――
梓「えっと、確かこの階段を上に……」
DIO「ふう、あいつらの帰りをただ待つだけというのもつまらないな。誰か見学にでも来ないものか……ん?」
梓「……」
DIO「ギターを背負っている……と言う事は新入部員か?」
DIO「しかし気になるのは……あの女、『音楽室が眼中にない』という事だ。この上……ジャズ研究会を目指しているのか?」
梓(……あの人、なんで上半身裸でこっちを見てるんだろう)
DIO「フフフ。このDIO直々に勧誘すると言うのも悪くない」
DIO「そこの女、軽音楽部に入らないか?」
梓(無視しよう…・…絡まれたら面倒だし)
かつ、かつ……
梓「!?」
梓(私は今、階段を上ってあの人を追い越したはずなのに……どうして元の場所に!?)
DIO「無視は良くないな。質問にはきちんと答えるようにと先生に教わらなかったか?」
梓(気のせい、だよね……)
かつ、かつ……
梓「え!?」
DIO「オイオイどうした。素っ頓狂な声を上げて。何かあったかい?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
梓(気のせいなんかじゃない!『何か』が起こってる!!)
梓「くっ!!」
ダダダ……
梓「っまた!!」
DIO「フフン、無駄無駄無駄。ところで、その背中に担いでいるのは……ギターだな?」
梓「だったら、なんだっていうんです?」
DIO「そんなに身構えないでくれ。私もベースをやっていてね。少し『聴かせて』貰えると嬉しいんだが……」
梓(歩いても走っても上には行けない……一体どうすれば!?)
DIO「なぁ、『中野梓』?」
梓「な、なんで私の名前を!?」
DIO「さて、どうしてかな……フフフ」
梓(この場に留まるのはマズイ!今日はもう帰ろう)
ダダダ……
梓「……」
DIO「どうした。ハトが豆鉄砲食らったような顔して」
梓(ダメ、『降りる事』もできないッ!!)
梓(何が起こってるの!?『わけが分からない』!!)
DIO「そう怖がらないでくれ、取って食おうとしているんじゃあない。
中野梓。このDIOは『ジャズ研究会』ではなく、『軽音楽部』の見学をしていけばどうだ、と誘っているのだ」
梓「どうして、その事を?」
DIO「どうしてかな?」
梓「……何をしてるんですか?」
DIO「さあな」
梓「私が動けないのも、あなたのせいですか?」
DIO「どうだろう?」
梓「つまりこういうことですか。私が『軽音楽部』を見学しない限りここから離れられない」
DIO「Exactly(その通りだ)」
梓「……あなたの言う事に従いたくなければどうすれば?」
DIO「断ってくれて構わない。ただ、『帰れ』ないだろうがなァー」
梓「……」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド……
DIO「どうする?見学していくかい?」
梓「……いやです」
DIO「そうか、それは悲しいな……
見学したくなったらいつでも言ってくれ。俺はいつでもここにいるからな」
梓(……どうしよう。このままだとなにも出来ない。根競べに持ち込んでも、精神的優位が向こうにある以上負けは見えてる)
DIO「フフフ、楽しいなぁ。アズサよ」
梓「私は楽しくないです」
DIO「軽音部に入れば何が楽しいのか分かるぞ?」
梓「何か分からないけど、力づくで勧誘している人のいいなりになるのはごめんです」
DIO「フン、下らない真実を振りかざし、正義のヒーロー気取りか?」
梓「事実を事実として言っているだけです」
ドドドドドドドドドドドドドドドド……
DIO「フフフ……ハッハッハッハッハッハッハ!!
気に行ったぞ中野梓!このDIOに対してその物言い。気に行ったッ!!入ってもらうぞ、軽音楽部にッ!!」
律「なーに廊下で大声出してんだお前は!」
DIO「帰ってきたのか、リツよ」
律「あー!お前何部室の外で上半身裸になってんだ!!わいせつ物陳列罪で訴えられ手もしらねーぞ!!」
DIO「ギャーギャー騒ぐな、五月蠅い」
梓「今だ!!」
ダダダ……
DIO「……貴様のせいで逃げられてしまったじゃあないか」
律「ん?今の子は?」
DIO「このDIOがせっかく勧誘していたと言うのに」
律「ということは今の子、一年生か!?」
DIO「どうもジャズ研究会を見に来たようだがな」
律「かー、惜しいことした!なんで部室の中に引きずり込まないんだよ!!」
DIO「貴様が来るまでは捕らえていたんだ」
律「なに言ってんだ、あの距離で」
DIO「貴様には理解できんだろうな」
――
唯「今日も見学来ないねー」
紬「もう入ってくれないのかも……」
DIO「さて、どうするね?部長殿よ?」
律「んー、新入生歓迎演奏とかどうだ?」
唯「あ、それいいかも!!」
DIO「成程、軽音楽部らしく攻めると言う事か」
紬「新曲もあるし、それの発表を兼ねてって言うのもいいかもね」
律「よし!じゃああたし場所押さえてくるからDIOたちはビラ作っといて!」
紬「まかせて!」
梓「……」
梓(あれ以来あの裸の人とはあってない……そろそろほとぼりも冷める頃かな)
ドドドドドドドドドドドドドドドド……
梓「!?」
きぐるみA「おねがいしまーす!」
きぐるみB「軽音楽部でーす!」
きぐるみC「……受け取れ」
きぐるみD「お願いしまーす!!」
梓(『居る』ッ!見えないけど確かに分かる……あの中に居る……この前の裸の人がッ!!)
梓(何とか関わり合いにならないように通り過ぎなくちゃ……)
きぐるみC「……あいつは」
きぐるみD「お?あれDIOが勧誘してた子じゃんか」
きぐるみC「すこし席を外すぞ」
きぐるみD「ちょっと待て!チラシ持ってけチラシ!」
きぐるみC「フン」
きぐるみC「何をコソコソ逃げようとしている?中野梓」
梓「……くっ!」
きぐるみC「オイオイ、久しぶりの再会というのに酷い反応だな。そんなに私が嫌いか?」
梓「何の用ですか」
きぐるみC「なに、今回はチラシを受け取ってもらおうと思っただけでな。どうだ?バンド公演をするんだが……」
梓「いりません、そこにあるごみ箱に捨てておいてください」
きぐるみC「三度目は無いぞ。『このチラシを受け取れ』」
梓「こちらも同じです。『いりません』」
きぐるみC「頑なに受け取ろうとしない、か。それもいい。それなら無理やりにでも受け取ってもらうまでだッ!!」
『 世 界 』 ! !
ドォ―――――――――――z___________ ン
『 時 は 止 ま っ た 』
―― 一秒経過
DIO「向こうで配っている三人のチラシを回収しッ!!」
―― 二秒経過
DIO「それをアズサの頭上でブチ撒けるッ!!」
―― 三秒経過
DIO「さらにこのDIOのチラシをアズサめがけて手裏剣のように投げて360度を包囲ィ――!!」
―― 四秒経過
DIO「駄目押しにもう一枚、鞄の中に突っ込んでおいてやろう」
―― 五秒経過
『 そ し て 時 は 動 き だ す 』
梓「……な!?」
どしゃ!
DIO「MU?紙に埋もれてしまったか」
梓「きゅ~~~……」
――
DIO「……何故このDIOが説教を受けなきゃならんのだ」
和「アンタがチラシをばら撒いた揚句、一般生徒に迷惑をかけたからよ」
DIO「だからと言って貴様の指図を受ける理由は無いッ!」
和「……いいの?」
DIO「なにィ?」
和「あんまり逆らうようなら公演取り消しにするけど、いいの?」
DIO「クッ、卑怯者が!」
和「はいはい、いいから反省文書いて」
――
梓「……酷い目にあったなぁ」
梓「でも、チラシは受け取らなかったし。今回は私の勝ちだよね」
梓「……あれ?鞄の中に……『チラシ』!?」
梓「いつの間に!?……私に気付かれずに鞄の中に突っ込む余裕なんてなかったはず……」
梓「こんなの、時でも止めない限り出来っこない……」
梓「……時を止める?」
梓(ふざけたことだけど、これだと全部に説明がつく)
梓(時間を止めれば階段を上っても引きずり降ろせるし、チラシを調達する事も出来る)
梓(という事は、あの裸の人は……『時』を止めることができるッ!?)
梓「流石にありえないか、それは」
梓「でも……行ってみようかな、公演」
――
梓(わ、人がいっぱい……)
DIO「しかし暇人もいたもんだな。ここまで聞きに来るとは」
梓(あ、あの人の声だ)
DIO「次の曲は……文化祭で聞いた奴も多いだろう。ユイではなくこのDIOが歌う『VOODOOKINGDOM』だ」
梓(あの人、ボーカルだったんだ……)
律「わんつーすりーふぉー!」
――
梓「……」
憂「あれ、中野さん?」
律「結局、見学ゼロかー……」
紬「唯ちゃんの歌も良かったのにね……」
唯「そう言えば、プッチさんの新しく書いてきた『エイジャ』って曲、どんな内容なの?」
DIO「なんでも、完全な生命を生みだす秘宝だと言っていたな」
唯「ふぇ~」
ガチャ
さわ子「みんなー!新入部員よ!!」
律「マジでさわちゃん!?」
さわ子「マジもマジ!大マジよ!!ほら、入ってらっしゃい」
梓「……」
律「あ、この子……」
DIO「……ようやく来たか」
梓「……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
DIO「……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
さわ子「な、なんでDIOちゃんと中野さんはにらみ合ってるの?」
律「あたしにも、なんだかさっぱり……」
唯「く、空気が重い……」
紬「そ、そうだ!私お茶淹れてきますね!!」
律「わ、待てムギ!逃げるな!!」
紬「空気が、空気が」
DIO「外野が五月蠅いな。少し黙らせるか?」
梓「心配いりません。声は聞こえます」
DIO「フン、ならばそちらから話を始めてはどうだ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
))
DIO「あれだけ抵抗していたのに、すんなりと入ってくれるのだな」
梓「別に軽音楽部に入ろうと思ったんじゃありません。少しでも上を目指そうとして、残った所が軽音楽部だっただけです」
DIO「フン、口は達者だな。ギターの方はどれほどなのか」
梓「少なくとも、迷惑はかけないと思います」
DIO「そうか……フフフ」
梓「な、何がおかしいんですか?」
DIO「モンキーにもなれない小動物がいっちょ前にこのDIOを警戒しているようなのでな。
最初にあった時も言っただろう?身構えなくてもいい、と」
梓「……でも」
DIO「でも、なんだ」
梓「時を止めたりしませんか?」
))
DIO「成程、気付いていたか。……あれはこのDIOも戯れが過ぎたと反省している。この場では使わないと誓おう」
))
梓「信用できません」
DIO「信用できないならそれでもいい」
DIO「貴様がどんな理由からこの部に入ろうとしたかも、俺にどんな感情を抱いているかも関係ない。
中華の王だった奴の言葉にこう言ったモノがある。『唯才のみを挙げよ』
俺は貴様の才を信じ、貴様を歓迎しよう」
梓「……はぁ」
DIO「さて、それでは立ち話もなんだしそこに座ってくれ。お茶にしよう。
ツムギ、頼めるかな?」
紬「は、はい!」
梓「あの、練習は……?」
DIO「一服してからでも遅くは無いさ」
梓「そう、ですか?」
DIO「ああ。お茶でも飲みながら話しでもしよう。それが友好関係を築く第一歩だ」
梓「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」
新入部員!
to be continued→
最終更新:2011年05月02日 11:44