっと唯と一緒に居ればよかった!
もしくはこれが唯の狙い? 私の役目は別の世界まで連れてくるところまでですかい?

律「………わかんないけど」
取り敢えず、今は安全なところに身を隠そう。
学校を出よう。明日が学祭ライブなら、軽音部メンバーは遅くまで練習に励む……はず。
だから、ここは元の世界に戻った方が安全だ。

……しかし。
冷静に元の世界とかこっちの世界とか考えている自分にも多少戦慄を禁じ得ないが、そんなことより。
世界の間の出入り口が、音楽準備室にあるんなら、軽音部が練習している限り、元の世界へは帰れないじゃん。

……ため息を一つ。
兎に角、学校から出よう。どっか喫茶店でも入ろう。そこで色々考えよう。
話は、それからだ。



学校の近くのファーストフード店(この世界は地理は全く元の世界と同じ。学校の構造も然り。
違うのは人間が置かれている境遇だけか?)で、時間を潰す。

取り留めもなく考える。
唯の目的は、恐らくこの世界の自分の殺害。
そして、この世界の自分にすり替わって、何事もなかったかのように、この世界で生きる。
「生まれ変わりたい」ってことはそういうことだろう?
加えて、紬はもうそれをやってる、はず。
あの窓の血痕は、わざわざ紬がこっちに死体を持ってきて、捨てたことの証拠。
そして、現にこっちで紬の遺体が発見されている。
……完全犯罪だよなー。自分が自分の殺人者なんて。
尚且つ自殺じゃないって、新しすぎるよ、犯罪の形体が。

そして、私の目的って何だ?
それは、最初からわからなかった。
私に、明確な目的がない。
唯をここに連れてくるってのは達成したけど、それからのことを全く考えていなかった。
……いつもの悪い癖だ。
私も唯や紬みたいに、自分を殺して、ここで生活するか?
それもありっちゃありかも知れない。
元の世界の自分なんて、死んでるようなものだし。

それもいいな。
それもいいかも知れない。



と、考え込んでる内に寝てしまったみたいだ。
店内の時計を見る。22時ちょっと過ぎ。
やばい、寝すぎた。どうしませう。

学校へ戻ろう。そして、元の世界に帰ろう。安全なところで考えるのが先だ。
帰ってくる必要が出れば、また帰ってくれば良い。……また塞がれてたらどうしおう。
ここは危険すぎる。

唯や紬が、私を殺す危険もない訳じゃない。

背筋が凍える。殺される。文字にすると仰々しいが、それはあくまで「リアルな」言葉。
現に、一人死んでいる。

小走りで学校へと向かう。日は当たり前ながら完全に沈んでおり、街灯の明かりが点々と歩道を照らしている。

「じゃ、また明日ねー」
「……おぅ! 風邪引くなよ、唯!」
「ひかないよ!」
「風邪ひいて憂ちゃんを替え玉にするとか、しないよな」
「あ、それもありかも」
「ありかも、じゃないですよ!」
「じゃーね、みんなー!」

と。
何てタイミングの悪い。
軽音部御一行様のお帰りだ。


横断歩道を挟んで、私の方の歩道に、唯と中野さん。
向こう側の歩道に、澪と……田井中律、つまり私。
紬は居ないみたいだ。

梓「いよいよ明日なんですね、ライブ」

唯「あずにゃーん、緊張してるの? 私が緊張ほぐしてあげる!」

梓「うわ、抱きつかないで下さい!」

唯「えー、だってあずにゃん抱きつき心地がいいんだもーん」

梓「ん……そんなこと言ってる唯先輩が一番緊張してるんじゃないですか?」

唯「……ばれちった、てへ☆」

梓「そうだったんですか……」

やばい、何も考えられない。逃げられない。
どんどんこっちに向かってくる二人。もうこれは、覚悟するしか。

唯「あ、りっちゃん」

梓「律先輩、どうしてここに? 澪先輩はどうしたんですか?」

律「あ、な、なんといいますか、これは、その」

唯・梓「?」

律「澪は疲れたから眠りたいって言ってたんだけどさ、
  わ、私は何か緊張しちゃって、もうちょっと、みんなと話したいな、
  っていうか、……ん、」

唯「あー、りっちゃんも緊張するんだねー、いがいー」

梓「……いえ、律先輩が澪先輩の次くらいに、隠れて緊張している
  タイプかと踏んでいましたが、まさか本当にそうだとは」

律「う、うっさいな! 誰だって緊張くらいするわ!」

唯「そうだよねー、ライブの前って、いっつもご飯食べられなくなるくらい
  緊張しちゃうよねー」

梓「……立話も何ですし、公園でも行きましょうか?」

律「そ、そうだな。それがいいな、ははは、ははははは」
(これは……ごまかせた、のか?)



近くの公園へ。
勿論、私たち以外は誰も居ない。
唯と中野さんと私。一つのベンチに座る。
少しだけ肌寒い。

唯「この3人って、何か珍しい組み合わせかもー」

梓「言われてみれば、そうかもですね」

律「…………」

唯の顔を見る。そして、確信する。
これは、元の世界の唯じゃない。「ここの」世界の唯だ。
喋り方も違うし、言葉の節々に怯えが感じられない。
私が毎日夢に見ていた唯だ。

唯「りっちゃん、ねぇりっちゃん」

律「ん? なんだ、なんだ唯?」

梓「……律先輩、相当緊張してるみたいですね、ふふふ」

律「ふふふって何だよ? し、仕方ないだろ!」
あなたがた思ってることとは違う意味で緊張してるんですけれどもね。

律「……そりゃ、緊張もするさ。こんな状況だとさ」

梓「………まぁ、そうですよね」

梓「覚えてますか、先輩。今年の4月のこと」

律「4月?」

唯「勿論覚えてるよー、あずにゃん。あずにゃんが軽音部に入ってきてくれたんだよね!」

梓「まぁそれもありますが」

唯「そんで、わたしたちがふまじめだったから、あずにゃん怒っちゃったんだよね…
  あの時はごめんね、あずにゃーん」

梓「そんなこともありましたね……けど、私が言いたいのはそれじゃないです」

律「………」

梓「新歓ライブのことですよ」

唯「新歓ライブ……」

梓「前も言いましたけど、先輩方の演奏が、すっごくかっこよくて。
  あ、上手! っていうのじゃなくて、かっこいい! って感じでした」

律「それを区別する必要ってあるのかよ」
思わず突っ込んでしまう。

梓「すみません。けど、私が言いたいのは、上手くなくたって良いってことです。
  上手くなくたって、カッコいい演奏が出来れば、それで良いんです。
  変に気負う必要はない、魂込めた演奏が出来れば、それで十二分です」

中野さんは……梓は、私に向かって微笑みかけた。
目を細めて。首を少し傾げて。
その笑顔を街灯が照らし出す。
無音。自分の心臓の鼓動しか、聞こえない。

律「……梓」

梓「す、すみません、偉そうに語ってしまって……
  けど、律先輩と唯先輩に、ライブの前に伝えておきたくて…」

唯「あずにゃーん……ありがとうぅ……」

梓「うわ、ゆ、唯先輩、何故にここで泣くんですか?」

唯「だって、何か感動しちゃってー! 私は絶対カッコイイ演奏するよ! 歌詞も絶対間違えない!」

梓「そこからですか!」

唯「基本は大事だよー、ってあずにゃんが言ってたんじゃんー」

梓「それはあまりにも基本すぎます!」

2人は、楽しそうに笑う。
屈託なく、笑いあう。私も、つられて微笑んでしまう。

そして、何故か泣きそうになっている。意味もわからず。
ただ、ただ、この人たちは、特別なことは言っていないはずなのに。
ただ夢の中で話すように、楽しそうに話しているだけなのに、何で。

律「……なぁ、梓」

梓「はい、なんですか……って、律先輩まで泣いてるよ…」

律「な、泣いてなんかいないやい、これは汗だい!」

梓「はいはい。で、何ですか?」



律「あのさ、」

律「もしも、だよ」

梓・唯「………」

律「もしあたしがさ、突然消えたら、どうする?」



梓「絶対そんなことはさせません」

唯「りっちゃんは消えないよ」

即座に、二人とも、同時に答えた。

梓「もし消えても、探します。探して探して探しまくります」

唯「だって、りっちゃんが消えたら、すっごい泣いちゃうもん、わたし。
  だから、りっちゃんは消えたりしないの」

律「………ははは、二人とも、全然支離滅裂じゃん!」

梓「そ、そんなことないですよ!」

律「だって梓、私が消えるんだから、探しても見つからないの!」

梓「でも探すんです! 見つかるまで探すんです!」

唯「あずにゃん、わたしも探す! あずにゃんと一緒に探す!!」

律「じゃ、私が死んだら……」

静か。とても、静か。

律「私が死んだら、どうするよ?」


梓「……………」

 黙り込む梓。
 目に涙を浮かべて、口を一の字に結ぶ。

梓「な、なんでそんなこと聞くんですか、なんで……」

唯「だから、りっちゃんは、死んだりなんかしないよ、私は信じてる!」

唯の声は、明るい。ように聞こえる。しかし、それは確実に震えている。

唯「だって、りっちゃんは、みんなの頼れる部長だもん。
  だから、みんなを悲しませたりなんかしないんだよ。
  りっちゃんは意地っ張りだから、死にそうになったとしても、
  どうでもないよう顔で学校に出てくるの。そして、またお菓子食べたり、
  ドラムたたいたり、みんなで笑ったりするの
  ね、りっちゃん、そうだよね?」

律「…………」

梓「もし律先輩が死んだら……許しません」

律「……」

梓「律先輩が死んだら、私が先輩を許しませんからね。
  絶対死なないで下さいね、消えるとか言わないで下さいよ、
  …………うわあああああああああああん!!」

唯「でも、なんかりっちゃんが死ぬとか、考えたこともなかったね。
  考えるだけで、なんか、なんか、なんか、かなしくなるよ」

唯「りっちゃん、きえたらやだよ」

唯「絶対だよ、ぜったい消えちゃいやだよ?」

律「……わかった。わかったから、二人して抱きつかないでくれるか?」

ベンチに3つの影。
中央の影は私の影。
両脇に、唯と梓。
わんわん泣いてる、唯と梓。
誰か居たら……恥ずかしいけど、ま、いっか。

何で、この人たちは、人のことを思って、泣けるんだろう。

律「……ごめんな、唯、梓。変なこと言って」

律「………あたしは消えないから。安心しろ。
  ただ、ちょっと怖くなっちゃってさ。色んなことが」

律「……だけど、もう大丈夫。あたし、決めたから」


律「ありがと」


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