【大学】

紬「おはよう」

澪「おはよう。昨日はありがとな」

紬「ううん、大丈夫。それで、澪ちゃんの方は?」

澪「…うん」

紬「その顔は、仲直り出来たってことでいいのかな?」

澪「…あぁ」

今の私はどんな顔をしているのだろう。
幸せそうな顔をしているのかな?
ムギもうれしそうだ。

澪「夏休みまであんまり会えないけど、記念日には絶対会おうって2人で決めたんだ」

紬「そっか♪」

記念日だけは大切にしたかった。
だから、梓にそう提案した。
梓も納得してくれた。

澪「ムギのおかげだよ、本当に感謝してる」

紬「いいのよいいのよ~、幸せそうで何よりだわ」

紬「それで、澪ちゃん」

澪「?」

紬「…仲直りのキスとかはしたの?」ぼそっ

澪「ぶっ!」

紬「冗談よ冗談、うふふ♪」

澪「ったく…///」

思わず噴き出してしまった。
何を言い出すんだ突然。

…まぁ、したけどさ。



【桜ヶ丘高校】

憂「梓ちゃん、おはよう」

梓「あ、憂。おはよう」

純「おはー」

梓「純もおはよう」

純「梓、何かあった?」

梓「何で?」

純「いや、なーんか今日は元気だなぁって思って」

梓「そう?」

憂「ここ最近梓ちゃん元気ないねって純ちゃん心配してたんだよ」

純「ちょ、ちょっと憂!余計なこと言わないでよ!」

憂「ふふっ、ごめんね純ちゃん」

純「ったく…」

梓「心配してくれてたんだ、純のくせに」

純「失礼なっ!い、一応梓は大事な友達だからね!心配になったりもするよ」ぷーっ

梓「純、ありがとう。もう大丈夫だから」

純「えっ?!う、うん…」

純(なーんか調子狂うなぁ)

自分ではまったく気づかなかったけど、
憂や純にも心配かけていたらしい。
ごめんね、2人とも。



【梓の部屋】

家に帰り、ベッドに飛び込む。

梓「へへっ、澪先輩の匂いがする」

昨日、澪先輩が突然来たことには本当にびっくりした。
もうこのまま会えないで別れちゃうのかなって思ってたから。
気まずくて何を話せばいいか戸惑ってたら、澪先輩から謝ってきた。
それに釣られるように、私も謝った。
初めてのケンカ、そして初めての仲直りだ。

そのあとは、澪先輩にずっとぎゅってしてもらった。
久しぶりすぎて、甘え方を忘れちゃってた。
でも、本当に幸せだった。

その後、澪先輩から記念日は必ず会おうって提案された。
本当はもっと会いたかったけど、それは言わなかった。
澪先輩だって頑張ってるんだから。
夏休みになれば澪先輩はこっちに戻ってくるみたいだし、それまでの辛抱だ。

梓「私も、頑張らなきゃ」





6月。梅雨の季節に入った。
雨が毎日のように降り、気分を落ち込ませる。
せっかくの日曜日なのに。
あとちょっと、もう少しで14日だ。
そしたらまた澪先輩に会える。
今度は、どこかに行きたいな。雨降らなきゃいいけど。
そんなことを考えていると電話が鳴った。

brrrr brrrr

ピッ

唯『もしもし、あずにゃん?』

梓「どうしたんですか唯先輩」

唯先輩からだった。

唯『暇つぶしにお菓子作ってみたんだけどさ、いっぱい作りすぎちゃって…』

梓「はぁ」

唯『だからさ、食べに来ない?』

梓「えぇー…。律先輩とか呼べばいいじゃないですか」

唯『みんなバイトとかで忙しいんだってー』

唯『それに、一人で食べるのはちょっと寂しいから…』

梓「………」

梓「わかりました。今から行きますね」

唯『本当っ?!わーい!』

「寂しいから」
この言葉にどうも私は弱かった。
自分がそういう思いをしてるからなのか、そう言われるとつい断れなくなる。
私は唯先輩の家に向かった。



【唯の家】

ピンポーン

唯「いいよ、入ってー!」

ガチャ

梓「お邪魔しま…うっ!」

焦げくさかった。
少し心配ではあったんだけど、案の定図星のようだ。

唯「えへへ、実はちょっと失敗しちゃってさ」

梓「これ、ちょっとどころの騒ぎじゃないんじゃ…」

唯「でも見てよ!ちゃんと出来たのもあるんだよ!」

そう言って見せてくれたのはクッキーだった。
動物やら星やらハートやらたくさんの型があった。

唯「ね?おいしそうでしょ?」

梓「まぁ、確かに…」

梓「というか他の先輩方は忙しいみたいですけど、唯先輩は忙しくないんですか?」

唯「私だって忙しいよ!課題たまってるし!」ふんす

梓「いや、全然誇れませんからね…」

唯「まぁまぁ、たまには息抜きも必要なんだよ」

梓「息抜いてばっかな気もしますけど…」

唯「さっ、食べよ?」

梓「…はいっ」

相変わらずのマイペースっぷりだ。
でも、ちっとも憎めない。入部した時からそうだ。
この先輩には人を魅きつける不思議な力がある。
たぶん私も、それに魅かれてこの部に入部したのだろう。

梓「うっぷ、もう食べれない…」

唯「な…なかなかお腹にたまるね。晩御飯は作らなくてよさそうかな」

結局2人で全部たいらげてしまった。
形は不格好なものが多かったけど、味はおいしかった。
私も、お菓子作りに挑戦しようかな。澪先輩のために。
そういえば、澪先輩ってどんなお菓子が好きなんだろう。

梓「………」

澪先輩のことを考えたら急に寂しくなった。
寂しい、会いたい。
今日…電話しよっかな。
そんなことを考えながらお茶を飲んでいると、唯先輩が口を開いた。

唯「ねぇ、あずにゃん」

梓「はい?」

唯「あずにゃんってさ、好きな人とかいるの?」

梓「えっ…?」

突然のことだった。

梓「好きな人…ですか?」

唯「うん!」

梓「な、なんでいきなりそんな…」

唯「なんで?んー…」

唯「なんとなく♪」

なんとなく、か。
先輩らしいと言えばそうだけど。

唯「それで、いるのっ?」

梓「………」

澪先輩の顔が頭に浮かぶ。
私が澪先輩と付き合ってるって言ったら唯先輩はどんな反応をするんだろう。
よろこんでくれる?それとも…。

梓「………」

唯「あずにゃん?」

梓「はっ、はい?!」

唯「言いたくないなら別にいいよ?」

梓「いえ…」

何を不安になっているんだ。
付き合っていることを報告する、たったそれだけのことじゃないか。
言おう、澪先輩のこと。


梓「…実は私、澪先輩と付き合ってるんです」


唯「へっ?」

梓「で、ですからっ…!私、澪先輩と付き合ってるんです…//」

唯「………」

唯先輩は目をまんまるくし、その姿で固まった。
石になった、って表現すればいいのかな…。

唯「………」

梓「あの、唯先輩…?」

唯「ええぇえぇえぇぇっ?!!」

梓「ひっ!!」

そして我に返ったかと思いきや、大声を出して驚いていた。
そんなに衝撃的だったかなぁ…。

唯「い、いつの間に澪ちゃんと…」

唯「それって最近?!」

梓「いえ、バレンタインデーの時からです…」

唯「っていうと、1…2…3ヶ月も経ってる!」

唯「…何で」

唯「何で教えてくれなかったのさ!ひどいよあずにゃん!」

梓「す、すみません…」

すごい剣幕で迫られた。
澪先輩と付き合ってたことはもちろんだが、ずっと黙ってたことの方がショックだったようだ。

唯「んもう、あずにゃんのバカっ」

梓「すいません、隠してて…」

唯「それでさ、澪ちゃんとはどうなのっ?!」

梓「え、えぇーっ…」

唯先輩は興味津津だった。
こんな純粋な目で見られたら言わないわけにはいかなくなった。
結局私は澪先輩とのことを話した。
付き合った時のこととか、私といるときの澪先輩のこと。
この前ケンカしたことも話した。
唯先輩はどれも面白そうに聞いてくれた。

唯「へぇーっ、幸せそうでいいねぇ」

梓「えへへ…」

唯「やあねぇ惚気ちゃって!」

梓「そ、そんなつもりじゃっ…//」

梓「そ、そういう唯先輩はどうなんですか!」

唯「ん?」

梓「好きな人です!私にだけ聞いといて自分は言わないなんてずるいですよ!」

唯「好きな人かぁ~」

唯「いるよ♪」

梓「へぇ…」

いるんだ、唯先輩にも好きな人が。
どんな人が好きなんだろう、私の知ってる人かな?

梓「だ、誰ですかっ?!」

唯「それはね…」







唯「あずにゃんだよ」







梓「えっ…?」

頭の中が真っ白になった。
唯先輩の好きな人は、私…?

唯「なぁんてね、冗談♪」

梓「………」

唯「あれ、あずにゃん?おーい!」

梓「はっ、はい?!」

唯「大丈夫?ぼーっとしてたけど」

梓「そ、そんなことは…」

唯「でも、あれだね。ごめんねあずにゃん」

梓「何がですか?」

唯「いや、何度も家に誘っちゃったりして。澪ちゃんに悪いことしちゃったかな」

唯「これから気をつけるから、ごめんね?」

梓「え…」

梓「ま、待ってください!何でですか?!」

唯「私のせいで澪ちゃんにヤキモチやかせるのは嫌だし、何よりそれが原因でケンカとかしてほしくないからさ」

梓「それは…。確かにそうかも知れませんけど」

梓「でもだからって唯先輩と会えなくなるのはやです…」

唯「会えないって言ってるわけじゃないよ?これからもみんなと一緒にたくさん遊ぶつもりだし」

唯「ただ、2人で遊ぶのはちょっとやめよっかって言ってるだけ」

梓「それが、嫌なんです…」

梓「そんなこと、言わないでくださいよ…」

唯「あずにゃん…?」

自分でも何を言っているのかわからなかった。
唯先輩が私と澪先輩に気を遣ってそう言ってくれてる、
その気持ちはすごくうれしいんだけど。
だけど、唯先輩に会えなくなるのは嫌だ。
矛盾した思いが駆け巡る。

唯「ねぇ、あずにゃん。もしもだよ?」

唯「澪ちゃんが誰かと2人っきりでちょくちょく遊んでるって知ったら、どう思う?」

梓「それは…」

唯「自分とは会えないのに、どうして。って思わない?」

梓「………」

唯「でしょ?」

確かに嫌な思いをするかも知れない。
ましてや嫉妬深い性格なんだ、不安にもなる。
それはわかってる。わかってるんだけど…。

梓「でもっ――」

ぎゅっ

唯「わがままだなぁ、あずにゃんは」

唯「さ、バイバイだよっ。これから雨強くなるみたいだしね」

梓「…はい」

半ば突き放された形で、私は唯先輩の家を後にした。
私には澪先輩がいる。大好きで、大切な恋人。
だけど、何だろう。


―――あずにゃんだよ―――


その言葉が頭から離れなかった。
冗談だって、わかってるのに。


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