澪「はあ……は……」

これだけの団幕を張られては迂闊に近づけない。
部室はいつの間にか水々しい大根おろしで溢れていた。
澪はそれに足を取られてしまう。

澪「うあっ!?」

つるっすてーん。
派手に転んだ澪目掛けて大根が容赦なく襲い来る。

澪「がっ……うぐっ!」

次第に澪の身体が大根おろしに埋もれていく。

紬「……もう終わり、かな」

紬が溜息をついた。

梓「何言ってるんですか?」

紬「上ッ!?」

真上から梓が紬を押さえに掛かった。

紬「しまった……えいっ!」

梓「うわっ! なんて力……!」

紬「梓ちゃんじゃ私に勝てないわよ?」

梓「ちっ……癪ですけどそうみたいですね……いつまで寝てるんですかっ!」

澪「うぐ……お前がのろのろしてた所為だろ……」

紬「えっ」

澪「腕をしっかり抑えてろよ梓!」

梓「いいから早く!」

紬「あっ……」

澪「はっっ!!」

澪の一撃で紬は部室奥に叩きつけられた。
すかさず澪は糸で紬を拘束する。

紬「いたた……あ、捕まっちゃった」

澪「ゴキブリにしては上出来だな」

梓「蜘蛛にしてはまあまあのスタミナですね」

澪「食べるぞ。唯ーこっちに来てくれ!」

恐る恐る部室を覗く唯。

唯「み、みんな大丈夫?」

澪「まあ……一応は」

梓「まあ……」

唯「うわっ二人ともまたそんなに怪我して!」

澪「それより……ムギをどうする?」

梓「今度こそHTT崩壊でしょうか……」

紬「その心配はないわ」

紬が力を入れると糸の拘束がとけた。

澪「うそっ……!」

梓「ちょっと! もっとしっかり抑えて下さいよ!」

紬「待って。まずはみんなに謝らなければいけないわ」

そう言って深々と頭を下げる。

紬「ごめんなさい……」

澪「……」

梓「どう言う事ですか?」

紬「実は貴女達の力を見させてもらったの」

澪「何でそんな……」

紬「貴方達は感じている? 今この町に恐ろしい気配が近づいている」

梓「そんな気配は感じません」

澪「ゴキブリより優れてる私もだ」

梓「ビビりの癖に」

紬「そう……私にしかわからないのね。でも確かに桜ヶ丘に何者かが来る」

澪「そうだったとして今の大根パーティーとなんの関係があるんだ?」

紬「その何者かは恐らく澪ちゃんと梓ちゃんを狙っているんじゃないかと思うの」

梓「どうして……」

紬「二人はほら、アレだから……」

梓「アレって……まあ言わんとしていることは分かりますけど」

紬「だから二人の力を見させてもらったの。それと……思ったより仲が良くて嬉しかったわ」

紬がニゥトっと笑う。

紬「私たち三人が協力すれば来るべき者に太刀打ち出来るはずよ!」

澪「なんか……」

梓「癪です……」

紬「ごめんなさ~い。実は……」

澪「分かってるよ。こういう役をやってみたかったんだろ?」

梓「沢庵めちゃくちゃ痛かったんですけど……」

唯「……へう?」

紬「ゴメンね唯ちゃん。お詫びに大根あげるね」

澪「なあ、もし私たちが来なかったらどうしたんだ?」

紬「そしたら唯ちゃんと大根パーティー……」

梓「大根のくだりは本気だったんですか」

紬「――か、ら、の! 濃厚な……」

澪「おい」



翌日の放課後。

律「話は聞いたけど……部室生臭いぞ」

紬「ごめんなさい」

唯「ムギちゃんの沢庵おいしーね!」

梓「まあ美味しいですけど……パリポリ」

澪「ごはんがないとな……パリポリ」

澪「ゴキブリと沢庵て合うのかな?」

梓「ビビりは残飯でも食べてればいいんですよ」

紬「まあまあ。はいお茶どうぞ」

澪「ありがとう」

梓「いただきます……あれ」

梓「澪先輩、私の紅茶に糸が入ってるんですけど」

澪「えーっ、まさかぁ。ミルクの間違いじゃないか?」

梓「そのでかい胸から糸でも出してるんですか?(笑)」

澪「こっち向いて喋るなよ、油が飛んでくるだろ」

梓「自分より小さいものにはやたら態度でかいですね」

唯「でも昨日はびっくりしたよ~」

紬「ごめんね唯ちゃん……」

唯「いいっていいって。それより二人が助けに来てくれたって分かった時嬉しかったよ」

澪「ほ、ほんと?」

唯「うんっありがとー澪ちゃん!」

澪「へへへ……」

梓「ちょっと蜘蛛先輩、唯先輩をフェロモンで釣るのはやめてくださいよ」

澪「ちょっと黙ってろ」

唯「あずにゃんもありがとうね!」

梓「いえそんな……えへ」

澪「ごきにゃんもありがとうね……」

梓「だああああーー!! やるんですかいいですよ相手になりますよ!?」

澪「はぁー!? そんなに食べて欲しいのか!?」

律「ふんっ!」

ゴス。

澪「あいたっ」

唯「めっ!」

ベチーン。

梓「へぶっ」

紬「来るべき日に備えてみんな仲良くしないと!」

律「そうだぞ! 私は役に立てないけど……そんなんで死なれたら堪んないぞ」

唯「そうだよ……仲良くしてね?」

澪「わ、わかってるよ」

梓「……はい」



そんなこんなで危機が迫っていると知りながら特に何もせず一週間が過ぎた。
そして週明けの月曜日。
澪と律はいつものように待ち合わせをして学校へ向かうが、澪の直感が危機を告げた。

律「どしたー澪? いきなり立ち止まって」

澪「……律」

律「もしかして、アレの日か?」

澪「ああ……律、今日は学校休め。学校には先生を含めて殆ど誰も居ないみたいだ」

澪「なんだろう……人払い? そんな芸当が出来る奴なのか……?」

律「大丈夫か?」

澪「まあなんとかするさ。家にいて一人で襲われるよりは学校で三人で返り討ちにしてやった方がいいだろ?」

律「わかった、無理するなよ。なんだったら私の貸してやるからな」

澪「あはは、期待してないけどありがとな」

澪は一人学校へ向かった。



学校へ着くいたが人の気配が殆ど無かった。
その代わり嫌な感じは段々と強くなる。

澪「うう……怖いよぅ」

紬「澪ちゃんっ!」

澪「ひゃあああああああ!!」

紬「だ、大丈夫?」

澪「あ、ああムギか……だいじょう――」

梓「うわあーーー!!」

澪「ひぎゃあああああああっ!!!」

梓「ブフッ。おはようございます澪先輩」

澪「まずは腹ごしらえかな」

梓「まあまあ、それより学校の中にいるみたいですね」

紬「ええ……とにかく行ってみましょう」

澪「ゴッキーはこんな日でもギター持ってきたのか」

梓「うるさいです。またお腹に風穴開けますよ?」

だべりながら校内へ入る三人。
そこには嫌な気配が充満しており根源を特定できない。
そこでゆいいつの人の気配がする職員室へ向かうことにした。


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