【大学】

7月の半ば。
この時期になると授業は終わり、補講やテストが始まる。
今週は、梓との記念日の週だ。

律「えっ、持ち込みありって何でも持ちこんでいいのか?!」

紬「みたいね。教科書もノートもいいみたい」

律「すげー!大学すげー!テストとか余裕じゃん!」

澪「そうやってると落とすぞ。持ち込んでいいってことは、それだけ難しいってことじゃないか」

唯「………」

澪「唯?どうかしたのか?」

唯「へっ?ううん、何でもないよ!」

澪「本当か?なんか最近元気ないぞ」

唯「そんなことないよ、ほら元気!」ふんす

紬「大学内はどこも空調がきいてるから、もしかしたらそれのせいかもね」

律「あー確かに。唯はクーラーだめだもんな」

澪「夏バテの可能性もあるかも知れないし、気をつけた方がいいぞ」

唯はここのところ元気がなかった。
テストもあるし、体調崩さないといいけど…。

律「てか、9月になっても夏休みってすごくね!?」

唯「私夏休みはずっと実家にいようかなぁ。憂もいるし、ラクだし」

律「んなつまんないこと言うなよー。せっかくだし色んなとこ行こうぜ!海とか山とかさ」

紬「いいわね、おもしろそう」

澪「そうだな」

夏休みは長い。
たくさんみんなと遊べるし、もちろん梓とも会える。
夏だからな、プールとか花火大会とか行くところもたくさんある。
浴衣を着てお祭りなんてのもいいな。
色んな事を考えてた。



【澪と律の家】

律「ただいまー」

澪「ただいま」

今日はめずらしく2人で一緒に帰って来た。
授業がなくなって時間に余裕が出来たからだ。

律「はぁ、それにしてもあっちいなー」

澪「そうだな。クーラーでもつけるか」

クーラーをつけたあと、私は引き出しを開ける。
引き出しの奥に、小さく眠るネックレス。
あとひと月だ。胸が弾む。

律「なにしてんの?なんかおもしろいもんでもあんのか?」

澪「な、なんでもないっ!」

律「ふーん」

律のことだ。
私のいない隙を見て開けるとも限らない。
私はかわいく包装された箱をバイト用のバッグにしまった。
これなら見つからないし、痛むこともない。

 ・・
   ・・
     ・・

夕方。
私と律はずっと家にいた。
ゲームしたり、勉強したり、久々に律との時間を過ごした。

律「そんじゃ、行ってくるわ」

澪「また居酒屋?テスト近いのに大丈夫なのか?」

律「平気平気。それに、こっちは今月いっぱいだからさ」

澪「辞めるのか?」

律「あぁ、金も十分貯まったしな。8月から教習所行くよ」

律「少しは家にいる時間も増えると思う。悪かったな今まで」

律が謝るだなんてこれまためずらしいことだ。雨でも降るんじゃないのか?
確かに律は家を空けることが多かったから、私は大概家で一人だった。

澪「こっちとしてはやかましいのがいなくて清々してたけどな」

律「とかいって、なんだかんだ私がいなかったら寂しいくせに」にやにや

澪「なんだとっ?!」

律「よちよち。お利口な澪しゃんは、お家でお留守番しててくだしゃいねー」

澪「ぐぐ…!早く行けこのバカ律っ!」

律「はーいはい。いってきまーす!」

バタン

澪「ったく…」

こんなやりとりもいつ振りだったか。
そういや、律には梓のこと言ってなかったな。
帰ったら教えてやることにするか。
律のやつ、きっと腰抜かすぞ。

しばらくして、私は梓に電話をかけた。
今度の14日なにをするか話し合うためだ。

prrrr prrrr

prrrr prrrr

澪「…ん?」

なかなか出なかった。
何かしてるのかな、そう思って切ろうとする。
すると、

ガチャ

梓『…もしもし』

出た。

澪「あぁ、もしもし。梓か?」

梓『うん』

澪「電話なかなか出なかったから何かしてたのかと思ったよ」

梓『ごめん』

澪「それで、今度の14日のことなんだけどさ」

梓『…ごめん、私その日用事が入っちゃって。たぶん会えない』

澪「えっ…?」

月に一度しか会えない記念日なのに。
そんなに大事な用事なのか?

澪「そ、そっか。何の用事なんだ?」

梓『…言えない』

梓の声は沈んでいた。
何だろう、訃報か何かかな。
だとしたら、深く探るのは失礼だ。

澪「…わかった。じゃあまた今度だな」

梓『…うん』

澪「またメールするよ、それじゃ」

電話を切った。
仕方ないと思った。
梓が記念日を楽しみにしてないわけがないから。
その楽しみを奪うほどの用事なんてよっぽどのことだなんだろう。
もうすぐテストも終わる。
テストも終われば夏休みだし、たくさん梓に会いに行ける。
でも…。

澪「少しでもいいから、会いたかったな」

寂しく思っていることには変わりがなかった。


電話が終わった後、すこしうとうとしてしまったせいか。
いつもより遅い時間まで起きていた。

律「ただいまー」

澪「おかえり」

律「あれ、まだ起きてんの澪」

澪「ちょっと眠れなくてさ」

律「何か悩んでんの?」

澪「ど、どうして」

律「ん?なんとなく。さてと、汗かいちゃったし風呂入ってくるわ」

澪「あ…あぁ」

そんなわかりやすい顔をしていただろうか。
いや、付き合いが長いからだろうな。

結局律には梓のことは報告せず、
だらだらと話して眠りについた。



【大学】

唯「あぁ…疲れた」

律「ぜ、全然出来なかった…。ヤバい」

紬「大丈夫よ。出席してるしもレポートも出したし、きっと大目に見てくれるわ」

紬「それに、もし落としたとしても私が何とかするから♪」

律「もうさすがに笑えないからやめてっ!!」

紬「うふふ」

7月も終わりに近づき、テスト期間に入る。
相変わらず唯ちゃんとりっちゃんは参ってるみたい。

澪「………」

澪ちゃんも元気がなかった。
テスト出来なかったのかな?
いや、澪ちゃんに限って勉強でヘマすることなんてない。
何かあったのかもしれない。
私は澪ちゃんに聞いてみることにした。

紬「澪ちゃん」

澪「ん?」

紬「最近、梓ちゃんとはどう?」

澪「あ、あぁ…うん」

紬「この前記念日だったでしょ?どこか行ったの?」

澪「いや…会ってないんだ」

紬「えっ、どうして?」

澪「その…なんか用事があったみたいで」

紬「でも月に一回の大事な会える日なのに用事?」

澪「うん」

紬「何の用事だったの?」

澪「教えてくれなかった」

澪「でもさ、記念日よりも大事な用だってことは、よっぽどのことだから…」

紬「けど、別に何かあったわけでもないんでしょ?」

澪「うん。ないんだけどな…」

紬「?」

澪「その、最近。連絡もあまりとってないんだ」

澪「メールもあんまり返ってこないし、電話も出てくれることが減っちゃって」

澪「きっと梓も忙しいんだよ。だから、しょうがないよな。はは…」

紬「澪ちゃん…」

澪ちゃんは目に涙をためていた。
しょうがないなんて思ってるわけない。
そんな悲しい顔をして、どうしてそんなことを言うの?
会えない分たくさんメールも電話もしてたのに、
それがぱったりと減っちゃうなんておかしい。
変な胸騒ぎがした。





8月に入る。
テストも今日で終わり。
長い夏休みがもう目の前に迫っていた。

キーンコーンカーンコーン

唯「終わったぁ~」

律「いよっしゃあー!夏休みだぁぁ!!」

唯ちゃんとりっちゃんは飛ぶようによろこんでいる。
本当なら、そこに私も加わっているはずだった。

澪「………」

紬「澪ちゃん…」

澪ちゃんは日に日に元気がなくなっていった。
おそらく、梓ちゃんとはずっとその調子なんだろう。
話がしたかった。力になってあげたかった。

紬「ねぇ、澪ちゃん」

澪「…ん?どうした?」

紬「この後、暇かな?」



【紬の家】

ピンポーン

紬「はーい」

澪「ごめんな。今日はお世話になります」

紬「いいのよ。さ、あがって」

澪ちゃんは今日私の家に泊まることになった。
少しでも気分転換出来たら、と思って。
りっちゃんは居酒屋のバイトの人と送別会があるらしく
今日は帰らないみたいだから、泊まりに来ない?と誘った。

紬「お腹空いたし、ご飯食べよっか」

澪「うん」

私はキッチンに向かい、夕飯を作った。
澪ちゃんも手伝ってくれた。


紬「それじゃ、食べましょ♪」

澪「いただきます」

澪「あ…おいしい」

紬「本当?よかった」

澪「今度、作り方教えてもらってもいいかな?」

紬「いいわよ」

澪「私、相変わらず料理下手でさ…」

紬「そんなことないと思うわ。あんなにお菓子おいしいんだもの」

澪「でも、律によく甘いって言われちゃって…」

紬「ふふっ、そっか」

澪「わ、笑うなっ!真剣なんだぞっ」

紬「ごめんごめん」

久々に澪ちゃんの照れた顔を見た。
澪ちゃんは笑ったり照れたりしてる顔が一番素敵だった。

ご飯も食べ終わり、落ち着いたところで私はあるものを持ってきた。

澪「…ワイン?」

紬「実家から送られてきたんだけど、なかなか飲む機会がなくて」

紬「せっかくだし、飲んでみない?」

家でパーティーする時のためにって実家から送られてきたワイン。
そういうのはしないからいらないとは言ったんだけど、結局送られてきた。
でもせっかくだし、お酒の力を借りてみようかな。

澪「ワインって初めて…」

紬「結構おいしいわよ♪」

私たちはグラスにワインを注ぎ、乾杯をした。


澪「うっ、にが…」

紬「すぐに慣れるわ、何かつまむもの持ってくるね」

私はずっと飲んできてるからおいしく飲めたけど、
初めての澪ちゃんにとってはなかなか口に合わないみたいだ。
適当なお菓子を開け、それをつまみとして飲み進めた。

紬「ねぇ、澪ちゃん」

澪「ん?」

紬「あれから、梓ちゃんとは…?」

澪「………うん」

変わらずのようだ。
高校生も夏休みに入ってるから、忙しいことなんてないはずなのに。

澪「私、梓に嫌われちゃったのかな…」

澪「私がダメだから、梓が…」

紬「澪ちゃんは、梓ちゃんのことが好きなんでしょ?」

澪「当たり前だよ!誰よりも好きだし、いつでも梓のことを想ってる」

酔いが回ってきてるのか、澪ちゃんは恥ずかしげもなく言った。

紬「なら、大丈夫よ。その想いは伝わってるわ」

紬「次の記念日で、仲直りしましょ?ね?」

澪「…うんっ」

仲直り、というのは少し変な表現かもしれない。
ケンカをしたわけではないし、ぶつかりあったわけでもないから。
けど、澪ちゃんも私もプレゼントに懸けていた。
そのネックレスが、再び2人を戻してくれると。

酔いが回った澪ちゃんは饒舌だった。
澪ちゃんは色々な話を聞かせてくれた。
梓ちゃんのどんな仕草が好きだとか、
自分の前で甘えてくれる梓ちゃんこと、
他人から見たらただの惚気話。
でも、私にとってはそれがうれしかった。
梓ちゃんの話をしている時の澪ちゃんは、本当に幸せそうだから。

紬「ふふっ、幸せそうね」

澪「うん!」

紬「そろそろ寝ましょうか」

澪「あぁ」

夜も遅くなったので寝ることにした。
私は目が覚めてしまってしばらく寝れなかった。
一方で澪ちゃんは寝息を立てている。

澪「………あずさ…」

ずっと2人が幸せでいられますように。

 ・・
   ・・
     ・・

澪「ありがとうな。楽しかったよ」

紬「また今度、ワインでも飲みながらゆっくり話しましょ」

澪「うん、それじゃ」

紬「ばいばい」

澪ちゃんと別れた。
部屋に戻ると、私はあることに気づく。

紬「あ…」

ソファの上に澪ちゃんのいつもつけてるアクセサリーがあった。
忘れてしまったのだろうか。
今度会う時渡してあげなきゃ。



【澪と律の家】

澪「ただいま」

ムギの家から帰る。
初めてワインを飲んで、酔ってしまった。
思い出したくないぐらい恥ずかしいことをぽんぽん言ってた気がする。

律「……zzz」

律は寝ていた。
たぶん酔っぱらって帰って来たのだろう。
服も脱ぎっぱなし、辺りもちらかっていた。

澪「おーい」

律「…んがぁ」

律は一向に起きる気配を見せなかった。
仕方なく、私は部屋を片付けた。





それから数日が経つ。
刻々と8月14日が近づいていた。
律は教習所に通い始めた。

律「ちゃちゃっと取ってきてやるよ!」

澪「まぁ頑張って。事故るなよ」

梓とは相変わらずのままだ。
何度も不安に押しつぶされそうになる。
だけど、あと少し。
あと少し我慢すれば、きっと前みたいに戻れる。
後ろ向きに考えるのはやめた。
今のうちに、どう梓を驚かせようか考えておこう。

私は、バイトに向かった。


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