梓「失礼します」

一応ノックをして入室。
職員室には見知った顔の先生が一人だけ居た。

さわ子「いらっしゃいにゃん」

紬「さわ子先生……?」

さわ子「そうだにゃん。今日は他に誰も居なくて困っていたところなのにゃん」

澪「先生……どうしたんですか?」

さわ子「にゃんにゃーーーん!!」

さわ子の口からおどろおどろしいものが姿を表す。

澪「ひっ!? あれが……」

紬「あれが正体……猫ね」

梓「うあああっ!?」

その猫のようなものが霊体となりさわ子から出現。
梓の口に目掛けて入り込んだ。
梓は恐怖で動けない。

梓「ああああっっ!?」

紬「梓ちゃん!!」

澪「…………」

澪も恐怖で動けない。

猫の霊体が梓の中に完全に入り込むとさわ子は糸切れ人形状態で倒れた。

澪「あ……ひ……」

紬「梓ちゃん……大丈夫?」

梓「……」

梓「大丈夫だにゃん」

紬「……だめね」

澪「……取り憑いたのか?」

梓「ただのツマミかと思ったら中々しっくりくるにゃん」

紬「最悪ね」

澪「ぐっ……」

梓「ほら」

梓「早く逃げないと食べちゃうのにゃん」

紬「澪ちゃん!」

澪「うんっ」

紬が合図して二人は職員室を飛び出した。

澪「ど、どうするムギ!」

紬「部室へ行きましょう!」

澪「わかった!」

その時後方の職員室の扉が吹っ飛び、中から巨大な猫が姿を表した。

澪「うわっ、なんだよあれ!?」

紬「まさか……梓ちゃん!?」

澪「あれが!?」

体長5メートルを超える巨大な猫が澪達を追いかける。

猫梓「お前たち鈍過ぎるにゃん」

澪「くっそ! ムギ、乗れ!」

澪の下半身が大きく膨れて蜘蛛のそれになる。
紬はそこに跨った。

澪「スピード上げるぞっ!」

紬を乗せて部室へ向かう。
しかし澪のスピードを持ってしても猫を振り切る事が出来ない。

澪「なんて早さだ……!」

紬「嫌な予感の正体は猫……私たちはごはんとおもちゃくらいにしか思われてないわね」

楽しそうに追ってくる巨大な猫梓を見て呟く。

澪「ううううっ……ころされるぅ……!」

半泣きで必死に逃げる澪。

紬「うーん……とりあえず反撃してみるね」

紬が猫梓に向かって手をかざした。

大根を射出。
猫梓に命中。
しかし猫梓は止まらない。

澪「どうなった!?」

紬「あんまり効いてないかも……」

澪「うああああんっ! ムギィ~!」

紬「お、おちついて澪ちゃん! とりあえず撃てるだけ撃ってみるね」

大根をガトリング。
廊下をフルに使って被弾を最小限に抑える猫梓。
紬は攻撃の手を休めないが猫梓もスピードを落とさない。

紬「それならっ!」

紬は天井に向かって大根を撃ち出した。
大根は天井で弾けてすりおろされて廊下に広がる。

しかし猫梓はツメを使って難無くすりおろし廊下を越えてくる。

紬「……」

澪「どうだ? やったかっ!?」

全力で飛ばしているため脇見をする余裕の無い澪が聞いてくる。

紬「……とっ、とりあえず部室に!」

澪「もうやだあああっ」

澪の跳躍で階段を上りきって部室に駆け込み、扉を閉めた。

澪「どどどどどうしようムギっ」

紬「澪ちゃん糸を出して!」

澪「いとっ!」

だばー。
澪から大量の糸が垂れる。



猫梓「にゃんにゃん」

その巨体で軽やかに階段を駆け上がる。

猫梓「ここかにゃん!」

猫梓が部室の扉を突き抜けて入ってきた。

紬「澪ちゃん!」

澪「よしっ!」

仕掛けて置いた糸が猫梓の身体に絡みつく。

猫梓「なんだにゃん?」

紬「そのままくるんじゃって!」

澪「分かってる!」

糸で猫梓をがんじがらめにする。

猫梓「ぷへっ。気持ち悪いのにゃん」

しかし猫梓が暴れると糸は切れてしまう。

澪「うそっ」

猫梓「ほんとにゃん」

猫梓が前足で澪をなぎ払った。

澪「げえあっ!?」

紬「澪ちゃん!!」

澪が猫梓の一瞬の攻撃を避けれずドラムセットに突っ込む。
続いて猫梓が紬をにらむ。

猫梓「お前の大根の所為で身体が水浸しなのにゃん」

紬「沢庵もあるのっ!! ピクルス――」

紬が沢庵ショットガンを打ち出そうとするが突然猫梓の姿が消える。

紬「えっ?」

澪「ムギっうしろ!」

猫梓「お前はのろいにゃん」

紬を前足で叩きつけてそのまま押し潰した。

紬「むぎゅう……!」

澪「ムギィーーーー!!」

それを目の当たりにした澪が梓猫に体当たりをかます。

猫梓「うごっ……まあまあ早い……にゃん!」

澪「っが!」

澪を尻尾ではたき落とす。

澪「げほっ……くそ」

猫梓「蜘蛛は足を一本ずつもいでいくのが楽しいのにゃん」

猫梓は馬鹿にしきった表情で澪を眺めている。
と、その時。猫梓の意思に反して前足が動いた。

猫梓「にゃん?」

下から持ち上げる力が猫梓の前足を跳ね除けようとしている。
猫梓はそれを押し潰そうと力を入れるが前足はどんどん浮いて来る。

猫梓「ぐぬぬ……!」

紬「わ……私……パワーには自信が……あるのぉっ!!」

猫梓「にゃにゃん!?」

紬が力を振り絞って猫梓を跳ね除けた。
猫梓は体勢を崩す。

紬「澪ちゃんっ!!」

体勢を立て直した猫梓の牙が紬を襲うが間一髪で澪が紬を拾った。

澪「こ、こわかった……」

紬「澪ちゃんありがとっ!」

猫梓「ちょっと楽しくなってきたにゃん」

澪「くそお……ゴキネコめ……」

紬「澪ちゃん」

澪「ん?」

紬「猫梓ちゃんの懐に行きたいの。出来るかな?」

澪「……や、やってみる」

猫梓「にゃにゃんっ」

猫梓が飛び掛かってくる。
紬を乗せた澪がそれを寸でのところでかわしていく。

猫梓「その調子にゃん!」

澪「このっ……!」

噛みつき、引っかき、尻尾。
それらが澪を仕留め損ねると部室に傷跡を増やしていった。

澪「はあっ……はあっ」

猫梓は少しずつ澪との間合いを詰めていく。
そうして段々と逃げる範囲を狭められ、澪は部室の角に追いやられた。

猫梓「どうしたのにゃん?」

意地の悪い笑みを浮かべて前足を構える。

紬「別にっ!」

紬が大根を猫梓の顔面に射出した。
猫梓はそれを前足で払いのけると目前には澪がいた。
猫梓がそれに食いつこうとした瞬間、澪は糸を足場にして空中で方向転換する。

澪「よしっムギ!」

紬「はいっ!」

猫梓の下から声が聞こえた。

猫梓「にゃに!?」

紬は猫梓の腹に右手を添えて叫んだ。

紬「ラディッシュパイルバンカー!」

部室全体を揺るがす激しい揺れと油圧系の音が鳴り響いた。
紬がゼロ距離で撃ち出した巨大な大根が猫梓の腹部を貫く。

猫梓「ゲボアッ!!」

びちゃびちゃと血を吐く猫梓。
腹部からもおびただしい血が流れている。

猫梓「グボッ……く……そったれにゃん……グパパパパーー!」

猫梓の口から霊体の猫が飛び出し、梓から完全に追い出されたそれが実体化する。
それは体長1メートル程度の猫で先程の巨大猫のような身体能力は見受けられない。

猫「ごはっ……仲間ごと攻撃するとか最悪なのにゃん……」

紬「観念して! 今なら見逃してあげる」

猫「くう……仕方ない、今のゴキブリより性能は劣るがさっきのメガネ女をもう一度乗っ取るにゃん。……人払いが裏目に出たかもしれないにゃん」

猫は部室を飛び出して職員室へと向かい始めた。

紬「そうはさせないっ!」

紬はすぐさま後を追った。
部室に残されたのは猫を追い出した事で元の身体に戻った梓とそれを棒立ちで見つめる澪。

梓「……」

澪「……梓?」

澪がふらふらと梓の元へ歩み寄り膝を突く。
梓は巨大な猫に変化していた所為で制服が破れてしまい今は一糸纏わぬ姿だ。
腹部の怪我と流れ出る血が痛々しい。
澪はそっと梓を抱きかかえた。

澪「おい梓……生きてるか?」

梓「……うぷ、げほっ」

咳き込みながら血を吐き出すも返事を返す。

梓「生きてますよ……えふっえふっ。……あの猫はどうなりました?」

澪「今ムギが追ってる。それにしても流石ゴキブリはしぶといな。まあサービスで止血しておいてやろう」

梓「それはどうも……。うあ、私裸じゃないですか……やだなあ」

澪「ゴキブリなんだからいいじゃないか」

梓「嫌ですよ。澪先輩ブレザー貸してください。癪ですけど無いよりマシです」

澪「糸で全身巻いてやろうか?」

澪が糸で作った即席の包帯で梓の腹部を止血する。
梓はゆっくり起き上がり渋々貸されたブレザーを羽織った。

澪「っと、のんびりしてられないな。私はムギを追う。ゴキブリはホイホイで休んでろ」

梓「律先輩に言いつけますから」

梓を部室に残し澪はムギを追って職員室へ向かった。


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