あきやまけ!

梓「それで、どうしたんですか澪先輩?」

澪「フンが…フンが変なんだ。今までのより多いし、水っぽくて」

澪「もしかして、お腹壊したのか、って…」グスッ

梓「……」

澪「私、知らない間に悪いものを食べさせたのかもって不安で…梓、大丈夫だよな!?」

梓「…澪先輩、大丈夫ですよ」ニコッ

澪「え?」

梓「この子は成虫になるための最後の段階に入ろうとしています」

梓「そのフンは準備のために要らないものを捨てたんです。お腹を壊したわけじゃありません」

澪「…どういうことなんだ、梓?」

梓「サナギになるんです!」

澪「……!!」

梓「早速準備してあげてください!」

―――



梓「…サナギになりましたね。ポジションも完璧です」

澪「あとは信じて待つだけ、か」

梓「…突然ですが澪先輩、チョウの飼育は子供達にとってポピュラーでしたが、
  同時にトラウマの元でもありました。なぜだかわかりますか?」

澪「ううん…わからない」

梓「これから話すことは、是非澪先輩に聞いてほしい、よくある子供とチョウの話です」

梓「どこにでもいる小学生。彼らは澪先輩と同じようにチョウを育てていました」

梓「知識がないながらにおっかなびっくり、でも一生懸命愛情をかけて…ね」

梓「手塩にかけて育てた幼虫はやがてサナギとなり、子供達はまだかまだかと待ちわびます」

梓「しかし、あれ…おかしいな。なんだかサナギの色が悪くなってきたぞ。動くこともなくなった」

澪「……」ゴクリ

梓「違和感を覚えながらも待ちに待った二週間。虫かごを覗いた子供達は驚きます」



梓「…だって、サナギから出てきたのは、ハチ、だったのだから…」



澪「ひいいいいぃぃぃ!!」ブルブル

梓「要は、油断は出来ないって話です。これで期待もひとしおでしょう?」

澪「……あ、梓ぁ…私のはハチになったりしないよな?な?」ウルウル

梓「大丈夫ですよ、澪先輩。そのための防虫シートです」

梓「それに、私が卵から見てて、澪先輩がずっと育てたんですから」

澪「…そっか、そうだな!」

澪「そういえば、ふと思い出したんだけど、クリスマスに」

梓「」ビクッ

澪「…梓?」

梓「な、なんでもないです。続けて下さい」

澪「あの時、和にクワガタをプレゼントしていたけど、あれはどうなったんだ?」

梓「ああ。あれはですね…何も問題がないんです。困るぐらいに」

梓「一度様子を見させてもらったんですけど、環境に世話。和先輩は完璧過ぎます…」

梓「私から教えるようなことは何もなくて。正直ちょっと残念です」

澪「そうなんだ…」

梓「その点澪先輩は後輩みたいで教えがいがあります」

梓「…一度私のこと、梓先輩、って呼んでみませんか?」

澪「調子に乗るなっ」ポカッ

梓「あたっ」



梓「おじゃましましたー」ドアバタン

梓(…そういえば家にもカブトのサナギがいくらかいたっけ。久々に様子を見てみよっと)

律「おーす。またチョウの世話かー?」

梓「あ、律先輩。澪先輩に会いに来たんですか?」

律「ちょっと様子を見に、な。でも必要なさそうだな」

梓「そうですか…?あっそうだ。律先輩、またカブト戦わせましょうね!」

律「ん、どしたー急に?」

梓「サナギが家にあるんですけど、そろそろ羽化するころだと思ったので」

梓「私が育てたやつだから、今年のはサイズが期待できますよ!」

律「へえー。もし成虫になったら真っ先に私に見せろよー?んで戦わせよう!約束な!」

梓「ハイ!」



梓「ただいまー」ドアガチャ

梓(最近遊んでばっかりだったもんね。おろそかにしちゃいけないよ)パチン

梓「みんなごめんねー。…あれ(ハエが多い?)」

梓(発生源は、カブト…まさか!?)ガパッ

梓「……病気、腐ってる、…成虫は、羽化不全……」

梓「…全滅」

梓「約束、したのに……」

グスッ、グスッ…



つぎのひ!



梓「……私のバカ」

梓(律先輩、怒るかな…今日は部室、行きたくないなあ)

梓「…」ボケー

純「今日ずっと死んでるなあ、梓」

憂「だねー」

梓「…」ガサゴソ ジョキジョキ

純「お、梓がおもむろに空のペットボトルにハサミを入れました」

梓「…」ビーッ ペタペタ

憂「上半分をひっくり返してまたくっつけたね。何か作ってるみたい」

梓「…」ガタッ

憂「あっ、どこかに行くみたい。追いかけようよ」

純「これから授業なのに?」

憂「梓ちゃんが何か悩んでるかも知れないのに、純ちゃんは梓ちゃんが大切じゃないのっ!?」

純(じゃあ何か言葉かけてあげようよ…)

―――



梓「……」ジーッ

純「原っぱにさっきのを置いて、はや一時間。そういや中に何入れたのかな」コソコソ

憂「脂身だよ。罠を作ってたんだねー」コソコソ

梓「……捕れた」ヒョイ

純「なんか捕れたみたいだけど…見えない」

憂「私単眼鏡持ってるから見てみるね?……あ、ハンミョウだ!」

純「ハンミョウって?…あ、どっか行くみたい。追いかけよう!」

梓「…」トコトコ ピタ トコトコ

純「何やってんの私ら、じゃなくて梓」コソコソ

憂「ここからじゃよく見えないけど、たぶんハンミョウについていってる」コソコソ

純「へえ。なんでそんなことすんの?」

憂「ハンミョウってね、近づくと少し離れた所に飛んで、こっちを向くの」

憂「その様子が「こっちに来て」って言ってるように見えるから「道標」とも呼ばれるんだって」

憂「やっぱり梓ちゃん、悩んでるのかもね…」

純「梓…」

梓「…」トコトコ

ブーン

梓「あっ、待って!」タタッ

純「水臭いよ梓、虫なんかに頼っちゃって…私たちが梓の力になってあげないとね」

憂「純ちゃん…そうだね。だって私たち友達だもん!」

純「…ところでさ。梓がいなくなったんだけど…どこ行ったかわかる?」

憂「さあ?」

純「ていうか、ここ、どこだろうね?」

憂「ねー?」

純「……」

―――



タタタタ

梓「ハア、ハア、ハア…(完全に見失っちゃった)…あっ」

梓「学校…戻ってきたんだ。ここに行け、ってこと…だよね」

梓「…部室行こう」



梓(もうすぐ放課後だ。先輩たちが来る)

梓(…気が重い。律先輩、怒るだろうなあ。私だったら一日は口きかないもん)

梓(絶交されたらどうしよう。律先輩が来たら真っ先に謝らなきゃ…)

タタタタ ドアガチャ

唯「あ!あずにゃ―」

梓「ごめんなさいっ!」バッ

唯「よくわからないけど私傷ついたっ!」



梓「……」ズーン

梓(もうだめだ…私は誰にでも謝るペコビッチだってみんなに思われるんだ…)

梓(こんな軽い女じゃもう律先輩に許してもらえない…)

唯「どしたのあずにゃん、元気ないねー。そんなんじゃ卵産めないよ?」

梓「唯先輩には関係ないことです…」

唯「ふーん。そっかあ」



チックタックチックタック



梓(やっぱり、帰ろうかな…)

唯「あずにゃん見て見てー!」

梓「…?俯せに寝そべって何を…」

唯「ふ、むむ…っと。ハネカクシっ!」

梓「……フフッ、唯先輩パンツ丸出しになってるじゃないですか」

唯「あはっ!あずにゃん、やっと笑ったあ!」

梓「え?」

唯「あずにゃんずっと辛そうで、私も辛かったよお」

梓「……」

唯「私、嫌がる姿も、脅える姿も、泣き叫ぶ姿も大好きだけど…落ち込む姿なんて見たくないよ」

唯「何があったか話してくれなくてもいいけどさ、慰めるくらいはさせてよ、ね?」

唯「だってあずにゃんのこと、大好きだもん」

梓「唯先輩…」

唯「ほら、おいで?」


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