その後も梓とトンちゃんの恋愛は順調に続いていった。
梓は部活後に無人の音楽室での密会を毎日のようにしていた。
澪を除く軽音部員たちは梓が何の目的で
音楽室に居残るのか分かっていなかったが、
何度尋ねても梓は頑なに答えようとしないので
もう聞き出すのを諦めていた。

真実をただ一人知っている澪は
ときどき梓からの恋愛相談を受けた。
亀との恋にアドバイスすることなんて……と思っていたが
梓があまりにも真剣に話すので
澪としても無下にするわけにはいかなかった。
アドバイスを受けた梓は早速それを実践し、
以前よりも彼と親密になれたと喜んだ。

梓はひときわ練習に身を入れるようになった。
愛する人が見ていると思うと、自然とそうなるのだろう。
元々そこそこ上手かった梓はさらに上達し、
他の軽音部員たちを驚かせた。
そしてそれは軽音部全体のモチベーションの上昇を促し、
軽音部は以前よりも3分ほど練習時間が増えた。

色々と良い方向に進んでいた。
梓は毎日が幸せそうだった。
澪も恋に夢中な梓を見て幸せな気分になった。
しかし人と亀の恋愛という歪んだ事象が生み出す幸せなど、
長くは続くはずがないのである。

悲劇の幕開けはすぐそこにまで迫っていた。



ある日の放課後、音楽室。

ガチャ
澪「よう……って何やってんだ梓……」

梓「み、澪先輩!? あーもういきなり入ってこないでくださいよ」

澪「もしかして今……
  キスしようとしてたのか……?」

梓「い、いいじゃないですか恋人同士なんだから……」

どうやってキスするかは聡明なる読者諸君の想像にお任せしたい。

澪「まったく……そういうのはみんなが帰ってからにしろよ。
  マズイだろ、みんなにバレたら」

梓「そうですね……特に律先輩あたりにばれると
  絶対からかわれますからね」

澪「いやそういうことじゃなく……」

ガチャ
律「私がどうしたって?」

梓「うわぁ」

紬「今日のお菓子はカルメ焼きよ~」

唯「わーい」

律「どんどん貧相になってない?」

梓「これ食べたら練習しますからね!」

律「へいへい」

紬「そういえばトンちゃん、
  もうずいぶん大きくなったわねー」

律「そうだなー」

梓「ふふん」

律「何ニヤニヤしてんだ梓」

梓「いえなんでもありませんよー」

澪「…………」



練習中。
                _
              '´ ,==ヽ
          | l  i゙゙゙゙゙'''il |
           0ノリ(l|゚ ヮ゚ノi、0           _
         -=='==-)芥i-=='==- ,     ,'´/、 ヽヽ
          i´ ̄`i't‐t'i´ ̄`i-==-  i ((eヽe)i
          _ ‐ ヽ'´ ̄ ヽ/ ‐'  |    ノ (l|´ヮ`ノl、
       '´    ヽ | ◎YA |  _   (( f(つつ )
       l i l_iハ_i l  、_ ノ '´,  、ヽ\lillilillilillilillilt\
       | (ト!゚ -゚ノl'       l (itノヽヽl  |  ̄ \/ | ̄                _  ,、
  、'iiii==○)≡lU|    ノリ(l|゚ ヮ゚ノi、 _j  _/\_ ヽ_             ,:'´   ヽ:〉
     ノ_l_`ー'`- 'ヽ      |Ul≡(○==iii'                   ,イj从ノハl./∧
          (_,ヘ_) _j    /`--'`ー '                      j ハ|、゚ー ゚/nヘ i
             _/   (_ノJ                       {{ (_,])〃じ゙l |
                                            )' ,ゝ、___,ノ>,ソ
                                               /_/(_( (′



唯「よーし今日も張り切って練習しよう」

                           梓「はい」

律「梓は相変わらずそこか」

                           梓「いい加減慣れてください」

澪(最近私は気づいた……あの位置からだと水槽がよく見えるということに……)

律「じゃあ始めるぞー、ワンツースリフォー」



……

唯「此処がそう楽園さ~さよなら~蒼き日々よ~♪」
ジャーン

律「おー、今の演奏なかなか良かったな」

紬「そうねー」

                           梓「はい」


澪(演奏中も梓の視線は水槽の方に固定されていたッ)

律「よーし、じゃあ今日はもうおしまい! 疲れたし!」

澪「そうだな、今日はいっぱい練習できたし」

紬「昨日もやったけどね」



ガチャ
さわ子「ヘイ! ちょっと待ちなさい!」

唯「さわちゃん?」

律「なんだよいきなり」

さわ子「いや、トンちゃんが結構大きくなったって聞いたから」

律「ああ、ご覧のとおりだ」

さわ子「ほほう、なかなかのサイズね」

梓「そろそろ水槽を変えてあげたいです」

さわ子「いやあ、もういいでしょう」

梓「え?」

唯「そーだね、もういいよね」

梓「え、なんでですか?
  このままじゃ窮屈じゃないですか……」

律「そんなに大きくなるまで育てなくてもいいだろ。
  あんまりビッグになっても食い切れないしな」

紬「そうね」

梓「えっ…………
  今…………なんて…………」

澪「……」

律「え? あんまりビッグだと食い切れない、って……」

梓「食う!? 食うって……
  トンちゃんを食べちゃうってことですか!?」

紬「何を驚いてるの?
  最初からそうする予定だったじゃない」

梓「知りませんよ、そんなの!
  どういうことですか!!」

律「そういうことと言われても……」

唯「あずにゃんがホームセンターで
  美味しそうな顔して見つめてたから買ったんだよ、トンちゃん」
(2話参照)

梓「そんな顔をした覚えはありません!」

唯「あれー、そうなの?」

律「なんだよ梓、まさかこんな亀っコロに情が湧いた、
  なんて言わないよな~」

梓「っ……」

澪「梓……」


梓「酷いです……酷すぎます、皆さん……
 トンちゃんは……音楽室の仲間じゃないですか……」 

さわ子「ダメよ、梓ちゃん。
    食べることは最初から決まっていたのだから。
    今さら飼い続けたいなんて、通用しないわよ」

梓「ひ、ひどい……」

唯「わーい、私スッポンなんて食べるの初めてだよ、
  楽しみだなー」

紬「いつ食べるんです?」

さわ子「よし、じゃあ明日スッポン鍋にして食べましょう!
    土曜日で休みだし、ちょうどいいでしょ」

律「オッケー、じゃあ明日の昼に音楽室集合な!
  スッポン以外の材料は各自持ち寄り!」

唯「お~♪」

律「よーしじゃあ今日はこれで解散!」

紬「明日楽しみだわ~」

さわ子「お腹すかせときなさいね」

梓「……」



律たちが帰ってしまい、
音楽室に残されたのは澪と梓、そしてトンちゃん。

梓「ひっぐ……ぐすっ、うぅ……」

澪「梓……」

梓「澪先輩は……知ってたんですか、このこと……」

澪「ああ、知ってた……
  すまない、梓の幸せそうな顔を見てたら……
  どうしても言い出せなくて」

梓「いいんです……
  澪先輩が……悪いわけじゃ……」

澪「……どうするんだ、トンちゃんのこと」

梓「そうですね……
  せめて……今日はもう……
  2人きりにしてください……」

澪「ああ、分かった。
  じゃあ私はもう、帰るから……」

梓「はい……」

澪「じゃあな、梓……」
ガチャバタン



梓「……」

梓「……」

梓「……」



その夜、秋山家。

澪(梓……今頃どうしてるかな)

澪(恋人との最後の別れ……)

澪(明日の昼、愛する人が鍋の具材になって食べられてしまう)

澪(よく考えたらすごく残酷だな)

澪(梓……)

ピリリリリリリッ

澪「ん? 律から電話……
  はいもしもしー」


律『澪、梓のこと知らないか?』

澪「梓がどうしたんだ?」

律『まだ家に帰ってないらしいんだよ!
  携帯にもつながらないらしくて……』

澪「なんだって?」

澪は時計をみる。
午後11時半。

律『梓のお母さんが心配して先生に電話して、
  それでさわちゃんが私に電話かけてきて……
  なあ、梓がどこにいるか知らないか?』

澪「し、知らない……
  みんなが帰った後、音楽室で梓と一緒にいたけど、
  私もそのあとすぐ帰ったし……」

律『そうか……
  よし、じゃあみんなで手分けして捜そう!
  唯やムギにも連絡しとくから、5分後に私の家に集合な!』

澪「ああ、分かった!」ピッ



澪(梓……まさか……)


5