8月14日。
澪ちゃんのお葬式が行われた。
奇しくも、梓ちゃんとの半年記念日だった。

和ちゃんを始めとしたクラスのみんな。
さわ子先生に、先輩や後輩も。
みんなが澪ちゃんの死を悼んだ。

一番悲しんでいたのは、りっちゃんだった。

律「澪…みおっ!!!何で、何でだよ…!」

律「ふざけんなよ…!勝手なことしやがって…」

律「おいアホ澪!返事しろよ…!」

律「うっ、ううっ…うわああああああああ!!!」

式場全体にりっちゃんの叫びが響く。
もう、見ているのもつらかった。

唯ちゃんと梓ちゃんも来ていた。
2人は、どんな気持ちでこの場にいるのだろう。
責めるような真似はしない。そんなことしたって澪ちゃんが悲しむだけだから。
だけど、本当のことを知らないまま澪ちゃんを忘れさせるわけにはいかない。

 ・・
   ・・
     ・・

お葬式が終わる。
みんなが次々と澪ちゃんに別れを告げていく。
私たち4人は、最後の最後まで澪ちゃんの傍にいた。

紬「梓ちゃん」

紬「これを梓ちゃんに持っててほしいの」

私は梓ちゃんに声をかけ、袋を渡した。

梓「これ、なんですか?」

紬「今は持ってるだけでいいから」

梓「はぁ…」

これを、私が持っているわけにはいかないから。

澪ちゃん。ネックレス、ちゃんと渡したからね。

あとは、真実を伝えるだけ。



【紬の家】

私は電話をかけた。

prrrr prrrr

梓『もしもし』

紬「もしもし、梓ちゃん?紬ですけど」

梓『ムギ先輩。どうしたんですか?』

紬「いま、大丈夫かな?」

梓『はい、大丈夫ですよ』

唯『あずにゃーん、誰と話してるの?』

梓『ムギ先輩ですよ』

遠くで唯ちゃんの声がした。

紬「いまどこにいるの?」

梓『唯先輩の家です。電車無くて家に帰れないので』

紬「そう」

本当は梓ちゃんが一人の時がよかったんだけど、
電話を掛けた以上引き下がることも出来なかった。

紬「ねぇ、梓ちゃん」

梓『はい?』

紬「今日が何の日だったか、知ってる?」

梓「何の日…?」

紬「記念日よ、梓ちゃんと澪ちゃんの半年の記念日」

梓『…そうですか』

紬「何も思わないの?」

梓『思うも何も、もう関係ないことじゃないですか…』

紬「ねぇ、梓ちゃん」

紬「澪ちゃんは、本当に梓ちゃんを見捨てたと思う?」

梓『えっ?』

紬「澪ちゃんはね、一度たりともあなたを見捨てたことなんてない」

紬「最後の最後まで、あなたが大好きだったんだよ」

梓『………』

梓『なんですか、それ…』

梓『そんなのウソです、デタラメです』

梓『澪先輩は、私を捨てたんです』

梓『ムギ先輩とデパートに買い物に行ってたところ、私は見ました』

梓『声をかけようと思いました。ほんの少しでもいいから、澪先輩に会いたかった』

梓『でも、出来なかった…』

梓『あんなに幸せそうな顔をしてた先輩に、声なんてかけられなかった!!』

梓『そして澪先輩は、そのことを隠した!何回問い詰めても、知らんぷりをした!』

梓『会話もそっけなくなった、冷たくなった!!』

梓『ウソをついて、私を騙して…』

梓『そんなの、恋人でも好きでも何でもないじゃないですか…』

梓ちゃんは自分の思いを吐露した。
そんなちっぽけなことで、あなたは澪ちゃんを…。
梓ちゃん、あなたはまだまだ子どもだね。
澪ちゃんは、あなたが思ってるよりずっとずっと大人だったよ。

私は焦ることなく、落ち着いた口調で話す。

紬「それはちがうわ、梓ちゃん」

紬「あの日はね、梓ちゃんのための買い物だったの」

梓『…私のための?』

紬「澪ちゃんとネックレスを買いに行ったの。半年記念のプレゼントにね」

紬「ずっと構ってあげられなかったからって、寂しい思いをさせてきたからって」

紬「私といたとき幸せそうな顔をしてた。って言ったよね?」

紬「何でだと思う?」

紬「あなたのことを、ずっと想っていたからよ」

梓『………!!』



【唯の家】

ムギ先輩が何を言っているのか理解出来なかった。
ネックレス?プレゼント?そんなの、聞いたことない。

紬『あの日、澪ちゃんは話題はずっと梓ちゃんことだった』

紬『ううん、あの日だけじゃない。いつでも澪ちゃんは梓ちゃんの話をしてた』

紬『そっけなかったのは、きっと梓ちゃんに悟られないため』

紬『梓ちゃんを驚かせたかった、よろこばせたかったのよ』

紬『澪ちゃんが不器用なの、知ってるでしょ?』

梓「そんなの…」

梓「そんなのいきなり言われて、信じられるわけないじゃないですか!」

紬『私がさっき梓ちゃんに渡したもの、持ってる?』

紬『そこに真実があるわ』

梓「えっ…?」

私はバッグを取り出し、お葬式の帰りにムギ先輩からもらった袋を開ける。
袋の中には、細長い小さな箱。ほんの少し土で汚れていた。

中を開けると手紙があった。



―――――――

あずさへ
私と梓が付き合ってから、今日で半年だな。
おめでとう。思えばあっという間だった。

大学生になってからめっきり会えなくなっちゃったな、ごめん。
でも私はいつだって梓のこと考えてし、大事に想ってるよ。
ネックレスにしたのは、梓が寂しくないようにって思ったからなんだ。

そのネックレスをつけてれば、私が傍にいるって感じられるだろ?
少しは、寂しさも紛れるんじゃないかな。
夏休みはいっぱい遊ぶぞ。祭りも花火もプールも、全部行こう。
今まで遊べなかった分、取り戻すんだから。

これからも、よろしく。
ずっと大好きだから。
8月14日 みお

―――――――



かわいい文字で書かれた手紙。
紛れもなく澪先輩の字だった。

梓「そんな…」

手紙の下にはネックレスがあった。
小さいハートのネックレス。
私はそれを手に取る。
裏には小さく文字が彫られていた


『to Azusa from Mio』


ねぇ、澪先輩。
ムギ先輩の言ってることは、本当なの?
私のこと、ずっと想ってくれてたの?


―――梓、半年おめでとう。これ、私からのプレゼントだ―――


―――秘密にしててごめんな。梓のこと、驚かせてやりたかったんだ―――


―――てっ…、手紙は恥ずかしいから家で読んでくれっ―――


―――こ、こらっ!読むなって言ってるだろ///―――


―――ふふっ、似合ってるよ。すごくかわいい―――


澪先輩の姿がよぎる。本当だったら、今日こんな会話をしてたのかもしれない。
でも、もうそれは叶わぬこととなった。会うことも、声を聞くことも、抱きしめてもらうことも。
私が…。私が、先輩を捨ててしまったから。

梓「いや…。いやっ……いや…!」

梓「いやあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」





唯「あずにゃん?いきなり叫んで、どうしたの…?」

ごめんね。ごめんね。
澪先輩。私最低だね。
先輩のこと疑って、勝手に不安になって、
挙句の果てに、浮気までして…。

たくさんひどいことしたのに、
いっぱい傷つけてしまったのに、
それでも、好きでいてくれたんだね。

梓「先輩…待っててね」

梓「すぐ、行くから…」

私はベランダに向かった。
空には星がいくつも輝いている。
この中のどこかに、先輩がいたりして。

ベランダの柵に足をかける。

唯「あずにゃん、何してるの?!」

 ・・
   ・・
     ・・

【紬の家】

紬「………」

受話器の向こうから梓ちゃんの悲鳴が聞こえた。
後悔、自責、絶望。梓ちゃんはたくさんのものを背負った。
だけどそれを乗り越えることが、これから梓ちゃんのすべきこと。

唯『あずにゃん、何してるの?!』

突然唯ちゃんの声が響く。

梓『何って、澪先輩のところに行くんですよ』

唯『やめて…。そんな高いベランダから飛び降りたら…』

胸騒ぎがする。
梓ちゃん…?まさか…

私は大声で叫んだ。

紬「梓ちゃん!!待って!!!」

紬「そんなこと、澪ちゃんは望んでなんかない!!」

紬「澪ちゃんの前でちゃんと謝って!そして、澪ちゃんの分まで生きるの!!」

私の声は聞こえていない。
おそらく梓ちゃんの携帯はベランダのどこかに置かれたままだ。
唯ちゃんと梓ちゃんの声だけが聞こえる。

梓『澪先輩、見てよ。ネックレス似合うでしょ?』

梓『今から行くね。ふふっ、目の前で手紙読んじゃうんだから』

唯『待って、やだ!!行かないで!!あずにゃん!!!』

梓『先輩、これからはずっと一緒だから』

唯『あずにゃ―――』



2人の声が消えた。



唯『あ…ああ……うあ』

唯『うああああああああああああああああああああああ!!!!!』

少し間を空けて、唯ちゃんの悲鳴が聞こえた。

梓ちゃんは澪ちゃんを追って命を落とした。
少し考えればわかることだった。
あんな脆くて子どものような子が、簡単に向き合えるわけがなかった。

もし、私が真実を伝えなかったらこうはならなかったのかも知れない。
だけど、真実を伝えなければきっと梓ちゃんは澪ちゃんのことを忘れていただろう。

どちらが正しかったのか、わからなかった。

ただ一つ言えることは、





梓ちゃんを死なせたのは、私だということだ。


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