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律「おぉ、何だ今日は唯一人か」

唯「あ、りっちゃん。今日は紬ちゃんは学校おやすみしてるんだ」

律「へー紬が。またスウェーデンとか行ってんのかねー」

唯「そーかもね。あたしも行きたいなー、すうぇーでん」

律「唯さん、スウェーデンって何かわかってらっしゃいます?」

唯「だから、今日はお菓子もお茶もナシだねー」

律「だなーちくしょー、あぢー、あたしもロシアとか行って涼まりてー」

唯「………ねぇりっちゃん」

律「ん-なにー」

唯「もしあたしたちがいなくなったら、どうする?」

律「何だよ突然。いなくなるわけねーじゃん」

唯「そうなんだけど……そうだよね!」

律「いなくなっても、あたしがみんな探してやるから、大丈夫だって!」

唯「ありがとう! じゃ、手始めに紬ちゃんを捜しに行こう!」

律「おおともよ! 行くぜ唯隊員!」

唯「ラジャ、りっちゃん隊員!」


――
―――



律「こんばんは、憂ちゃん」

憂「田井中さん、今晩は。いつも、有難うございます」

律「いやいや-。こっちこそ勝手に毎日来て、申し訳ない」

憂「とんでもない! お姉ちゃんもきっと喜んでると思います」

律「まぁ、そうだといいけどさ」

憂「ところで、宜しければ、今日夜ごはんとか食べて行きませんか?」

律「え、いいの? ありがとう憂ちゃん! あんたは出来た子やー」

憂「いえいえ、こちらこそ。私も誰かと一緒にご飯食べたかったんです。一人じゃ気が滅入ってくるんで」



律「なぁ唯、憂ちゃんのご飯とか、めっちゃ美味しいんだろうなー。いかにも家庭的って感じだもんな!」

唯「……」

律「てか、唯って呼んでいいよな? 何かそう呼びたい気分なんだな、唯!」

唯「……」

律「そんでさー。まぁ今日も相変わらず話すことなんてないんだけど」

唯「…………」

律「今日も澪は一緒に来てくれなかったぜ……冷たいというか、都合良い時だけ来てくれるというか」

唯「…………」

律「いや、私が変だってのわかってるから別に良いんだけどさ」

唯「…………」

律「あー唯ー。たまに憂ちゃんとご飯食べてやれよー。憂ちゃん苦労人なんだぜ」

唯「……」

律「まぁ、知ってると思うけど、いやなんかごめん」

唯「……」

律「そういや、夢の中のお前、結構楽しい奴なんだぜー。
  まぁお勉強は出来ないんだけど、ギターすっごく上手くてさ。
  軽音部のマスコット的存在なんだ!」

唯「………」

律「こないだ練習した曲も、結構うまかったぜ……ほら、なんて言ったかな…」

唯「……」

律「ごめん、夢だからあんまし覚えてないんだ。あ、いや何かあたし馬鹿みたいだな。
  夢のことなのにな。しかも夢の中の平沢唯と、ここに居る唯が同一人物なんて確証もないのにな」

唯「……」

律「ほら、あたしにばっか話させてると、だんだん鬱話になってくるだろ! 何か唯も話せよー」

唯「………」

律「わかってるって。そこに居るのは何となくわかるから、何も話さなくていいよ」

唯「……たいなか…さん?」

律「え?」

唯「…………たいなかさん…であってる…かな?」

律「う……うん」

唯「……………私は、平沢唯」

律「そ、そうかそうか。すりゃーよかった」

唯「……ありがとう、……いつも来てくれて」

律「あ……あぁ、全然大丈夫! ほら、あたし、暇だし? 全然何もすることないし!
  だから、24時間年中無休のりっちゃん隊員、いつでもどこでもあなたの要請があらば!!」

唯「………ふふっ」

憂「田井中さーん、夕飯できましたよー」

律「あ、はーい、ありがとう!」
律「てな訳で、ちょっと憂ちゃんと夕飯食べてくるわ、今日はここでさよならだ」

唯「…………」

律「まだ来ていい…かな?」

唯「………うん」

律「サンキュ」


憂「お姉ちゃん喋ったんですか!」

律「あぁ、あれはあたしもちょいとばっかしビビったわ」

憂「それが本当なら……あぁ…今日は何て嬉しい日なんでしょう…」

律「憂ちゃん? ちょっと憂ちゃん? 目が明後日の方向を向いてますけれども?」

憂「は! すみません。この半年の間、一度も口をきいてくれなかったので」

律「そうなんだ……憂ちゃんも苦労してるんだな…」

憂「苦しくないと言えば嘘になります。けれど、田井中さんが来てくれてから、精神的に大分楽になりました」

律「そうかい? あたしは憂ちゃんに逆に気を遣わせてないか、心配だったんだけどもさ」

憂「滅相もないです。いつもありがとうございます」

憂「お姉ちゃん、周囲のみんなに合わせるのが苦手で」
憂「何をするにも、ちょっとテンポが遅いんです」
憂「一つのことに熱中しだしたら、誰にも負けないんですけれど……興味がないことに対しては、てんで駄目と言いますか」

律(アスペルガー……ではないよな、多分)

憂「だから、高校ではいじめのターゲットになっちゃって……」

律「ほぉ。そうなんだ」

憂「私はその時まだ中学生ですから、詳しくはわからないんですけど。
  高校入ってから、お姉ちゃん口数が減っていって。何かあったのって聞いても、  
  大丈夫だよ、うい、心配しないで、の一点張りで」

律(まぁ、家族にいじめられてることを知られたくはないからな。心理的に)

律「ま、そんなことより、このカレーめっちゃ美味しい! 信じられないくらい!」

憂「有難う御座います! 料理には、多少ながら自信があるんです!」

律「いや、お世辞とかじゃなくて本当にうまいわ、これ。毎日食べられる唯の奴が羨ましいぜ!」

憂「田井中さん、もし宜しければ、これから食べにいらっしゃいますか?」

律「いやー、流石にそれは悪いから遠慮しとく。ウチの親に説明すんのも面倒だからさ」


ピンポーン

憂「あ、お客さんみたいです。ちょっと出てきますね」

律「はいはーい」

律(あー本当に良い妹さんやなー)

律(唯には外見は似てるけど、内面はなんま似てない……のかな)

律(ま、あって二週間弱の人を似てる似てない判断出来る訳もないんだけどね)

律(……あれ、唯の外見って、どんなだっけか?)

律(まぁいいや。とにかく、いい妹さんってことで)

律(んで、唯も喋ってくれたことだし、今日は良い日だなー!)

律(え、でも私の最終目標って何なんだろ?)


憂「あ、梓ちゃん! どしたの?」

?「いや、ちょっと近く通ったから、ちょっと寄ってみたんだ」

憂「ありがとう! 梓ちゃんもご飯食べてく?」

?「それはパス。憂って、お母さんみたいだな」

憂「へへへ、あながち間違ってもいないかも」

?「ところで憂、明日は学祭の準備これそうなの?

憂「ごめん梓ちゃん。明日は何とか行けると思う」

?「そっか。あと学祭まで1週間だから、なるたけ出ておいた方がいいかな、と思って」

憂「本当ごめんね、心配かけて」

?「うんうん、全然大丈夫。憂は憂で大変ってこと、わかってるから」


律(……え、この声……もしかして)

律(………………もしかすると、もしかしたりして)


?「でさ、この先輩がさ、すっごく面白い人なんだ」

憂「へー、私も会ってみたいな……、あ、田井中さん」

律「おっす憂ちゃん………………あ、」

律(やっぱり……黒髪、ツインテール、桜高制服、気が強そうな目、低めの背、そして声。
  何から何まで夢と同じだ。まさかこんなところで会えるとは…………)

律(てかこれマジで現実なのかな……現実とかけ離れすぎてる気がしないでもない)

律(……痛い、ほっぺ痛っ! やっぱし現実か)

?「誰? この人」

憂「あぁ、この人は田井中律さん。お姉ちゃんのお友達だよ」

?「お姉ちゃんのお友達って……、憂のお姉さんは今、」

律「あー、まー、そこは何と言いますか、複雑な事情がありましてな。ねー、憂ちゃん?」

憂「? まぁ、えぇ、そうなんです」

?「………初めまして、憂の友人の中野梓です」

律(なかの……あずさ。あずさ……なかの…)

律「おぉ……やっぱし」

梓「? な、何がですか?」

律「いや、……何でもない。何でもないんだけど……」

梓「……じゃ、憂。もう遅いから帰るね」

憂「わかった。気をつけてね!」

律「じゃーねー」

バタン

律「って、じゃーねー、じゃねぇっつうの!!」

憂「!? 田井中さん?」

律「ごめん、憂ちゃん! ちょっと用事思い出した! カレー御馳走さま!!」

律(と、勢いよく外に出たは良いものの………)

律(いない……まるで幻のように消えてやがる…)

律(トホホ………ま、いっか。桜高の制服だったし、1年の教室探せば居るだろ)

律(私………なにやってんだろ)



―――
――

澪「きみをみてると、いつもハートどきどきー」

澪「ゆれる思いはマシュマロみたいにふーわふわ」

澪「いーつもがんーばるー」

澪「きーみのよこーがおー」

澪「…………」



澪「我ながらよく出来てるかも」

律「何書いてるんだー澪ー!」

澪「うわっ! ちょっと律! いきなり出てくんよ!」

律「へー何々、君を見てるといつもハードどきどき……」

澪「うわ、音読すんな!」

律「……うひょー、こりゃまた、背中痒くなって参りましたぜ」

?「澪ちゃんりっちゃん、こんにちは」

律「お、紬! ちょっと見てくれよ、この歌詞!」

紬「え、何ですか?」

澪「わー律のばかやろー! 紬見ないでくれぇ……」

紬「ふむふむ…………これ誰書いたんですか?」

律「我らがアイドル、秋山澪たんさ!」

澪「……もう埋めてくれ…」

紬「すっごく良いじゃないですか!」

澪「!?」

律「なん……だと…」

紬「特に『とっておきのくまちゃん出したし、今夜は大丈夫かな』ってとこが、何かこう、胸がキュンとします」

律(違う意味でな)

澪「そうだよね? あー、分かってくれる人はいるんだ……よかった…」

律「そこでどや顔しないで頂けませんかな」

紬「私、これに曲つけます! そして、もし私の曲を皆さんが気に入ってくれたら、学祭のステージでやりませんか?」

律・澪「え、本当に?」

律・澪「いいの?」 律(多分澪と私の言葉は、ニュアンスが全然違うと思うけどな)

紬「ええ、こんな良い歌詞だもの、みんなに発表しないと勿体ないわ!」

澪「有難う紬!!」

紬「いいえ、私、頑張る!」

律(……あー…予想だにしなかった事態だ…)


――
―――



律「君を見てると、いつもハートどきどき」

澪「!?」

律「なーんちって。え、どした澪、顔色悪いぞ?」

澪「……律お前………私の秘密ノート…見た?」

律「ひみつのーと? 何それ?」

澪「とぼけんな! お前がそれ知ってるってことは、他のやつも見たのか?」

律「? え、いや、本当にわからないから! 本当に! てか他のやつもあんのかよお前!」

律(現実の澪も、恥ずかしい詞書いてたんだ……いや詞というか詩というかわからないけどさ…)



律「てなわけで、中野梓さんを探しに行こうと思う」

澪「………あー、私はパス」

律「澪、お前最近冷たいぜ」

澪「……あのな律、これは友人としてのアドバイスだが。
  夢と現実の区別くらいちゃんとつけといた方が良いぞ。  
  いくらお前が毎日がつまらないとか言っても、他人に迷惑かけるのはどうかと思うし。
  それに、お前自分から毎日変えようとしてるか? いくら文句ばっか言ったって……」

律「うっさいよ! いいっていつもの説教は!」

澪「…………」

律「いーのいーの。ほっといてくれよ。これはただの遊びなんだから、ほっといてくださいまし」

澪「……遊びって言っても」

律「ほっといてくれって言ってんだろ!」

澪「!?」

律「………ごめん」

澪「…………こちらこそごめん。部活行ってくる」


律(わかってるんだって。自分がおかしいことしてるってことくらい)

律(けど……何て言うんだろ…夢の中の私に近づきたいから?)

律(こういう風に動いて、何かが変わるのかな?)

律(……中野梓さんに会ってから、その後どうすんだ?)

律(唯の件もそうだ。だんだん喋るようになってきたと言っても、まだ顔も見せてくれない。けど……)

律(……今は、やれるとこまでやってみよう。どこまで行っても、死にはしないだろうから)


律「……お、案外簡単に見つかるもんだな…てか憂ちゃんにクラス聞いとけばもっと早かったかも知れない」

律「中野さーん!」

梓「!? あ、昨日の…何の用ですか」

律「ちょっと話したいことがあるのですが……お時間よろしくて?」

梓「……大丈夫ですけど」

律「じゃ、立話も何だし、ちょっと談話室にでも行きましょっか」

梓「何ですか一体。手短にお願いします」

律(うわ……嫌そうな顔してる。当然か。私が逆の立場なら、絶対こんな奴についてかないよ)
律(しかも、何話せばいいのかわかんね……どうするりっちゃん…)

律「な、中野さんは、ギターとか弾くの?」

梓「ギターですか? ギターなら弾けますけど…」

律「お、本当に? なら、軽音部とかに興味ない?」
律(いや、何言ってんだ私……脳で考えて喋ってないヨ…口で考えて口で喋ってる感じだヨ…)

梓「軽音部ですか……すみません。私、もう外バン組んでるので」

律「そ、そうなんだ、そりゃそうだよな-、中野さんギター上手いって有名だもんねー」

梓「!?」

律「え、何かあたし、変なこと言った?」

梓「桜高の人には誰も、私が外バン組んでることは言ってないはずなのですが……田井中さん…でしたっけ?
  ライブハウスとかよく来る人なんですか?」

律「う、う、うん! まぁ、毎日は行かなくても3日に一回は行くね!」
律(駄目駄目だ! 何言ってんだ! 怪しすぎだろ! 色々終わってるよ私!)

梓「……まぁとにかく、私は軽音部には関われません。
  この学校に軽音部はなかったはずですから、今から立ちあげるんだと思いますが、
  頑張って下さいね。それでは、失礼します」

律「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って! あとちょっとだけ待って!」

梓「もう! 何ですか! しつこいですよ!!」

律「中野さんのギターの名前はムスタング!」

梓「!」

律「中野さんはジャズ研に入ろうと思ったけど、見学の時しっくりこなくてやめた!」

梓「………」

律「中野さんは、両親の影響でギター始めた! 小中高と弾いてきてる!」

梓「……」

律「中野さんは、」

梓「もういいです」

律「あたしは、中野さんを知ってるんだ!」

梓「私は知りませんし、あなたの関わりたくもありません! 失礼します!!」

律「ちょっと待って! …………はぁ…」

律「………疲れた…」


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