あの戦いから数日後。
自宅療養していた澪と梓が部室に顔を出した。

唯「澪ちゃんあずにゃん! もう大丈夫なの?」

梓「はい。ご心配をおかけしました」

澪「別に梓の心配はしてなかったんじゃないのか」

律「みーおー? 他に言う事があるだろ?」

澪「う……あの、唯……この前はゴメン。もうしないから許して……」

唯「あはは……ちょっとびっくりしたけどもういいよ」

梓「唯先輩を押し倒して糸垂らすとか最悪です」

唯「こらー私が許したからもういいの」

律「梓にも言う事あるだろ?」

澪「え……こんなごき――あいたっ!?」

額にチョップがささる。

澪「あうー……梓、ごめん」

梓「いいですよ。私も澪先輩のお腹に穴開けちゃいましたし」

唯「よし、これで一件落着だねっ!」

律「だな! ムギーお茶にしようぜ」

紬「はーい」

この日の部活は平和に終わった。



和やかムードな帰り道。
突然唯が立ち止まった。
どうやら学校に忘れ物をしたらしい。

唯「ごめんみんな、先に帰っててー」

そう言って学校へ戻っていく唯。
唯はしょうがないなぁ等と言いつつ4人で下校していると今度は紬が

紬「私、今日はここで……」

と、別れを切り出した。
そして別れの挨拶を済ませた後に一言。

紬「澪ちゃん梓ちゃん、もう”おいた”しちゃだめよ?」

梓「はい」

澪「あ、うん……え?」

紬「それじゃあ」

紬は別の道へ歩き出した。

律「んじゃ帰るか」

澪「……ちょっと待って律」

律「ん、どした?」

澪「ムギに私と梓の事を言ったのか?」

律「いや、言ってないけど……」

澪「でも”おいた”はダメだって……」

律「ムギの事だから私達の会話と空気で読み取ったんじゃないか? それか唯が言っちゃったとか」

澪「そう……かな?」

律「そうだろ?」

梓「……」

澪「……なあ、ムギ?」

振り返った時には既に紬の姿は何処にもなかった。

律「あれ、さっきまで歩いてたのに……」

梓「……なんだか嫌な予感がします」

澪「私もだ」

律「ムギに限ってそんな……」

梓「……私ちょっと学校見てきます」

澪「私も。律、悪いけど先に帰っててくれ」

律「おい澪……」

澪「大丈夫、変な事はしないよ」

梓と澪は学校へ向かい走り出した。



梓「……そんな事言ってまた唯先輩を」

澪「律と約束したんだ。もうしない」

梓「へえ」

澪「なんだよ?」

梓「そういえば律先輩は澪先輩の事知ってるんですか?」

澪「ああ、まあ……」

梓「もしかして昔襲ったとか?」

澪「食べるぞゴキブリ」

澪「……律は昔、私達が小学生だった頃に色々助けてもらったんだ」

澪「当時は今ほど慣れてなかったし、元々私にとっては敵っていう認識だったから怖かったんだ。人が」

澪「それで上手く喋れないから友達も出来なくていじめられたりした」

澪「でもそんな時に律と出会ったんだ。よく話し掛けてくれてさ」

澪「最初は怖かったけど段々仲良くなって今では……って何言わせるんだよ」

梓「私はそこまで聞いてないです」

澪「このゴキめ……まあそういうわけで律とは親友だから私の事は全部知ってる」

澪「お前の事も話してあるから」

梓「……」

澪「律はそんなに心が狭くないから大丈夫だぞ」

梓「澪先輩じゃあるまいし分かってますよ」

澪「はあ? 不潔が移るから寄るなよ」

梓「私は綺麗好きです」



学校へ到着すると真っ先に部室へ向かった。
二人には唯がそこにいると気配でわかるのだ。

澪「居るな」

梓「居ますね、二人」

澪「やっぱりムギが……」

焦って部室に入ろうとする澪を梓が止める。

梓「待ってください。中の様子を確認してからでも遅くないです」

梓と澪は部室の扉に耳を当て中の様子を探った。

唯「あっ、ムギちゃん……そんなに大きいのはいらないよぅ」

バァン!!
左右の扉が激しく吹っ飛ぶ。

澪「おいムギっ!!」

梓「またこのパターン!! ムギ先輩何やってるんですか!!」

唯「うわあびっくりした!」

紬「あらあら、来ちゃったの?」

そこにはソファの上で組み伏せられている唯と大根を手に持つムギの姿が。

澪「……ほんとに何してたんだ?」

紬「唯ちゃんに大根を食べさせようとして……」

梓「はい?」

唯「そんなに大きい大根は要らないよぅムギちゃん」

紬「おいたはダメって言ったのに」

澪「おいたしてたのはムギだろう」

紬「私はただ大根の素晴らしさを唯ちゃんに知ってもらおうとしただけ」

梓「何で大根なんですか。それに組み伏せてまですることですか」

紬「だって私も唯ちゃんが欲しかったんだもんっ。さあ唯ちゃん大根を食べて」

唯「さすがにそのままはちょっと……」

紬「じゃあ沢庵はどう?」

紬は唯に沢庵を差し出した。

唯「沢庵なら……」

梓「ちょっと待って下さい」

澪「ムギ……今どこから沢庵を出したんだ?」

紬「どこからでもいいでしょう?」

梓「ムギ先輩からは危険な感じはしないけど……ただの人間には思えません」

澪「お前……何者だ?」

紬「もうっ、こんなことなら二人が居ないうちにしちゃえば良かったわ」

そう言ってムギが手の平を梓に向けた。

梓「何を……」

紬「おしおきだべ~」

梓「えごっ……!」

紬が手の平から何かを射出し梓に命中した。
梓は仰向けに倒れて苦しんでいる。

澪「何だ……ムギお前、何をした?」

紬「梓ちゃんにも大根の良さを知ってもらおうと思って」

澪「はあ……?」

澪が梓の倒れている辺りを注視する。
そこには水滴と白い塊が散乱していた。

澪「大根……?」

紬「そう大根。澪ちゃんも如何?」

澪は危険を察知して紬へ向き直る。
紬は先程と同じように手から大根を射出。
それを糸のネットで防ごうとするも突き破られて澪も梓同様廊下に倒れた。

梓「やってくれますねムギ先輩……」

梓がよろよろしながら立ち上がる。

澪「……成る程な。野菜じゃあ何も感じられないわけだ。ゴキブリより性質が悪い」

紬「二人とも大人しく帰ってくれない? 今から唯ちゃんと大根の良さについて朝まで語り合いたいのだけど」

唯「朝まではちょっと……」

紬「夕飯は大根があるから大丈夫っ!」

梓「そんな事言って唯先輩に変な事するつもりでしょう」

澪「それに今更見過ごすわけないだろ。ここには知ってる奴しか居ないから遠慮は要らないよな」

澪のスカートの中から白い糸が垂れてくる。

にらみ合いが続く。
最初に動いたのは梓だった。
素早い動きで部室に進入する。
紬はすかさず大根を連続で射出する。
ものすごい量の大根が部室の壁に当たり砕けていく。

梓「動いていればそう簡単には当たりませんよ!」

紬「そうかしら?」

紬は両手の平を梓に向かって構えた。

紬「ピクルススプラッシュ!」

紬の手からは無数の半輪切りにした沢庵がショットガンのように放たれた。

梓「なっ!?」

避けれるような距離、範囲ではないと判断した梓が咄嗟に防御の体勢をとる。
無数の凶弾が容赦なく梓を襲った。

梓「……っ! ぐぅ!」

梓の制服と身体が一瞬でボロボロになる。
殺傷能力の高い沢庵が梓の血を吸ってオレンジ色に染まった。

梓「……ぁ」

痛みで気絶しかけたが何とか踏み止まる。

唯「あ……!」

紬「この技をまともに受けても立っていられるなんてやるわね……」

紬が何やら思案している隙を突いて澪が紬との距離を詰めた。

澪「油断したなムギ。その能力は強いけどそれ以外は普通の人間と変わらないみたいだな」

澪の蹴りが紬の頭部を狙う。
それは防がれたが唯から引き剥がすことには成功した。

澪「唯は返してもらうぞ」

紬「スピードは中々だけどパワーはイマイチね、澪ちゃん」

澪「……ごめんなさいさせてやる」

澪が地面を蹴る。

紬は沢庵ショットガンを繰り出そうと手をかざすが澪は部室を縦横無尽に駆けて的を絞らせない。

澪「唯! 部室の外に出てろ!」

唯「でっでも!」

澪「いいから早く!」

唯「わ、わかった!」

唯が部室の外へ出たのを見計らって澪はさらにスピードを上げる。

紬「とりあえず撃ってみるべきかしら」

紬は双方の手から大根を高速で撃ち出した。

床に壁に天井にドラムに大根が叩き付けられる。

澪「いつまで撃ちつづけるんだ……?」

紬「弾切れにはならないわよ澪ちゃん?」

澪「嘘だろ……」

逃げつづける澪に疲労が色濃く表れて来た。


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