翌日。
泣き疲れた目をこすりながら大学に向かう。

律「ふぁ~あ」

澪「ふあ…」

紬「あら、今日は2人ともおねむさん?」

律「私は居酒屋のバイトがあって帰りが遅かったからな」

唯「澪ちゃんはどうかしたの?」

澪「ん?あぁ、ちょっと昨日寝れなくて…」

紬「目腫れぼったいみたいだけど、大丈夫?」

澪「平気だよ、ありがとう」

私は昨晩まったくと言っていいほど眠れなかった。
ただひたすら、枕を濡らしていた。
そのせいで心なしかまぶたが重いし、おまけに寝不足で散々だった。


キーンコーンカーンコーン

律「唯、バイト行こうぜー」

唯「うん!澪ちゃんムギちゃん、また明日ね」

澪「あぁ」

紬「またね」

律「あ、澪。洗濯物しまっておいて!」

澪「わかった」

唯「りっちゃん、急がないと遅刻しちゃうよー」

律「わーかってるって」

今日は唯と律がバイトなので、ムギと2人で帰ることとなった。

紬「ねぇ澪ちゃん」

澪「ん?」

紬「最近、何かあった?」


澪「え…?」

突然ムギに問いかけられる。

紬「澪ちゃん今日元気なかったし」

澪「な、なんでもないよ!ただ寝不足なだけで」

紬「目が腫れぼったいのは?」

澪「その…あれだよ!ずっと眠い目こすってたから」

紬「昨日、泣いてたんでしょ」

澪「…!」

紬「隠しごとは、してほしくないな…」

紬「私に出来ることであれば、協力するから、ね?」

こらえていたものが溢れそうだった。
ムギの優しさに、甘えたくなってしまった。

澪「…うっ。うぐっ」ぽろぽろ

澪「ムギ…ごめん。私、本当はつらい…」

澪「でも、どうすればいいか…わかんなくて…」

紬「大丈夫よ、澪ちゃん」

そう言うとムギは私の頭を優しく撫でてくれた。

紬「よしよし」

紬「少し、お話しましょ?」

澪「…うんっ」



【紬の家】

紬「どうぞ」

澪「お邪魔します…」

私は一旦家に帰ったあと、洗濯物を取り込みムギの家に向かった。
ムギの家にお邪魔するのは初めてだった。
大学生の一人暮らしとは思えないほど立派な部屋だった。

紬「今お茶淹れるわね」

私は適当な場所に腰かけた。
それにしてもきれいな部屋だ。
きちんと毎日掃除を行っているのだろう。

ことっ

紬「はい、どうぞ」

澪「ありがとう」

久しぶりに飲むムギが淹れてくれたお茶。
懐かしい味がした。

紬「それで、何があったの?」

秘密の交際ということだったから今まで誰にも言わなかったけど、
ここまでしてもらってもう隠すわけにもいかなかった。
適当なことを言ったところで鋭いムギはすぐに見抜くだろう。
私は梓とのことを話すことにした。

澪「実は…その…梓のことで」

紬「梓ちゃん?」

澪「あ…あのなっ、ムギ!誰にも言わないで欲しいんだけど…」

紬「?」


澪「実は、私…梓と付き合ってるんだ」


紬「………」

紬「まぁ!」

ムギは一瞬きょとんしたあと、
ぱあっと明るい表情を見せた。

紬「どうして早く言ってくれなかったの?!」

澪「ご、ごめん…。みんなに茶化されるのが嫌だったんだ」

紬「いつから?いつから付き合ってるのっ?」

澪「…今年のバレンタインデーから」

紬「そんなに前から付き合っておきながら隠すなんてひどいわ澪ちゃん!」ぷん

澪「はは、かたじけない…」

どんな反応をするかと思えばいつも通りの反応だった。
相変わらず、といえば相変わらずの反応だったが、それだけでも心が軽くなった。
そして、秘密にしていたことを怒られた。


紬「梓ちゃんとどうかしたの?」

澪「この前、梓とケンカしたんだ」

私は最近あったことを包み隠さずに話した。
梓とケンカしたことはもちろんのこと、
唯にヤキモチをやいていること。
自分の不器用さが原因で、梓につらい思いをさせてしまっていること。
今の自分がどうすればいいのかわからないこと。

紬「なるほど…。そんなことがあったんだ」

澪「う、うん」

紬「ふふっ、かわいい」

澪「うるさいっ///」

ムギにからかわれた。

紬「どれぐらい会ってないの?」

澪「こっちに越してからはたぶん一度も…」

紬「一回会ってみたら?案外そういうのって、会ってみたらどうってことないものよ?」

澪「そう…なのかな」

紬「今度の週末、会いに行っておいでよ」

澪「で、でもバイトあるし…」

紬「私が変わってあげるから、大丈夫よ♪」

澪「ムギ…」

紬「ねっ?」にこっ

澪「…ありがとう」





週末になった。いい天気だ。

澪「ありがとう、ムギ」

私はムギにメールを送り、家を出た。

澪「………」

向かう途中、不安でいっぱいだった。
もし会いたくないって言われたら…。
嫌いだって言われたら…。
そんなことばかりが頭をよぎる。

澪(ダメだダメだ!せっかくムギが作ってくれたチャンスなのに!)ぶんぶん

澪(でも…)

落ち込んでは首を振り、落ち込んでは首を振り、
起伏の激しい道のりだった。



【梓の家】

梓の家に着く。
ベルを押すと、インターホンから梓の声がした。

梓『はい?』

澪「………」

緊張して声がうまく出せなかった。

梓『どちらさまですかー?』

澪「あ、秋山です。秋山澪です」

梓『えっ?み、澪先輩?!!』

ガチャ

玄関から梓が出てきた。
どれくらい振りだろう、こうして面と向かって梓に会うのは。

梓「先輩、どうして…?忙しいんじゃなかったの?」

澪「その…、会いたかったから」

澪「バイト代わってもらって、梓のとこまで来たんだ」

澪「ダメ…かな?」

梓「…部屋に上がって」

澪「うん」

私は梓の家にお邪魔した。



【梓の部屋】

澪「………」

梓「………」

部屋に入ったはいいが、何を話したらいいかわからずお互い沈黙のままだった。
重苦しい空気が流れる。

澪「………」

このままじゃダメだ。
私が、私が言わなきゃ。

澪「……梓」

梓「………」

澪「その…ごめんなさい」

私は勇気を出して口を開き、そして深く頭を垂れた。

澪「ついカッとなって、あんなこと言っちゃったけど…」

澪「私、梓と別れたくない」

澪「唯のところにも行って欲しくない。ずっと私のこと見ていてほしい」

澪「だから…その…」

言葉が続かなかった。
思っていることをつらつらと口にしているだけだった。

梓「ううん、もういいの。謝らないで」

梓がそれを制する。

梓「私の方こそ、ごめん」

梓「忙しいのわかってあげられなくて、わがままばっかり言って…」

梓「私、澪先輩に…っく。嫌われたのかと…思って…」

澪「梓…」

泣くのを我慢しているようだ。
じっくり梓の顔を見てなかったから気づかなかったけど、
梓の目も腫れぼったくなっていた。
きっと、私と同じように毎晩泣いてたんだろう。

澪「梓、おいで」

澪「仲直り、しよ?」

梓「…うんっ」

梓を引き寄せる。
私の体にすっぽり収まる感覚が久しかった。
ずっとくっついていた。言葉はなかった。
こうしているだけでよかった。
今は、梓といれること幸せを噛みしめていたいから。
ごめんな、そしてありがとう。梓、大好きだよ。


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