【大学】

5月も終わりに近づく。
ようやく環境の変化にも慣れ、生活のリズムも安定してきた。

キーンコーンカーンコーン

律「ふいーっ、やぁっと終わったよ」

澪「90分まるまる寝てたくせによく言うよ」

唯「お腹空いちゃったぁ」

紬「お昼にしましょうか」

とはいえ90分という授業時間にはまだ慣れず、
時計をちらちら見つつ授業を受けていた。
律はバイトの掛け持ちで疲れもあるせいか、寝ることが多かった。


律「そういや梓のやつ元気にしてっかなぁ?」

紬「バタバタしてなかなか会う機会が作れなかったもんね」

唯「あずにゃんは元気だよ♪」

律「ん?なんだ唯、最近梓に会ったのか?」

唯「うん!あずにゃん最近私の家に遊びに来てくれるんだ」

澪「えっ…?」

初耳だった。
梓が唯の家に遊びに行ってる?
なんで?どうして?

律「なんだよ唯ばっかり!ずるいぞ」

紬「そうよ唯ちゃん!私だって梓ちゃんに会いたいわ!」

唯「今度うちで5人で遊ぼうよ♪きっとあずにゃんもよろこぶよ!」

律「そうだな!ていうか実は唯の家って行ったことなかったし」

紬「そういえばそうかも。お茶とケーキ用意しなきゃ!」

唯「うん!」

澪「………」

私の気は確かではなかった。
確かにここのところ忙しくて会えなかったけど、
だからって何で唯のところに…。
嫉妬と不安の入り混じったどろどろした感情が私を襲った。



【澪と律の家】

その日の晩、私は梓に電話をかけた。
いてもたってもいられなかった。
律は居酒屋のバイトに出てるから今は私一人。

prrrr prrrr

ガチャ

梓『もしもし。澪先輩?』

澪「やぁ、梓」

梓『どうしたの?こんな時間に』

澪「その…ちょっと聞きたいことがあってさ」

梓『なに?』

澪「最近、唯と会ってるのか…?」

梓『んー?うん、まぁ。たまに誘われたりするんだ』

澪「そっか…」

梓は肯定した。

澪「………」

梓『もしかして、怒ってる…?』

澪「いや…」

ウソをつく。
素直になれない自分がいた。

梓『別に何があるわけじゃないよ。ただ、その…久しぶりだったから』

梓『…ごめんなさい』

梓が謝ってきた。
別に謝罪の言葉が欲しかったわけではなかった。
怒っているわけでもない。
でも、もやもやするものは残っていた。
もしかしたら梓を唯にとられちゃうかも、そんな不安だったのかも知れない。

澪「いや、いいんだ。私がいけないんだし」

澪「私と会えない分、唯と仲良くするんだぞ。いっぱい構ってもらうといい」

そしてよくわからないもやもやは、皮肉となって言葉に出た。

梓『………』

梓『なに、それ…』

澪「?」

梓の口調が変わった。

梓『先輩、本当は私に会いたくないんでしょ』

澪「何でそういうことになるんだよ」

梓『だって!先輩…忙しい忙しいって言って、全然会ってくれないじゃん!』

澪「仕方ないだろ!本当のことなんだから…」

梓『私、唯先輩のところじゃなくて澪先輩のところに行きたいよ!澪先輩に甘えたいよ』

梓『でも、澪先輩は一人で暮らしてるわけじゃないじゃん…』

澪「律がいたところで関係ないだろ?来ればいいじゃないか!」

梓『律先輩がいたら絶対澪先輩は強がって私に構ってくれないもん!!』

梓『そんなの、私悲しいよ。やだよ…』

忙しい、そんなの他人から見たら単なる言い訳だ。
唯だって忙しいはずだ。ましてや一人暮らし、家のことも全部やらなくちゃいけない。
でも時間のやりくりが出来るのは唯の要領のよさ、才能だ。
私は唯やみんなとは違う。要領も悪いし、不器用。
やるべきことをこなして、さらに時間を作って…なんて器用な真似が簡単に出来るはずもなかった。
自分を恨んだ。そして唯がうらやましかった。
どこにぶつければいいかわからない怒りがあった。

梓『それに、澪先輩が会いたいって思ってないのに会うなんてもっとやだ』

澪「そんなことない!私はいつだって梓に会いたいって思ってる!」

梓『唯先輩は、ちゃんと時間空けて私を誘ってくれるよ?!』

梓『けど、澪先輩はそんな素振りすら見せてくれないじゃん!!』

頭に血がのぼっているのがわかる。
もう理性の歯止めがきかなかった。


澪「じゃあ私と別れて唯と付き合えばいいだろ!!!」

澪「そうすれば会いたい時に会えるし、寂しい思いなんかしないじゃないか!!」


梓『…!!』

梓は黙り込んだ。
しばらく沈黙が流れる。
興奮から覚めた私はひどく後悔した。
私は、なんてことを口にしてしまったんだ…。

梓『………』

梓『ひっく、っぐ、うっ…』

受話器の奥からすすり泣く声が聞こえる。
梓は、泣いていた。

澪「…ごめん。その、つい…」

梓『…そんな風に、言われるなんて、っく、思わなかった…』

澪「あ、梓…。今のは勢いで…」

そう、本当に勢いだった。
そんなこと微塵にも思っていない。
誰にも渡したくない、どこにも行ってほしくない。
つくづく私は不器用な人間だった。

梓『ひどいよ、そんな風に言うなんて…』

澪「梓…」

梓『もういいよ…先輩なんて』

澪「…ごめん。そんなこと、ちっとも思ってないから」

梓『…きらい』

澪「え?」


梓『澪先輩なんて、大っきらい!!!』


ブツッ

電話が切れた。
かけ直そうかと指を構えたが、やめた。
今かけ直したところで意味のないことだと気づいたから。
思えば梓とぶつかったのは初めてだ。初めての、ケンカ。
こんなに辛いなんて。

本当に嫌われてしまったのかもしれない。
でもどうすればいいかわからない。
不安と悲しみに押し潰されてしまいそうだった。



【梓の部屋】

梓「うっ、ぐすっ…えぐ」

カッとなって電話を切ってしまった。
思えば、初めてのケンカだった。

大嫌いなわけがなかった。
好きで好きでしょうがない。

先輩が不器用なのはわかってる。
だけど、やっぱり寂しかった。
我慢出来なかった。
何度も会いに行こうとした、びっくりさせようとした。
だけど、もし忙しかったら。かえって先輩の負担になったら…。
そう思うとどうしても踏みとどまってしまう。

梓「会いたいよ、澪せんぱぁい…」

涙と一緒に出た本当の気持ち。
最近、泣いてばっかりだな。


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