さ「ここよ、平沢さんの家」

澪「結局付いてきてしまった……」

律「ありがとうございます、山中先生」

さ「いいのよ。もしかしたら、平沢さんも新しい友人になら次第に心を開いていってくれるかも知れないしね」

澪「心配だな……絶対迷惑だと思うんだけどな」


さ「憂ちゃーん」

?「あ、山中先生。毎週本当にありがとうございます」

さ「とんでもない。担任たるものとしての務めだわ。で、調子はどう?」

?「お姉ちゃんなら、相変わらずです。声も聞こえないし、会ってもくれません。
  部屋の前に置いておいたご飯と水は無くなってますし、夜中にトイレに行く足音も聞こえるんで、居ることはわかるんですけど……」

さ「そうなの……わかったわ。憂ちゃんは、元気かしら?」

?「ありがとうございます、私なら大丈夫です」

律「あの子が平沢さん……かな?」

澪「いや、違うだろ。平沢さんは部屋から出てこれないって、山中先生が言ってただろ」

律「それにしても、あの子、めっちゃ顔色悪いなー。眼の下に、ほら、でっかい隈」

澪「そうだな……姉が引きこもりだと、妹も大変なんじゃないか……?」

?「で、そちらの方は」

さ「あぁ、紹介が遅れたわね。この子たちは、唯ちゃんのクラスメイトよ」

律「ども、田井中律です」

澪「……秋山澪です」

?「あ、こんにちは……………平沢唯の妹の、平沢憂です」

律「ういちゃん、ね。初めまして」ニッコリ

憂「は、初めまして。ところで、どういった御用件ですか」

律「あぁ、ちょっとお姉ちゃんがずっと学校に来ないから、心配でさ」

憂「………本当ですか? お姉ちゃんの、友達なんですか?」

律「そうさ。平沢さんとは小中高と同じクラスだったからな!
  メールしても何しても音信不通だから、心配で心配で」

澪(……じゃ、苗字じゃなくて名前で呼んどけよそこは……)

律「じゃ、ちょっとお姉ちゃんに会わせてもらっていいかな?」

憂「そ、それはちょっと……」

澪「そうだぞ律。駄目に決まってるじゃないか」

さ「田井中さん。いきなりはちょっと駄目だと思うわ。唯ちゃんは憂ちゃんにさえ口をきいてくれないのよ。
  いきなり他の人に会うのは、刺激が強すぎるんじゃないかしら」

律「で、でも……」

律(そりゃそうだよな。何故こんな会ったことないような奴に会う為に必死になってんだ?)
律(不登校児だぞ。いじめられて、色々と面倒臭そうな奴だぞ。話せる訳ないじゃん)
律(……)
律(…………訳わかんないけど、ほんと訳わかんないけど、これは私がやんなきゃいけない気がするんだよね)


律「そんなの、やってみないとわかんないじゃないですか」

憂「!?」

律「それに、唯はあたしの友人です。だから、会って話がしてみたいんです。
  結果として話せなかったとしても、唯に話しかけたいんです」

澪(今こいつ「唯」って言った?)

澪「……ちょっと律」

憂「わかりました。お姉ちゃんに話してみます」

律「………ありがとうございます」

律(え? なんで私こんなに熱くなってるんだろ? ………流れ的にか? 訳わからん)



憂「おねーちゃーん、おなかすいたー?」

唯「…………」

憂「よるごはん今作るから、もうちょっと待ってね」

唯「…………」

憂「それと、今日はお姉ちゃんのお友達が来てるよ」

唯「…………」

憂「お姉ちゃんと話したいんだって」

唯「…………」

憂「田井中さん、秋山さん、あそこがお姉ちゃんの部屋のドアです。ドアは絶対に開けないであげて下さい」

律「わかった、ありがとう」


澪「…………何か怖いな」

律「だいじょーぶだって、澪ちゃん。ほら、相手が何もしゃべらないなら、何も気に病むことはないさ」

澪「だって………」

律「いいからいいから、行くぞ澪」

律「こんにちはー、平沢さん」

唯「…………」

律「あたし同じクラスの田井中律って言うんだ! よろしくな!」

澪「わ、私は秋山澪……です」

唯「…………」

律「唐突に来てごめん。いや、何だか会わなきゃいけないような気がして」

唯「…………」

律「平沢さんって、茶髪で、ちょっと馬鹿っぽいんだけど、ぽえっとしてるんだよな?」

唯「…………」

律「そんでもって、あとは……ギター上手いんだよな?」

澪「え?」

唯「……」

律「……あ、ごめん。何かそんな気がして」

律「めっちゃ怪しいよな、あたし達。いきなり押しかけてごめんな」

澪「達って私も入ってるんかい」

唯「…………」

律「いやー、変な話。何も話すことなんてないんだ。学校で特に何が起こるわけでもないし、転校生が来たわけでもない」
律「そういやもうそろそろ学祭だけど、その準備で内輪でわいわい盛り上がってるって感じで」
律「私みたいな奴は、クソも面白くないわけ。まーあんまクラス馴染めてないしな。当然っちゃ当然かもだけど」
律「平沢さんも、そう思わない? 学祭なんて消えちまえばいいのになーって。授業受けてた方がまだマシだって」

唯「……」

律「でも……なんつーか、こう、たまにさ。期待とかしちゃうんだよね。わかるかなー、この気持ち」

律「ジャズ研とか演劇部とか吹奏学部とかがさ、ステージの上でやるわけじゃん、演奏とか演劇とか、まぁ色々」

律「それ見たり、そのことを思ってみると、何というか………こう、嫉妬というか、切なさというか、不思議な気持ちに囚われるんだ」

律「あー、何であそこに立ってるのがあたしじゃないんだろうなー、って」

律「あたし、軽音部に入りたかったんだ。けど、部員が誰も居なくて」

律「最初あたしが立て直そうかなーって思ったけど、結局誰も来なかった。ははは」

唯「……」

律「あ、変な話してごめんな。ちょい色々思い出しちゃって」

澪(律……何かいつもと違う。何が違うのかは言えないけれど……何なんだろう)

律「あぁ、今日は帰るわ。妹ちゃんに迷惑かけてもマズイし。また来て良いかな?」

唯「………」

澪「……」

律「……ありがとな」



―――
――

唯「りっちゃん」

律「ん、何だ唯?」
唯「何かたまにさ、今すっごい幸せだなー、って思う時ってない?」

律「あー、そりゃたまにじゃなくて頻繁にあるけどもさ。それがどうかしたか?」

唯「あたし、軽音部に入ってから、すっごい楽しいし、幸せ!」

律「何をいまさらぁ! 恥ずかしい奴だなぁ」

唯「へへへ、でも、本当のことだから、しかたないよ!
  みんなと会えて、すっごく幸せ!」

律「……確かに。このメンバーで会えたのも、ちょっとした巡りあわせみたいなもんだもんな」

?「何の話してるんですか?」

唯「あ、    ! いや、このメンバーで居れて、すっごい幸せだってことだよ!」

?「な……まぁ、そうですね。私なんてジャズ研行ってた確率もありますし、外バン組んでたかもしれませんしね」

律( の場合、言葉に現実味があって怖いな)

唯「      、本当に軽音部に来てくれて、ありがとーう!」

?「だ、抱きつかないで下さい、暑苦しい! 学祭近いんですから、早く練習しましょうよ!」

律「へーへー。練習いたしまちょーねー。その前に、 の紅茶とお菓子食べてからな」

?「どうやってまた脇道にそれる……」

唯「え、     食べたくないの?」

?「…………食べたい…ですけど……」

律「えー、 は練習するんだろー」

?「そ、そうですよ! でも……あぁもう、律先輩も唯先輩も、いじわるです!」

唯「     かわいー!」

?「うう………」


――
―――



律「よう、平沢さん。今日も来ちゃった」

唯「…………」

律「てか、昨日平沢さんが来て良いって言ったよな? 来てよかったんだよな?」

唯「…………」

律「あ、因みに今日は澪は居ないんだ。澪ってのは、昨日一緒に来てた子のこと。あいつ全然喋ってなかったからわかんなかっただろうけど」

唯「…………」

律「澪の奴、ひどいよな。今日は文芸部があるからーって。部活とあたし、どっちが大事なんだっつうの」

唯「…………」

律「まぁ、あいつとも中学までは結構親しかったんだけどもさ。高校入ってから、ちょっと壁を感じるというか……あいつが冷たくなったのかな…」

唯「…………」

律「わかんないけどね。一緒に学校は行ってるんだけどね。それは家近いから、あっちに断る理由がないからなのか、それとも何も考えてないのか」

唯「…………」

律「まー、あたしは今でも澪のこと好きだから、良いんだけどさ。
  でも、自分の部活の話ばっかすんのは、やめて欲しいんだけどね」

唯「…………」

律「何がいいんだろ、あんな根暗な奴らが最後に行きつくような、吹き溜まりみたな部活」

唯「…………」

律「ま、あたしはその吹き溜まりにも行きつくことが出来なかったんだけどね」
律「あたしのせいってわかってんだけど。それはしゃーないか。だから、ちょっと澪が羨ましいんだ」
律「俳句甲子園とか、高文連とか、文芸キャンプとか、何が楽しいのかは今一つわからないけど」
律「けど、あいつが部活について喋ってるの見てるとさ、あー、澪本当に部活の奴らが好きなんだなー、って思っちゃって」
律「………嫉妬しちまうんだよな」

唯「……」

律「あ、ごめんな。何話せばいーかわかんなくて」

唯「…………」

律「本当のことを言うとさ、ここに来た理由なんだけど」

唯「……」

律「平沢さんが毎日夢の中に出てくるんだ」

唯「…………」

律「夢の中で、私たちは軽音部で、まぁあんまし練習はしないんだけど、兎に角楽しくダベってるんだ。
  あたしと澪と平沢さんと、あと2人居るんだ。一人はおっとりしてて、まぁ平沢さんとは違う方向のおっとりで、
  もう一人はしっかりした後輩! ツインテールですっごい可愛い! けどまぁ練習練習うるさいんだけどね」

唯「……」

律「まぁ、そんな馬鹿みたいな理由でここに押しかけちゃったわけです」

唯「………」

律「じゃ、今日は帰るわ。また来ていいかな?」

唯「………………うん」

律「ありがと。んじゃまた来るわ」


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