律「あー……学校行きたくねー」

澪「へ?」

律「だから、学校いきたくねーんだよ」

澪「そりゃまた唐突だな……何でだよ? 何か面白くないことでもあったのか?」

律「ないよ、全然。だけど、面白いことも全然ない」

澪「まーな。学校って楽しみに行くようなところでもないしさ……割り切るしかないのかもな」

律「とか言ってる澪は毎日楽しそうじゃん」

澪「そう見えるか? まぁ、楽しくないと言えば嘘になるかな」

律「文芸部だろ。お前最近文芸部の話ばっかしてくるから」

澪「まぁな。文芸的な活動はあんまししてないんだけど……
  あいつらと放課後の時間を過ごすのが、すっごく楽しいんだ」

律「あんな根暗そうなやつらと?」

澪「そりゃ偏見だ。色んな個性の奴らが居て、一言では括れないんだぞ」

律「へーへー、そうですかい」


澪「そういや、律ってなんで部活入ってないんだ?」

律「御存知の通り、りっちゃん隊員は、集団行動が苦手なんですわ。
  あの女子高特有の面倒くさい人間関係調節だけでさえうんざりするっつうのに、
それを何故に放課後まで引きずらあかんのですかい」

澪「んー……でも、私は部活入った方がいいと思うけどな。それが私の学校に行く一つの目的になってるし。
みんな口揃えて部活楽しいって言うよ」

律「みんなはみんな、あたしはあたし」

澪「何なら文芸部に来ないか? 今なら私含めて部員4人だから、律が途中で入ったとしても、すぐ馴染めると思うし」

律「お気づかいあざーす、澪先輩。御心配なさらずとも、私は文芸部なんかには行かないんで」

澪「な、なんか、とはなんだ!」

律「はは、冗談冗談。そいじゃ、今日も1日頑張れよ」


澪「…………」


律(何も最初から部活に入りたくなかった訳じゃない。
  でも、軽音部の再設立を失敗してから、次の一手が何故か打てずにいた。
  まさか私以外入りたい奴が誰もいないなんて、あの時は考えられもしなかったな。
  んで、ジャズ研とかもいいかなー、って思ったけど、その当時私がやりたかったのはロックで。ジャズにドラムは要らないし。
  そうこうしてる内に、1年の夏休みになり、2学期が来て、冬が来て、春が来て、私は2年生になってしまった訳だ。
  考えてく内に、本当に自分が音楽やりたいのかっつうことさえ疑問に思えてきて、何かしら動くのも面倒になった。
  そのたびに部活生を嫉妬したりもした。今でも澪を多少嫉妬したりもしてるけど。

律(でも、いい加減このままじゃ何もせずに高校生活終わっちまうぞ)

律(しかし、1から人間関係作るの面倒臭い、っていうのはあながち嘘じゃない)

律(……畜生、でも、このまま漫然と生きてくと、いつか絶対に不登校になる。毎日がつまらなすぎる!)

律(ん………どうしよう…)

律(こんなはずじゃなかったんだけどな……)

律(本当は軽音部に入って、みんなでダラダラしながらも練習して、時には喧嘩して、でもまた仲直りして、毎日が青春って言葉を体現してる。
  そんな生活を送る予定だったんだけどな……)

律(……今となっては、何するにも面倒臭くなるよ…何かしたいけど、何もしたくない)

律(……どうしてこうなった)



―――
――



?「りっちゃん! りっちゃん!」

?「りっちゃん起きて!」

律「……ん、な、なんだ…」

?「何だじゃありませんよ、律先輩! 何でそんなに爆睡してたんですか?」

律「へ……ここ、どこ……?」

澪「何言ってるんだよ律、ここは軽音部の部室に決まってるじゃないか!」

律「え、何いってんの澪ちゃん?」

?「それはこっちの台詞ですよ先輩……まぁ、試験前で現実逃避したくなる気持ちもわかりますが」

?「りっちゃんったら、おもしろーい」

律「え? てことは何? ここ軽音部だってこと?」

澪「当たり前だ! さ、早く練習しようぜ! お前のドラムがないと始まらないんだ!」

律「お……おぅ!」



律(またあの夢を見てしまった)

律(どれだけ部活……てか軽音部に未練があるんだ、私)

律(………クソっ、もし昨年の4月に軽音部に部員が入っていれば…)

律(今何もないこの茫漠とした生活から抜け出せたんじゃないか?)

律(あの、夢みたいに。あの夢の中の軽音部みたいに……)


律(それにしても……あの夢の中の面子、いつも同じだな)

律(何も考えてなさそうな茶髪と、ツインテールで可愛い黒髪と、おっとり金髪……あと澪)

律(決まってあの面子だ。キャラも口調も外見も、それぞれの夢で同じ)

律(……何なんだろうな)



澪「え、私が? 夢の中で軽音部に?」

律「そうなんよ。しかもそれが毎回だから」

澪「ん……偶然、じゃないのか? お前友人少ないし、律が頭の中で描ける登場人物って、私くらいのもんだろ」

律「ひどい言われようですが、敢えて突っ込んだりはしないわよ」

澪「でも、他の出てくる子も共通ってのは、不思議だな……」

律「でしょ? でしょでしょでしょ? 何かの予言みたいでしょ?」

澪「予言かどうかはさておき、微妙に気になるところではあるな。お前、その人達と会ったことはおろか、喋ったことさえないんだろ?」

律「はい、ないと思われます」

澪「………不思議だな。前世での親友たちがお前の夢の中にあらわれてる、とか……これ次の小説のネタになるかも」

律「そだ、おい澪」

澪「ん?」

律「その子たち、探してみようぜ」

澪「……え? 今何て言った?」

律「だから、あたしの夢の中に出てくるお前以外の3人を探してみるっつってんの」

澪「…………お前、何言ってんだ? とうとう鬱病の初期症状が始まったか?」

律「誰が鬱病じゃい! いや、根拠はないんだけど、あまりにもリアルだから、実在するんじゃないかなー、
  って思って……って、おい何だ澪、その顔は」

澪「ん……何というか、馬鹿にするというか、お前がそういうこと言うのが意外でさ」

律「あー、あたしでも何でこんなこと言ってんのかわかんないよ。ただ、面白そうだからさ。他にすることもないし」

澪(律がいつになく輝いてる、かも)

澪「でも、どうやって探すんだ?」

律「まぁそれは、今日の放課後じっくり話し合おうぜ」


放課後

澪「じゃまとめると、
  一人目は茶髪で馬鹿っぽいけど一緒に居たら和みそうな奴、身長は私よりちょい下
  二人目は金髪でおっとりしてる、金持ちっぽい。眉毛が特徴的
  三人目は黒髪ツインテールの後輩、可愛い、けどしっかり者っぽい」

律「うん、だいたいそんな感じ」

澪「……これだけの情報で探すの、多少無理ないか?」

律「そうだね、無理ありありだね!!」

澪(……あー、なんで私こんなのに付き合ってるんだろ)

律「あ、でも大丈夫! みんな桜高の制服は着てたから!」

澪「そういう問題じゃない! 学校の中でも、この3人の条件に当てはまる人だったら、一杯いるだろう!」

律「てへ☆ あ、でもあたしが見たら分かると思うから、無問題だぜ」

澪「だからそこに至るまでのプロセスがだな……」


和「あら澪、教室に残ってるなんて珍しいわね」

澪「あ、和。生徒会は休みか?」

和「今日直の仕事が終わったとこ。これから生徒会よ。学祭も近いしね」

澪「そうなのか。あ、律。この子は和。私のクラスメイトだ」

律「……ど、ども。田井中律です(あー、生徒会長か)」

和「いっつも澪と一緒に学校来てるの見てるから、知ってるわ。仲がいいのね」

澪「小中高と一緒だと、嫌でも仲好くなるよ」

律「おい何かあたしに不服なことでも」

和「そんなことより、二人で教室に残って何やってるの?」

澪「あー……それはだな」

澪(駄目だ、こいつの夢に出てくる人間を探すだなんて、和に言ったら鼻で笑われるに違いない)

澪「ち、ちょっと、人探しをしてるんだよね。こいつの小学校時代の友人が、桜高に居るらしくて。」

律(嘘ってバレバレじゃねぇか澪ちゃん)

和「何々……(概要を書いたノートを見る)……、え?」

澪「いや、こんな抽象的すぎる概要で人探しなんて出来る訳ないんだけどさ。でも、小学時代の記憶ってさ、ほら、曖昧じゃん?」

律「………(もう澪喋らないでくれ)」

和「私、この子知ってるかも」

律・澪「へ?」


澪「和の話によれば、彼女の名前は平沢唯。桜高2年3組、だそうだ」

律「2年3組……って、あたしと同じクラスじゃん! こんなの居たっけっか……」

澪「お前、無気力学生でも自分のクラスメイトの名前くらいは覚えとくもんだぞ」

律「ん……聞いたことあるっちゃあるかも……あ、そうだ! この子……道理で覚えてない訳だ…」

澪「ど、どうしたんだ律?」

律「この子、不登校児だよ! 始業式の日から一回も学校来てない!
だからウチのクラスには、いっつも空いてる席が一つあるんだ」

澪「そうなんだ……不登校してる子が和の友人って…
まぁ、あいつは世話焼きだから、あながち間違ってもいないか…」

律「じゃ、早速会いに行こう!」

澪「おいちょい待て」

律「どーしたよ? 折角誰か分かったんだから、この機を逃してどーすんだよ」

澪「よく考えろ律。まず、あってどうすんだよ。相手は不登校の子だぞ。
普通じゃないんだ。ただでさえ人間関係不器用なお前が、そんな子とコミュニケーションとれるのか?」

律「ノリでなんとかする!」

澪「………それに、その子に何て言って会いに行くんだ?
夢の中でいっつもあなたが出てくるんです! って言うのか?
私が平沢さんなら、お前を痛い子認定してお引き取り願うな」

律「……うぐ…」

澪「しかも、そいつがお前の言ってる夢に出てくる子とは限らないし」

律「うるさい! んなもん会ってから確認すりゃいいだろ!!
さぁそうと決まったら担任に住所貰いにいくぞ!」


和(……本当かしら、唯と田井中さんが小学時代の知り合いっていうの。だとしたら、私も田井中さんを知ってることになるけど…)

和(まぁ良いわ。あの子に友人が増えるなら、それに越したことはないしね)

さわ子「え、平沢さんの住所?」

律「はい、山中先生。もう平沢さん長いこと学校来てないじゃないですか。だから、大丈夫かなって思って。
平沢さんだって、毎日一人で居たら寂しいと思うんです。だから、平沢さんの家に会いに行きたいんです!」

澪(怪しすぎる……)

さ「うーん………知ってると思うけど、平沢さんはちょっと今大変な状況なのよね……、すっごくいい子なんだけど」

律「そんなの関係ありません! だって私と平沢さんは、クラスメイトですから!」

澪(あー何かいたたまれなくなってきた…)

さ「まぁ、田井中さんが平沢さんに会いたい、って言ってくれるのは私としても凄く嬉しいんだけど。あの子、今は誰に対しても怯えちゃうから。
ほら、1年生の時のいじめのせいで。ちょっとした問題になったでしょう?」

澪「あ……あの事件ですか」

律「え、いじめ? 何それ?」

澪「何でお前知らないんだよ!」

律「えー、何でって言われても……」

さ「まぁ兎に角、平沢さんは1年生の時にひどいいじめを受けて……自殺未遂までしてしまったの。
  それから、1度も、ただの1度も学校へ来てないわ」

律「あー、何かそんな話あったようななかったような」

澪「隣のクラスの子に聞いた話では、。机の上に落書き、弁当に埃を混ぜられる、椅子と机を隠される、教科書を水で濡らされる、殴られる、蹴られる、
  お金を巻き上げられる……その他色々えげつないことされたとか」
律(なんで澪こんなに詳しく知ってんだろ……)

さ「……そうよ。そして自殺未遂。妹さんに止められて何とか致命傷には至らなかったんだけど。
  けどそれから、妹さんとさえ口を利かなくなってしまったらしいの。
  私も週に1度家庭訪問に行ってるんだけど、顔を見たことはおろか、喋ったことさえないわ」

律「わお……こいつぁ、強敵ですなぁ、澪ちゃん」

澪「だから私はやめといた方がいいって」

律「でもあたしは会いたいです! 平沢さんに! 妹さんや先生で駄目でも、
  新しいクラスメイトである私には心を開いてくれるかも知れない!」

さ「…………わかったわ。明日、平沢さんの家に行く日だから、放課後私のところに来なさい。
  一緒に乗せてってあげるわ」



律「あー、まさか1日でここまで行くとは思わんかったなー」

澪「おいちょっと待て律! 本当に平沢さんに会うのかよ!」

律「ここまで来たら会うしかないっしょ。それに何かほら、いじめで心に傷を受けた子が、
  私たちの手によって徐々に立ち直ってくって、何か青春ドラマみたいでかっこいいじゃん?」

澪「そんな簡単な問題じゃないんだよ! 相手は生身の人間だぞ?」

律「はーいはいはい。ま、正直私も、最初は澪との話のネタ程度にしか思ってなかった夢の話が、ここまで発展してることに驚いてるよ」

澪「だったら、もう冗談は止めにして、明日からまた普通の生活に戻ろう? な?」

律「……まぁまぁ。普通の生活に戻る前に、もうちょっと遊んだっていいじゃん。別に死ぬわけじゃないんだし。
  もうちょっと付き合ってくれよ、澪ちゃん」

澪「…………もう、私は知らないからな」

律(……馬鹿野郎)

律(普通の生活に戻っても、私には何もねぇんだよ)

律(ただ朝起きて、学校行って、適当に授業受けて、帰って、ネットやって、テレビ見て、寝る。この繰り返しだ)

律(だからたまに、ちょいとばかり遊んだって、いいじゃねーか)



―――
――

律「ういっす」

?「りっちゃん、遅いよ!」

律「あ、ごめんごめん 。今日生物の追試でさ」

?「流石りっちゃんだね!」

律「……おい、お前も明日数学の追試だってこと、わかってるんだぞあたしは」

?「げ? 流石りっちゃん隊員抜かりないで御座いますね」

?「そんなことより、りっちゃんもお茶飲みましょ」

律「お、サンキュ、 。今日のお菓子は何なんだ?」

?「ショートケーキよ」

律「おー、ラッキー! 元祖にして最強のショートケーキ!」

?「いっただっきまーす」

律「おいちょっと待て ! それあたしの苺!」

?「へへへ……油断するほうが悪いんだよりっちゃん…」

律「このやろー!!」

?「こんにちはー、………って先輩方、また練習しないでお茶なんて飲んで……練習しましょうよ」

?「あ、    ! 今日のお菓子はショートケーキだよ!」

?「え、そ、そうなんですか! で、でもそれと練習は関係ないです……」

律「そんなこと言ってたら、 のケーキ食べちまうぞー!」

?「だ、駄目です! 律先輩、いじきたないですー!!」

律「なんだとー! 部長をいじきたないとはなんだーこのーこの口が悪いのかー」


――
―――



律(はいはい、毎朝恒例のほどよいこの鬱加減)

律(何故に夢の中の軽音部は、あんなに楽しそうなんだろ……)

律(私もあんな部活に入れたらな……こんなつまらない生活とはオサラバなのに)

律(……ま、自分が能動的に動かなかったのが悪いんだけどね)

律(……………何だこの違和感)


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